中部太平洋結末
昭和十八年十二月二十四日深夜
長門と伊勢が黒煙を上げている頃、一機艦と二機艦の護衛艦艇で編成された一機艦分遣隊は第三戦速でアメリカ機動部隊を追っていた。
一機艦の空母は二機艦と合流している。
水雷戦隊の油が不安だが、こんな機会は多分二度と無い。損傷した空母はクウェゼリンに向かっているのだろう。敵の速力が分からないのが不安だが、夜明け前に一機艦から彩雲が発艦して索敵する事になっている。
敵機動部隊の空襲も考えられるが、小型空母三隻程度しか使えないのであれば攻撃力はしれている。
昭和十八年十二月二十五日夜明け前
「風に立て」
「発艦始め」
瑞鶴と大鳳から彩雲が飛び立っていく。その後、零戦が飛行甲板に並べられていく。今頃、格納庫の中は彗星と天山が対艦攻撃装備の取り付けで大変だろう。
「司令長官」
「分かっている。しかしこれが対等に渡り合える最後の機会だ。そして敵空母は逃げている。今やらずにどうする」
アメリカ海軍の戦艦は全て沈んだと報告があった。自沈も含めてだが。他にも多数の艦艇を沈め夜戦は大勝利だ。仕上げに空母をやる。
「最新の使用可能機数です。本艦瑞鶴が零戦十八機、彗星十四機、天山十二機。大鳳が零戦十六機、彗星二十二機、天山十機。加賀が零戦十三機、彗星十二機、天山十機。蒼龍が零戦八機、彗星六機、天山八機。隼鷹が零戦九機、彗星十二機、天山四機。飛鷹が零戦十二機、彗星八機、天山六機。龍驤が零戦八機、彗星八機。使えるのが零戦七十四機、彗星八十二機、天山五十機、以上です」
「多いのか少ないのか分からんな。激戦からすれば多いのか」
「飛行甲板が多いので着艦できた機体は多いですが、収容しきれずに損傷が激しく投棄された機体や使用不能とされた機体も多くあります。もう少し時間が有れば修理がかなう機体も増えると思いますが」
「待つ事はしない。時間が大事だ。今ある機体で全力攻撃を仕掛ける。一機も残すな」
想い出深い飛龍が沈み、歴戦の翔鶴も沈んだ。小型だが頑張ってきた龍鳳も沈んだ。天鳳は傾斜が復旧できず、飛行甲板が破壊され機関にも影響が出ている瑞鳳や他の損傷艦と共にトラックまで後退中だ。空母の直衛として頑張ってくれた秋月、初月が沈み、輪型陣の外縁にいた水雷戦隊からも雷、磯波、敷波が沈んだ。榛名と筑摩も傾いて天鳳と共にトラックに向かっている。
仇は取るからなら。
攻撃隊が発艦していく。敬礼で見送る。期待しているぞ。
攻撃隊は待ち構えられていた。電探が有る限り奇襲は無理だ。低空飛行でギリギリまで飛び最後に攻撃高度を取れば、発見は遅れる。しかし、低空飛行は燃料消費の点でやりたくない。今回も経済巡航速度と経済巡航高度で進撃した。
待ち構えていた機体がおかしかった。新型戦闘機だけではなくF4Fまでいる。しかも改良型か機動性が高い。零戦に迫るものが有る。
待ち構えていた百機以上の戦闘機網を破るのは難しかった。直衛機は敵戦闘機との戦闘で減ってしまった。最後まで付いていてくれた戦闘機に守られて突破できた彗星と天山は五十機程度だ。
対空砲火は激しいが、艦が減ったせいか隙間も多い。
その隙を突き、無傷と思われる小型空母三隻に攻撃を集中する攻撃隊。
しかし五十機ではいかにも少ない。小型空母二隻を沈め小型空母一隻に相当な被害を与え大型空母にも魚雷一本と爆弾一発を命中させたが、他の艦はほぼ無傷で逃がしてしまう。
「大量の戦闘機に迎撃されただと?」
「通信では零戦の倍近い戦闘機がいたと言うことです」
「まだ空母がいたのか」
「攻撃隊の数からすれば少々おかしいです」
「まさか防空先任艦にしても昨日まではF4Fがいなかった。おかしい」
「大鷹と同程度の空母なら戦闘機が運用可能ですから、近いところに居たのでしょう」
「そいつらが居たと」
「実際にソロモンで商船形式の空母を一隻撃沈しています」
