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勇者の誤算

作者: デギリ

檜山勇は今日も異世界転生小説を読みながら、妄想していた。


(くそっ、なぜ俺がモテないんだ!この国の女は見る目がない。

俺が異世界に勇者として呼ばれれば、魅了の魔眼をもらっていい女に片っ端から手をつけてやるのにな)


そんなことを考える勇は、チビ・デブ・ブサイクで彼女などいたことがなく、カップルを見ると、死ねと心から祈っている。


中学校で好きな女の子をつけ回し、それを咎められて、クラスでいじめられると、そのまま不登校になって3年が経つ。

何度も外に出そうとしたが、言うことを聞かずに暴れ回る勇にもう親は諦めている。


そんな彼は深夜にコンビニに行った帰り、トラックに跳ねられ死亡した。



「お前が勇か、今のように生きていても仕方あるまい。

お前を必要としている世界がある。

そこで期待に応えよ」


小説でよく読んでいた場面だ。

神々しい存在から声がする。


(やった!

願っていた異世界転生だ!)


勇はカッコをつけて言う。


「それは勇者になるということか?

俺の力を必要とするなら全力を尽くそう。

ただし、条件がある」


「なんだ?」


「見つめれば、その女が俺のことを好きになるという魅了の魔眼が欲しい」


「やはりその反応か・・

世への怒りや憤懣が溜まり、性欲が有り余る者を探すとこうなるのう」


神は小声で呟いた後、勇に言う。


「よかろう。

魔王を討伐できればその能力を与えよう。

では、身体をその国の勇者となれるよう改造するぞ」


思いの外、簡単に神らしき存在は同意してくれた。

身体を確認したが、何が変わったのかわからない。


(多分、勇者の能力を授けてくれたのだろう。

これで魔王とやらを征伐できるようになったのだろうな)


黒い穴に吸い込まれて送られた先は、どこかの宮殿。


王冠と豪華な礼服を纏った女王らしい美しい女と、それに付き従う女たちが傅いていた。


「勇者様、ようこそおいでくださいました」


見たところ、女達は誰も美しく、勇は早く彼女達を抱きたくてウズウズした。


(魔王さえ倒せば、美しい女王をはじめ、あの女達は全部俺のものか)


勇は勇者として歓待され、美味しい食事と暖かな寝室を与えられたが、期待していたような、女が伽にやってくるようなことはなかった。


彼は、時々念を入れてじっと女を見るが、まだ魅了の力はないようで、誰も靡こうとしない。


勇者ならいいだろうと、掃除に入った女官を押し倒そうとすると、

「魔王を倒すまではいけません」とするりと逃げられる。


何故か掴もうとしてもぬるりとして捕まえられないのだ。


(やはり魔王を倒さなければ女は抱けないのだな)


しかしこれまで女と接点のなかった勇は、肌も露わな薄着で動き回る女王や女官を見ると我慢できなくなりそうだった。


不思議なことにこれまで散々行っていた自慰もできない。

一物が勃たないのだ。


女王に聞くと、「魔王退治まで余計な生命力の消耗は禁じられています」と言う。


頭の中の性欲が溜まって発狂しそうになる。


勇は早く討伐に出たかったが、まだ時期ではないと出してもらえない。


仕方なく暖衣飽食と兵士との訓練で時を過ごした。

これまでケンカも格闘技もしたことのない勇だったが、自分が驚くほど身体が動いた。


「それは歴代勇者のデータが鎧に入っているからです。

歴代勇者様は皆さん、見事に魔王を退かせています」


「ならば、俺もできるだろう」


どうやら勇は生命力を供給するだけで後は武具が戦ってくれるようだ。


退屈した勇は王宮を出て、街をぶらつく。

よく見ると街には女しかいない。

兵士も女ばかりだった。


「この国は女ばかりなのか?」


(だから、魅了の魔眼をくれて、女を抱き放題にしてくれるのか)

期待を込めて、女王に聞く。


「そうではありません。

男はそろそろ帰ってきます」


(狩にでも行っているのか?)


勇は不思議に思うが、やがて街に傷だらけの男達がよろよろと帰ってきた。


「そろそろ魔王が来ます。

戦いの準備を」


「任せておけ!」


連れていかれた場所で待機していると、山から、大きな黒い毛深い生き物がやってきた。


「魔王クマモンです。

勇者様、お願いします。

奴を退治すれば、魔眼を差し上げます」


女王が背中を叩いて、元気づけた。


「うぉー!

