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中部太平洋騒乱

 トラック島を巡る戦いは12月24日、アメリカ海軍のトラック空襲で幕を開けた。

 少し前からクウェゼリン方面で消息を絶つ潜水艦が確認されており警戒体制を一段上げていた。しかし、予想された方向とは違う方向からやってきた。



「電探に反応。方位百五十。距離百海里。敵大編隊、接近中」

「全機緊急発進。戦闘機からだ。管制は注意しろ」


 サイレンが鳴り響く。


『緊急、緊急。敵編隊方位百五十より接近中。距離百海里。戦闘機隊。迎撃始め』

『戦闘機が優先だ。戦闘機発進後、戦闘機以外は空中退避』


 当日、黎明に発進した哨戒機と索敵機であるが、まだ敵艦隊と出会うほど飛んでいない。

 敵艦隊の位置は不明だが、一機艦が見つかっており先に襲撃すると予想されていた。そのため索敵線を東北東方面七十度を中心とした四十度から百二十度までの範囲に十二本を二段設定、索敵機は夜明けと共に発進したがまだ索敵線先端まで届いていない。

 哨戒機も通常針路では、まだ敵と接触する位置にいなかった。

 脅威が迫る中で長距離飛行の出来る一式陸攻や二式大艇があるにも関わらず哨戒線の拡大をしていなかった基地司令部や、その懸念を考えトラック島基地に念押ししていなかった連合艦隊司令部の失策であった。

 十二本ずつ設定された二段索敵線の内、二段目の八機を南側へ針路を変更させた。トラック島からも予備の彩雲と一〇〇式司令部偵察機が、敵と交差する針路を設定し各二機発進した。



『トラック島。こちら三三一空隊長。敵は全て新型戦闘機。繰り返す。敵は全て新型戦闘機。グラマンと思われる』


 トラック島戦闘機隊は倍する敵戦闘機相手に奮闘したものの、敢え無く敗退。迎撃に上がった機体百四十四機の内、未帰還九十八機という大損害を被った。


『離陸中止、繰り返す離陸中止。残った機体は掩体に収容せよ。間に合わない場合は退避を優先せよ』


 敵の第一陣が迎撃網を破ってトラックに殺到したのは、離陸中止から三分後のことだった。

 誘導路には機体が多数残っており、人員の退避も中途半端だった。

 グラマンと思われる新型戦闘機多数が地上を機銃掃射する。航空機を穴だらけにし対空砲火を削り逃げ遅れた地上要員を薙ぎ倒していく。最後尾の編隊は二十機ほどだが小型爆弾を滑走路に投下していった。

 さらに一時間後、第二次攻撃隊が現れた。生き残りの戦闘機が阻止に向かう。

 トラック島は戦闘機隊が壊滅的被害を出し、帰投した機体も滑走路が穴だらけで無事着陸できた機体は少ない。多くは不時着だった。地上に残された機体も多数破壊され、滑走路他の航空施設も大被害を受けた。燃料タンクや港湾施設は無事だが航空拠点としての機能を失った。

 連合艦隊からの航空支援は敵第三次攻撃を阻止しかなりの損害を与えたが、もっとも被害の大きかった第二次攻撃には間に合わなかった。


 

「トラックは壊滅か」

「攻撃され使用不能になったのは飛行場機能だけです。滑走路と誘導路に格納庫が集中的にやられました。港湾施設はほぼ無傷と報告があります。奴らは基地機能の一時的な喪失を狙ったのでしょう。しかし滑走路が当面使用不能で、帰還した機体は不時着するしかなかったと報告がありました。滑走路の一部復旧は早くて明朝と言うことです。格納庫などの支援施設にも大きな被害があり、稼働機も少なく実質的に機能喪失です。全面復旧の見通しは立っていないとのことです。空中退避した機体で届く機体はマリアナに向かっています」

