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ヲタッキーズ155 黄昏は悪魔の時間

作者: ヘンリィ

ある日、聖都アキバに発生した"リアルの裂け目"!

異次元人、時空海賊、科学ギャングの侵略が始まる!


秋葉原の危機に立ち上がる美アラサーのスーパーヒロイン。

ヲタクの聖地、秋葉原を逝くスーパーヒロイン達の叙事詩。


ヲトナのジュブナイル第155話「黄昏は悪魔の時間」。さて、今回は秋葉原のダウンタウン、東秋葉原のマンホールの底に異次元人女性の死体がw


"リアルの裂け目"経由の不法な次元難民で身元は不明、捜査は難航。"裂け目"を挟んで元夫、セレブ妻、ドクターが入り乱れ…真相は黄昏の中?


お楽しみいただければ幸いです。

第1章 始まりはマンホール


朝焼けに染まる"秋葉原マンハッタン"。早朝、車庫戻りのタクシーが昭和通りを急ぐ。

億ションの廊下をコツコツと歩くハイヒール。門扉の前でモデル立ち。口紅をチェック。


ブザーを押す…何度も。


「待って…今、逝くょ」


僕が、寝惚け眼で門扉を開けると、突然ニットワンピのボディコン女子が出現、いきなり熱烈なキス!コ、コレは夢か?


「ねぇ!ホント信じられないわ!貴方もきっと驚くわ!」

「何の用だょポウラ」

「言えない」


キュートに口をつぐむポウラ・ポラウ。


「やっぱり悪夢だ。僕のエージェントが朝の7時だと逝うのに、気合いの入った胸の谷間強調ボディコンで押しかけて来て、何も話してくれないナンて」

「わかった。未だ正式に決まったワケじゃないけど、テリィたん殿は、有力候補になりました。ダメ。コレ以上は話せないわ」

「コーヒー、飲むか?話さないなら、とりあえず座ろう」


僕は年代物のパーコレーターをスイッチオン。


「でも、コレだけは言える…あのね。めっちゃ有名なスペースオペラの新たな3部作分の執筆依頼のオファが来そうなの」

「ヤメてくれ。君が企画した"宇宙女刑事ギャバ子"の出版記念パーティは月曜だ。自分のキャラクターを立てたばかりで、他人のシリーズに興味は無いょ」

「でも、そのスペースオペラの主人公が、光と闇の"ホース"を使う騎士だと言ったら?」


え。何だって?もしや…


「まさか、僕に続編のオファが来たのは"スター…"」

「らめえええっ!ソレを口にスルと縁起が悪いわ」

「SF作家になるきっかけになった映画だ!」


僕は大興奮。ポウラも鼻の穴が大きく開く笑


「でしょ?」

「あんな壮大なスペオペは他にない。ある意味、人類史上SFの最高峰だ。イカしたメカにヒロイン…」

「しかも、イケてるギャラ」←


おお!いくらだ?銀河的スケール?


「しかも新たな3部作を描けるのか?!」

「YES。そのスマホ、出てくれない?うるさいンだけど」

「あ、ラギィだ。またスーパーヒロインの死体が出たんだ」


ポウラは挑むような視線w


「かけ直す。も少し詳しく教えてくれ」


勝ち誇るポウラ。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


地下アイドル通りの路地裏。狭い道にパトカーやら何やらがコレでもかと止まってる。覆面パトカーから降りるラギィ。


「おはよう。どんな状況?」

「アジアン女性。30代前半。持ち物はナシ。"blood type Blue"」

「遺体は?」


駆け寄った制服警官が指差す先に…マンホール?


「あの中です。作業員が発見しました」


上から覗き込むラギィ。マンホールの底に、茶色い液体に塗れて転がっている女の死体。顔は髪の毛で隠れて見えない。


「転んだワケではなさそうね」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


「死因は鈍器による頭部損傷。後頭部をやられてる。向こうの歩道に血痕があったそうょ」


僕のタブレットからルイナの声がスル。車椅子の超天才は、大統領補佐官の激務の合間をぬって鑑識を手伝ってくれる。


「すると強盗ではなさそうね。わざわざココまで遺体を隠す必要ナイもの」

「この腐敗の程度だと…死後2日位だと思うわ。ラギィ、ラボに持ち帰れば、6時間から7時間の範囲まで絞れると思うけど。所得減税の還元策を練りながらだけど」

「ルイナ、お願いね」


果たして、死体を載せた救急車が走り出すと同時に、ようやく現場に到着スル僕。既に来ているヲタッキーズが白い目w


「おはよう!」

「テリィたん、ようやくご登場?」

「スーパーヒロイン殺しより大事な用でもあったの?」


僕は口ごもる。話すと運が逃げそうで。


「ちょっちね。さっきの車は遺体?」

「ルイナのラボ行き。テリィたんを待てなかった」

「せっかくテリィたん好みの事件だったのに残念。遺体は、半分食われてマンホールの中に堕ちてたわ」


ええっ?!


