ヒカリの国
登場人物
澤晴音 Harune Sawa 1-B 女子テニス部所属 1人目の能力者
旭川日向 Hinata Asahikawa 1-B 吹奏楽部所属 2人目の能力者
村瀬希帆 Kiho Murase 2-D 文化部絵画課所属
永沢瑛人 Eito Nagasawa 2-A サッカー部所属
前田愛斗 Manato Maeda 2-D サッカー部所属 3人目の能力者
林谷彩野 Ayano Hayashitani 2-B 吹奏楽部所属 日向の先輩
スカーレット・エクシア Scarlet Exia 1-B 日米のハーフ 文化部小説研究課所属
高木遥斗 先生 Haruto Takagi 1年学年主任 社会担当 野球部顧問
堀川裕子 先生 Yuko Horikawa 1-B担任 数学担当 吹奏楽部顧問
第1章 始まりの春
能力者 Side 晴音
私は、物心ついたときから、人の上にある二桁の数字が見えていた。その数字がある人もいれば、ない人もいる。はじめは、目の錯覚かと思っていたが、瞬きしても消えない数字。その数字は、1日ごとに1つ減っていく。そして、その数字が0になった日、多くの人が死んでいった。なぜだろうと思いながら、小・中学校を卒業。高校生になってようやくその意味がわかった。人の死までのカウントダウンという結果にたどり着いた。なぜ私にはこんな能力が備わっているのかは知る由もなく、1日ずつ過ぎていく。そんなある日、ある人と出会った。
能力者 Side 日向
私って、変なのかなってつくづく思う。たまに、人の声が震えて聞こえる。ある時、「私には好きな人はいません」っていう中学生の声が震えていた。私には関係のないことだけど、なぜそのタイミングで声が震えて聞こえたのかが引っかかっていた。まさか、私に関係のあることが震えて聞こえるということを考えたときには、もっとしっかりとそれを聞いておくべきだったと後悔した。だけど、晴音と出会ったときに、すべてがわかった。
晴音と日向
ある日の委員会で、同級生の中に気になってしょうがない人を見つけた。
「ねえ、ちょっといい?」
と話しかけると、「私なにかしました?」的な顔で見つめてきた。流石に知らない人に話しかけられたら困るだろう。
「えーっと、どちら様ですか?」
「ああ、ごめん。私、1年B組の澤晴音。ちょっとだけ話しない?」
相手はすぐに頷いた。相手の名前は旭川日向。1年B組だった。教室でも自分の机で本を読んでいたので、話しかけづらかった。いわゆる、陰キャ。まず、私は聞いた。
「突然なんだけど、超能力って興味ある?」と聞くと、
「ちょっとだけあるけど、どういうことか知らないけどなぜか使える」
と返ってきた。
「実は、私も使えるんだよね、超能力」
「え?ほんと?」
日向は、「自分と同じような人もいるんだ」的な顔をしていた。その後、自分の能力について喋った。
「私、人の声がたまに震えるんですよ。もしかして、自分に関係があることが、響いて聞こえて来るのだと思うと、その言葉達をしっかり聞いておくべきだったと後悔しました。あ、ごめんなさい。あまり人と関わらないものなので。」と、一気に説明してくれた。
「なるほど、それって、嘘が震えて聞こえるんじゃない?」と返した。日向は何も言わなかった。
「それじゃ、私の能力も説明しよっか。私には人の上に数字が見えるの。それは、その人が死ぬまでの日数を示しているの。どう思う?日向」
いきなり名前呼びをしたから、日向はびっくりした。そして、一息置いて、人助けができるのでは?と返した。
「澤さんは、その能力で人助けしたことあるんですか?」
「したことないね。あと、苗字じゃなくて名前で呼んでくれる?」
「じゃあ、晴音さんははその命を救いたいと思う?」
「救えるならば救いたいね。」
そこでわたしたちの話はぷっつりと糸が切れるように止まった。私と日向はLAINを交換してその日は解散した。
最初の事件
