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南太平洋周遊

昭和十七年七月


 ミッドウェーでヨークタウン級正規空母三隻を撃沈した日本海軍は米豪分断作戦を推し進める。


 ミッドウェー後に、一航戦(加賀)・二航戦(蒼龍・飛龍)は修理・整備と航空戦力再建に入った。特に飛龍は両舷水線下の破孔多数で修理に時間が掛かりそうだった。この極至近弾による被害は予想を超えており、日本海軍では「水中爆発の威力見積もりが甘いのではないか」と言う声が上がる。

 加賀は飛行甲板の修理と共に対空砲火の増設や不沈性向上のためケースメイトの二十センチ砲を撤去。跡地は目張りをして居住区や倉庫に使うことになる。この二十センチ砲撤去で艦後部が軽くなりバランスに苦慮することになった。高角砲の増設程度では重量が足りないのだ。


 また、海戦の結果として、電探と機上無線機の威力と効果が認識され急速に配備と整備を進めることとなった。電探への認識変化は水中探針儀と聴音機に対する意識の変化も促した。

 傾斜したり喫水の下がった艦で至近弾や直撃弾で破られた舷窓からの浸水が発生し、不沈対策として各艦とも低い位置の舷窓を廃止しめくら蓋とした。

 

 五航戦(瑞鶴・翔鶴)は翔鶴が修理で珊瑚海海戦で失った航空戦戦力を再建中だった。勢い三航戦が主役となる。

 四航戦(隼鷹・飛鷹)と五航戦でも無傷で早期に整備が終了した瑞鶴は空母搭乗員と空母乗組員の養成にしばらく使われる。鳳翔では小型すぎて大量養成には役不足だった。

 一航戦・二航戦・五航戦航空隊は人員機材とも消耗し、固有の航空隊が維持できなくなっていた。

 ここで母艦固有の航空隊は消耗に弱いとされ、多くの予備人員を含む母艦航空隊を一括で編成。そこから各空母に配置させることとなった。

 そのため母艦搭乗員の急速養成が最重要目標とされ搭乗員を急速養成するために鳳翔よりも大型な四航戦と瑞鶴が投入された。四航戦は速力が機動部隊としては使いづらく、かと言って航空機輸送任務に使うのももったいない。

 それでも母艦搭乗員の養成には時間が掛かる。その間、前線に立つのは消耗度の少ない母艦航空隊を持つ空母だった。大鳳、龍驤、瑞鳳であるが、瑞鳳は航空機輸送任務に充てられた。

 飛行訓練に使われていた瑞鶴は翔鶴搭乗員を合流させたため早めに充足が済み、新鋭大型空母を遊ばせておく余裕は無いと新部隊へと配属された。五航戦のままであり、翔鶴修理完了後にはまた配属が変更される事になっている。一時的なものだ。

 無傷だった蒼龍は特急で整備を済ませ五航戦に組み込まれた。搭乗員は五航戦同様、二航戦の生き残り主体で編成されていた。





 三航戦は龍驤が加わり、五航戦と第三戦隊と第八戦隊、第三水雷戦隊と補助艦数隻をもって「第十方面艦隊」を結成した。第十方面艦隊は内地で整備中の各空母が戦線に復帰するまで、この方面を担当することが主目的とされる。

 根拠地はトラック島で活動領域はトラックを中心とするマリアナからラバウル周辺だった。通称トラック艦隊と呼ばれた。それがトラ艦隊になり、内地の新聞などで間違えたのか故意なのか知らないが虎艦隊と紹介され、トラ艦隊は虎艦隊と呼ばれるようになる。

 三航戦司令官より先任である五航戦司令官が第十方面艦隊司令長官を兼任する。





昭和十七年八月七日 トラ艦隊


「ガダルカナルだと?どこだ」

「分かりません。トラック島司令部も分からないようです」

「連合艦隊、いや軍令部か。何をやっているのだ」


 ガダルカナル島に敵上陸の一報で、連合艦隊は戸惑っているのか。

 しかも、ラバウルにいる第八艦隊を支援せよとは。

 

