怪談「呪いの怪談」
それは初夏で気温もだんだんと上がっていく季節、周りも衣替えをし始め女子が薄着になる良い季節です。
そんなある日、中学生の木村くんとその友人の藤村くんの2人は放課後教室に残って何となく話していました。
「最近暑いなー」とか「体育の時に鈴木がさぁ~」など普通に会話を楽しんでいました。
そんな他愛の無い会話をしていると、「あれ?男2人でなにやってんの?」っと一人の女子生徒が入ってきました。
その女子はクラスメイトの栄子さんでした。
「なに?面白い話でもしてるの??」と栄子さんがこちらに近づいてきました。
「ん?別になにって話でもないよwただくっちゃべってただけだよw」っと藤村くんが答え、そのまま藤村くんが「で、栄子はなんで放課後まで残ってんだ?」っと聞き返しました。
「へ?私?私はただ部活で残っててこれから帰る所のよw荷物取りに寄っただけw」っと答えました。
その問いに木村くんが教室の時計を見ると・・・時刻は16時でした。
「げ!もう16時かよ・・・てか、結構長くくっちゃべってたんだな・・」と木村くんがつぶやくと、「やだやだw男2人でさびしーw」ケラケラ笑いながら栄子さんが茶化してきました。
「うるせw」「ほっとけww」2人は栄子さんに反論すると、栄子さんは「はいはい、そこ詰めて~よいしょっと!で、何か話そう!」っと藤村くんの横に椅子を置くと話しに入ってきました。
「おいおい。帰るんじゃないのか?てか、そろそろ週番も回ってくるぞ?」と木村くんが言いましたが、「いいのいいの!w」っと栄子さんも含めて会話し始めました。
またしばらく他愛の無い話をし、何となく会話が途切れたところで栄子さんが「ねえ。そろそろ夏って感じじゃない?だから怖い話しようよ!」っと言いました。
「え?俺怖い話なんて知らないぞ??」っと木村くんが言うと、「え~?一個くらいなんかあるでしょ!じゃあ・・藤村なんか知らないの?」っと藤村くんに聞きました。
すると藤村くんが「ん~・・・」っと考えると、ちょっと椅子を引いて居住まいを正すと少しまじめな顔をして「なあ・・これから話す話、信じる信じない別として、聞いたら実行しなきゃいけないんだけど・・・それでも聞くか?」っと訊ねてきました。
木村くんは「え?どうした急に」と驚き、栄子さんは「お!いいね!面白そうw」っと喜びました。
そんな2人の反応を見て藤村くんは「いや。この話さ、2人でも4人でも5人でも、それ以上の人数で話してもなんも起きないらしいんだけど、3人。3人で聞いた時だけ確実に実行しないと呪われるって話なんだよ・・それでもいいなら話すんだけど・・どうかな?」と2人の顔を見ました。
「どうかなって・・・まあ・・・俺はかまわねーけど・・・栄子さんはどーよ?」と、木村くんが栄子さんに話を振ると「うん、私もおっけー。聞くよ!」っと聞く気まんまんでした。そして、2人の了承を得た藤村くんは「そっか・・・じゃあ話すか・・」っと語り始めました。
それはとある中学校で起こった話。
ある女子生徒がいて、その生徒は虐められていました。その女子生徒の名は「ト間 蘭子」(トノマランコ)、おっとりとした性格で運動が苦手。勉強は普通の地味な生徒でした。最初は「とんまのとのま」とか「とんまうんこ」とか悪口を言われる程度でしたが、いじめは徐々に激しくなり、物を隠されたり、上履き捨てられたりと・・エスカレートしていました。
そして、ト間さんが一番虐められたのが容姿について、それは顔に多量に出来てしまったニキビ。もともとニキビが出来やすい体質だったのか、そこに虐めによるストレスで顔中に出来ていました。
親にも言えず担任の先生も見て見ぬふり・・・もちろん相談のできる友人もいないト間さんはどんどん塞ぎこんでいきました。
来る日も来る日も虐められる日々・・そんな地獄のような日々が続いていました。
その日もト間さんはクラスで陰湿ないじめに遭い、暗くふさぎ込んだまま自宅へと帰ってきました。
家族が寝静まり深夜、明日も学校へ行かなくてはならない・・・そう思うと眠ることすらかなわず、机に向かいじっと座っていました。
ただずっと朝になるのを怯えながら待っていると、ふと机の上にある手鏡を手に取りました。そして覗き込んだ手鏡にはニキビだらけで寝不足の焦心しきったひどい顔の自分・・・そんな有様の自分を見てこう思いました。
「ああ・・・こんな醜い顔・・・こんな顔じゃなければこんなにも虐められる事はなかったのに・・・」そう思うとト間さんは衝動的に「じゃあこんな顔じゃなければいいんだ・・・」っと思い机の引き出しにしまってあったカミソリを手に取りおもむろに頬に当てる・・・そして・・・
ぞり・・・ぞぞぞ・・・ぞりぞり・・・
頬に当てたカミソリを一気にアゴそして反対側の頬まで顔に切り込みを入れ指をねじ込み・・顔の皮膚を掴み、力いっぱい一気に!・・・剥がす。
・・・め゛り゛・・め゛り゛め゛り゛・・・め゛り゛め゛り゛め゛り゛・・・
「かお・・・かおのかわをはげば・・・キレイナハダになれる・・・フフフ・・・ハハハ・・・アハハハハハwww」
それは想像を絶する激痛だったでしょう・・それでもト間さんは剥がすのを止めず、狂ったように力を込めて・・・剥がす・・
め゛り゛・・め゛り゛め゛り゛め゛り゛め゛り゛め゛り゛め゛り!!!