次の日、私はいつもより早く学校に着いた。毎日私が学年で1番先に学校に着くのだが、30分も早く来たのを後悔した。だけど、私と日向の能力について考える時間ができた。考え始めて40分後くらいに、日向が来た。他の人のことを考えていなかったので、びっくりした。日向は自分の席で期末テストに向けてのワークをしていた。
体感10分がたった頃、別の階から悲鳴が聞こえて来た。私達が急いで駆けつけたところ、教室の真ん中で人が倒れていた。外傷などはほとんど無い。黒板を見ると、スペイン語で適当に書かれたと思われる文字があった。私には何も読めなかった。日向が、「これは我らの意思表示である」と書かれていることを教えてくれた。そこに、登校してきたと思われる男子生徒がやってきた。その後、何かを察したように、職員室から校長や主要な先生を連れてきた。1年生の学年主任の高木先生は、教室に戻りなさい、とだけ私達に声をかけた。その後、校内放送で本日は臨時休校とする放送が鳴った。後日聞かされた話では、倒れていたのは2年生の永沢瑛人。凶器は見つかっておらず、犯人も不明。私はそれを早く忘れたいと思いながら、帰路についた。
家に帰り、LAINで日向と話した。
『あの事件、どう思う?』と日向に聞くとすぐに、
『周辺の様子から見て、自殺ではないと思う』
と返ってきた。
『第一目撃者の村瀬希帆さんについてはなにか知ってる?』
『ちょっと』の一言のあとに、
『私と同じくらいに永沢さんと一緒に登校してたのだけは覚えてる』
『その後、村瀬さんがトイレに行っている間にああなってたということも聞いた』
ということは、日向と村瀬さんと永沢さんは同じタイミングで登校。村瀬さんがトイレに行っている間に、永沢さんが倒れていた。その後村瀬さんが発見した。という考えを巡らせていると日向から、
『ちなみに、それ震えてたから嘘だと思う』
というメッセージでつながった。
村瀬さんは永沢さんと登校。その後トイレにいったと見せかけ、何らかの方法で永沢さんを殺害した、という結論に至った。凶器などはわからなかったが、間違いなく村瀬さんが永沢さんを殺した。
『次の土曜日、ちょっと私の家で話しよう』とだけ送り、私はベッドに顔を伏せた。
不可解なこと Side 日向
私は事件があった日、いつもどおりの時刻に学校に向かっていた。正門前につくと、2年生の村瀬さんと永沢さんがいた。私に気づいたとき、二人は教室の方に向かっていった。私も教室に向かうと、予想外の人物がいた。晴音は、私に気づかないのか、机に向かってノートに多くのことを書いていた。なんだろうと思いながら、自分の席に座って期末テスト範囲のワークをしていた。
ワークが一単元終わったくらいに、近くの階から大きな声が聞こえた。私は正直大きな音が苦手なので、やめてほしいと思った。が、それはただならぬ状況の気配がしたので、晴音が向かっていった。それについていくように、私も向かった。現場の教室の中央では人が倒れており、黒板にはスペイン語で「これは我らの意思表示である」というよくわからない言葉が書かれていた。第一目撃者と思われる村瀬さんに聞いたところ、トイレから返ってきたらこうなっていたと話した。その言葉は震えていたけれど。すぐ理由がわかった。この人が殺したんだ、と。
帰宅してすぐ、スマホの通知音が鳴った。晴音からだった。必要最低限の返事をして、500冊位入っているであろう本棚から本を取り出し、昨日まで読んでいたところから続きを読み始めようとしたが、気が気でなく、使わなくなったノートに事件について書き記し、その日はいつもより早くベッドに入った。
比べられない事実
無機質なアラームの音で、1日が始まった。二度寝をしようかと思ったけど、やることが山程あったからやめた。いつもより身支度を丁寧にし、自分の部屋に戻り課題を進めている最中に、インターホンの音が鳴った。日向が来ることは家族にも伝えてある。多分私の部屋まで案内されると思うけれど、心配だったから玄関まで向かった。
玄関まで行くと、いつもの制服姿よりきれいに見える日向が立っていた。その気配に圧倒されそうになりながら、自室へと案内した。