「そうか。それなら納得できるが、予想していなかったな。だがそうすると輸送船団もいるのか?トラック攻略の」
「その可能性も捨てきれませんが、今は逃げているでしょう」
「突進していった連中に教えてやれ。可能性は有ると」
「了解です」
高速で航行していた一機艦二機艦合同分遣隊は、当日午後になってようやく敵艦影を視認した。水偵を発進させたが敵の直掩機がいて撃墜されてしまった。
軽巡を主力とした敵艦隊は数が少なかった。それでも戦艦に対して空母を逃がすべく立ち向かってくる。
死に物狂いで戦う相手は厄介だった。
しかし、数に勝り金剛級高速戦艦三隻という絶対優位を持つ分遣隊は金剛と七戦隊に二駆と二十七駆を付け別働隊とし、戦場を迂回させ後方に居るだろう空母と居る可能性を伝えられた輸送船団に向かわせる。
阻止しようという動きもあったが、蹴散らされた。
昭和十八年十二月二十七日 日吉連合艦隊司令部
「勝てたな」
「そうですが、味方の損害も酷いものです」
「もう立ち直る力は無い。現状維持が一杯か」
机上の書類には損害と戦果の一覧があった。
撃沈または撃沈確実。自沈を含む。
空母
エセックス級
エセックス
レキシントン
バンカー・ヒル
インディペンデンス級
インディペンデンス
プリンストン
カウペンス
モンテレー
カボット
ラングレー
戦艦
アイオワ級
アイオワ
ニュージャージー
ミズーリ
ノースカロライナ級
ノースカロライナ
サウスダコタ級
サウスダコタ
マサチューセッツ
インディアナ
重巡
四隻
軽巡
七隻
駆逐艦
二二隻
護送空母
五隻
護衛駆逐艦
一二隻
輸送船
三隻
「凄いものだな」
「全くです」
「これ以上は油が無くて追撃できなかったとは」
「今、タンカーを廻しています」
「まさか現地で漂泊なのか」
「半速程度で巡航していると入っております」
「さて、損害だが。戦果も凄いだけに損害も酷い」
「幸い、乗組員の救助は順調に出来たとの報告です」
「当然だ。救助しなくてどうする」
「はい」
喪失。自沈を含む。
空母
翔鶴 飛龍 天鳳 龍鳳
戦艦
武蔵 伊勢 霧島 榛名
重巡
最上 鳥海 愛宕 妙高 羽黒
軽巡
由良 能代
駆逐艦
秋月 初月 雷 磯波 敷波 夕立
有明 夕暮 漣 叢雲 白雲 親潮
初風 不知火 天津風 朝雲 長波 秋雲
玉波 涼波
大破
空母
瑞鳳
戦艦
長門
重巡
那智 熊野
軽巡
川内
駆逐艦
照月 吹雪 五月雨 時津風
小中破
空母
瑞鶴 加賀 飛鷹
戦艦
大和 信濃 日向 比叡
重巡
鈴谷 足柄 摩耶
軽巡
長良 五十鈴 阿武隈
駆逐艦
電 暁 綾波 時雨 雪風 霞
早波 夏雲 舞風 天霧
「やはり再建は不可能だな」
「予算も資源も造船所も時間も足りません」
「アメリカは昭和二十年の夏頃にはエセックス級空母が五隻完成と一隻が修理完了か。空母戦力は回復するだろう。さらに小型の商船形式ではあるが空母を量産しているというしな。こちらは戦時急造の雲龍級が三隻と千歳に千代田が完成するだけだ。勝負はもう出来ない」
「驚きました。毎週一隻が戦力化されるとは。搭載機数が二十機とはいえ五十隻もいれば数の力で押し込まれます」
「小型の護衛駆逐艦など毎日だぞ。勝負にならないな」
「フレッチャー級も後五〇隻以上出てくるようですし、後継の駆逐艦も量産されるようです」
「呆れるだけだな」
連合艦隊司令長官は少し考え込み
「海軍省に行く。大臣の都合を聞いてくれ。その後、都合がつけば軍令部だ」
「はっ」
大鳳は母港である佐世保に係留されている。
もう実戦に出ることは無く、太平洋戦争を戦い抜いた空母として展示されていた。
他には呉の大和、横須賀に瑞鶴が同じようにたたずんでいる。
【 完 】
ご覧いただきありがとうございました。
トラック島沖海戦の後はご想像にお任せします。




