第3話:一進一退が一番手に汗握る
『CHANGE NEXT MYTHOLOGY!!!』
「さあ、喧嘩しようぜ!」
そう言って笑う、一人の戦士。艶のないダークグレーのアンダースーツに、光を反射して銀色に輝く装甲を纏った彼は、『不朽のデュラン』相手に混じり気のない戦意を向けた。
「新たな戦士よ。その闘志、無謀とは言わん。……が」
デュランは次の瞬間、銀色の戦士の懐に踏み込み──────
「蛮勇ではあるなッ!」
鋭い切り上げを繰り出した!
──────しかし。
「いいんじゃない?」
彼は生身であれば容易く首と胴が泣き別れになるであろう一撃を容易く躱すと、お返しと言わんばかりに拳をその剣に叩きつける!
「ぬうっ……!」
『がぃん』、という耳障りな鈍い音と共に、デュランの愛剣が悲鳴を上げる。軋むように、喚くように、嘆くように。恐らくデュラン自身も、その剣からこんな音を聞くのは初めてだったのだろう。すぐさま後ろに跳び、その刃を確認する。
「……傷、罅は無し。しかし恐ろしいな、埒外のパワーか。この剣は勿論、盾でも数度直撃すれば破損は免れんと見た。胴体への直撃は致命傷……で、あれば」
デュランはそう言うと、その剣にどす黒いオーラを惑わせる。まさか、さっきまで本気じゃなかったの!?
「技術に関しては全て出していた。ここからは……我が力、邪神様より『不朽』の名と共に与えられたこの魔力を以て、貴様を──────」
「うるせぇ」
デュランのその言葉は、それ以上続かなかった。肉薄された意趣返しかはわからないが、先程のデュラン以上の速度と力で踏み込んだ彼。多分30mはあったその直線距離を一瞬で詰め切り、その頭蓋に蹴りを叩き込む!
「ふっ!」
しかし間一髪、盾を間に捩じ込んだことでその蹴りを防ぐ。真正面から受けることを避け、角度をつけることで消耗を防いだ……時間の余裕を考えれば、類い稀な技術での防御。……しかし。
「ぬう……直撃を避けてなお、腕に痺れを寄越すか」
言ってしまえば、蹴りという形をしただけの砲撃。私たち魔法少女でも一撃で病院送りになりかねないそれを、必殺技でもなんでもない普通の蹴りで打ち込む彼が凄まじいのか……はたまたそれに対応出来るデュランが凄まじいのか。……きっと、両方だろう。
「……名乗れ、銀の戦士よ」
「悪いな、本日初陣で名前もまだ決まってねえんだ。サイン欲しかったならごめんな」
耳が痛くなるほどの静寂の中、無骨な闇の騎士と軽薄な銀の戦士の声が響く。互いの出方を伺うように。そして、その相手の出を潰さんと刃を研ぎ澄ませながら。
「「──────」」
そして、一時間にも錯覚するほどの十秒を経て。
「──────斬り捨てる!」
「やってみなァ!!」
最速のパワーゲームが始まった。
互いに先手の争奪戦。相手の動作を見て二手三手、十手先を読みそれを潰し合う。見苦しい表現をすれば、戦局という車のハンドルの奪い合い。しかしそれは、おぞましいほどの緻密な分析からなる戦略ボードゲームであった。
「(左上からの斬り下ろし、返す刀で斬り上げ、突き、横薙ぎ──────)」
「(左のストレート、右脚による後ろ蹴り上げ、手刀、掌底──────)」
デュランが刃を振り下ろせば、その側面を拳が打ち据え軌道を逸らす。銀の戦士が蹴りを繰り出せば、動き出しの段階で盾を叩きつけてそれを止める。
「「(──────面倒だな)」」
奇しくも、互いに心情は一致した。初動を潰す。それは相手の踏み出した最初の一歩の先を落とし穴にすり替えるようなものであり、必然的に相手に会心を狙った捨て身の一歩を踏み出すことを鈍らせる。傍から見ればただ拮抗しているだけのそれは牽制の応酬であり、互いの進行方向に死線を引き合う陣取り合戦でもあった。
そして、その上で。応酬・交合を百度ほど繰り返した上で。この戦いにおいての優勢は──────。
「ッラァッ!」
「ぐっ……!」
銀の戦士であった。それは単に、初動潰しのコストの差。銀の戦士を勢いに乗せてはならないと歴戦の経験から直感したデュランは、相手の行動全てを動き出しの段階で潰さなければならない。
しかし銀の戦士はその逆。たった一撃直撃させれば流れを掴める彼からすれば、デュランの攻撃はさせてはならないものではない。させた上で対処し、それにより生まれた隙を突きにいけばいいのである。その対処の差が消耗の差に繋がり、消耗の差が持久力の差に繋がる。