「おじゃまします」と、礼儀正しい日向を尊敬しながら、必要なものを机に取り揃えていく私を向きもせずに、日向は私の部屋探検をしていた。
「はい、日向はここに座って」という言葉で我に返った日向は、大きなリュックからB5サイズくらいのホワイトボードなどを取り出した。
「とりあえず、これに重要なことをまとめていくね。あと、これが私のまとめたやつ」と日向が差し出したノートにはびっしりと事件について書かれていた。対して、私のノートはほとんど思ったことしか書いていない。思考力は日向のほうが上なのかもしれないと思いながら、日向のノートから必要な情報を抜き出していく。
「えーっと、7:25頃、村瀬と永沢が登校、で合ってる?」
「うん。それで、7:35頃、事件発生、っと」と、日向が時系列を細かく書いていく。
「だから、25分から35分の10分間に永沢が殺害されたということになるね」
「10分で人を殺せるとなると、毒かな?」
「3ページくらいめくったところに全部書いてあるよ」
言われた通り3ページめくると、使われたと思われる毒が書いてあった。おまけに化学式まであった。私と同じ高校生とは思えない。
「私が聞いたところによると、青酸カリが使われたらしい」
青酸カリなら、毒性が強くて、少し口に飲み込むと死に至るという思考をスパコン富岳のようなスピードで考えた。
「ということは、チョコとかのお菓子に混ぜ込んで食べさせたってことになればつながるね」と私が言うと、なにか深刻そうに、
「なんで罪もない人を殺すなんてことをするんだろう」と返ってきた。
少しの沈黙のあと、妹と弟が乱入してきた。私が早く出ていってと促しているのを、日向は小さく笑っていた。
「あ、晴姉、お昼ごはんできてるってさ」
そういえば、話に集中しすぎたせいで時計を全く見ていなかった。私はよっぽどお腹が空いていたのか、ぐぅーという音がお腹から鳴った。日向はまた、小さく笑っていた。私は日向に、
「お昼、ここで食べる?」と聞いたら、喜んで頷いた。
第2章 つながりの夏
夏が来る Side 日向
後日学校に行くと、晴音は休んでいた。珍しいと思いながら、昨日まで読んでいた本の続きを読む。本を読みながら、私はクラスの役に立っているのだろうかと思った。その後、担任の堀川先生が教室に入ってきた。いつもどおりのホームルームを過ぎ、3時間目までの授業が終わった。今日からテスト1週間前のため、3時間で終わり。帰りのHRが終わり、クラスからは人がどっと流れ出した。私は、晴音のお見舞いをして帰ろうと決めた。
晴音の家に着くと、元気そうな晴音が玄関から顔を出した。
「日向、どうしたの?」と晴音が聞いてきた。
「珍しく休んでたから、なんでかなと思って来た」と、テンプレートのような返事をする。
「まあいいや。家、上がってく?」と聞かれ、喜んで日向の家に入った。
日向が部屋に入ると、深刻そうな顔で晴音が切り出した。
「もし、私が今年中に死んじゃうって言ったら、日向はどうする?」
急な言葉に、私は息が詰まった。だけど、その言葉は震えていなかった。そして、なぜ、という言葉を返した。
「私、今日、鏡を見てたら、私の頭のうえに200っていう数字が見えたんだよね。で、カレンダーを使って数えたら、12月25日だった。私が死ぬ日」
私は、何も言えなかった。私と晴音が一緒にいれるのは、あと200日。200日後に、晴音は死んでしまう。それまでに、私は晴音とたくさん思い出を作りたい。だから、夏休みに、一番の思い出を作ろうと決めて、その日は家路についた。
話し声
無機質なアラーム、いつもの部屋、時間。なんの変哲のない日だと思ったが、身支度しようと鏡の前に立ったところ、見えてしまった、200の文字。もう何者かわかっていながらも、久しぶりに見たから心臓が跳ね上がった。私は一人暮らしなので、電話で学校に休みの連絡をして、スマホのカレンダーを開いた。今日は、6月8日。今日から200日後は、12月25日。それまで、私には何ができるのだろうかと考えた。1日中。学校の完全下校時刻を10分ほど過ぎた頃、日向が学校帰りの格好でやってきた。私が死んでしまう話をすると、日向は何も言わなかった。いや、言えなかったのだろう。挨拶だけ交わして、日向は帰っていった。
