ー告白と生霊パニック―
「あ、ご……ごめん!」
目の前の彼は、りんごあめみたいに顔を真っ赤にしていた。
整った顔。さらりとした黒髪。
涼しげな切れ長の目に、陶器みたいにつややかな肌。
——ねぇ誰?
少女漫画の理想彼氏を現実に召喚したの。
街を歩けば十人中九人が振り返り、
残りの一人は嫉妬で歯ぎしりしそう。
しかもこの人。
中学でバスケ全国三連覇、高校でも校報紙の常連。
モデルスカウト経験ありって噂まである。
――神様、どこまで盛ったんですか。
おまけに成績優秀。非の打ち所なし。
完璧人間って、本当に存在するんだ……。
そんな彼が今、私と顔を突き合わせている。
至近距離。吐息がかかるほど近い。
え? なにこの状況?
それでは皆さん、問題です。
そんな彼といる私のこと。
「絶世の美少女」
だと思ってませんか?
残念ながら、現実はこう。
『入学当初から保健室の常連さん?』
『根暗オタクっぽいよね?』
『三つ編みメガネの無口女、怖くない?』
『二次元に恋してそう』
……とまあ、そんな評価をいただいております。
はい、地味で目立たないモブ女子、それが私。
だからこそ信じられない。
なんでこの完璧王子が、私なんかに告白なんてしてきたのか。
しかも今、この距離感。
彼の手は壁についていて——え、壁ドン!? 嘘でしょ!?
彼は焦ったように頭を下げてきた。
「あ、ごめん! 本当に! 足が何でか絡まってしまって……。」
「いえ……こちらこそ、ありがとうございます!」
顔面の筋肉を総動員して、ひきつり笑顔を作る。
感謝の意味で、ね?
だって、壁から出ていた“何か”が、きれいに消えてる。
さっきまでの息苦しさが嘘みたいに。
彼は、ぱっと顔を上げてにっこりと微笑んだ。
……破壊力、パネェ!!
「え? じゃあ、OKってこと?」
……え、何の?
いやちょっと待って?
その笑顔、反則でしょう。
太陽を直視したみたいに眩しくて、思わず手をかざした。
いや、違うのよ!
私はただ“助けてくれてありがとう”って言っただけなの!
「じゃあ、早速一緒に帰ろうよ。」
彼の笑顔が炸裂した瞬間——。
“ドンッ!”
……何かが地面に倒れた音がした。
そして見えてしまった。
黒いモヤに包まれた、地面を這う“ソレ”。
そう、見えてしまうんです。私には。
小さいころから、普通の人には見えないものが見える。
おかげで嘘つき呼ばわりされ、今の性格になりました。
でも今のは確かに——彼の後ろから這っていた“黒いモヤ生き霊”。
彼が偶然蹴り飛ばした形になって、顔面ヒット。
その瞬間、地面を転げ回る女子の姿が現れた。
……隣のクラスの柳原さん?
続けざまに、“グシャッ!”“ズベンッ!”
耳障りな音とともに、何かを踏み潰している?
え? 横地さんと田中先輩?
みんな顔面を押さえて悶絶してるけど……なにこの状況!?
でもわかっちゃった。
彼女たち、みんな彼狙いだったんだ。
……生霊でストーキングって、愛が重すぎませんか?
「ほら、制服が汚れちゃうよ?」
そう言って彼は、私の手を取った。
そっと引き上げられる、その瞬間——。
“ゴツン!”
“ううっ……”
また女の子のうめき声。
彼の後頭部が、別の生霊にクリーンヒットしたらしい。
でも彼は気づかない。
その瞬間、生霊たちは次々と光の粒になって消えていった。
まるで彼の周りだけ、空気が清められていくみたいだった。
「え? どうかしたの?」
きらきらした黒い瞳が、私を覗き込む。
「な、なんでもないです!」
今、私のほうが霊よりヤバい顔してる気がする。
だって彼、どう見ても“無自覚最強”なんだもん。
——その笑顔ひとつで、霊障すら払ってる。
――次回は30分後。――




