大鳳見参
ミッドウェー作戦に参加します。対艦攻撃力は皆無。防空先任艦になっています。
「大鳳の練度は使えるものなのでしょうか」
「わからんが、慣熟期間が短すぎる。三航戦も「艦隊上空で防空に徹します」と言っておったぞ」
「確かに艦戦しか積んでおりませんな」
「それぞれ三機しか積んでおらん艦攻と艦爆は対潜哨戒用だと言っていた。おまけに両方とも九六だ。母艦搭乗員の不足で艦攻と艦爆には水偵の搭乗員を引っ張って来たと」
「それでは雷撃も降爆も無理ですな」
「軍令部も海軍省も空母に人を回さんでどうする気だ」
「そうですな。しかし、上空の傘専門でいてくれるのは有り難いことです」
「珊瑚海で戦闘機がいかに重要か分かったと思うのだが」
「まだ日が経っていませんし、配置換えの時期にやるつもりなのではないでしょうか」
「さすがにそれは無いと思うが、あり得るのか?」
「冗談のつもりでしたが、自分で言っても冗談に聞こえません」
「艦長。電探はいつ使う」
「そうですね。通常なら無線封止解除からですが、闇夜の提灯呼ばわりしている奴らに使い方も価値も分かるとは思いません。司令」
「俺には、よう分からんから艦長に一任する。機を誤るなよ」
「はっ、ありがとうございます」
三航戦司令官は、そろそろ退役願いを出そうかと思っていたところに開戦し意気上がっていない。本人曰く「我、誤てり」と。
第三航空戦隊と言うが空母は大鳳一隻。それに付随する駆逐艦が二隻の三隻で航空戦隊だ。二隻は文月と長月の睦月級で五水戦からの借り物だ。対空能力など皆無で対潜能力もかなり怪しい。トンボ吊り以外は出来ないだろう。
航空戦隊司令官や空母艦長は大砲屋や水雷屋には好かれておらんからお鉢が回ってきたのだろう。この本来なら実績やハンモックナンバーから言ってありえない大出世した配置も、航空ましてや空母航空戦隊の運用をよく理解できない自分は、訓練不足で活躍できずに足を引っ張った場合に起きる責任問題の人身御供だろうと思っているくらいだ。
電探の使用で文句を言われたら進退伺いを海軍大臣宛にすぐに出そうとも。
二航戦司令官とは心意気に雲泥の差がある三航戦司令官。勿論泥の方。
「緊急です」
そう言って艦橋に駆け込んできたのは通信科の少尉だった。兵に任せず自分で来たのか興奮して自分が来てしまったのか。
電信綴りを受け取った通信参謀が驚きの目で電信綴りを見ている。
「司令。通信室より敵信傍受の報告有り「日本空母1、ミッドウェーの320度、150浬」と平文を受信しました」
「司令、いかがなさいますか。敵に発見されました。無線封止の意味は無いと考えます」
「通信参謀、今の報告を確認せよ」
「艦長。アレだが艦長に任すと言ったぞ」
電探作動の責任回避を考えていた司令官だった。
艦長が出した命令は
「通信長。電探を作動させよ」
「よろしいのですか」
「もう見つかっている。責任は俺が取る」
「はっ」「電探室、電探作動開始」
「艦長、戦闘機をもっと上げよう。いや待機でいいのか」
「司令、電探の性能がカタログ通りなら見つけてからでも間に合います」
「そうなのか航空参謀」
「単機で四十海里と聞いております。間に合います。それに燃料の問題もあり上げ続けている訳にも行きません」
「そうか。艦長、準備はしておこう」
「はっ。飛行長、戦闘機を1個小隊、飛行甲板に上げて待機させておくように」
「了解しました」
『艦橋。こちら通信室。戦闘機隊井口中尉より電話あり「敵位置分からず」』
「通信長。敵機の位置は分かるか」
「艦長、飛行長。敵機は電探で捉えておりますが、直接遣り合った方が良いと思います」
「飛行長。どうする」