次の土曜日、日向は手作りのクッキーを持って家まで来てくれた。
「先日の謝罪も兼ねて、プレゼント」と日向が言った。
その後、部屋に入ってもらって、説明をし直した。
「まず、12月25日に、私が死ぬかもしれないのは本当で、確率は50%くらい?」と私が言うと、日向は、
「その日、自分が思ったことと真逆の行動をしてみれば?そうしたら、確率が下がるかもしれない」と答えた。
私は、その手があったか、という思考に至った。そんなことを考えていると日向が、
「対策は、期末テストが終わってから考えよう」といい、私は期末テストがあることを思い出した。
その後、日向を見送ったあと、ある人にLAINを送った。
3人目の能力者 Side 愛斗
いつもどおりの朝、だと思っていたのに、晴音から送られてきたLAINに叩き起こされた。
『愛斗、起きてる?』
『今起きた』と返し、めんどくさそうな本題には触れないでおこうと思ったが、すぐに、
『私、クリスマスに死ぬらしいよ』という返信に戸惑った。すぐに、
『だから、その日は1日中私のそばにいてくれない?』というメッセージもきたから、
『覚えてたらな』とだけ返し、また眠りについた。
使命 Side 日向
期末テストが終わり、ついに夏休み。部活に出かけようと、制服の夏服を着て、定期を持って最寄り駅へ向かった。最寄り駅についたら、晴音がいた。
「おはよう」と私が声をかけると、
「おはよう。今から部活?」と返ってきた。
「そうだよ。テニス部はあるの?」と返事をした。
「今日は私達練習試合なんだよね」と、練習で少し疲れ気味の晴音が言った。
「頑張ってね。日向は晴音を応援してるよ!」と、励ましてあげた。
『まもなく、学園前です。出口は左側です。松庵高校は次でお降りください』と、聞き慣れた自動放送で、私達は電車を降りた。
改札に定期をかざしたあと、校門まで3分程度歩いたら、今や慣れ親しんだ校舎が見えた。私は晴音と別れ、南校舎の4階、第1音楽室へと向かった。
夏真っ只中、私には使命があった。来年は吹奏楽部の先輩として、同級生や下級生を引っ張らなければならないという使命。そのプレッシャーに負けそうにもなるけど、晴音や吹奏楽部の同級生に肩を押され、今がある。その今を、大切にしながら…
「日向、手、止まってるよ」という林谷先輩の声で我に返り、自分の楽器の演奏に集中した。
第3章 わからない秋
暑さが残る初秋
「ついに始まったね」と、日向が駅の改札口で声をかけてきた。
「夏休みが長すぎて、家の本全部読んじゃった」と、晴音は本の話題を持ちかけた。
今日は、8月29日、月曜日。2学期の始業式の日だ。部活の部内リーグ明けの私には重かったけれど。私が死ぬまで、残り118日という、平凡な日になる予定、だった。
始業式でまさか
始業式が定時通り始まり、校長の長話が始まりそうになったとき、講堂の真ん中あたりから悲鳴が響いた。何事ですか、と校長が聞くと、隣の人が倒れたという。すぐさま養護教諭が駆けつけ、倒れたその人と隣の人は保健室へ移動した。その後すぐ校長は全員に教室に帰るように促した。
教室に帰ると、クラス担任の堀川先生に質問が相次いだ。誰が倒れたの、その人は今どうなっているのかという質問が相次いだ。堀川先生は、全員に着席を指示した。
「倒れた人が誰かは言えません。ですが、この学校は今、危険な状況です。よって、校長が今週いっぱい学校閉鎖を行うという判断に至りました」
教室では学校閉鎖という言葉に反応した人たちが話し合っていた。静かにと堀川先生が言うと、教室は静まり返った。誰かが、
「この学校はどうなるんですか」という質問をすると、さっき話した通りですと堀川先生が返した。
「今日は、3時間目で打ち切りです。なので、3時間目まで授業をして、部活は1時間程度して帰る予定です。保護者の方々には連絡が行っていますので心配しないでいいです」
