反攻作戦 実行
さて、向こうの状況ですが。
1943年12月23日午後3時。トラック島西方800マイル。
本体から先行している対潜部隊が2隻を仕留め1隻を見失った頃。
「哨戒中の潜水艦から『トッラク島北西100マイルに敵空母発見』の報が入った。敵は待ち構えているらしい。まだ戦闘半径に入っていないので、翌黎明から索敵機を発艦させ敵機動部隊を発見する」
「これだけ潜水艦が居れば見つかりますな。幸い、2日前から電波を捉えていません」
「うむ。こちらの詳しい位置は分からないだろう。敵艦隊とトラック島の戦力がどれだけ有るのか分からないのが不安だが、命令だ。やるしかない」
「イントレピッドの脱落は痛いですな」
「過ぎたことだ。それにこの作戦自体政治のためだしな」
「隊形はどうしましょうか」
「このままで行く。そうだ、少し速力と針路を変えるとしよう。奴らの偵察機に見つかるといかん」
「トッラク島から300マイルで夜明けとしたいですね」
「そうするか。航海参謀、機関参謀。艦隊速力と進路を変更する。トラック島南東300マイルで払暁を迎える数字を出してくれ」
1943年12月24日黎明
アメリカ海軍は、索敵機発艦後すぐに第一陣としてF6F-3を300機発艦させていた。ファイタースイープを実行するのだった。
誘導のためにTBFが先導する。偵察の結果分かった敵哨戒網300海里の外、400マイルから発艦させた。F6Fの巡航速度に合わせるためにTBFはかなり無理をしている。余裕は少ないだろう。往復はF6F-3にとっても戦闘状況次第ではきついだろうから、艦隊は24ノットでトラックに向かう。進撃中に連合艦隊を発見した場合は進撃路を変えることになっている。
残りは日本空母に備えているが、夜明け前からの索敵でも連合艦隊を発見できなかった。
発見しても時間的余裕が無ければ、魚雷装備は諦め爆弾だけで第2次攻撃隊を出すつもりだった。装甲していない空母は爆弾1発で発着艦が不能または困難になる。珊瑚海でもミッドウェーでもソロモンでも実証されていた。
その第2次攻撃隊はトラック島飛行場の破壊に成功する。
「成功ですね」
「そうだな参謀長」
「これで連合艦隊だけに集中できます」
ファイタースイープは成功した。
敵も上げてきたが数の力で押し切った。損失は未帰還が54機と予想よりも大きい。帰路で洋上に不時着水した機体も入れてだ。
奴らもレーダーで迎撃指示を出しているのだろう。遠距離から迎撃が始まったと聞く。
気になるのは複数機種の新型がいて一部はF6Fを上回る性能だったという。また20ミリも強力になっているようだ。
F4Uを早く実用化して欲しいものだ。カタログだけなら抜群なのだが、空母の発着艦に問題有りでは。
そして本命の第二次攻撃隊は、ろくに迎撃もされずにトラック島の主要目標を破壊した。
ファイタースイープでも損害が出たが、第三次攻撃隊が連合艦隊にやられたのは痛かった。しかし後方から予備機を呼び寄せ万全だ。しかし、予備機を使い切ってしまい、後方に残るのは自衛用戦力のFM-2とSBDだ。いざとなれば呼び寄せるが。
敵の高速機に補足され取り逃がしてしまったのが気掛かりだ。こちらの位置は掴んだはずだ。艦隊の行動範囲などしれている。連合艦隊にも補足されるだろう。そこからが勝負だ。
太平洋艦隊司令長官と共にワシントンまで呼び出された事を思い出す。
(君、これはジャップへのプレゼントなのだよ)
(プレゼントですか。プレジデント)
(作戦本部長)
(はい。35任務部隊にはトラックだけではなく、連合艦隊も叩きのめして欲しい)
(作戦本部長。お言葉ですが、空母が足りません。作戦実施時期の変更はでませんか。12月08日も延期しました。せめてバレンタインとか)
(君、先程言っただろう。クリスマスプレゼントだと)
(12月24日にトラック空襲で、連合艦隊にもプレゼントですか)
(良く分かっているではないか。プレゼントは大きくてたくさんの方が嬉しいだろ)
(命令とあれば)
(では実行したまえ)
(アイ、プレジテント)
太平洋艦隊司令長官は反対したが、押し切られた。そして俺は、任務遂行を言い渡された。
不明な敵戦力に打撃を与えろとか、あいつら現実世界に住んでいるのか。ワシントンなどに住んでいるからだ。
逃げればこれ以上の損失は無いし、戦力を積み上げてもう一度やれば確実に勝てる。日本の建造能力はしれている。来年の夏なら空母の数で圧倒できる。こんな事は海軍軍人であれば常識なのに政治で決められてしまった。
やるからには失敗は許されない。
