第九話 決戦の場
ーーロウから【魔王】と【勇者】の話を聞いた翌日、ステファニーは、決戦の場に立ち会うことを決めた。
決戦は明朝。
ヨーモニー大陸の魔物たちが明日の夕方には到達する。それまでには決着を着けなければならない。
「どうしても行くんだな」
「ああ。宿命というやつだ」
「ーーッ!」
「……ちょっと気取りすぎたか?」
「わたっ、私は本気で心配してーー」
「……ああ、すまないな」
「ーー!? ロウ、どこか怪我してるの!?」
「勘付かれたか。勇者に、腹をやられた。魔法で回復できないみたいだ。少しまずい」
「な……なんで……」
「なんでだろうな」
「……」
「投げ出したくなるな」
「……逃げよう。ロウだけが戦うことなんて、ないよ」
「いいな、それは。一緒に逃げてくれるのか」
「……うん、一緒に逃げよう」
「いいな……」
ロウの口振りから、ステファニーは悟った。
ロウが逃げることなど、ない。魔物を止めるため、戦う。魔族を、人間たちを、もしかすると魔物たちをも救うために、戦う。そして、勝ち目は薄い。
もう、ステファニーに出来ることなどない。あとは、ただ、見届けるーー。
約束の刻限ーー。
ステファニーたちは、ナロー大陸の最東端の岬にいた。
ここはヨーモニー大陸と最も近い場所であり、常人は寄り付かない。ロウが拠点としていた小屋からは、1時間の距離であった。
「来たか、魔王」
勇者は既に待ち構えていた。
(この人が【勇者】か……)
ステファニーは勇者を見て、感じるものがあった。
勇者は、涼やかな容貌だが、瞳の力が強い。深みのある声に、人柄と経験が滲み出ているようだった。歳はまだ30に満たないように見えるが、一角の人物に違いない。
勇者の傍らには、男の戦士が三名、ローブ姿の女が一名、同じくローブ姿の男が一名いた。勇者の従者なのだろう、身形から、それぞれが相当な使い手だとステファニーは推察した。
(ロウは、独りだ)
ロウは黒いマントで身を覆い、額から生える角だけを露にしている。
ゆったりと進む様は、いつもと雰囲気が違い、風格を感じた。
(ロウは、勇者と同格なんだ)
ステファニーは思い知る。
自分には、なにかできるーー。
そう思っていたが、なにもできそうにない。
「待たせたな」
少し距離を置いてロウは立ち止まり、勇者に声をかけた。
二十メートル近く離れているが、ロウも勇者も声が良く通る。
「……一人ではないようだが」
従者の一人が、ステファニーを見て誰何する。
「こちらでの活動中、行き倒れていたところを拾ったのだ。そのまま放置できず、連れてきた。ただの人間の女だ。そちらで調べてもらい、不審な点がなければ保護してもらいたい」
ロウが答える。
「……後程」
誰何してきた従者がステファニーを一瞥する。
他の従者もステファニーを見たが、警戒の色を隠さない。
「……」
ステファニーは腹を括った。
ここに来て、怖気付いてもしょうがない。
それよりも、ステファニーは、見届けたかった。結末がどうあれ、離れた場所で待つことなど出来ない。そのために、難色を示すロウを説き伏せたのだ。
(私は、なんなのだろう。なにか、できることがあるのかな。今も、ロウの負担にしかなっていない……)
とにかく、見届けるーー。