「確かに通信長の言われるとおりです」
「ではいいな。通信長、井口中尉の誘導を」
「了解」
「電探室。通信長だ。戦闘機隊の井口中尉を誘導せよ。直接電話で交信して良い。艦橋にも流れるように頼む」
『通信室、了解』
その後カタリナは井口中尉率いる大鳳戦闘機隊によって撃墜された。一航戦二航戦の直掩機は捉えられなかった。
誘導作業を艦橋に流され、それまで漠然としか感じていなかった電探の威力を知った。
大鳳搭載機は通信機器の整備は念入りにやっており、通信機器開発元部署やメーカーの協力で改良を繰り返された結果、かなり使える通信機になっていた。
カタリナが発信した位置情報を元にミッドウェー島から飛んでくる米軍機は、ほぼ戦果の無いまま機数を減らして引き上げていった。
翌日、ミッドウェー島への空襲を実行した。勿論三航戦は参加していない。
敵空母に備えるため空襲は1回限りとしたが、飛行場の機能停止にはもう1回攻撃が必要となった。
「兵装転換だと」
「対艦兵装を対地兵装に変えるそうです」
「ミッドウェー島などろくに飛行機もおらんのだろう」
「飛行場は生きているようです」
「航空機の無い飛行場など不時着場くらいの役にしか立たんだろう。今は、ほっとけば良い。と意見具申してやろう」
「聞き入れますでしょうか。航空の大家みたいな面している参謀がいますし」
「一応しておく」
「ダメか」
「どうされますか」
「このままにしておこう。状況が動くかもしれん。ああ、航空参謀。少し多めに待機させておいてくれ」
「近くに敵空母を見つけたのか」
「対艦兵装へ再度転換しているようです」
「時間ばかり浪費する。二航戦司令官はカンカンだろう」
「本艦はどうしますか」
「嫌な気配だ。航空参謀。艦長。全機上げよう」
「全機ですか」
「四隻を守れるのは本艦戦闘機隊だけだ。今上がっている奴らは、ギリギリまで上げておけ」
「あと二時間は飛行できます」
「何も無ければいいがな」
「風に立て」
「発艦始め」
「司令部からです「命令を出していない。発艦作業を止め直ちに隊列に戻れ」と命令です」
「ほとっけ。こちらは巻き添えになりたくない」
これで何も無ければ、命令無視で辞めてくれだな。よしよし。
しかし、天は三航戦司令官に無慈悲だった。
『電探に反応。航空機複数接近中。距離七十海里。方位***。敵速観測中』
「一航戦司令部、いや、全艦に知らせる。航空参謀。邀撃するが、機数とか指示を頼む」
「はっ。電探室に行きたいのですがよろしいでしょうか」
「それで正確な指示が出せるなら」
「ありがとうございます。電探室に向かいます」
「待て。艦長。飛行長を借りてもいいかな」
「飛行長ですか。上の奴らが言うこと聞かない可能性が有りますな。飛行長。航空参謀と共に邀撃指示を出せ」
「飛行長。航空参謀と共に電探室にて指示を出します」
「うむ。頼む」
今の電探では高度が分からないので邀撃指示は方向と距離だけが出されたが、敵の飛行高度はこちらと似たようなものだ。一応高度二千と四千で分かれるように指示は出している。
邀撃は概ね上手く行っている。しかし、敵がパラパラ来るのだ。弾切れで補給に着艦してくる機体も多い。二十ミリの装弾数六十発は致命的だと全員が思った。
問題もあった。一航戦二航戦の戦闘機は無線機の能力が低く聞いていない搭乗員もいる。三航戦の戦闘機がバンクや手信号で着いてこいと知らせても無視してかなりの機体が低空の雷撃機に向かった。
『敵機至近、接近中』
「低空機影見えません」
「信号長、「敵機上空」だ。信号打て。通信。隊内無線で「急降下爆撃機あり」」
「砲術、高度が分からん。雲の中を撃て。方位だけでいい」