あの会談というよりも命令の念押しという会議の後で、太平洋艦隊司令長官と私の間ではトラックを先に攻撃して飛行場機能を一時的に失わせて連合艦隊に備えるという合意が形成された。ワシントンではトラック島を再起不能まで叩けと言われたが、そんな事をすれば連合艦隊に備えることが出来ない。
海軍情報部によると、空母戦力は同等だろうと。ならば同時に攻撃を受けないよう弱い方を先に潰す。
基地として機能しないのであれば相手は艦隊だけになる。簡単な算数だ。
胃が重い。従兵に胃薬を持ってこさせよう。
夜間、敵に近づくべく北上している。本当はいやなのだが「クリスマスは25日だよ。分かっているね」と25日に決戦を強要されていた。
本当に嫌だ。2日ほど様子見をしたい。
35任務部隊は翌黎明から再び索敵機を発艦させた。
「司令長官。敵発見です」
「早すぎるだろう。まだ1時間も経っていないぞ」
「敵戦艦部隊がこちらへ接近中です。距離は90マイルです」
「すぐそばではないか」
「攻撃隊発艦準備だ。艦隊針路変更」
「敵機発見。打電中」
「敵機撃墜」
「電波管制解除、レーダー作動」
「司令長官。敵機動部隊発見です」
「攻撃隊目標変更。敵機動部隊だ」
ほぼ同時に発見したか。西南西の風だから発艦には西南西に向けて高速航行している。敵戦艦部隊に横を見せるがまだ時間は有る。
「敵機探知。接近中。単機です。速い。300マイル出ています」
「続けて接近中。同じく単機。速い」
昨日もいた高速機か。トラックはもう復旧したのか?
艦隊上空に来たのは「双発高速機ではなく単発の高速機」と戦闘機から報告があった。キャットでは追いつけない高速で艦上機らしいと。
こちらは発艦中で対空砲は撃てない。戦闘機を躱して通信をしている。
発艦が終わり、2次攻撃隊の準備をしていると
「攻撃隊からです。ほぼ同数の敵攻撃隊と交差したと」
「2次攻撃隊準備中止、戦闘機隊発艦急げ」
「レーダーに敵反応多数。距離120マイル。推定200機以上。速度200マイルで接近中」
奴らは高速機ばかりで編成されていた。ケイトやヴァルに合わせておいた両用砲の信管調定が役に立たない。
特に急降下爆撃機が速い。ヴァルと100マイルも違う。対空機関砲もSBDの速度で演習をしているので追尾しきれないようだ。
「レキシントン被弾」
「カウペンス被弾」
「モンテレー被弾」
「ミズーリ被雷」
「・・・
直奄機と対空砲で相当墜としたが、それでも大きな損害を被った。
「レキシントン発着艦不能」
「カウペンス着艦不能」
「モンテレー発着艦不能」
「カボット鎮火不能。総員退艦します」
「ラドフォード傾斜復旧不能。総員退艦するそうです」
空母が4隻使えなくなった。1隻は沈没だ。駆逐艦は1隻沈没、他に3隻が至近弾で損害を受けた。巡洋艦も2隻が傾斜している。
「ヒリュウ撃沈、ショウカククラス1隻撃破、大型空母1隻撃破。駆逐艦4隻撃沈。戦艦2隻撃破」
こちらもやり返したが、引き分けか。
「2次攻撃隊出撃準備急げ。1次攻撃隊が帰ってくるまでに出すぞ」
こちらが2次攻撃隊を発進させたと思ったら
「敵編隊接近中。推定100機以上。速度250マイル」
「残り戦闘機上げられるだけ上げろ。損傷していても上げろ」
今度は直奄機が少なく対空砲火も弱くなっている。
本艦も飛行甲板前方に喰らった。火災も発生している。
「バンカー・ヒル沈みます」
「ミズーリ速力低下、20ノットが限界と」
奴らは無傷のバンカー・ヒルに攻撃を集中した。いくら最新大型空母でも爆弾4発と魚雷5本を喰らえばたまらないだろう。カウペンスは魚雷と爆弾を喰らい、横転した。
ミズーリはさらに1発被雷し速力が発揮できない。
レキシントンも被雷し速力が出せない。
少ない機数でやられすぎだ。
「ショウカククラス1隻撃沈。大型空母1隻撃破。小型空母1隻撃沈。駆逐艦1隻撃沈。巡洋艦1隻撃破」
こちらの2次攻撃隊は機数が出せなかった。70機で良くやってくれた。
「艦影です。距離26マイル」
「見張り員、見えるか」
「見えません」
「司令長官。戦艦ですね」
「そうだな。噂のモンスターか」
「戦艦戦隊司令官からです」
『殿は引き受ける。空母はクウェゼリンまで後退してくれないかな』
「レキシントンが遅いが頑張って逃げるよ」
『モンスターは任せろ』
「全部沈めてしまえ」
『当然だな』
トラックは大洋の真ん中に孤立していて中継拠点や広大な礁湖を活かした泊地としてはいいのでしょうが、平地面積が少なく大兵力を展開出来ないので「守るに難く、攻めるに易い」という現実には勝てないですね。