「食い千切られてたのか?」

「YES。緑色のスライム塗れだった…」

「恐ろしかった。マンホールの中には、きっと得体の知れない"誰か"が潜んでるw」


スチームが噴き出るマンホールをチラ見するヲタッキーズのエアリ&マリレ。因みにメイド服。ココはアキバだからねw


しかし、もしかして…


「…わかった。面白いょ笑えるね。遅刻した僕をからかってるワケだ。で、ラギィ。マンホールはホントなの?」

「そのようね」

「さすが。コレが大人の女の対応ってモンだ」


ラギィは、顔色1つ変えズ続ける。


「でも。他にもあった。有害生物(バイオハザード)と描かれた容器の中に黄緑色の物質が…コンディション・イエロー」

「ソ、ソレって、まさかコロナ以来の…ちょっち待った!いい加減にしろ、誰かリアルを歌ってくれ」

「ごめーん。コレからゴミ箱を漁って凶器を探すから」


笑顔を残し周辺に散るヲタッキーズ。


「凶器って、どんな凶器だょ?」

「モチロン、殺人ビームに決まってるでしょ」

「テリィたんが大好きな服の下が透けて見える奴」←


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


万世橋(アキバポリス)に捜査本部が立ち上がる。


「ラギィ警部。今回の手法に一致するデータはありません。目ぼしい失踪届も出ていません」

「彼女のバックは見つかった?」

「ごめん、警部。バックも凶器も出なかったわ」


首を横に振るヲタッキーズ。被害者が"blood type BLUE"なので、今回も警察とヲタッキーズの合同捜査なのだ。


「全くの身元不明なのね。いなくなって2日も経つのに届が出ない。1人暮らしで定職ナシって奴?」

「良家の子女では、なさそうね。恐らく"リアルの裂け目"を経由したマルチバースからの次元移民だわ」

「どうしてそうわかるの?」


僕のタブレットから、ルイナの声がスル。車椅子の彼女はラボから捜査会議に参加してくれてる。本職は大統領補佐官w


「彼女の歯の金属冠は、マルチバースの"アース5876"で使われてるモノだった。私達の世界で言う東欧圏ね。それから、ズボンのポケットに"ソレ"が入ってた」


証拠入りのビニール袋が示される。


「飴の包み紙?」

「YES。どこかの文字が描いてある」

「補助記号だ。ラテン文字で表せない音に着ける記号ナンだけど…この世界だと"キリル文字"かな?」


学生時代、ラテン語が唯一のAだった僕の出番だ。


「なんでそんなコト、知ってるの?」

「東欧は美人が多いからね。いつか嫁をもらおうと思って」

「何、その野望?ミユリ姉様は知ってるの?」


荒々しく証拠袋を取り上げるラギィ。


「調べてみるわ。アメ横に世界のお菓子を売ってるお店があるから行ってみる」

「ところで、月曜日に僕の新刊"宇宙女刑事ギャバ子"の出版記念パーティがあるけど、来る?」

「事件のメドがついたら」


明らかに来る気満々なラギィ。


「わかった。多分ってコトにしとくょ」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


摩天楼の谷間に沈む西陽。捜査本部に1条差す。


「見てょ。おかしな気分になりそうだ。時空連続体の歪みのように次から次へと飴が…」

「ホントだわ。テリィたん、すごーい」

「テリィたん、何してるの?マトリョシカ?」


婦警さんに飴自慢してたらラギィがヲタッキーズにボヤく。


「"東欧の飴"を探してアメ横を隅から隅まで探したけど、行く先々でテリィたんは何かしら買いたがるの。毎回ょ?」

「へぇ。ソレは次の本のネタ探しカモね」

「え。待ってょ。次の本って何?"宇宙女刑事ギャバ子"は1作限りじゃナイの?」


慌てるラギィ。彼女は"ギャバ子"のインスパイアだ。


「え。聞いてないの?ラギィがモデルの本を描くなら…」

「私は"ギャバ子"じゃナイんだけど」

「ま、そのうち話がアルんじゃナイ?ところで、貴女がテリィたんとアメ横デートしてる間に飴の店、見つけたから」


ウソだろw


「神田明神下の交差点に近い食料品店。店主は被害者を知ってた。定期的に来てたそうょ。故郷の食材を買ってたンじゃないかって」

「げ。石鹸の味がスル」

「もう舐めてるしw買ったの私だから。店主は、被害者の名前は知らないけど、住まいを知ってた。近所では有名なマルチバースからの次元難民を専門に受け入れてる雑居ビルだって。神田宮本町」


万世橋(アキバポリス)の直ぐ近くだ。


「行ってみましょう」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


大家さんは初老の気さくな独り者。


「この人は4A号室のリスカ・ソコルさんだ。おとなしかったが、良い人だったよ。確か弱い"予知夢(ドリーマー)"だったかな。なぜ殺されたんだか」

「リスカさんは、いつから住んでましたか?」

「半年前かなぁ」


店子の話になると饒舌だ。


「ウチは、家賃は週払いナンだが、毎週忘れずに必ず現金で払ってくれてた。独り身だったが、小綺麗にしてたょ。他の住人も少し見習って欲しいょ」

「部屋は4Aですね?」

「見るかい?」


レトロに合鍵の束をジャラジャラさせる。


「是非お願いします。その間、ヲタッキーズは他の住民に聞き込みをして」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


