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スニーカー

作者: 廣風直

 さっきまで付かず離れず、スグルの隣を歩いていたマモルがしゃがみ込んで何やらやっている。スグルはゆっくりとマモルに近付いていき、声を出した。

「おーい、何やってんのー?何か落ちてた?虫?」

「いや、落ちてないよ。靴ひもが解けちゃったんだよー。」

「そっか。早く結びなよ。早く帰らないとママが心配するよ。」

「うん。でも、結び方忘れちゃったんだよー。」

「蝶々結び、まだ出来なかったのかー。とりあえず、今日はパパが結んであげるね。」

「うーん。うん、お願い。」

 マモルはスグルの手の動きを真剣な目で観察するように見つめていた。

 スグルは自分が父親になってから、もう六年も経つのかと感慨深く思っていた。マモルはつい最近まで、マジックテープのついたスニーカーを履いていたはずだ。靴ひもを結ぶのは難しいからという理由から、ミキがマモルの靴を選んでいたのを思い出した。

「ただいまー。楽し過ぎて、ちょっと遅くなっちゃったー。」

 マモルは家の中にいるミキに向かって大きな声を出した。

「おかえりー。はい、手洗いとうがいしっかりしてねー。」

 ミキはいつもと変わらない調子でマモルに声をかけた。

「はーい。」

 マモルはミキに対しては、あまり逆らうことはない。スグルには同性だからかわからぬが、ライバル心があるのか、反抗することもしばしばである。マモルはミキに言われた通り、素直に洗面所で手を洗っている。

「ただいまー。」

 晩御飯の支度をしているミキにスグルは声をかけた。

「おかえりー。楽しかった?」

 料理の手を止めずに、ミキはスグルの声に応えた。

「うん、楽しかったよ。ブランコを上手にこげるようになったって嬉しそうに報告して、見せてくれたよ。」

「小学生になってから出来ること増えたもんねー。口も達者になっちゃってムカつくこともあるけど、まあ可愛いよね。」

「ママー。お腹すいたー。今日のご飯は何ー?早く、早く、早く食べたいよー。」

 マモルの登場によって二人の会話は中止された。

「今日は、マモの好きなハンバーグだよー。」

 マモルは特段大きな声で

「ハンバーグ!」

と叫んだ。


 晩御飯の後、マモルは遊び疲れた様子でソファーの上でコクリコクリと舟をこいでいた。そんなマモルをミキが見つけ、携帯で動画を撮影しながら笑っている。口の周りにトマトケチャップを大いに付けたまま、眠っている姿は確かに面白い。

「そういえば、今日、公園の帰り道にマモの靴ひもが解けたんだけどさ。結び方忘れちゃったって言いながらも、一所懸命に結ぼうとしていたよ。遅くなるといけないからって、俺が結んであげたんだけどさ。」

「あららー。靴ひもが解けちゃいましたか。まだ、ひものスニーカーはマモには早いって言ったんだけどねー。何せ言うこと聞かないからさ。僕はもう小学一年生なんだからって、譲らなかったんだよ。だから、蝶々結びの練習も頑張ってたんだけどねー。まだ特訓が必要みたいだね。」

 スグルはミキが楽しそうに話すのを聞きながら、相変わらずソファーで眠気と戦っているマモルを眺めた。今日は悔しかっただろうけど、負けず嫌いのマモルならすぐに出来るようになるだろうと思った。

「子供はゆっくり、一つ一つ出来ることが増えていくんだよー、可能性は無限大だよ。」

 ミキの言葉を聞いて、スグルは来週の日曜日が楽しみになった。スグルは明日も頑張ろうと心の中で呟いた。

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