その後、堀川先生が教室から出ていくと、教室は静まるわけもなく、みんなが話し合っていた。
「晴音、大丈夫?難しそうな顔してたけど」
と、日向が声をかけてきた。
「一応ね」と返した。
だけど、それどころではない話が晴音の頭の中で回っていた。さっき講堂で倒れたのは、愛斗なのだから。だけど、日向はその事実を知らなかった。
晴音の恋心 Side 晴音
事件があったその日、晴音は寝ることができなかった。というか寝ようとせずに、愛斗にLAINを送り続けていた。返事はいつになっても帰ってこないけれど、かすかな希望を持ち続けていた。いつの間にか、空は明るくなる頃。愛斗から、1件の通知が来た。晴音はそれに気づき、すぐに通知を確認した。内容としては、「大丈夫」という一言だけが5時57分に届いた。晴音は、愛斗のことを気遣いながら、登校のルーティーンを済ませ、いつものように最寄り駅へ向かった。
終わらない Side 愛斗
講堂で倒れたのは覚えていたけれど、そこからの記憶が約半日分飛んでいる。目の前には見慣れぬ病院の天井があった。多分親には連絡は行っているのだろうけれど、それでも心配した。その時、自分の頭の横に看護師の顔があった。その看護師は自分が起きたことに気づき、担当医と思われる先生を呼んできた。
「こんにちは、前田さん。気分はどうですか。何があったか思い出せますか」と、その医師は言った。
「自分でも、昨日起こったことは何も覚えていないです」と答えた。
本当に、何があったのかわからない。その時、看護師が自分のスマホを手渡ししてくれた。そこには、晴音からの大量のメッセージがあった。多分、自分のことを心配してくれているのだろうと思いながら、「大丈夫」という一言を送った。その後、看護師に連れられて検査室に向かい、異常がないことを告げられ、帰っても良いという指示があった。時刻は午前5時を回っていた。自分は看護師などに礼を言い、病院を後にした。
進みたくても進めない
事件があった日から1週間、晴音は愛斗に会っていた。
「愛斗、何があったか思い出せる?」と晴音が問いかけた。
「なんか、あまり関わりのない隣の女子が急に話しかけてきて、背中あたりを触られたような。名前は…そうだ、村瀬希帆だ」と愛斗がその時のことを答えると、
「村瀬さんって、愛斗と同じD組だったね」と答えた。
村瀬希帆は、過去に永沢瑛人を殺害しようとし、失敗に終わった人だった。
「背中を触られたって言ってたけど、その後どうなったの?」と愛斗に聞くと、
「触られて、なにか刺されたような気がする。その後から覚えてない」と答えた。
こんなときに、日向がいないのが残念。日向によって嘘か真実を見分けているので、日向がいないだけで晴音にとっては大ダメージ。だけど、愛斗は嘘をつかない人なので信頼できる。私は、精神的なショックを与えて不登校に陥らせる戦法かと思った。前回の永沢さんの事件では、その事件によるショックから永沢さんがあれから登校していないと噂で聞いた。
不意に、「愛斗って強いね」という言葉が口からこぼれた。愛斗が「ん?」といったが、晴音はなにもないように取り繕った。
転校生の謎
秋が進んだ9月中旬に、ある転校生がやってきた。名前は、スカーレット・エクシア。日本とアメリカのハーフで、日本語、英語の両方が話せる。髪はロングの明るい茶色で、目は深い緑。顔は日本人形のような整った顔立ちをしていて、女優でいそうなほどきれい。
「今日からこのクラスの一員のスカーレット・エクシアさん。日米ハーフで生まれはアメリカ、中学校から日本に住んでいるらしい。それじゃ、エクシア、挨拶と自己紹介をよろしく」と、堀川先生が紹介した。それに続いて、
「こんにちは。私はスカーレット・エクシアです。堀川先生からの紹介通り、アメリカと日本のハーフです。部活は文化部の小説研究課に入ろうかと思ってます」と、流暢な日本語で自己紹介をした。