「ココが4Aだ。終わったら教えてくれ」


さっさと階下に消える大家さん。僕とラギィは部屋に入る。


「いかにも1人暮らしの部屋だな」

「来客も少なかったみたいね」

「コレは仕事のシフトかな」


カレンダーの日付についたバツが水曜日で止まってる。


「絵葉書?レトロだな…」


タンス上にポストカードが並ぶ…が、明らかに1枚分のスペース。覗くとタンスの裏にセピア色の写真が1枚落ちてる。


「写真は雄弁だな。リスカ・ソコルには敵がいたようだ。いいや、仇と呼んだ方が良いかな」


子供が砂場で遊ぶ写真だが、隅に写っている母親?は激しく爪でひっかかれ、文字通り、ほとんど掻き消されているw


「誰だか知らないけど、相当恨んでたみたいね」

「相手もきっと同じ位、恨んでると思うょ」

「この恨みが全ての基本線になりそう」


第2章 セピア色の写真は語る


御屋敷(メイドバー)のバックヤードをスチームパンク風に改装したらヤタラ居心地が良く回転率が急降下。メイド長(ミユリさん)はオカンムリだ。


「スピア。飴、食べる?石鹸の味がスルけど」

「石鹸味?どんな味なの…テリィたん、"宇宙女刑事ギャバ子"の出版記念パーティだけどヒイラも来たいって。良いでしょ?」

「もちろんさ。しかし、ヒイラも僕のファンなのか」


ヒイラはスクールキャバ"チョベリバ"のNo.クラスだw


「テリィ様。スピア達はドレスを着てセレブな男子と出会いたいだけです。テリィ様の本はどうでも良いのカモ」

「あぁミユリ姉様!ソレを言ったらお仕舞い!」

「テリィ様は、常に自分が中心の"太陽系主義"だから…はい、コレをお願いします」


カウンターの中のミユリさんからチラシを渡される。


「あれ?ミユリさん、コレ何?」

「メイド組合の"秋のメイドミュージカル"のフライヤーです。明日のパーティで配っていただけたらと思って」

「そりゃ構わないけど"太陽"がミュージカルに移動しちゃうょ。新刊の売り上げが減っちゃうな」


ミユリさんは微笑む。しかし、メイド服が似合うなー。


「エージェントのポウラから"あの話"が来てからタイヘンですね。確かに魅力的なオファです。あの…」

「らめぇぇぇ!発音しちゃダメだょ縁起が悪い」

「"遠い昔はるか彼方の銀河系…"でしたっけ?」


ミユリさんは、良くわかってるw


「未だ決定じゃナイし。ソレに"ギャバ子"の次回作が描けなくなるょ」

「じゃあ他にもホッとスル人がいますね」

「え。誰かな?」


大事なコトはソッと耳打ちw


「ヒロインのインスパイアって、何かと気苦労です。ラギィは、かなりホッとするカモ」

「こう見えても、僕は僕なりに事件解決に貢献してきたつもりだがなー」

「そうですね。でも、テリィ様がお見えになる前から、事件は解決してましたし」←


ソレもそうだなw


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


万世橋(アキバポリス)の捜査本部。ラギィは電話中。


「…苗字はソコル。不法滞在者だからマイナンバーは無い。そう…全署に連絡して。よろしく」

「よぉラギィ。頑張ってるな」

「リスカに犯罪歴や事件記録がないか、他の署の警官から情報があるカモと思って。念のためょ」


スマホを切ったラギィに妙案を授ける。


「写真の女性の探し方だけど、公園を管理する役所に聞くのはどーだろー。ホラ、地面が砂だろ?大抵は木材のチップやスポンジなんだ。それに後ろにある遊具は…」


黙ってスマホ画面を示すラギィ。


「79丁目?和泉パーク?お互い考えるコトは同じだな」

「で、和泉パークで聞き込みをしろって?」

「ソレは悪くないアイディアだな」


ラギィのスマホが鳴る。


「あら、エアリからだわ。いったい和泉パークで何をしてたのかしら?もしもし?…あ、大丈夫ょテリィたんだから」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


写真の女性が住むのは…コンシェルジュ付き億ションw


万世橋警察署(アキバP.D.)のラギィです。この写真の2人をご存知ですか?」

「ゼイン・タルボと、その母親です」

「ココの住人?」


抑揚のない声でラギィのテンポを崩すコンシェルジュ。


「何事ですか?」

「リスカ・ソコルと言う異次元人が殺されて、その捜査をしています」

「リスカが?殺された?そんな…」


コンシェルジュは一挙に動転。絶句スルw


「リスカさんを御存知ですか?」

「…数日前までココで勤務してました」

「何の仕事?」


澱みなく応えるコンシェルジュ。


「少し前に洗濯係からお客様係に昇格したばかりです。このマンションでは75名のスタッフが24時間あらゆるサービスを提供しているのです」

「高級ホテル並みだな!」

「彼女が辞めた理由はなんですか?」


コンシェルジュはバツが悪そうな顔w


「ソレが…辞めたのではなく、解雇でした。テナントの1人とトラブルがありまして。その相手がタルボ夫人でした」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


コンシェルジュ付き億ション27F。タルボ邸。


「あぁリスカ!気の毒に。なんで殺されたの?」

「捜査中です。夫人は、リスカさんと何かトラブルがあったと伺ってますが」

「些細なコトが大袈裟になってしまって…」


途端に女優顔を曇らせるメリサ・タルボ。


「何があったのですか?」

「先週の水曜日でした。息子と家にいたの。彼女がタオルの交換に来て…私が目を離した隙に、息子の部屋のドアが閉まってた。中に入ったら、彼女は息子と遊んでるように見えたわ。でも、そんなコトより驚いたのは、息子の口に飴が入っていたの。許可なく人の子供に飴を与えるなんて、あり得ないわ。アレルギー体質や小児糖尿病だったら大変でしょ?」

「タルボさん。ソレはオリエンタルな親切心からでは?」


タルボ氏が口を挟む。


「実は、我々も彼女を良くは知らないんだ。毎日顔を合わせるハウス付きのメイドとは違い、彼女はタオルの交換係だったからね」

「その時、私は何も言わなかったのだけど、空気を察したのか、リスカは決まりが悪そうをして、直ぐ部屋を出て行った。ソレだけなの。その後ゼインも元気にしてる。だから、私はその1件を忘れようとしたけど今、思い出したわ。彼女は、コレまでも何度かゼインに異常に親しく接してた」

「異常に親しく?」


またまたタルボ氏が口を挟む。


「うーん気にかけてるって感じかな」

「ソレは、オリエンタルな国の接し方としては、普通だったのカモ」

「そうなの。だから、私は彼女に人との接し方を教えた方が良いとコンシェルジュに言っただけょ。だから、さっき解雇されたと聞いて驚いたわ。ホント言わなければ良かったと、今では後悔しています」


電子音。スマホ?いや、ポケベルw


「すまない、急患だ。クリニックから呼び出しナンだが、他に何かアルかな?」


ポケベルを見て立ち上がるタルボ氏。Dr.らしい。


「いいえ。以上で結構です」

「あの…リスカが殺されたコトは、解雇が関係してる可能性はアルのかしら?」

「今は何とも言えません。お金に困って危険なコトをしていた可能性もあります」

「…私の責任ね」


うなだれるタルボ夫人。ラギィはキッパリと断言←


「違います。全て犯人の責任です」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


億ション1Fのエントランスロビー。


「ラギィは優しいな、夫人がリスカに恨まれてたコトには触れズに済ませた」

「うーん間違いなく解雇と事件は関連してるだろうけど、今、夫人を責めても何も解決しないわ。エアリ、進展は?」

「ラギィ、テリィたん。リスカは過去に結婚してた。今、マリレがメイド仲間に聞き込みしてる」


エアリに続き、マリレも合流。


「元夫はテオド・ハイク。2年前、夫婦喧嘩が嵩じて警察沙汰になってるわ」

「まぁ!絵に描いたような暴力夫なのね」

「今回、元妻相手に再び暴力をふるったってワケか」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


妻恋坂にある中華飯店の地下厨房。湯気が立ち昇る中、洗い物に専念するテオド・ハイク。耳慣れない会話が聞こえる。



万世橋警察署(アキバP.D.)です。テオド・ハイクは?」

「洗い場にいるょ」

「ありがとう」


食器棚越しに様子を伺うテオド。先頭の女がバッジを示す。


「テオド・ハイク?」

「そうだ」

「こっちに来て。話がアルわ」


手を拭きユックリ歩くテオド。突然ドアが開きホール係が飛び込んで来る。ソレを突き飛ばしダッシュで逃げるテオド!