「銀の戦士よ、何故戦う! その技、並大抵の努力では至るまい!」
「趣味」
更に、その問答と戦士の戦闘スタイルもデュランを追い詰める一因となっていた。
油断を誘うための挑発戦術も無碍なく端的に切り捨てられ、技の精細を欠かせられない。その空振りがデュランから余裕を失わせていく。
そして戦闘スタイル。銀の戦士たる彼は、特有の格闘術を持たない。シンプルな戦闘論理を更に最適化させ、効率的に運用させることで成立させている。
『殺られる前に殺る』
その戦闘の命題は残酷なほどに単純。どれだけの力を持っていようと、どれだけ賢かろうと、どれだけの異能を持っていようと。結局のところ、それらを活かす前に仕留めさえすれば何も変わらないのだ。
『勝てば官軍負ければ賊軍』という、現代社会で掲げるにはちょっとどうかと思ってしまうほどの理論を軸とする青年。勉学などの一般的な『競い合い』においては社会通念や人倫の問題で枷をされていたそれが、『何してもぶっ潰せばいい侵略者』を相手にしたことで解放されていた。
どんな絶技も当たらないなら些事、相手が自分を殺せるほど強くてもその前に相手を殺せば勝ち。そんな絶対定理が幅を利かせる殺し合いの世界で、外聞を考慮する方が異常というものだろう。
そして、その無形の戦闘スタイルが何を生み出すか。
「(動き始めないと、読めない……!!)」
先読みによる的確な対応、そしてそこからなる相手のパフォーマンスの最低化が強みであるデュラン。しかしその根幹は結局のところ『先読み』にあり、ノリと勢いと直感で繰り出されるソレは『動き出す前に読み取れる』はずのそれを『動き出してからようやく読める』レベルにまで劣化させる。制限時間の間に10は解けるはずの問題が8問しか解けていないような感覚は、デュランに脊椎をゆっくりと炙るかのような焦燥感をもたらした。
そして、その焦りは時に大失敗を呼ぶ。
「ッ、獲った!」
盾の叩きつけを銀の戦士が裏拳で弾く。ぴし、と罅が入る盾を横目に、デュランは至上の好機を悟り踏み込んだ。
「(片手は盾を弾くのに使い、対応に使えるのは腕一本! 刃を受け止められたなら上から盾で押し込み、諸共首を断つ!)」
そう判断し、僅かな動作で渾身の力を込めて刃を振るったデュラン。──────しかし、銀の戦士がそれに対して行ったのは想定を超えたものであった。
「(──────は?)」
まさかの迎撃。振り下ろされる刃を無視して、手刀をデュランの首に突き立てんと繰り出した。
「(いや、速度からして当たるのは我の方が先! 如何にその手刀が我が命に届くものであろうと、その前に貴様の命を獲れば問題はない!)」
そう断定するデュラン。……だが、その手刀から目が離せない。銀の戦士の迷いないその一撃は、一直線にデュランの首へと向かう。そして、デュランは考えた。考えてしまった。
──────もしかしたら、あのアンダースーツは我が刃を止めるほどに強靭なのでは。
普段ならば有り得ない思考。自らの腕を信頼し、刃を信用しているデュランが決して持たない不安。何せ先程の打ち合いで、愛剣にも多大な負荷がかかっている。
『不朽のデュラン』。裏を返せば、命を預ける武具がどの程度で壊れるか。それを自分でも分からないということ。未知への恐怖が不安を呼び、その不安が思考を鈍らせる。そして。
「──────ッ、」
一瞬、その刃が鈍る。そして。
「おおおおおッ!」
それでも目の前の強敵を討ち取るため、気合いを込めた咆哮を上げ──────
「解ってたぜ。お前がこの偽装った隙を見抜けるくらいに強いことも。そして、それが罠だと見抜けないくらいに焦ってることも」
先程盾を弾いた拳が、デュランの手を剣のグリップ諸共打ち砕いて。
そして追い討ちとして、手刀がデュランの首元に突き立てられた。
「ご、が……っ!」
「いやあ、大変だったよ。お前つえーもん。半端な罠じゃ見抜かれるし、確実に決めるためにかなり神経すり減らさせなきゃなんなかった」
そう言って安堵のため息をつく銀の戦士。片手を砕き、喉に穴を空けるほどの紛うことなき致命傷。だが、その上で。
「でも悪いな、俺生まれてこの方トランプで負けたことねーんだ」
腰の『オリンポスドライバー』、その両側面の内蔵スイッチを押し込み、臨界駆動させる!
