第六話 銀の海原
「ここは……」
ステファニーが目覚めた時、粗末なベッドに寝かされていた。
簡単な造りの室内には、生活に必要なものが揃っているようにも見える。
がーー、
(ルミナがいない)
と、ルミナのことが思い出され、ステファニーは暗澹たる気持ちに覆われる。
周囲が灰色に見えた。
廃墟のこと――。
追い出された街のこと――。
そして、ルミナのこと――。
ステファニーは鉛を胃に流し込まれたような重い気持ちになった。
(ルミナに会いたい。……ルミナの墓を見たい)
ベッドから抜け出したステファニーは部屋から出る。
質素な建物で、部屋を出ると居間、居間から出ると外だった。少し歩くとルミナの墓があり、海が見えた。ルミナのことを考え、悲しさと寂寥感が込み上げてきた。
ルミナの墓は、土を盛って木を立てただけのものだったが、墓の背後の海が輝いておりルミナの毛並みを連想させた。
「きれい……」
ステファニーの心は、驚くほど平静だ。
海が、ルミナの輝きが、ステファニーの心を慰めてくれる。ずっと、海の輝きを眺めていられる。
ステファニーの耳に、足音が聞こえた。
「海が好きなのか?」
低い声。
銀髪の青年のものだ。声をかけられたのはわかる。
「……」
ステファニーは、答えない。
背後に立つ青年の方を、振り返ることもしない。今は、人と話す気にならない。
「お前は、なにかと戦っているのか?」
たっぷりと時間が経ち、青年が再び声を発した。
「……?」
青年の言葉に、ステファニーは首を傾げる。
戦うーー?
なにとーー?
「なにかと戦い、怪我でもしたのか?」
「いや、私は戦えない。海はきれいだから、見ていた。ルミナを思い出す」
「そうか」
青年は、息を漏らした。
「今後、なにか、することはあるのか?」
青年がステファニーに訊く。
「すること……?」
「どこか、行くところはあるのか?」
「……ない」
「なにか、目的はあるのか?」
「……ない」
ステファニーは正直に答える。
どこへも、行こうとは思わない。
なにも、しようとは思わない。
「では、ここで、俺がいない間だけでいい、小屋の番を頼む」
「番を?」
「そうだ」
青年は、ステファニーに小屋の管理を依頼した。