「では出した索敵機も使い切りか」

「貴重な高速機も滑走路が破壊されていては。マリアナまで届けばいいのですが」

「せっかく敵の正確な位置が分かったのにな」

「どうされますか」

「我々が本命だろう。これだけでクウェゼリンに後退するとも思えん」

「飛行場をを破壊しただけでは再建も可能です。我々がいる限り」

「警戒を厳に。第二艦隊は第一戦速で南南東に進路を取る。一機艦と二機艦にも続けと」



「二艦隊より『我に続け』」

「やる気か」

「このままでは引き下がれません」

「二艦隊は積極的に電波を出しているな。ここにいるぞと」

「大和・武蔵・信濃ですか。上空から見てみたいものです」

「俺は田舎の風景が良い」

「知将と噂される三航戦司令官とも思えませんね」

「俺が知将だと?」

「存じませんか?二航戦司令官、今の一機艦司令長官が勇将だそうです」

「知らんかった」


 俺は知将ではない。ただ生き残りたいだけのじじいだ。そして、縁側で日向ぼっこしたい。





 二艦隊は一機艦と二機艦の前衛となるべく敵艦隊目掛けて第二戦速で勇進する。

 大和級三隻で敵を引き付け、水上砲戦に都合良く持ち込むために。 

 そして、夜明け後に敵索敵機に見つかった。

 敵索敵機は狂ったように電波を出している。




「見つかったな」

「無線封止解除しますか」

「うむ」

「一機艦に向け敵索敵機と遭遇を打電」


 しばらくして「敵大編隊探知。方位百二十。距離百海里。敵速観測中」と報告された。

 これも一機艦に打電する。

 一機艦からは「我敵索敵機に発見さる」と電信があった。

 こちらも愛宕搭載機が敵機動部隊を発見した。

 次いで、一機艦の彩雲が敵機動部隊の概要を明らかにした。敵も二群の空母機動部隊を編成していた。戦力的には同等だろう。そして近かった。


「対空戦闘用意」

「砲術参謀、アレを試してみるか」

「発砲機会は一回か二回です。撃ちますか」

「撃とう。発砲機会が少ないなら二発だけ撃とう。少しでも敵が慌ててくれればいい。その後の対艦戦闘に備えて三式弾は二発しか上げるな」

「その旨、各艦に伝達します」


「敵編隊、本艦を避けて通過します」


 敵編隊は大和から十キロほど離れる飛行経路を取っている。高角砲の射程外だ。美味しい獲物だろうに。空母の方がさらに美味しいか。


「参謀長。撃とう」


 三式弾搭載艦は、主砲を撃った。

 

「当たらんものだな」

「分かっていたことですが、都合良くはいきませんな」

「敵編隊が慌てただけでも効果は有ったか」

「二十機程度が墜ちたようです」

「これだけ撃って二十機か。割に合わん」


 一機艦と二機艦が攻撃隊を相次いで発艦させたのか上空を通過していく。中には低空まで降りてバンクを振るお茶目さんもいた。

 たかぶっているのか、余裕なのか。どちらでも緊張でガチガチよりは良いだろう。叱りますかと問う参謀には、あの程度は捨て置けと答える。


「攻撃隊より入電『空母一撃沈確実。空母三撃破、戦艦一撃破他数隻撃破』」


 良いことだ。だが、好事魔多し。


「一機艦より。『翔鶴大破、飛龍沈没、天鳳中破、他損傷多数』」

「敵上空の彩雲より『空母と戦艦の速力低下を認む』」

「損傷した敵艦を追撃する。艦隊第三戦速」

「二戦隊は大丈夫でしょうか」

「機関はカタログ以上の余裕が有るようだぞ。機関参謀、長時間の高速航行が続く。駆逐艦の油は持つな」

「駆逐艦は大丈夫ですが九戦隊の方が余裕が無いかと」

「九戦隊は機会を見ての全管発射後に後退させる。対艦戦闘はさせずに損傷艦支援と溺者救助を優先させる。それなら大丈夫だろう」

「全速航行の時間が短ければサイパンまで持つでしょう。危険ですがトラックに入れる手もあります」


「お互いに第二次攻撃隊で損害を増やしたか」

「ですが速力低下しているのがエセックス級空母一隻と新型のアイオワ級と思われる大型戦艦一隻のようです」

「追いつくまでこのままだ」





 敵艦隊を視認したのは、日が沈みそうな時間だった。水偵を出しているが、夜間飛行はお手の物のはずだ。何しろ夜戦で照明弾の投下も任務に入る。夜間になるので戦闘機も飛んでいない。出てきた敵水上機は零観が撃墜してしまった。




「九戦隊をいつ使うかな」

「撃ち始めてからがいいでしょう」

「そこそこ混乱したところに二隻で八十射線か」

「四本程度命中してくれればいいかと」

「混乱は拡がるな」

「司令長官、参謀長。失礼ですが、皆必中の心意気でおります。せめて一割はいくかと」

「しかし、水雷参謀。夜間一万二千だぞ」

「島風も入れて九十五本です。十本当たれば」

「島風も入れたのか」

「九戦隊と行動を共にする事は了解されたはずです」

「そうだったな」

「他の酸素魚雷搭載艦も発射します。二十本はいくでしょう」

「全部で何本だ」

「近づく前に損傷する艦もいるでしょうから、一回目は二百本前後です」

「次発装填の時間が有るといいな」

「無いでしょうか」

「四十六サンチ砲戦艦が三隻だ。戦艦はいただく」



 


 大和が二万で初弾を電探射撃で始めた砲戦は、お互いに電探射撃のまま距離が詰まっていく。損傷艦を抱えたアメリカ戦艦戦隊の動きが悪い。

 戦艦同士が距離を一万八千で固定した頃、水偵が照明弾を投下。電探で位置は分かっていたが詳細まで分からなかった敵艦が明らかになる。

 一万二千まで近づいた九戦隊が右舷側発射し島風は全管発射の後百八十度回頭。今度は左舷側を発射した。九戦隊はお役御免で後退する。島風はここで水雷戦隊支援に回る。


 破局は突然だった。お互いに水雷戦隊が突撃し合う中、アメリカ戦艦戦隊に水柱が上がる。夜間、海流も分からない中、一万二千で雷撃し命中したのは九十五本中三本。上がった水柱の高さが違う。旧型二本と炸薬量を増やした新型一本だろう。

 三本で十分だった。二隻が明らかに後落していく。一気に距離を詰める一戦隊。アメリカ戦艦戦隊も負けずに撃ち返す。ここでアメリカ戦艦戦隊の速力が上がった。損傷艦を切り離したのだろう。

 二戦隊の長門と伊勢が黒煙を上げ脱落した。




ソロモンの戦いで五五〇〇トン級が燃料不足で重油を吸い上げられなくなり、機関員が重油タンクの底に残っていた重油をバケツで掬って船を動かしていたという手記を丸で読んだ気がします。

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