剥がれた皮膚の下から真っ赤な鮮血がびしゃびちゃと流れ滴り・・・頬から口・・・口から鼻・・鼻から目・・ついには・・額の方まで
め゛り゛め゛り゛め゛り゛め゛り゛め゛り゛め゛り!!! アハハハハハハハハハハハハ!wwwww
それはまるで帽子を取るように・・一気に頭の先まで!
そして・・そこには・・・ あたかもパーカーを着ているような・・フードが付いた・・・真っ赤なてるてる坊主の様な物が座っていました。
そう、顔から強引に剥がされた皮膚はそのまま頭皮と耳のあたりも巻き込み・・うなじのところで垂れ下がっていました。そして、唇も・・鼻も・・瞼も無く・・その真っ赤なてるてる坊主はらんらんとした目でもう一度手鏡を覗くと・・
「こレで・・・あしたからワタシはいじめらレない・・」
壮絶な笑みを浮かべたかと思うと次の瞬間!
「ぎゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!」
想像絶する激痛に叫び声を上げると、ト間さんはそのまま帰らぬ人となりました。
「・・・・え?終わり?!」
栄子さんはそう藤村くんに聞くと木村くんも「なんだか・・なんとも言えん微妙な怪談だなぁ」っと言いました。
そんな二人の反応を見た藤村くんはじっと・・二人を見返し・・こう言いました。
「そう。これだけならこの話・・正直微妙な怪談なんだよ・・・でも、まだ終わりじゃないんだよ・・この話はここからが本番なんだ・・」っと
「え?続きがあるの?」っと栄子さんが尋ねると「ああ。」っと短く返事をした藤村くんはこう続けました。
「続きって言えば続きかな?・・まあ、聞く前に質問だけど・・俺がこの話をする前に言った約束憶えてるか?」
その質問に木村くんが「ああ。なんか実行しなきゃってやつだろ?」っと答えると、「うん」っと頷いた藤村くんはこう切り出しました。
「実はこの話・・・呪いが掛かってる話なんだよ・・・」
「えー?呪い?」と栄子さんが訝しげに尋ねると、「ああ」っと返事をしてこう答えました。
「この話を聞いた三人は、ああ、語った人も含め三人な? 深夜2時までに必ず眠る事。」
「え?それだけ?」栄子さんが首を傾げると藤村くんは、
「うん、それだけ。」と答え、その答えになにか言おうとした栄子さんに手でストップをかけ、こう続けました。
「それだけだけど・・・それだけじゃない。ただ、たぶんだけど・・三人の内の誰かが奇妙な夢を見るはずなんだ。」
「奇妙な夢?」今度は木村くんが訝しげに尋ねると藤村くんは、
「そう、奇妙な夢。どんな夢かはかわからない。ただ、その夢には今日聞いたこの三人が必ず出てきて、その夢には3つルールがある。それは・・・・」
「・・・それは?」妙に神妙な藤村くんに、栄子さんがつられて神妙に尋ねる。すると藤村くんは指を3本立てて折り曲げながら、
「一つ、三人そろっている事。」
「二つ、その夢の中では決して声を出さない事。」
「三つ、その夢の中の物を取ったり、持ってきたり、食べたりしない事。」
「それが3つのルールか?」と木村くんが尋ね、「そうだ」と藤村くんが答えると、栄子さんが、
「ちなみに・・そのルール破ると・・・どうなるの?」と聞くと藤村くんは栄子さんの方に向き、
「まず三人が夢に出て来ないで一人が夢の中で待ちぼうけをになる・・・後、夢の中で死ぬほどの目に遭う」と言い、「もちろん2時までに寝なきゃ同じ目に遭う。」っと言いました。
「そっか・・・・なんだか・・・ゾクゾクするけど・・・ちょっとわくわくしてきたww」
栄子さんは笑顔でそう答えました。
その後、三人は必ず2時に寝る事とルールを守る事を誓い、教室を後にしました。
そして、次の日。
いつもの様に教室に入ると、そこには少し興奮すた様子の栄子さんがこちらに気が付き寄ってきました。
「木村くん!ちょっとこっち!こっちきて!」っとぐいぐいと腕をつかまれ藤村くんの席まで連れていかれると、
「ちょっと!!!すごくない?!あの怪談!!ほんとマジで夢見るとは思わなかったよあたし!!」と興奮を隠せない様子でバンバン背中を叩かれました。
「ちょ!ちょ!まて!いてーよ栄子さん!!」そんな木村くんの訴えなんて気が付かないほど興奮して喜んでいる栄子さんに藤村くんが、
「ってことは・・・夢を見たのは栄子だったんだな。まあ、そこまで喜んでくれたなら話してよかったなw」っと笑いました。