「通信参謀。とにかく、トラック島司令部経由でラバウルに詳細をただせ。その後連合艦隊にもだ」

「了解」

「参謀長。艦隊出撃準備」

「はっ」

「作戦参謀。サラトガとワスプの居所は掴めないか」

「未だ情報がありません」

「八艦隊支援中に横殴りされると拙いな」

「航空参謀.八艦隊支援は龍驤に任せて、瑞鶴と蒼龍と大鳳は敵空母に備えるではダメか」

「砲術参謀。龍驤の機数では無理だろう。瑞鶴と大鳳からも出す必要がある。蒼龍は機数が少ないから支援には出さない」




「司令官。出撃命令が出ました」


 くそ、下手にミッドウェーで成功したために三航戦司令官の立場で退役願いを出せなくなってしまった。これから激戦になるだろうから、下手打って変な配置にならないよう上手く立ち回らなければ。

 ガダルカナルか。引導を渡されねば良いが。

 三航戦司令官は思った。




 結局、敵空母二隻に備えるのは五航戦の役目となり三航戦は八艦隊の支援に回った。

 第十方面艦隊はトラック出港後、進路を一路サンタイザベラ島北方へと向けた。


 八艦隊の殴り込みは半分成功した。敵艦隊に壊滅的損害を与えたものの輸送船や陸揚げした補給物資には一切手を付けなかったのだ。敵空母の動向が分からない以上、時間的な制約もありこの結果になったようだ。



「ガダルカナルの輸送船と補給物資を攻撃せよか」

「どうされますか」

「どうするもこうするも攻撃するしかないが、海図は有っても攻撃地点の地図が無いから場所も分からん」

「ラバウルから陸攻が地図入りの通信筒を落としに来るそうです」

「泥縄だな」


「八艦隊各艦は既に味方制空権内に入った。ならば空母を警戒しつつ攻撃だ」

「難しいですね」

「どうするか」

「司令長官」

「なんだ、作戦参謀」

「あそこら辺に暇そうな連中がいますが」

「暇とか言うな。護衛艦艇だ」

「撃ちたいと思うのです」

「輸送船と補給物資を砲撃か。だがやりたがるか」

「暇よりも良いでしょう。敵にはろくな戦力が残っていません。上空援護さえ有れば成功率はかなり高いと思われます」


 かくして、まだ物資を揚陸中だろう輸送船団を攻撃すべく三戦隊と八戦隊に第三水雷戦隊の半分を付け夜襲を決行となった。

 しかし、輸送船団は空母二隻と供に後方へと引き上げていた。

 そこに夜襲が行われ、肝心の輸送船はいなかったが揚陸地点で物資を砲撃によって破壊した。三座水偵を出し照明弾を投下。見つけられる範囲で内陸部への砲撃もしたようだ。戦果はこれのみである。ただし、燃料や食料の他、重装備を大量に吹き飛ばして継戦能力を奪うことに成功したがその事実を知らない。

 しかし連日のように四発機が空中投下をしている。高速の駆逐艦で物資の陸揚げもしている。困窮していることだけは明白だった。

 この航空輸送と駆逐艦輸送を残存海軍設営隊からの通信で知った日本海軍は当然妨害に出る。

 空路はラバウルから戦闘機を出したが、点と点だ。遭遇できるものではない。三航戦が派遣され、ソロモン海で妨害作戦に出る。ラバウル航空隊と八艦隊が護衛をした。駆逐艦に対しては、三航戦を除くトラ艦隊が妨害作戦に出た。トラ艦隊は駆逐艦輸送の阻止だけではなく米軍陣地に対する水平爆撃も行った。高射砲が全く無かった米軍は逃げ惑うばかりだった。


 その結果、米軍戦闘能力の更なる不足を招き、後日派遣された一木支隊が飛行場の部分奪還に成功。すぐに追い出されたが、反撃が続かず敵戦力に問題有りとの判断材料になった。

 これで一木支隊も有利かと思われたが、敵戦力が大きく一木支隊は戦力が少ないため米軍を追い詰めるまでの事は出来なかった。米軍は明らかに物資が困窮しているので、戦力の追加と補給が有れば早期の決着を付けることも可能であると、報告がされた。