「しかし、艦長」
「命令だ。危機を知らせる」
三航戦の戦闘機も補給のため帰投している機体も多く、上空には艦隊全部で二十七機しかいなかった。しかも、一航戦と二航戦は飛行甲板が空いていないため、なにげに一航戦二航戦の戦闘機も混じって補給を受けている。大鳳の飛行甲板は混乱していた。
その上空に居る戦闘機も雲で視界が悪く敵機を発見できない。無線誘導で発見し敵急降下爆撃機何機かを墜としたものの
「大鳳より信号、敵機上空」
「大鳳より電話「急降下爆撃機あり」」
「右舷後方墜落する機体あり」
「大鳳、上空を撃っています」
「なんだと。爆撃機か」
「雲で見えません」
「面舵用意」
「敵機直上、急降下ぁー!」
「面舵一杯」
面舵用意でやや向きを変えつつあった艦は以外と回頭が早い。ただ、大艦である赤城と加賀や三戦隊は遅い。ついでに大鳳も遅い。
左舷に傾いて旋回する各艦。格納庫や飛行甲板には魚雷や爆弾を抱え燃料満載の機体がある。1発当たれば致命傷だろう。
まず赤城に命中弾が出た。左舷に傾斜する船体で艦橋が右に有れば至近弾で済んだだろう。1発は艦橋に命中。次いで中央昇降機付近に1発。2発の命中弾は赤城に致命的な破壊をもたらす。搭載機の誘爆が始まった。
艦橋を吹き飛ばされたことで指揮を執る士官が全滅してしまい艦内は混乱する。
燃えさかるまま全速で面舵一杯をしばらく続けていた。
加賀は幸運だった。命中1発。至近弾2発で有る。その命中弾も飛行甲板前縁に命中。飛行甲板を突き抜け錨鎖甲板で炸裂した。待機中の機体が誘爆しなかった。ただ、飛行甲板を支える支柱が折れ曲がり飛行甲板前端から格納庫までの飛行甲板の中間が凹んでしまい発艦不能になった。
飛龍は至近弾のみだが左右極至近に落ち、水線下に破孔が出来たため浸水量が多く速力低下を招いた。
蒼龍と大鳳は無傷であった。
反撃に出た第一機動艦隊は、飛龍の速力が二十五ノット発揮出来るようになるまで待ち第一次攻撃隊を発艦させた。大鳳戦闘機隊も二十四機参加した。攻撃機は飛龍・蒼龍からで、大鳳は戦闘機のみであった。
戦闘機四十二機、艦攻二十二機、艦爆二十二機の攻撃隊は見事敵機動部隊を捉え、空母一撃沈確実、空母 一撃破、巡洋艦一撃破、駆逐艦一撃沈、駆逐艦一撃破の戦果を上げた。
敵戦闘機が消耗しており直衛機が少なく、戦闘機の掩護で突撃開始まで損害無く機動部隊を攻撃できたことが大きな戦果を上げた要因となる。
後続の第二次攻撃隊は、戦闘機三十機、艦攻十二機、艦爆十機で編成されていた。
敵艦隊上空の数少ない敵機は護衛戦闘機に蹴散らせれ、自由に攻撃できた。
空母一撃沈、巡洋艦一撃沈確実、駆逐艦一撃沈という戦果を上げた。
さらに三次攻撃隊を編制。さすがに機数は少なく、戦闘機二十機、艦攻十機、艦爆十機となる。
最後の空母を集中的に狙い、見事撃沈した。他に駆逐艦一隻撃破。
空母三隻撃沈という戦果であり、第一目標の敵空母撃破は大成功に終わる。ミッドウェー島上陸は、空母戦力の不足から中止になった。
ミッドウェー島基地への艦砲射撃も脅威は無いとされ中止された。
日本側損失は赤城沈没のみである。しかし、救助できた人数は少なく、多数の搭乗員と乗組員が艦と運命を共にしており攻撃隊の損失と含め機動部隊再建の道は遠い。
もし自分がこういう立場だったら、あるいはこの時にこういう行動を取れば、その時こういう物があったら、の「たられば」こそ架空戦記と言うよりも小説全般はそうでしょう。ですよね。
後知恵で結果をねじ曲げる。あるいは全く別に作り出す思考作業。
それが物語。と思っています。偉そうですね。ゴメンナサイ。