「第3回下野紘・巽悠衣子の小説家になろうラジオ大賞」参加作品シリーズ
初めての味噌汁は少しだけ苦くしょっぱかった
我が家には雪だるまの助手ジョッシュがいる。
超売れっ子作家の俺は、家事や身の回りのことがすっかり滞っており、心配した編集者が紹介してくれたのである。
最初はなぜ雪だるまなのかとも思ったが、ジョッシュはとても優秀で働き者であった。もうジョッシュの居ない生活には戻れないかもしれない。
「ジョッシュ、大丈夫か? ずいぶんやつれた……いや、小さくなったような気がする」
「ご心配なく、何も変わっていないですよ」
そう言うけれど、初めてやって来た時2メートルはあった身長が、今では170センチそこそこの私と変わらない。
暖房はしていないし、窓も全開にしてはいるものの、ここ数日暖かい日が続いていたせいか、日に日に小さくなってゆくジョッシュが心配だ。
「先生、顔色が悪いですよ、お風邪でも召したのでは?」
「ああ、そう言われてみれば少し寒気がするな……」
「風邪はひき始めが肝心です。原稿も順調ですし、お休みになってください」
四つの新連載を始めて疲れがたまっていたのかもしれない。
その夜40℃を超える熱が出た。
高熱にうかされながら、その夜私は夢をみた。
ジョッシュがその冷たい身体を額に押し当て看病してくれている夢だ。
みるみる小さくなってゆくジョッシュを止めようとするのだが、身体が動かないし、言葉を発することも出来ない。
やがて視界から消えてゆくジョッシュ。
『――――ジョォォッシュッ!!』
ようやく声が出た瞬間に目が覚めた。
良かった……やはり夢だったのか。
味噌汁の香りが鼻腔をくすぐる。
ぎゅるると腹の虫が鳴る。もう熱はすっかり下がっているようだ。
台所に行くとにじんだメモ書きと足場に使ったと思われる椅子が残されていた。
ジョッシュは雪だるまだ。料理の腕はたしかだが、火を使えば溶けてしまうので、いつも冷製料理ばかりだった。
まだ温かいうちに味噌汁をいただく。
美味い。心の芯まであたたまる。さすがジョッシュだ。
だがな、俺は冷たい味噌汁で良かったんだぞ。
豆腐と……なめこだろうか? 滲んで良く見えない。
少しだけ苦くてしょっぱいのは、隠し味だろうか。それとも汗っかきの俺のせいか。
今日は雪が降るらしい。一日だけ遅い鉛色の空がうらめしい。
積もったら作ろうか……雪だるま。
外は一面銀世界。
ドアの前には子猫サイズの雪だるま。
「そんなところにいたら風邪をひくぞ……ジョッシュ」
「ただいま、先生。そしてナイス・ジョーク!!」
雪、たくさん集めないとな。