 再度ガダルカナル島へ大規模輸送作戦を行うこととなった。日米共に。


 大規模補給作戦が行われるまでに米軍はB-17を二十四機、駆逐艦を八隻失った。あまりの損害に輸送作戦は中止された。日本側損害は零戦八機、九七艦攻三機、九九艦爆二機、搭乗員十四名。であった。水上艦艇同士の海戦は発生していない。


 その間、ガダルカナル島内部のジャングル戦は一進一退だった。アメリカ軍は人数こそ多いものの弾薬不足と食糧不足、日本軍は戦力不足で。お互いに深入りが出来ず戦闘は威力偵察の域を脱しなかった。



昭和十七年八月二十日


 アメリカ海軍の動向が分かった。サモアより大規模な輸送船団を発進させていたのだ。ラバウルより長駆哨戒飛行をしていた二式大艇がバヌアツ北東海面で発見。

 対抗できるのはトラ艦隊のみ。ラバウルから鳥海と六戦隊も合流し決戦へと臨んだ。

 問題は長期の作戦行動によりトラ艦隊で物資が不足していることだった。一回ラバウルで補給したものの駆逐艦の油と航空揮発油の不足は深刻で、特に航空揮発油は全力出撃二回分しか無かった。数日間の作戦行動はとれない。トラックに帰っている暇は無い。一日で終わらせる必要があった。

 しかし、そこに救いの神が現れた。修理なった翔鶴と加賀が補給艦などを伴い合流した。これで一息付けた。


 強気になったトラ艦隊は、待ち受けるのでは無く積極的迎撃を選んだ。


第十方面艦隊   旗艦 比叡

第五航空戦隊   翔鶴 瑞鶴 蒼龍 浦風 浜風

第三航空戦隊   大鳳 加賀 龍驤 谷風 舞風

第三戦隊     金剛 榛名

第十一戦隊    比叡 霧島

第七戦隊     最上 熊野 鈴谷 三隈

第八戦隊     利根 筑摩

第二水雷戦隊   神通

 第十五駆逐艦  黒潮 親潮 早潮

 第十六駆逐隊  初風 雪風 天津風 時津風

 第十八駆逐隊  かすみ あられ 陽炎 不知火

第三水雷戦隊   川内

第十一駆逐隊  吹雪、白雪、初雪、叢雲

第十九駆逐隊  磯波、浦波、敷波、綾波

第二十駆逐隊  天霧、朝霧、夕霧、白雲

第八艦隊     鳥海


 真珠湾攻撃時よりも強力な布陣で、日本海軍最強と言えよう。今の時点でこの艦隊に勝てる艦隊は地球上にいない。

 旗艦が比叡となったのは、大和の試験台としての艦橋にあった。通信能力も高くこの規模の艦隊を指揮するだけの司令部施設もある。

 また五航戦司令官ではさすがに指揮を執りきれないだろうと、空母部隊の行動は五航戦司令部が、万が一の砲雷戦時には比叡に乗る新任の第十方面艦隊司令長官が艦隊の指揮を執ることで役割を振っていた。

 赤城艦橋のことも有り、通信能力が低く防御力が脆弱で空間的余裕の少ない空母に司令部機能を集約させるのはどうかと言う議論が生まれていたせいも有る。

 鳥海には第八艦隊司令部は乗っていない。艦長が指揮を執っている。



 海戦の結果は言うまでもない。圧勝である。航空戦のみで海上砲戦は発生しなかった。

 サラトガとワスプを失い、アラバマも沈没。巡洋艦二隻が沈没。駆逐艦三隻が沈没。さらにワシントンや巡洋艦・駆逐艦多数が損傷した。後方にいた輸送船団もかなりの損害を受け護衛として参加していた空母ロング・アイランドも沈んだ。

 さらにヌーメアへの退避中にイ号潜水艦の雷撃で損傷していたワシントンと駆逐艦が一隻ずつ沈んだ。


 もう太平洋のアメリカ海軍に空母は無い。


 ガダルカナル島の戦況は補給を絶たれた米軍が遂に降伏した。皆痩せ衰え、マラリア罹患者やアメーバ赤痢など熱帯病患者も多く危険な状態だったという。捕虜はフィリピンへと移送された。



ご都合主義で物語は進みます。

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