「それじゃ、席は…澤の隣で」と言われ、晴音は驚いた。まさか、転校生が自分の隣に来るとは思わなかったのだ。その後、スカーレットは日向の方に向かった。日向はあまり親しくない人と話さない人だけど、かなり親しく話していた。スカーレットと話を終えて、日向は晴音にこう言った。
「実はね、スカーレットは私のいとこなの。前まで青森に住んでたんだけど、親の仕事の関係でこっちに来ることになったらしい」と言った。
その後もスカーレットはクラスに馴染んでいった。彼女自身は人と関わるのが好きらしいので、男女関係なく全員に話しかけていた。また、文化部小説研究課ということもあって、本好きの女子にはおすすめの本などを紹介していた。晴音も本をそこそこ読む人なので、スカーレットは晴音に合いそうな本を紹介していた。
「うーん、そうだね…日向はおとなしい感じがするからここらへんの本とかがおすすめかな」
と、図書室で本を紹介するほど日向とスカーレットは親しいようだ。
「ねえスカーレット、私にもおすすめの本とか教えてくれない?」
晴音はスカーレットに問いかけ、日向も交えて3人で本探しをした。
秋進み、木の葉落ちる Side 日向
本格的に秋も始まりかけた頃、いとこのスカーレットからメールが1通届いた。
『こんにちは、日向。スカーレットです。来週から、松庵高校に通うことになりました!詳細は後日に対面で直接話したいと思うので、週末に渋谷で待ち合わせしませんか? スカーレット・エクシア』
という内容。松庵高校という文字に日向は驚き、すぐに返信を書き始めた。
『スカーレット、こんにちは。メールありがとう。土曜日に渋谷のカフェで待ち合わせしようと思います。場所は後日送ります。 日向』
リアル Side スカーレット
1学期も終わりかけ、夏休みに入る前に、お母さんから転勤の話を聞いた。2学期から、東京に出て仕事をすると言われた。東京といえば、多くの高校があるけれど、転勤先が日向の通っている高校である松庵高校に近いから、松庵高校に転校手続きをした。松庵高校は他の学校と比べても学力が高いため、都内でも5本の指に入るほどの進学校。あの東大にも進学者が出ている。そんな高校に通えるとは思っていなかった。後は、日向に本当のことを伝えるだけ。
リアル Side 日向
10月の某日、私は渋谷のハチ公前にいた。いとこのスカーレットと会うために。スカーレットとは、私が中学2年の最後の方に会ったきりだったから、約2年が経っている。待ち合わせ時間より5分ほど早くスカーレットが来た。久しぶりに見たスカーレットはかなり身長が伸びて、私の身長より5センチくらい高くなっていた。
「日向、久しぶり。元気にしてた?」
スカーレットの高い声が、私の名前を呼ぶ。2年の歳月で、かなり変わったようにも思えたけど、実際に変わったのは内面だけ。いや、あまり変わっていないのかも知れない。
「それじゃ、どこ行く?」
「日向に任せるよ。私、東京初めてだから」
スカーレットは東京が初めてということで、渋谷の有名スポットなどを回って、お昼はスクランブル交差点がよく見えるレストランで食べた。その日は夕方までスカーレットと渋谷周辺を歩き回ったから、足がかなり疲れた。土曜日に行って正解。スクランブル交差点を行き交う人が一種の生き物のように見えて、スカーレットと笑いあった。
チカラ Side 愛斗
自分には、死者と意思疎通できるという能力を持っている。例えば、自分が幼いときに死んだ父親に会いたいと願ったら、自分の目の前に父親が出てきた。自分は驚いて、何も話さずにその場を離れた。その後によく考えると、自分には特別な能力が備わっているんだということがわかった。あまりこの能力は使う機会がないかも知れないけれど、誰かの役に立てたらいいなと思った。
第4章 サヨナラの冬
冬来たる、寒さ深し