「止めて、ヲタッキーズ!」


さらに同僚を突き飛ばし調理台を飛び越えて逃げるテオド。


「待て!止まれ!」


テオドの前に躍り出たマリレが見事な1本背負い!僕がしっかり月餅を頬張る間に、厨房のフロアに大の字になり痙攣w


「テオド・ハイク、リスカ・ソコル殺人容疑で逮捕スル。貴方には弁護士を呼ぶ権利が…」


フロアに押さえつけたママ後ろ手に手錠するラギィ。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


万世橋(アキバポリス)の取調室。


「ハイクさん。権利については聞いたわね?」

「あぁ」

「弁護士は呼ばなくていいの?次元領事館には連絡した?」


不貞腐れるテオド。未だ調理着のママだ。


「どうせマルチバースへ強制送還だろ?」

「私達は次元移民局じゃないわ。貴方、だから逃げたの?」

「ビザが切れてルンだ」


明後日の方を向く。


「私は殺人課ょ。貴方のビザに興味はナイわ」

「殺人課?もしかして…リスカか?何があった?」

「3日前に殺されたわ」


視線を落とすテオド。バイヤコンディオスリスカソコル…


「木曜日の5時から9時の間はどこにいた?」

「ウチで寝てたよ。休まず働いて疲れてたんだ」

「証明できる人は?」


急に胸を張るテオド。


「国営放送の集金が来たが居留守を使ってる!」

「(ソレじゃアリバイにならないでしょ!)貴方、2年前に夫婦喧嘩で警察が呼ばれてるけど」

「近所の人に通報された」


肩を落とすテオド。溜め息をつく。


「なぜ喧嘩をしたの?」

「別れようとする彼女を必死で止めてた」

「別れの原因は?」


抑揚のナイ声。


「私といるとマテンのコトを思い出して辛いそうだ」

「マテン?」

「息子だ。3年前、神に召された」

「お気の毒に」

「彼女は苦しみ、ズタボロになった。息子は、彼女の全てだった。可愛い子でね」


思い出したように笑顔を見せるテオド。


「だが、病気がマテンを蝕んだ。金も、なす術もない。リスカと2人で見守った。息子が弱って死んで逝くサマを」


尻ポケットから古ぼけたパス入れを出す。セピア色の古い写真。家族3人の集合写真だ。リスカは赤ん坊を抱いている。


「私の家族だ。幸せだったんだ。でも、もういない。2人共いないんだ」


第3章 黄昏に染まる不倫


万世橋(アキバポリス)の捜査本部…のギャレーで考え込むラギィ。


「ありがとう、テリィたん」


パーコレーターのコーヒーを薦めると顔を上げる。


「リスカの違う面が見えて来たね」

「我が子を思い出し、似た年頃のゼインに親切にしてたら突然解雇された…可哀想に」

「ラギィ!テオドのアリバイ、裏が取れたわ」


エアリが入って来てテーブルに加わる。


「驚かないょ。疑ってもいなかった」

「リスカの身になって考えましょう、テオドじゃなくて。解雇されて収入は絶たれた。何に手を出すかしら」

「お馴染みの"覚醒剤(パワーが覚醒する薬)"や売春は今回はパスだな」


マリレもパーコレーターからコーヒーを注ぐ。


「他に何があるかしら?リスカのアパートに行ってみる?」

「前回、聞き込みから漏れた人がいるカモ」

「何か手がかりがあるハズょ」


全員が一斉に立ち上がる。マリレは、注いだばかりの紙コップに視線を落とし、溜め息をついて、みんなを追いかける。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


「何か思い出したらご連絡ください」


恐らく不法滞在の次元難民だろう、名刺を渡すとドアチェーンを外そうともせズ、鼻先でバタンとドアを閉める住民達。


古い雑居ビルの狭い廊下にたたずむ。


「コレで全員か。ヲタッキーズは、何か収穫があるかな?」

「テリィたん。ちょっと聞いても?」

「僕の出版パーティのドレスコードだね?迷ってるなら、自分が"宇宙女刑事"になったら、どんなコスプレするかなって考えてくれればバッチリさ」


ラギィの心配の種を取り除く…つもりだったが。


「違うわ。新作の話」

「え。知ってるの?地獄耳だな」

「本気なの?」


僕は腕組みして唸る。


「正式なオファは未だナンだ」

「なぜ先に私に話してくれないの?」

「え?いや、きっとラギィはホッとスルかと思ってさ」


本心だw


「うぬぼれないで!」

「うぬぼれもスルさ。憧れのスペースオペラだぞ。SF作家として待ち望んでたチャンスでもアル」

「待って。話がピーマンだわ。"宇宙女刑事ギャバ子"の続編の話ナンだけど?もしかして…」


し、しまった。ラギィは何も知らなかったのかw


「ソッチこそ待て!ソレ以上は口にスルな!縁起が悪い!」

「"may the WOTAKU be with you!"なの?!」

「…正式にオファが来れば」


すると、ラギィは心配そう?何か不安なのか?


「もし、正式にオファが来たら…どーするの?」

「もちろん、考えるコトになると思うけど。ラギィはセイセイするって大喜びスルと思ってたのに」

「え?喜んでるわっていうか…正式に決まればだけど」


ヲタッキーズが狭い廊下を戻って来る。


「4Eは聞いたっけ?」

「聞いたわ。ホラ、霊を追い払ってくれって、おばあちゃんから頼まれたじゃないの」

「あぁ。そーだっけ」


ラギィが声をかける。


「そっちも収穫ナシみたいね」

「上の階は全部聞いたけど、空振りょ」

「じゃコレで全員に聞いたコトになるわね」


ソコへ旅帰りか、ゴロゴロとキャリーを引く女子が登場。


「すみません、通してください」

「あ。ごめんなさい」

「…ちょっと!あの子には聞いた?ちょっと待って!」


駆け出すラギィ。追いかける。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


"あの子"は、そのママ万世橋(アキバポリス)の会議室へw


「事件当日、リスカが男と口論してるのを見たそうょ」

「相手は、身なりの良い40代だって!」

「そんなの、秋葉原にはゴマンといるけど」


例の女子は、会議室で似顔絵師(マンガ家)のスケッチブックを見ながら、あれやこれや指図。やがて納得したか大きくうなずく。


「ラギィ!似顔絵が出来た!」

「何コレ?ベルトにポケベルをつけてるの?」

「どう?テリィたん。見覚えあるわね」


スケッチブックを見せられ、直ぐピンと来る。


「Dr.タルボだ。ポケベルで呼び出そう」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


神田松富町にあるクリニック。Dr.タルボのオフィス。


「確かに似てるが…私じゃないな」

「あくまでシラを切り続けるなら、署で面通しをお願いするコトになります」

「面通し?待ってくれ。リスカ・ソコルとは、ほぼ他人だったんだ」


明らかに動揺スルDr.タルボ。


「センセ。調べたら、リスカは以前、センセと同じ病院に勤務してた。ねぇ彼女との関係は?」

「な、何もない!」

「そう。じゃ面通しね。署まで御同行願います。面通しでは少々愉快な連中とお並び頂くコトになりますが」


Dr.タルボはデスクから立ち上がるw


「待ってくれ!関係はあったんだ!リスカとは…実は不倫していた!」


ガチャガチャと大袈裟な音を立て手錠をしまうラギィw


「出会いは私の病院だった。ある晩、残業中に彼女が話しかけて来て、その後も偶然が重なり、気がつけば一線を超えていた。お恥ずかしい話だ」

「自分には家庭があると言ったの?」

「リスカは、激怒した。だから、妻と別れる機会をうかがっていると必死に説得したんだ」


呆れた医師だ。


「でも、そのつもりはなかったんでしょ?」

「しばらくして、リスカも限界が来たようで、ヤタラとゼインを気にかけるようになった。まるで、息子の人生の1部になろうとしているかのようだった。横で見ている私も、もう限界だった」

