表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。
この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

封印の剣と千年の約束

作者: 柚月 龍

初投稿します。新参者ですがよろしくお願い致します


〜英雄の眠る剣は、再び時を越えて目覚める〜


 かつて、この大陸は一匹の魔竜に支配されていた。

 その名を「オルディロス」。

 黒曜石のような鱗を纏い、吐息一つで山を溶かし、翼一振りで大地を裂くと伝わる存在だった。


 人々は国を捨て、海を渡ろうとしたが、魔竜の影はどこまでも追ってきた。

 そんな絶望の中、ただ一人、竜へ立ち向かう者が現れた。

 王家の若き騎士、アーサー・レオンハルト。


 神より授けられた「封印の剣」を携え、アーサーは竜へ挑んだ。

 七日七晩、雷鳴と炎が交錯する戦場で、彼は血を流し、仲間を失い、それでも剣を握り続けた。


 そしてついに、最期の一太刀で竜を大地へ縫い止めたとき、アーサーは己の魂を剣に封じ、こう告げた。


「千年後、竜は再び目覚める。

そのとき剣を継ぐ者が現れねば、

この大地は二度と陽の光を見ることはないだろう」


 ――それが、千年の約束だった。


 リュカは夢を見ていた。

 果てしない草原に立ち、目の前で銀鎧の騎士が振り返る。

 その背には、剣に縫い止められた巨大な黒き竜の影が広がっていた。


 「剣を継げ」

 騎士は低く、しかし確かに言った。

 「我が末裔よ。約束の時は来た」


 リュカは目を覚ました。額には汗が滲み、胸は高鳴っていた。

 窓の外では、東の空が不穏な赤に染まり始めていた。


 王国北方の火山帯――“黒き山脈”から、凄まじい地響きが響いた。

 それはまるで、千年前の竜が再び目覚めたかのようだった。


 「オルディロスの封印が解けつつある」

 王都に詰める老魔導師ジオルグの声は震えていた。


 一方、辺境の村に暮らすリュカの耳にも噂は届いていた。

 「北の街が一夜にして焼け落ちた」

 「空を覆う巨大な影を見た」


 母は不安げにリュカを見つめた。

 「……王都へ逃げた方がいいかもしれないわ」

 「逃げたって意味はない。竜が目覚めたなら、どこも安全じゃない」


 そう言ったリュカだったが、胸の奥で夢の騎士の言葉が響いていた。

 ――剣を継げ。


 王都は既に混乱していた。避難民で溢れ、城門は閉ざされ、王は病に伏せていた。


 その混沌の中で、リュカは不思議な導きに従って地下へ降りていく。

 無数の松明が灯る階段を抜けた先に、封印の神殿があった。

 祭壇の奥、岩壁に突き立てられた一振りの剣が、淡く脈動する光を放っている。


 「……来たか、英雄の末裔よ」

 背後から声がした。

 白髪の老魔導師ジオルグが、杖を手に立っていた。


 「この剣はただの武器ではない。千年前、英雄アーサは竜を封じる代わりに魂を剣へ捧げた。

 真に国を救う意思を持つ者だけが、この封印の剣を抜ける」


 リュカは震える手で柄に触れた。

 瞬間、眩い光に包まれ、意識は別の世界へと引き込まれた。


 そこは果てしない草原。

 リュカの目の前に立つのは、夢で見た銀鎧の騎士――アーサーだった。


 「リュカ・レオンハルト。おまえを見てきた」

 「俺が……英雄の末裔だっていうのか」

 「そうだ!我が子孫よ。封印の剣は、千年後の英雄を選ぶ」


 アーサーは剣を掲げ、リュカの胸に柄を押し当てた。

 「竜を再び封じるには、命を賭す覚悟が必要だ。それでも進むか」


 リュカは迷わなかった。

 「母を、村を、仲間を守りたい。それで十分だ」


 アーサーは微笑み、剣を託した。

 光が弾け、リュカは現実へと戻った。


 封印の剣は、彼の手の中にあった。


 北の空を裂いて、黒き竜オルディスが舞い降りた。

 翼の一撃で城壁が崩れ、咆哮一つで兵たちの心は折れた。

 王国最強の騎士団が挑んだが、鱗は刃を通さず、炎は街を焼き尽くした。


 リュカは剣を抜き放ち、竜の前に立った。

 「逃げろ、少年!」

 叫ぶ声も聞かず、リュカは剣を地に突き立てた。


 封印の剣から放たれた光が竜の炎を弾き返す。

 大地が震え、竜が咆哮を上げた。


 その瞬間、リュカの脳裏にアーサの声が響いた。

 「今だ、封印を解き放て!」


 リュカは叫んだ。


「イグナ・レオン・ファルシス――封印、発動!」


 剣から迸る光が竜を包み、大地は裂け、空が白く染まった。


 戦いは終わった。

 竜は再び大地の底に封じられた。

 しかし、リュカの体は淡く透け始めていた。


 「千年の約束……剣は竜を封じるたび、英雄の魂を捧げねばならんのだ」

 ジオルグの言葉に、リュカは微笑んだ。


 「剣の中で眠るよ。そして、また千年後……必要なときに目を覚ます」


 光がリュカを包み、封印の剣の刃は紅く輝きを増した。

 やがて神殿の奥深くに戻されたその剣は、再び“英雄の眠る剣”と呼ばれるようになった。


千年後、竜が再び目覚めるとき、

封印の剣は必ず、新たな英雄を選ぶだろう。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