11月に入り、街は年末ムード。晴音の残りも55日となった。でも、晴音は一切気にしてない様子。それは、ずっとそばにいた日向にしかわからないこと。そして、この日は11月1日。文化祭の前夜祭がある。午前中は講堂で生徒の有志などによる演劇などが行われ、午後からは各クラスでの出店がスタート。普通高校の文化祭は1学期に行われることが多いが、この高校では通常の文化祭同様に2学期後半にある。晴音たちのクラスでは焼きそばを販売することになった。本格的な鉄板を使って焼きそばを作るという、なんとも大掛かりな焼きそば店。晴音たちのクラスには焼きそば屋の娘がおり、その焼きそば店の親父さん監修の元、焼きそばを作っている。係の配分としては、料理得意な日向がともう1人が焼きそばを焼き、コミュニケーションが上手なスカーレットと晴音がレジ、手先が器用な生徒が盛り付けを行い、一部の生徒は講堂の近くで販売するという係配分となった。残りは客引きなどに回った。器用でない人も盛り付けをしようと思えばできると思うが。
「焼きそば2つお願いします」
「わかりました〜、焼きそば2つで800円になります」
ちなみに補足をつけるとしたら、焼きそばは1つで400円、4つで1500円となり、100円お得となるが、流石に4つ買う人は少ない。
時間が過ぎ、文化祭も中盤。ということは、1日目の夕方。松庵高校の文化祭は2日間の日程で行われ、2日目の午後に合唱コンクールなどが行われる。夕方ということで、仕事の終わった各家庭の親などが文化祭で活動する生徒たちの勇姿を見に来ていた。そして、17時。生徒たちは講堂へ集まり、この文化祭のために作成されたビデオを見る。それはこれまでの学校の変革や、各学年の思い出などが流された。ある生徒は思い出にふける生徒もいたり、友達と話し合いながら見ている人もいた。晴音や日向も、喋りながら見ていた。
理由
文化祭2日目の本祭。午前中は前日と同様、生徒の有志と吹奏楽部、軽音楽部による演奏などがある。吹奏楽部は全国大会常連校なので、かなりレベルの高い演奏だ。軽音楽部も同様に、関東大会常連校なので、レベルの高い演奏を行い、両方の部活の演奏は大きな拍手に包まれた。
演奏が終わり、1時間の昼休憩が挟まれた。
「日向、一緒にご飯食べよっ」
と、晴音が問いかけると、
「私も一緒に食べようって言おうとしてたよ」
と日向も返した。
「あ、スカーレットも呼んでいい?ちょっと早く食べなきゃいけないらしいけど」
という言葉を残して、日向はスカーレットを呼びに行った。
本番は練習のように
昼休憩を終え、文化祭の目玉でもある合唱コンクールがスタート。まずは2年生が競い合い、次に1年生。終盤には3年生が歌い、大トリに合唱部が備える。2年生はかなりハイレベルな合唱を行った。1年生は、高校生デビューの象徴となる合唱を行った。ついに受験を迎える3年生は、かなり難しい曲を歌っていながら、難なくこなした。そして大トリ、合唱部。美しいハーモニーが響き、講堂が拍手に包まれた。合唱部の3年生はこの文化祭をもって引退するため、最後の舞台となった。その晴れ舞台を見に来る親もいたり、地域の人も集まってこの合唱コンクールが成り立っている。
合唱コンクールが終わる頃には、西の空に美しい夕暮れが見えた。東京といえども郊外のため、西では日が暮れて山に帰ってゆく鳥たちや、夕方に羽田や成田に着陸する飛行機などで騒がしくなる。日向は、この風景を眺めるのが1日の中で最も好きな時間だと、晴音に話していた。
アオハル注意報 Side 晴音
ついに2ヶ月を切ってしまい、私は何も考えたくなくなった。その日のことを考えるだけで、私は自己嫌悪になる。合唱コンクールでピアノを弾いた私は、練習のし過ぎで風邪を引いてしまった。やはり、ストレスが蓄積された風邪である。お母さんは心配してくれたけれど、日向やスカーレットからはなんの連絡もない。まあ、期末テストが近づいてるから、勉強に集中したいのだろう。晴音は右手にペンを握り、課題となっているワークを始めた。
雪
12月に入ってすぐ、期末テストが始まった。晴音、日向、スカーレットの3人は事前勉強会的なものをしていたため、準備は万全だった。
「晴音、テストお疲れ様。全部解けた?」
「うん、私はなんとなく解けたよ」
「スカーレットは?」