「なぜ別れなかったの?」


答えがわかりきった質問←


「そんなの、リスカが納得するハズないだろ!だが、ゼインの飴の件で踏ん切りがついた。正直、私はリスカが解雇されてホッとしている。次の日、手切れ金を渡しに会いに行った。すると、彼女は怒鳴り始めた。私は、何も出来ないママその場を離れた」

「木曜の5時から9時の間、何をしてましたか?」

「ココで残業してたょ」


オフィスのドアがノックされる。金髪秘書が顔を出す。


「センセ。ご家族がお見えです。ランチのお約束ですょね」

「そうだった。ちょっと待ってもらってくれ」

「はい」


ドアが閉まる。


「警部、頼む!アリバイの裏をとってもココを家宅捜査しても、何を調べても構わないが、妻にだけは不倫は内緒にしてくれぇ!」

「センセ。お約束は出来ないわ。私達は、どこまでも事件を追うつもりょ。そもそも…」


ドアが薄く開き、子供が駆け込んで来るw


「パパ!」


父親に飛びつく子供。続いて満面の笑顔で入ってくる妻。


「(助かったw)よく来たな!さぁおいで!」

「あら。ラギィ警部、いらしてたんですね?」

「…先日ご主人にお話を伺った時のメモをなくしまして。内容を確認させていただいてたトコロです」


咄嗟に取り繕うラギィ。


「そーなの。アナタ、ランチには行けそう?」

「今、終わったトコロだ」

「…ランチを楽しんで。ドクター」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


コレ幸いと家族ランチに逃げ出すDr.タルボ。


「(電話応対しながら)えぇ待ってます。先週の木曜日ですか?はい、忙しい日でした。備品チェックで残業でした」


先ほどの金髪秘書だ。ヘッドセットで電話に出ながら、忙しげにラギィの質問にも応える。なかなかのヤリ手のようだ。


「センセも残業を?」

「YES…はい、Dr.タルボのクリニックです…先生も9時過ぎまで残業されてました」

「ウソでしょ?」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


万世橋(アキバポリス)の捜査本部。


「ウソです!Dr.タルボは、事件当日に被害者と口論してたハズです。旅帰り女子の証言が…」

「でもね。違うみたいなの、エアリ」

「ラギィ!外神田署の知り合いから電話があった。通報記録にリスカの名前があったって。2年前にリスカと話した警官がいるみたいだけど」


頼れる同僚、カポン・スキィから GOOD NEWS だ。


「どんな通報?」

「報告書を探してるけど、誰かが彼女に関する苦情を言ったみたいょ」

「何かしら?」


女子だけどパンチパーマのカポン・スキィ。


「明日の朝にはわかるわ」

「うーんイメージ狂うわ。リスカには、ダークサイドの顔があったみたいね」

「OK!今宵は気分を変えよう!僕の新作"宇宙女刑事ギャバ子"の出版記念パーティだ。飲み放題だぞ!」


サングラスをかけ直す僕。

飴を口に放り込むラギィ。


第4章 今宵はパーリナイ


五つ星ホテル"レコル・アクシオム"。


夜空に何本ものサーチライトが交差。ドリア式の円柱の間に敷かれた赤絨毯は、プロナオスに向かって伸びている。

既に、玄関柱廊は詰めかけたゴシップ記者、パパラッチで一杯だ。リムジンが押し寄せ着飾ったセレブを吐き出す。


「コレ、消す時には声をかけてくれょ」


僕は腐女子の胸の谷間にサインしながら一声かける。会場は"宇宙女刑事ギャバ子"を手にした腐女子が長蛇の列。

前をはだけたシャツにジャケット。左右にパーティドレスのミユリさんとスピア。レースクイーンみたいなポーズw


「あらあら。コレがテリィたん本来の姿ね」


ヲタッキーズのエアリ&マリレが小さい瓶ビールをラッパ飲みしてる。因みにメイド服だ。ココはアキバだからね。


「ミユリ姉様は"秋のメイドミュージカル"。私は新しい恋。テリィたんは新作完成。みんな絶好調ね!」

「スピア、楽しんでおきましょ。順調なコトはアキバでは、そう長続きしないわ。アキバに永遠なんてナイ。"メイド哲学"ょ」

「おい!"宇宙女刑事ギャバ子"だっ!」


全員が振り向く。青いドレスに真珠のネックレスのラギィ。進む道に次々と立ち塞がるパパラッチ。会場の視線を独占。


「ラギィ。素敵ょ。テリィ様も大喜びね。献辞は読んだ?」

「いいえ、ミユリ姉様。未だです。献辞が何か?」

「自分で見て来たら?」


僕は僕で駆け寄ろうとしたらポウラが袖を引っ張るw


「彼女?」

「そうだ。万世橋警察署(アキバP.D.)のラギィ警部」

「大々的なラブレターね。私だって1回寝たけど"地下鉄戦隊"の途中戦士役だった。登場から2話で戦死」


僕のエージェント、ポウラ・ポラウ。彼女は凄腕w


「でも、セクシーなコスプレだったろ?」

「彼女は1冊分ょ。特別なのね。聞くけど、彼女の着信は折り返すの?」

「もちろんだ。直接出向く」


溜め息をつくポウラ。


「彼女は特別か」

「単純に礼儀の問題だけど。ソコは理解してくれょ」

「テリィたん。貴方、正式にオファが来たのに折り返さなかった」


え。正式オファが?ついに来たか。


「ねぇ契約しちゃって良いわょね?」

「大きな決断だ。"ギャバ子"を諦められるか」

「本のコト?それとも、エルベルジュのドレスを着た彼女のコトかしら」


ドレス姿のラギィを顎で差す。


「そりゃ本のコトに決まってるさ」

「彼女と寝た?」

「え。ラギィと?」


何逝ってんだ、この地雷女w


「サッサと寝なさい。欲求を満たしてサッパリしたら私のオフィスに来て。契約書にサインをスルのょ」


僕の首筋を撫で、ポウラは歩き去る。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


永遠に続くと思ったフラッシュの集中放火をかいくぐり、やっとラギィは真新しい"宇宙女刑事ギャバ子"を手に取る。


活字と印刷のにおい。表紙を開く。


"特別なR警部とアキバP.D.の仲間達へ to the extraordinary insp.R & all my friends at the Akiba P.D."