俺のハーレムライフのために死ね!」


勢い込んで勇は魔王に襲いかかるが、魔王はびくともしない。

それからは長期戦となった。

勇の気力が尽きそうになると、後ろから女王や女達が嬌声を上げて、応援する。


これまで女の応援をもらったことのない勇は気力を取り戻した。


三日三晩の死闘の末に、魔王は山に逃げていった。


「勝った!

奴を追い払ったぞ。

魔眼をくれ!」


倒れ込みながら叫ぶ勇に、女王は何かを目にかけた。


「これで魔眼を装着しました。

どの女でもあなたの思うがままです」


女王の美しい声でそう言われると、勇は空腹も眠さも忘れて、女王の腕を掴んだ。


「俺を見ろ!

もうお前は俺のものだ!」


「ああ、勇者様!

なんて素敵な方なの!

もう我慢できないわ。

どうぞこちらへ」


その近くの小綺麗な小屋に女王は誘う。


その中に自分と勇が入ると、女王は扉を閉める。


勇は初めての経験に胸が高まった。


(あれ、ベッドも何もない。

どうするんだろ?)


小屋の床は砂であり、そこにはスコップが置いてあった。


女王はそこにあるスコップを持って砂に穴を掘り始めた。

勇にも手伝ってと頼む。


不思議に思いながら、勇は穴掘りを手伝った。


「そろそろいいかしら。

では、始めましょう」


女王は穴にしゃがんでピンポン玉のようなものを下に出し始めた。

それは今掘った大きな穴のから盛り上がるほどに膨大であった。


呆然とそれを見る勇。


「勇者様はご存知なかったの。

これが我らの産卵です。

さあ、この上にあなたのものをかけて頂戴。

3000個あるから、みんな受精できるようにたくさん出してね」


そして、女王の卵を見ているうちに勇の下半身はエレクトする。

勇は頭では全く興奮していないのに、下半身は破裂しそうなくらいに膨張し精を放つ。


「まだまだ足りないわ!

女と交わりたかったのでしょう。

あなたはその巨大な性欲で勇者に選ばれたのよ。

頑張って!」


女王の励ます声で刺激されたのか、勇は意識せずにますます精を出す。


「違う!

俺がしたかったのはこんなことじゃない!

もう、やめてくれ!

痛い!気が遠くなる!」


勇は苦悶の呻き声を上げた。


「少し足らないけれどもう限界かしら。

勇者様、まだ私一人だけよ。

どんどん女をものにするんでしょう」


そう言って振り返った女王の目には苦しみの表情で息絶えた勇が映る。


「毎年、勇者というとは口だけね。

女をみんな我がものとするとか言いながら、一人で果てる。

まあ、後腐れがなくていいけど」


女王は産卵小屋を出ると、待ち受けていた家臣に告げる。


「クマモンは去った。

皆、産卵を行う時が来た!」


うぉーと、男女が手に手をとって産卵小屋に入っていく。


それを満足そうに見た女王は、独り言を呟く。


「クマモンめ、産卵時期になると、栄養豊富だと国民を食べに来おって。

しかし、それも異世界から来る勇者とかいう男に退治させるシステムができてから問題なく産卵できるようになった。

これを考えた神に感謝し、捧げ物をしなければ」


そして、小屋から引き出された勇の遺体を見る。

他にも続々と小屋で受精を終えて命果てた男が引き出されてくる。

みな、海に流されて他の生物の糧となるのだ。


「それにしても、歴代の勇者め、何が不満なのだ。

誰もがいつもこんなことは望んでないとか言う。


性欲を溜め込んで、それを戦闘力に換算してクマモンと戦い、その残余で受精する。

男として満足な一生だろう」


女王の脳裏には、やがて孵化して、川を下り、海から陸上に上陸して故郷に帰ってくる我が子達の姿が見える。


この星では鮭から進化した高等動物が栄えていた。

ここでは女は定着して生きるが、男は長い旅を終えて故郷で受精を終えると、その命は果てる。


彼らは1000の卵に一人しか得られない受精までできたことに満足して死んでいく。


貴重な男をクマモンのために無駄にはできない。

そのためにわざわざ異世界から毎年勇者を呼び、女王自ら受精の相手を務めている。


これに不満な勇者の気持ちが女王には理解できなかった。


(異世界の風習で何か我らに足らざるところがあるのかのう。

しかし、受精までは不満一つ言わないのだが)


受精を終えた女どもが走り寄ってくる。

今年の大仕事を果たした女王は勇者のことを忘れて、彼らに手を振った。










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― 新着の感想 ―
魔王クマモン、 絶対人を襲わなそうな見た目してるよな。
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