第一話
「ノエル、覚えてる?私が初めてここに来た時さ、あなたとっても優しくしてくれたのよ。」
「・・・そんなこと覚えてねぇよ!
あ、でもお前がチビだったのは覚えてるわ!今もチビだけどな!」
「もー、そんなことしか覚えてないのー?
呆れた。」
初めて会った時のこと・・・
もちろん覚えているさ。赤ん坊みたいに小さくて、痩せこけてたレイ。
前の施設でいじめられてたらしい。
初めて会った時、あいつは震えていた。
泣き腫らした目で俺たちを見て、話しかけても
“ごめんなさい”
それしか言わないんだ。そんなレイにムカついて、なんとしてでもあいつを笑わせてやるって思ったんだっけ。
あいつが初めて笑った時、俺は、あいつの顔から目が離せなくなった。
まさか、俺がレイを、そんなはずない。
レイと俺は家族なんだから。
そうだ、レイは家族だから好きなんだ。
ガキだった俺は人を好きになることが恥ずかしくてずっと自分を騙し続けてきた。
でも、たぶん、あの時から好きだったんだ。
家族とは違う。特別な”好き”だ。
そんなことを考えていると
「こんな世の中じゃ、生きていけない。
たくさんの夢も大きな希望もありはしない。
でも、そう、あなたとは、またどこかで会えたらいいな・・・。」
「その曲、じじいがよく歌ってるやつじゃん。」
「じじい!じーじーいー!起きろよおい!」
「寝かせてあげなよ。疲れたんでしょ、」
「最後の夜なのにひでぇや。
でも、その曲いい曲だよな。俺じじいから教わったことの中で唯一タメになったわ。」
「ふふっ、確かに、私もこの曲が1番かも。」
「もう歌詞が染み付いちゃったのよね。でもほんとにこの歌詞のようにって思う日が来るなんてなぁ・・・。」
レイは今にも泣きそうだった。
「レイ、大丈夫、大丈夫だから。」
「ノエルもそれ口癖だよね。安心するわぁ。」
確かに、何かあるたびに大丈夫と言ってきた気もする。俺は、こんな言葉しかかけてこれなかったんだなって自分が嫌になる。
レイが寝た後も俺は眠れなかった。レイとじじいと過ごした日々が頭の中を駆け巡る。
初めてレイから話しかけてきた日、
3人でしりとりをした日、
じじいが転んで大笑いした日、
とりとめのない日々なのに、一つ一つ輝いて見えてくる。
俺は泣いた。2人を起こさないようにそっと。
今までありがとう。レイ。