献辞を見て小さく喜ぶラギィ。


「テリィたん。コレ、ちょうど今…素敵な献辞、どうもありがとう」

「本心だ。ラギィは僕の特別だ」

「え。」


瞬時に"恋する乙女の瞳"になるラギィ。


「聞いてくれ。昨晩よく考えたんだ…」


ラギィは目を見開き、胸をトキめかせるw


「もし、妻が不倫に気づいたとしたら、どーだろー?」

「はい?メリサ・タルボが犯人?」

「ホラ、旦那を寝取られた女の恨みって奴さ」


一気に現実(リアル)に引き戻されるラギィw


「あぁそーね。そーカモね。まるで考えてなかったけど、可能性としてはアリじゃない?」

「そりゃ考えてなかっただろうな」

「何ソレ?どーゆーコトょ?」


僕は自明の理を述べる。


「だって、ラギィは男にフラレ慣れてナイからな」

「(アナタは振ったじゃない!)そういえば、とある有名なスペースオペラの話はどうなったの?」

「正式なオファが来た」


愚かにも自慢げに胸を張る僕。僕は大馬鹿野郎だ←


「すごーい。おめでとー」


大根女優のセリフ棒読み。全く心がこもってナイw


「でも、未だ契約してナイんだ。スルべきかな?」

「ええ。だって、断る理由ナンてナイでしょ?」

「"ギャバ子"の次回作は描かなくてもOK?」


明後日の方を向くラギィ。エルベルジュが台無しだw


「私、描いてと頼んだ覚えはないわ」

「普通の腐女子なら、喜んで僕の次回作のモデルになりたがるけどな」

「テリィたんって、全然わかってないのね。喜んで、ですって?"ギャバ子"にインスパイアされて、私がどれだけ迷惑を被っているかわかってる?」


しまったと思いながらも言葉が止まらないラギィ。


「そりゃ…悪かったな!」

「謝ってナンて言ってない!ただ、私は…もう良いわ!好きなようにすれば?いつもみたいに!」

「そーするょ。じゃ"ギャバ子"の次回作はナシだ。実は"ギャバ子"は、シリーズ化出来るホド深いキャラクターじゃなかったンだ」


あぁ何てコトを逝うのだ、この口はw


「あら、キャラクターは深いわ。作者がイマイチなのょ」

「そうか。良い夜を」

「楽しむわ」


プイと別れる僕達w


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


翌日。僕は捜査本部で探し物をしている。


「テリィたん、何でいるの?新作で忙しいんでしょ?」

「いや。ちょっち"浜省サングラス"を何処かに忘れて」

「そんな見えすいたウソをつくナンて」


ラギィのデスクの書類の山から見つけるw


「あら…そうだ!ついでに飴も忘れずにね」


指差すラギィ。2人でアメ横に逝ったのが遠い昔のようだw


「カポン・スキィ!報告書は?」

「あったわ、ラギィ。リスカは和泉パークで何度も目撃されてる。何度も子供に話しかけて、不審に思った母親が万世橋(ウチ)に通報してるw」

「告訴されてる?」


最近はナンでも即、裁判だw


「大丈夫。駆けつけた警官が穏便に解決した」

「ゼインの時と同じだわ。自分の息子を思い出してたのね。可哀想に」

「ラギィ、ソレから例の大家が被害者の部屋を貸し出したいって。家賃は金曜まで払ってアルらしいけど」


不法難民相手のリスキーな経営だ。現金が欲しいのだろう。


「鑑識の捜査は済んでる。OKしてあげて」

「了解」

「ソレからカポン・スキィ。和泉パークで警官と話した母親を探して。何か手がかりがアルかも」


片手を挙げ出掛けて逝くカポン・スキィ。


「ラギィ、ちょっち」

「…テリィたん?未だ、いたの?」

「家賃の支払いは金曜までって、おかしくないか?確か大家さんは家賃は週払いだと話してた。リスカが殺害されたのは木曜の夜だ。金曜には支払えナイ。死んでるし」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


「先週の金曜日も、いつもと同じように家賃がドアの下に滑り込ませてあった。何とも思わなかったンだ。彼女が死んだとは知らなかったからな」


実直そうな大家さんは、リスカの部屋を開錠しながら弁解。


「でも、おまわりさん。誰が何のために家賃を払ってくれたんだろう?」

「その方が事件が発覚しにくくなります」

「なぁ悪いが、この部屋は別の人に貸し出しても良いだろう?リスカの荷物は友人に渡すから」


僕とラギィは、顔を見合わせる。


「友人?リスカさんの友人って?」

「いつも郵便物を取りに来る、上品な40代前半の金髪の美人サンだが」

「ソレは、きっとあの人だな…」


僕とラギィは異口同音。


「メリサ・タルボ!」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


覆面パトカー(FPC)の中で仲良く張り込み中の僕とラギィ。


「いつも昼時に来るそうだけど、もう2時ょ」

「焦るなょラギィ…ところで、脅迫状だと思うンだ。メリサが郵便物を取りに来る理由さ。きっと"ウチの夫に手を出すな!泥棒猫"なーんて脅迫状を送ったに違いない」

「そして、我慢できずに殺した?少し浅いわ」


良い反応だ。僕達のテンポが蘇るw


「脅迫文を回収しないと不倫がバレるぜ?」

「しかし、皮肉だわ。普通の捜査じゃ、令状がなければ手紙までは見ないのに」

「…ありがと」


思わズ口を突いて出るw


「え。何が?」

「皮肉って言葉を正しく使ってくれてさ。偶然と言う意味で使う人が多いんだ」

「テリィたんが文法にウルサイから影響されちゃった」

「そうか。僕はいなくなるが、何かを残せて良かったょ」


寂しそうにうなずくラギィ。その時…


「テリィたん、タルボ夫人だわ!ビンゴ!」


薄手のトレンチコートを着て歩く金髪女子。後ろ姿。


「行くわょ!」

「裏の集合ポストに回った」

「失礼、タルボさん!」


振り向く金髪美人…だが、夫人ではナイwナース?