「国語の漢字とか、社会の公民とか、もうごっちゃでわからなくなっちゃった。日本生活5年目かな?だけどまだ日本語って難しいって思う」
など、晴音、日向、スカーレットの3人がテストの話題で盛り上がっていたその時、晴音が急に倒れた。日向は呆然と立ち尽くし、スカーレットはクラスメートに声をかけて養護教諭とか他の先生とかを連れてきてなど、的確な指示を出していた。スカーレットの的確な指示のお陰で、すぐに先生たちが集まり、晴音を保健室へ運んでいった。
翌日、日向とスカーレットに聞き取りが行われ、何もなく倒れたことを証言。倒れた次の日には晴音が目を覚ましていたので、日向をはじめとするクラスメートが代わる代わるお見舞いに行った。その後行われた検査で、晴音はストレス性の病気であることが判明。1週間の入院によって完治したが、激しい運動は年をまたぐまで禁止となった。
大切なこと
ついに、2学期最後の登校となる終業式。晴音は出席せず、家から参加する形式となった。そして、残りは1週間。晴音が死ぬまで、この1週間でなんとかしないといけない。日向は、あらゆる策を練っていたけれど、ほぼすべてが晴音に却下されている状況。ただひとつ現在の候補は、晴音と日向の2人で学校に行くこと。そうすることによって、他の可能性から遠ざかる事ができると晴音は考えていた。
絶対に忘れない
12月25日。ついにその日がやってきた。晴音の体調も良かったため、晴音と日向は、朝早くから学校の校内を歩きまわり、自分たちがこれまでに残した経験や、楽しかったことなどを語り合った。お昼は先生に許可をもらって、講堂の真ん中で食べることにしていた。だけど、神様というものは気の毒で、最後まで話す時間を与えてくれない。日向と晴音は世間話をしながら、4月から過ごした校舎を見て回った。また、3年生の教室がある北校舎にも入らせてもらって、3年生の生活を実感した。お昼になり、堀川先生に講堂の鍵を開けてもらった。普段講堂でご飯を食べることがないから、新鮮な気分で弁当を食べていた。それが、晴音と食べる最後の食事になった。
変わらないもの
年が明け、晴音の葬式も淡々と終わった。クラスメートたちはみんな涙を流して晴音に別れを告げていた。日向は、心にぽっかり穴が空いてしまったように、何も喋らず、ただ晴音が眠っている棺を見つめていた。その後、ある男子が日向に近づき、こう言った。
「能力者って、信じると思う?」
日向は驚いた。口調が晴音にかなり似ていたからだ。言った本人は、日向にはわからなかったけれど、相手はすぐにわかっているようだった。
「失っても、前を見るしかないんです。だから、下を向かずに、ずっと前を向いてください」
日向は、もうよくわかっていなかったけれど、その言葉を信じて、葬式場の出口へと向かっていった。
かくしごと Side 愛斗
12月26日。その日に自分はもう死んだはずの晴音と会っていた。なぜ、会えているのか。答えは、能力を使っているから。晴音からは、自分を大切に生きてほしいという一言だけだった。愛斗は何度も晴音に問いかけたが、何も晴音は言わず、時間だけが過ぎていった。
終わりの始まり
晴音がいなくなって、8年。日向は都内の大手証券会社に就職していた。だけど、日向は8年前から変わっていないところが1つある。日向は、絶対に振り返らずに、前だけを向き続けている。晴音にとっての終わりは、日向にとっての始まりでもあった。日向は、晴音のことを忘れることなく、今でも前を向き続けている。
「日向、お疲れ様。ちょっと休憩したら」
スカーレットが声をかけてきた。スカーレットも同じ証券会社に勤めているので、しょっちゅう会うことがある。日向はスカーレットと一緒に、休憩スペースへと向かっていった。日向はもう、振り返ることはなかった。
「晴音は、私の人生の1ページに相当する人。それぐらい、大好きってこと」
こんにちは。作者のTTです。
この作品は、約2年前に書いたものを一部修正しております。
当時、誤字などには気を付けて書いたと思いますが、もし誤字がありましたらそのあたりはお許しください…




