第四話 黒くーー
ある日、廃墟から街へ帰ってきたステファニーは街の入口で立ち止まる。
街の入口に、多数の住人たちがいたからだ。
(なにか、あったんだろうか……)
ステファニーは眉をひそめた。
基本、小さい街なので住人も顔見知りが多い。入口にいた住人たちも、半数以上は挨拶を交わす仲だ。
ステファニーを認めた住人たちの表情は険しい。これは、あまり良くないことがあったんだな、とステファニーが住人たちに声をかけようとしたところ、ステファニーの額に何かが当たった。
「……!?」
ステファニーはよろける。
視界の中に、液体が入って来た。赤い――血だった。住人の誰かがステファニーに石を投げ、それが額に当たったのだ。
「な、なにを……!?」
額の血を拭い、呆然とするステファニー。
こんな仕打ちを受ける謂れはない。なにかの間違いか。思考が停止するステファニーの耳に、
「街に近寄るな!」
「どこかへ行け!」
と街の住人たちの怒声が響く。
「え、なんで……」
訳がわからず、棒立ちになり呟くステファニー。
「魔女め!」
「魔族が!」
住人たちの怒声とともに、小さくない石が投げられる。
ステファニーは住人たちの怒気に当てられ、恐怖を覚えた。訳がわからず、ただ立ち尽くす。
ーー肩に、石が当たった。
投げたのは、若い男だった。
知った顔だ。
ステファニーにいつも親切な男で、男の気持ちはなんとなくわかっていた。もし、その男がもう少し強くステファニーに親密になりたいと伝えてくれば、ステファニーも応じていたかもしれない。
この街では、一番親しみを覚えていた人物だ。
それが、今は顔を真っ赤にして石を投げつけてくる。
(『魔女』だって? なんの間違いだろう。『魔族』? どうして私を攻撃するんだろう……)
ステファニーは困惑する。
「今も廃墟から帰ってきたんだ!」
「魔物どもを手懐け、村を襲った!」
「次は、この街を襲うつもりだ!」
「街を守れ!」
住人が叫ぶ。
その声を聞き、何故街の住人たちから攻撃を受けるのかステファニーは理解できた。
どうやら、ステファニーが廃墟でルミナを手懐けているのを見て、ステファニーが良からぬ事を企む魔女と勘違いしたようだ。
短絡的過ぎる。
(そんなの、デタラメだ。なんの証拠があるんだーー!)
ステファニーは、憤慨する。
なにか少しでも言い返してやろうと思ったが、住人たちの数人が鍬や木の棒を持ち出すのが見えたためステファニーは慌てて逃げ出した。
(悔しい……。少しは、話を聞いてくれてもいいのに)
ステファニーは薄暗い道を、ふらつきながら歩く。
ーー完全に暗闇になってから、街の様子を伺ったところ、入口でかがり火が焚かれ数人の住人たちが警戒している姿を認めた。
これでは、夜陰に紛れて荷物を取りに戻ることも出来ない。
(廃墟へ行くしかない……)
ステファニーは夜明けを待ち、廃墟へ向かった。
足を引き摺ってステファニーは廃墟へと辿り着く。
ーーそして、ステファニーは驚愕する。
廃墟が打ち壊され、火を付けられていたのだ。
黒く焦げた建物の残骸に、小動物の死骸を見つけたステファニーは絶叫した。
「なんだこれは! なんでこんなことができるんだ!」
ステファニーが休んだ木陰、廃墟で一番大きかった倉庫、頑丈な集会所、ステファニーの生家……。
すべてが憐れな残骸と成り果てていた。
小動物たちが走り回った花畑、木の実を取って遊んだ木立、全てが黒い――。
「ルミナ、ルミナは!?」
ステファニーは親友の姿を探す。
廃墟の内を探し、外の森に行こうとした時、森からのそりと出てくる魔獣を見つけた。
ルミナであった。
「ルミナ! ルミナ!」
ステファニーはルミナに駆け寄る。
動きが鈍い。所々身体が黒ずんでいる。
「ルミナ、怪我はない!?」
怪我はあった。
銀色に輝く毛並みは所々黒ずんでおり、それに血液が混じっているのに気がつく。右後ろ脚を気にしている素振りも見せる。骨折しているのかも知れない。
ステファニーは我慢できず、ルミナにすがりついた。
(なんで、なんでーー!)
なにが、悪いのか。
涙は出なかった。
ーー額の傷から血液が垂れて、涙を象った。