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


万世橋(アキバポリス)の取調室…で泣き叫ぶナースw


「タルボ先生は良い方です!私は10年も御一緒してます。絶対に殺人事件とは無関係です!」

「貴女、センセから何を頼まれたの?」

「あの部屋は、センセが別のナースと密会スルために借りていました。郵便受けの鍵を渡され、先生が送った小切手を見つけて欲しいとリクエストされたのです。別れに心を痛めた先生がナースに渡したお金の回収です」


セコい話だ。ラギィは証拠品袋に入った小切手を示す。


「コレかしら?」

「はい。親展扱いの封筒を探すように言われました。先生の口座がある証券会社の住所から、親展扱いで送ったと仰ってました。先生は、不倫を知られたくなかったのです」

「当たり前でしょ。そして、貴女は不倫を隠す手助けをしたワケょ」


瞬間、息を呑むナース。途端にシドロモドロw


「先生は…先生は殺してません!」

「事件当日、センセが残業してたと言うのはウソね?」

「…あの晩は誰も残業してません。センセも6時には上がられました」←


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


取調室にナースを残し、外で作戦会議。


「コレが彼女が探してた封筒ょ。消印は乙女ロードにあるオフィスパーク」

「パーク内に証券会社とかアルかな?」

「あるのは保険会社と染色体解析ラボと金融グループだけ。あの小切手は、このいずれかから送られたハズょ」


しかし、今どき郵便とはな…


「不倫ではなく、別のコトを隠したのカモな」

「答えはこの中か。令状はいつ?」

「数日はかかるわ」


スーパーヒロインの出番だ。


「ミユリさんに変身してもらおう」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


その夜の"潜り酒場(スピークイージー)"。


「私、いつでも変身しますけど、少し(とっても?)変身の理由が不純です…で、エアリ。公園での苦情の件はどうだったの?会えた?」

「はい、姉様。会えました。母親と話しましたが、重要な情報は特にありません。リスカのコトが気になったのは、彼女に見覚えがあったからです。ナンでも自分の息子と出産した病院が一緒だったとか」

「しかも、姉様。なんと同じ日に産んで、両方とも男の子なの。信じられる?スゴい偶然ょね?テリィたんの嫌いな"偶然"」


話に加わり、僕をチラ見するマリレ。作家という商売は、ストーリーに筋を通すのが仕事なので、偶然敵視の癖がつくw


「マリレ、テリィ様はお仕事で仕方なく筋を通すだけ。普段は全く筋を通さない方なのょ(どーゆー意味だw)で、どの病院?」

「ブラド総合病院です、姉様」

「…ん?ミユリさん、ソレ、Dr.タルボの前の勤務先だな」


ミユリさんとエアリ&マリレが僕を見る。全員メイド服だw

 

「テリィたん、どーゆーコト?」

「もしかすると、タルボの息子も同じ病院で同じ日に生まれてるのカモ。ソレってラギィのトコロで調べられるかな。そのパークにラボとかアル?」

「確か証券会社と金融機関…あと染色体解析ラボ」


僕は、メイド達に向かって大きくうなずく。


「封筒の中身が"見えた"ぞ」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


南秋葉原条約機構(SATO)は、アキバに開いた"リアルの裂け目"からの脅威に対抗スルために結成された防衛組織だ。

僕の推しミユリさん率いるスーパーヒロイン集団"ヲタッキーズ"は、SATO傘下の民間軍事会社(PMC)で僕がCEO。


で、ミユリさんはスーパーヒロイン"ムーンライトセレナーダー"に変身、お約束のビキニ系メイド服で取調室に出没w


「タルボさん。本日は御夫婦でおいでいただき、ありがとうございました。コチラはスーパーヒロインのムーンライトセレナーダー。彼女には透視能力があります(ホントはナイんだけどw)」

「え。この事件はSATOが絡んでるのか?モノホンのムーンライトセレナーダーって初めて見た。ホントにメイド服ナンだな(しかもビキニ!うひょひょw)!」

「ますます混乱してきたわ。リスカ・ソコルさんとは、ほぼ他人だと申し上げましたょね?彼女がマンションで働いてたのはホンの数ヶ月だモノ」


それぞれ驚きを口にスル夫婦。ラギィが仕切る。


「リスカ・ソコルさんとは、かなり前から関係というか…ご縁があったようです。リスカさんには、ゼイン君と同じ日、同じ病院で生まれた息子さんがいました。でも、不幸にも3年前ニーマンピック病で亡くなってる。ニーマンピックは先天性の病気です」

「そうだったの?可哀想に!だから、ゼインのコトを気にかけていたのね?」

「他にも理由があります」


僕が引き継ぐ。


「PMC"ヲタッキーズ"CEOのテリィです」

「え。あのベストセラーSF作家のテリィたん?モノホン?貴方はコスプレしないの?」

「YES(作家のコスプレって何だょ?)…リスカがゼインに飴を与えたのは、恐らくその時にゼイン君の唾液を採取するためでした」

「唾液を採取?何のために?」

「DNA鑑定です」


息を呑むメリサ…いや、夫のキメロ・タルボ医師もか?


「そんな…なぜそんなコトを?」

「殺害前、彼女は2人の唾液をラボに送ってました。つまり、ゼイン君と自分の唾液です。そして、その結果が郵送されて来た。ソレがこの封筒です」

「…メリサ。すまない」


押し殺したようなDr.タルボの声。振り向くメリサ。


「結果を透視されては仕方ない。全て話そう…羊水検査で全てわかってた。しかし、病気だと分かっても君は産むだろうと思って、私は覚悟を決めた。出産後に全て話すつもりだった」

「アナタ、何の話かわからないわ」

「我々の子はニーマンピック病だった」


狼狽するメリサ・タルボ。


「だって、ゼインは元気ょ。今日だって…」

「ニーマンピックは難病だ。幼い内に亡くなるコトもアル。黄昏の新生児室で2人の赤ん坊を目にした時、私は魔が差してしまった。とても、簡単なコトに思えた。自分が勤務している病院だ。誰にも怪しまれズ、後でカルテを書き換えられば良い。とりあえず、タグを付け替え、隣の赤ん坊を君に見せよう。大丈夫だ。何も問題ない。この子が私達の子供になる。君は何も知らずに済む」