『FINALIZE!!』
電子音声が響き、銀の戦士の右脚そのものが輝いているのではと錯覚させるほどのエネルギーが込められ、
「あばよ邪神軍! トドメの一撃で死に曝せェッ!!」
その言葉と共に、出血により力が抜けて盾すらも取り落とし無防備なデュランの胸部へと至近距離からの蹴りを打ち込んだ!
『ALKAIOS!!』
『BRAVING SMASH!!!』
その一撃はデュランの鎧を粉砕し、その奥の肉体を破壊しながら吹き飛ばす。舗装されたアスファルトに何度も叩きつけられながら、100mほど転がり──────そして。
「……は、はは。まさか、我を打ち倒す戦士がこんな世界に居たとは」
ぶち抜かれた喉を抑え、無理やりに言葉を紡ぐデュラン。既にその命は風前の灯、十数秒ほどで確実に息絶えるだろう。……そしてその余命を、彼は忠義に使う。
「……予告しよう、銀の戦士よ。貴様は必ず、邪神様が討ち滅ぼす」
「そん時ゃ邪神も殴り殺すだけだ。かかってこい、クソ侵略者共」
左手は首を掻っ切る仕草から親指を下に、右手は中指を立てるという行儀の悪さがカンストしたハンドジェスチャー。それを見て、デュランは笑った。
「貴様が絶望に屈する様、冥府の底より待ち侘びているぞ……ッ、邪神様に……永遠の、栄光あれェェェェェッ!!!」
それを遺言とし、デュランの五体は弾け飛び爆散する。爆発炎上、立ち昇る炎を前にして……銀の戦士は、勝利の証として拳を天に突き上げたのだった。
『不朽のデュラン』
邪神軍幹部。もし野良の一般異常高校生系変身ヒーローが来なかった場合、魔法少女セイントシャインが諸共自爆することで刺し違えていたりする。『油断も慢心もない』と言っておきながら本当に油断も慢心もないタイプで、相手の行動を徹底的に邪魔して弱らせながら上からぶん殴るのが戦闘スタイル。なお必殺技以外は予備動作を必要とせず、武器なしの素手でぶん殴ってくるタイプである主人公は致命的に相性が悪かった。
主人公くん
男。体育と現代文の試験では満点以外取ったことない。
読み合いの果てに攻撃誘ってクロスカウンターぶち込んだ駆け引きの鬼。幼馴染たちとのババ抜き・七並べ・スピード・大富豪・ポーカーなどのトランプゲームでは一度も負けたことがない。正確には『ここでブラフ吹っかけたら相手は騙されるだろうな』『ここでフカシこいたら相手は引っかからない』という分析が著しく正確。そうやって相手が勝負に乗るか降りるかを操作して、賭け金のお菓子をよく巻き上げている。お年玉を賭けて親戚とポーカー勝負して泣かせた前科がある。
幼馴染ちゃん
女。嘘は顔に出るタイプ。
今回セリフは全くなかったが、自分が開発したシステムが邪神軍幹部相手にも通用するので大喜びしてる。
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