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狙うは漁夫の利

 冒険者たちは、扉の前で装備を調えていた。リーダー格なのは長身の女戦士。気の強さが外見にも表れているような、目尻のつり上がった顔をしていた。髪も短く切りそろえているため、胸のわずかな膨らみが見えなければ男性と間違えそうだ。


『準備はいいかい』


 彼女が仲間たちに声をかける。見るからに屈強な戦士タイプの体格ばかりで、魔法使いですら明らかに僕と体格が違った。彼らは慌てた様子もなく、リーダーの呼びかけにうなずく。


『手はず通り、まずは氷魔法で奴の動きを封じる。口からは火炎を吐く怪物らしいから、正面には決して立つんじゃないよ』

『ああ、分かってる』

『氷魔法でそのまま死んでくれれば御の字だが、そう簡単にはいかないだろう。ベルス、凍ってる間にあんたの怪力で氷塊ごと砕いちまいな。とどめはあたしが刺す。

いいね』


 リーダーの声に皆がうなずき、立ち上がった。そしてぞろぞろと奥の扉の中へ消えていく。室内に誰もいなくなったのを確認し、機械鳥はその場を後にしていた。


 僕は今見たものを皆に話して聞かせる。


「……ボスの前に準備の部屋があるなんて、今までと比べてずいぶん親切だな」

「最終層へ辿り着いた褒美か、それくらい相手が強いのか。さて、どっちじゃろう

な」

「どうします? どっちみち追いはぎパーティーはしばらく、ボスの部屋から出てこないと思いますけど」


 僕が言うと、しばらく考え込んでいたシャーロットさんが口を開いた。


「……彼らの後を追って、一緒に戦ってみてはどうでしょう」

「な、何をおっしゃいますか姫様!?」


 流石にサイカさんとナインさんが狼狽した。しかしシャーロットさんは、それでも表情を変えない。


「……本当にボスを倒せば地上に戻れるかは分かりません。ですが、少なくとも討伐の際にその場にいなければ、そのわずかなチャンスも逃すことになります」

「それはそうかもしれませんがなあ。あいつらは平気で人を殺し、装備を剥ぐような連中です。共闘の話を受け入れたふりをして、こちらを盾にしようとしてくるかもしれませんぞ」


 シャーロットさんはそれを聞いてうなずいた。


「ですから、我々は二手に分かれます。幸い、こちらが何人いるかまでは割れていません。私たちがあの首領に注意を払いますから、ナインは身を隠して冒険者を無力化してください。それが済むまでは、キマイラより自分たちの身を最優先にすること。これなら少しは戦いになるのではありませんか?」


 シャーロットさんの言葉を皆が噛みしめる。その間に、彼女はさらに続けた。


「そしてできることなら、太陽の宝玉は私たちが手にしたい。途中で想定外の離脱者は出たものの、ここまで来たのなら諦めたくありません。──これはあくまで私のわがままですが、付き合っていただけますか」


 一瞬、その場に沈黙が落ちた。そして誰からともなく、無言でうなずく。異を唱える者はいなかった。


「やりましょう、姫様」

「……俺たちも、そのためにここまで来たのだ」

「もちろん付き合うよ!」


 そして僕も、自信をもってこう答える。


「ボスを倒して、みんなで無事に帰りましょう!」




 それから僕たちは、機械鳥の辿ったルートで冒険者たちに近づく。第五階層まで到達する冒険者自体がそもそも少ないのか、誰とも出くわすことはなかった。


 そして、映像で見た小部屋に辿り着く。全員足を踏み入れると、緊張がほどけてめいめい息をついた。


「とりあえず、ここまでは来られましたね」

「しかし、炎熱のボスがこの場にいるというのに、なんの痛痒も感じんとはのー。

いったいどんな素材で出来とるんじゃ、この部屋」


 サイカさんは落ち着くと早々に知識欲を発揮していた。僕も床や壁を触ってみたが、全く熱さを感じない。


「それはいいのだが、問題があるぞ。扉が開かん」


 部屋に気を取られている僕たちを苦々しい目で見ながら、ナインさんが言った。その傍らでは先輩が扉と格闘しているが、押しても引いてもびくともしない様子だ。


「あー、もう! なんなのよ!」

「単純にパワー不足ですかね? さっきの人たち、結構体格良かったし……」


 こういう時にレックスの不在が大きく響くのが不甲斐なくて、僕は歯がみをした。


『挑戦者たちよ。しばし待つがよい。今は、その扉は開かぬ』


 するとどこからともなく、低く不思議な声が聞こえてくる。他の面子にも聞こえたようで、武器を構えるシャーロットさんにナインさん、いぶかるサイカさんの姿が見えた。


『ここは迷宮最深部。主に挑むことができるのは、ひと組のみ。前の勝負が終わる

まで、ただ待っているがよい』


 声はさらに続ける。どうやら、ボスとは別にこのダンジョンを管理している存在がいるようだ。石を隠したという重臣が作り出した存在なのだろうか。


「どうしてひと組しかチャレンジできないのよー。ねー!」


 先輩が聞いても声は返ってこない。さっきので伝えるべきことは全部言った、と言わんばかりに部屋の中はしんとしていた。


「それはやっぱり、何組もチャレンジできると難易度が落ちちゃうからじゃないですかね」


 ゲームでも、難度を上げるためにプレイヤーの人数や装備、時間に制限をかけるシステムが存在する。このダンジョンを作った人はテレビゲームなんて知らないだろうが、人間の考えていることは似通ってくるものだ。


「それに、報酬のやり取りでも揉めるじゃろうしな。これなら介入できない分、後から文句はつけにくい」


 サイカさんが言う。しかし介入しようと思っていた僕らにとっては、思わぬ横槍を入れられた格好になった。


「とりあえず今は、奴らが逃げ帰ってくるのを待つしかないか。レックスが追ってこないよう、こちらの入口は俺が見張ろう」


 そう言ってナインさんが見張りに立つ。僕たちはその間に、回復アイテムなどがないか部屋の中を探し回った。


「ものすごく強いのはないけど、弱い薬草や煙幕は置いてあるね。この部屋のサービ

スなのかな」

「それか、先に来た冒険者が邪魔だと思って置いていったかですよね」


 後者だとしたら、装備を厳選する余裕があって羨ましい。僕たちはとりあえず、使えそうなものを片っ端から荷物に入れていくしかなかった。


「……先の方々が部屋に入ってから、どのくらい経ちましたか?」

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