1 光る竹なむ一筋降り来たり
「ありゃ一体なんの冗談だ」
目の前の光景に唖然としながら脊髄反射で出た言葉だ。それ以外に説明しようが無い。
それに誰が信じるものか。今彼の目の前に墜落しているそれが、
「どんなギャグ漫画でも光る竹が墜落してくるなんて事は起きねぇよ!」
──いや、待て、落ち着け。冷静になれ。
一旦状況を整理しよう。
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彼、その名を竹野三ツ矢という。
1992年の日本生まれド田舎かつ山の中の高校に通う言わば普通の人生を歩んできた普通の高校2年生である。
そんな彼の17年間は割愛し、現在、2009年7月7日の七夕、三ツ矢の目の前には幅2m高さ10m程度の大きな金色の竹が斜めに突き刺さっている。
本日は七夕かつ満月らしく、美しい満月の眩しい月光が竹を更に光り輝かせていた。
先刻まで彼は担任に呼び止められ雑用を任せられ、校門を出たのは夜の7時。もうその頃にはほとんどの生徒は帰宅しており、当の依頼人の担任も雑用を任せて先に帰ってしまった。つまり現在この山に人間は三ツ矢唯一人である。辺りは夏場故、然程暗い訳でもないが夕日が見えなくなるぐらいには暗い。
そんな中三ツ矢は帰宅途中だった訳だが、如何せん学校は山の中にあり、下校には下山が必須であった。
一人で下るには恐ろしい静寂の中、突然、今後聞くことの無いような激しい爆発音と地響きが彼を襲った。
その音の出処は現在下山途中である山、校舎から少し離れた開けた場所に墜落していた。
墜落現場へ向かうとそこには斜めに突き刺さった金色に輝く竹が一本、後はその竹が引きずって出来た多くの残骸。
──さて、状況を整理した訳だが。
「これ、何処に電話すりゃいいんだ?消防?警察?自衛隊?いや、自衛隊の番号知らねぇし。」
いや、そもそも光る竹が空から落ちてきたなんて妄言、誰が信じてくれるだろうか。
運が悪ければいたずら電話と疑われ威力業務妨害で捕まりかねない。
「んな事考えてる場合じゃねぇよな、つかそもそもなんで竹なんだよ。UFOとかならまだ納得も出来たかもしんねぇが。」
──待て、光る竹?
昔話に出てくる、竹取の翁って爺さんが見つけたのも、
「そうだよ!竹取物語じゃねぇか!ん?って事は中に小さな女の子がいるって事でいいのか?」
本来こういう物は触らぬ神に祟りなしと言いつつ触り、見事怒りにふれシリアルキラーやらなんやらが殺しに来るのがお約束な訳だが、実際中に誰かがいるならそれは助けるべきでは無いだろうか。
「そうだ、人助けのためにも中に誰か居ないか確認しねぇとな。」
好奇心と恐怖心を両脇に抱えながらゆっくりと1歩ずつ確実に竹へと歩みを進め、間合いまで距離を詰め、いざ触れて見ると、
「──冷たい?」
冷蔵庫に入れた野菜のような、植物的冷たさでは無かった。
無機物的な、冷えた金属板のような冷たさに近かった。
三ツ矢が竹の表面を軽くノックしてみると、やはりと言わんばかりに金属の音がなった。
「これ、どうやって中身開けるんだよ。こんなの山の翁でも開けられねぇぞ。早くも竹取物語完結か?これは。」
正直、ここから先は本当にどうしようもない。
この金属で出来た光る竹を一体どうしたものか。
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三ツ矢が光る竹を発見して30分程度経った頃。
「おーい!かぐやさーん!居るんでしょ!絶世の美少女がここに眠ってるんじゃないのかよ!おーい!」
延々と竹とコンタクトを試みるも一向に反応を示さず、いい加減叩き過ぎて拳が痛くなった頃、「ダメだ、本気で手が痛い、明日また見に来るかぁ?」と残念がりながら竹に背を向け、山を後にしようとした瞬間。
「ーーーーっ!」
背後から金属が拉げ、吹き飛ばす様な重い音が鼓膜へ強引に伝わり思わず振り向いた。
目に映った光景は、あまりに現実的とは言えずあまりにファンタジーじみた光景だった。
竹の皮を吹き飛ばし、中から姿を表したのは美しい少女だった。
黒い髪は腰に届きそうなぐらいに長くて、横から見たその姿は、月明かりに照らされていたという事もあって同じ人間とは思えない程の美しさだった。
整いすぎていて、現実感のない横顔がスッとこちらを向いた。
その瞳は綺麗な夜色だった。月光を反射し、煌びやかに光り輝く絢爛な眼に射抜かれた。
その少女はただ不思議そうにこちらを見つめ、竹の中から飛び出し一瞬で上空に舞い上がったと思えば、すぐ目の前にいた。
三ツ矢との間わずか3寸ばかりしか無く、今にも触れてしまいそうな距離に来た少女は一言、
「──あんた、何者?」