「キメロ。アナタ、リスカを殺してないわょね?お願いょ。誰も殺してないと言って…」


答えは…沈黙。


「ウソでしょ?ウソょ!」


よろめく。夫から遠ざかる。


「待ってくれ!リスカは、私の家族を崩壊させようとしたんだ!私は家族を守っただけだ!」

「アナタが守ったのは、家族じゃなくて不倫ょ。どうなるの私達?誰か教えて?私は、どうすれば良いの?」

「キメロ・タルボ、リスカ・ソコル殺人容疑で逮捕スル。貴方には権利が…」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


「Dr.タルボは遺体を隠した後、リスカの部屋に行き、彼女がDNA鑑定を依頼したと知ったようだ」

「見事な推理ね、テリィたん」

「でも、真相を突き止めたのはリスカだ。考えてみると病院で勤務したのも、出生記録を見るためだった。真相解明が、彼女の母親としてのミッションだった」


変身を解いたミユリさんも話に加わる。万世橋(アキバポリス)のギャレー。


「テリィ様。あの封筒ですけど、勅令随身保命のお札で出来てました。あらゆるテレパス波を反射するので、誰も透視は出来ませんょ」

「え。そーなの?でも…ソレがわかるってコトは、もしかしてミユリさんはテレパスだったのか?今まで黙って色んなモノを透視してたな!」

「いえ、私は…テリィ様が私のどんな仕草にボ…あ、失礼、えっと、反応されるかを確認して何かに役立てようと思って…」


何かにって何?…ラギィが大きく咳払い。


「元カノの前でイチャイチャはヤメて」

「…バイヤコンディオスリスカソコル。とにかく、自分が死んでは意味がない」

「意味は…アリます」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


黄昏前の穏やかな昼下がり、億ションに訪問客だ。コンシェルジュ自ら出迎え、27Fまで直通のEV(エレベーター)で丁重に案内される。


「ムーンライトセレナーダー。手が震えてるょ」

「大丈夫。ゼイン君を争う気はナイと伝えてアルわ。ただ、人生の1部になりたいだけだと」

「こんにちは」


メリサ・タルボが現れる。


「タルボさん。私は…」

「テオド・ハイクさんね?メリサでOKょ。さぁどうぞ」


2人は握手スル。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


ゼインがプラレールで遊んでいる。緊張して見ていたテオドだが次第に微笑が湧いてくる。ゼインは無心に遊んでいる。


「可愛い子ですね」

「そうね…ねぇ教えてくれる?どんな子でした?私の息子は?」

「彼も、とても可愛い子でした」


尻ポケットから定期入れを出しセピア色の写真を取り出す。


「コレを貴方に」


その時…


「ママ!」

「何?」

「はやぶさ69号の車輪が外れちゃったょ!」

「まぁ大変!」


今にも泣き出しそうなゼイン。思わず手が出るテオド。


「貸して」


カチッと音がして車輪がハマる。クルクル回転スル。


「ほら、もう治ったょ。東北新幹線、出発進行だ!」


ゼインは、先ずテオドを見つめ、ゆっくりとメリサに視線を移す。次第に微笑を浮かべ、やがて、再び無心に遊びだす。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


万世橋警察署(アキバP.D.)の前。


「ありがと、テリィたん。ヲタッキーズ抜きでは、この事件は解決出来なかったわ。じゃ新作がんばってね。テリィたんなら、きっと上手く行くハズょ」

「ありがと、ラギィ」

「もう私のデスクに忘れ物ナンかしないでね。"浜省サングラス"とか」


僕達は向き合う。僕から手を差し出して握手。


「元気でね。ソレから…」


お互いのスマホが同時に鳴るw


「エージェントのポウラだ」

「私も。秋葉原D.A.(特別区)の大統領官邸からだわ」

「お互いに今、出た方が良さそうだな」


それぞれスマホを耳に当てる。


「ポウラか?」

「はい、アキバP.D.ラギィ警部」

「え。ホントに?"宇宙女刑事ギャバ子"、初日からバカ売れだって。書評も大絶賛」


小さくガッツポーズをキメるラギィ。萌えw


「"ギャバ子"をあと3冊?おいおい、待ってくれ。ギャラはいくらだって?」

「はい、次回の大統領選が厳しいコトは承知しています…はい、その為なら何でも協力するつもりですが」

「いや、例のスペオペの話は置いといて、その額なら"ギャバ子"を12冊でも描くさ!」


振り向くラギィ。マズい。般若になってるw


「何ですって?あの野郎!」

「だから、ポウラ。彼女とはリサーチは1作だけという約束だったんだ。最初に話したろ?」

「映画化のシナリオも彼が描く?一生かかります!」

「え。大統領にはもう話した?」

「殺してやる!」


慌ててスマホを抑えるラギィ。


「違います!大統領に言ったワケでは…いいえ。いや、はい。大統領の支持率のために協力します。何でもします!」

「えっとポウラ。かけ直す…」


文字通り鬼気迫るラギィ。ジリジリと僕に滲み寄るw


「待て!この話、僕は何も関わってナイから!」

「あのね!…あら、また電話だわ。何よっ!取り込み中っ!」

「ラギィ、落ち着け。話せばワカル」


ところが、無言でスマホを切り、踵を返すラギィ。


「ど、どーした?どこへたどり着くのか?自分でわかってるのか?」←

「エアリから。殺人だって。"blood type BLUE"。スーパーヒロイン殺しだけど…来るの?来ないの?」


彼女はモデル立ちして僕を待つw

僕は彼女に向かって全力疾走さ!


「どうせコレもテリィたんが仕組んだんでしょ」

「神田明神も照覧あれ!絶対に違うぜ」

「まるで説得力がナイわ」


だろうなw



おしまい

今回は、海外ドラマによく登場する"新生児取り違え"をテーマに、予知夢のスーパーヒロイン、その暴力夫、難病の子供、ハイソなドクターと女優顔の妻、元気な子供、主人公のヤリ手エージェント、スクールキャバのナンバー、同僚の女刑事、殺人犯を追う超天才や相棒のハッカー、ヲタッキーズに敏腕警部などが登場しました。


さらに、主人公に超有名スペースオペラの続編のオファが来て、女が武器のやり手エージェントとの駆け引きなどもサイドストーリー的に描いてみました。


海外ドラマでよく舞台となるニューヨークの街並みを、浅草や渋谷と同じ感覚でインバウンドが埋め尽くす秋葉原に当てはめて展開してみました。


秋葉原を訪れる全ての人類が幸せになりますように。

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