プロローグ①
時々、ふと考えることがあるんだ。
これまでの出来事─誰かの死も、誰かの選択も、あの決断も、すべてが「そうなるべくして起きたこと」だとしたらどうだろう?
だとすれば、きっと君の悩みも、苦しみも、あの夜の涙も、ぜんぶ運命の一部だったと言えてしまう。
——神の御心、ってやつさ。教会の人たちはそう言うんだろう。
でも、ぼくはもう少しだけ神秘が好きだから、こう考えてしまうんだ。
——これは運命だったのかもしれない、と。
同著「ルー・ブレス」より引用
悠久の時を経て、発展も衰退もない世界に、ひとつの予言が齎された。
──遥か西の地、大海の手前、北玄の宿にて、二つの首星を結びつく星が……。
その言葉は東方の王国群に衝撃を齎し、まるで焰のように各地を駆け巡った。
予言の星にあたる人物が西のどこかにいる。そう信じた預言者たちは、英雄の出現と重ね、王宮へ進言した。やがて各地の王は商人や旅人、学者らを西方の大地へと急がせたが、果てしないヨーロッパの地において、それらしき人物を見つけるのは至難の業であった。
それでも探し続ける者たちがいた。知らず知らずのうちに、その奔走が東西を繋ぎ、歴史を少しずつ形作っていたとしても。
「予言は外れたのさ」
長い月日が流れた頃、誰かがそう口にした。やがてその言葉は東の人々に浸透していき、各国は予言の真偽に興味を失い、探索をやめ、予言そのものすら忘れ去った。
一方、西方の地では異変が起きていた。突如としてバッカニアの勢力が増し、かつての夢──新大陸への到達と植民は不可能となった。
スペインを始めとする列強国は、泣く泣くその希望を手放したのである。だが、その反動として東西間の貿易と交流は活性化し、今日に至るまで奇妙な穏やかさを保った関係が続いている。
遥か西の大海を越えたその先には、今やバッカニア達が築き上げた独自の都市国家群が広がっていた。島々を支配し、貿易都市と楽園を兼ね備えた拠点を整え、彼らは「海に生きる者たちの理想郷」として、自由の旗を掲げ続けた。長い時間かけて築き上げた。その影響で海に憧れる者たちは年々増えていき、海賊の数は膨れ上がり、もはや国家と無法者の境界線は曖昧となる。
国と国の対立。海軍と海賊の抗争。
誰が正く、誰が自由で、誰が未来を選ぶのか。
いつになったら「よき時代」はやってくるのか? 残念ながら、その日は永遠に来ないだろう。
何故ならこの世界は発展も、ましてや衰退すらしないのだから。
さて、そんな不変の世界で生きる人々は……いったい、何を想い、何を選び、何を成すのだろう?