そしてだいぶ落ち着いた栄子さんは「私この話ほかのやつにも教えたい!藤村話していい?!」と尋ねました。そして、藤村くんは、
「まあ、この怪談は人を選ぶから、もし話すなら気を付けてな?」っと釘を刺しました。
そんなやり取りがあって一週間後、その日もいつもの様に学校に登校した木村くんが教室に入ると、そこには女子生徒2人と言い争いをする栄子さんがいました。
普段は明るくて誰にでも気さくで優しい彼女の見たことも無い剣幕にぎょっとした木村くんは、すぐに教室で事の成り行きを見ていたであろう藤村くんを見つけると、「おいおい・・・栄子さんすげー怒ってるけど、何があったん?」と尋ねました。
すると藤村くんはすこしばつが悪そうな顔をして、
「いや・・どうやら栄子があの二人に怪談聞かせたぽいんだよ・・・」と答えました。
その答えを聞いてから言い争ってる会話を聞くと・・・
「なんで来なかったんだよ!」「たかが怪談だろ?そんな作り話になにムキになってんの?w」「私はずっと2人を待ってたんだよ!」「しらねーよ!大体2時になんて寝れるわけねーじゃんwww」「死んじゃうんだよ?!!」「死ぬわけねーーじゃんwwうけるww」
どうやら栄子さん以外の2人が2時に眠らなかったぽい事が分かった。
その後、事態を聞きつけ慌てて来た担任教師によって喧嘩は止められ、放課後事情を説明となった。 そして、この日を境に栄子さんはだんだんおかしくなっていく・・・
言い争いがあった次の日、いつもの様に教室に入った木村くんが、教室で見かけた栄子さんに挨拶をすると・・・
「・・・おはよう・・・」
そこには何か・・・憔悴した栄子さんがいた。
いつも元気な彼女のギャップに木村くんは一瞬言葉を失い、戸惑いながら藤村くんの席に行き。
「なあなあ、栄子さんどうしたんだ?すげー変だぞ?」すると藤村くんも首を傾げつつ
「さあぁ・・・・なんか朝からずっとあーなんだよ・・・」と目で栄子さんを追う藤村くん、その目線に追って木村くんが栄子さんを見ると、考えられないくらい暗くうつむき加減で自分の席に座る栄子さんの姿があった・・・
そして、日を追うごとにどんどんおかしくなっていく栄子さん。
どこか上の空でぶつぶつつぶやいていたり、ただ一日中自分の席から動かずにふせっていたり、なにかに怯えるようにどこかびくびくしていたり・・・明るくて元気な彼女の面影はなくり、とうとうそのまま夏休みになりました。そして・・・
夏休みが終わり学校へ行くと・・・栄子さんの姿は無く、夏休みが終わる前に別の県へと引っ越したとの事でした。
クラスメイトに別れの言葉もなく引っ越してしまった栄子さんに、クラスメイト全員驚いている様子でしたが、同時にこんな噂が流れました。
「栄子さんは頭がおかしくなってしまった。」
という噂でした。そして、夏休みに栄子さんの家に行ったという生徒の話が流れはじめました。その話によると、
夏休みに遊ぼうと栄子さんの自宅に電話をかけても、栄子さんの母親が出て「栄子は風邪で寝込んでいる」と言うだけで取り次いでもらえず、心配になった生徒達が栄子さんの家にお見舞い行ったそうです。
しかし、お見舞いに行っても栄子さんの母親が対応をし、全く栄子さん本人には会えず、釈然としないまま家を後にしたそうです。
そして、帰り際にちらっと二階にある栄子さんの部屋の窓を見ると・・・・そこにはげっそりとして明らかに風邪とは思えない様子の栄子さんが無表情にこちらをじっと見ていた・・との事でした。
「あれ・・絶対何かあったんだよ・・・尋常じゃない様子だったもの・・」
と、自宅に行った生徒が語ったそうです。
そして、その栄子さんの話と同時に、どうやら栄子さんは「呪いにかかったらしい」という噂と「どうやらその呪いはとある怪談を聞くとなるらしい」という噂も流れ、木村くん達が卒業する頃には「呪いの怪談」と言う話が学校の七不思議として語られていました。
さて、その後栄子さんがどうなったのか?それは誰もわからぬまま・・・10年が過ぎました。そして、その10年後のある日、あの時のクラスメイトが集まる同窓会で驚きの事実が分かったそうです。
それは・・・10年ぶりに会った藤村くんと木村くんが二次会の飲み屋で会話をしている時、急に暗い顔をした藤村くんが木村くんこう切り出しました。
「・・・なあ・・木村・・・栄子さんって・・・覚えてるか?」
その問いにすぐに思い当たった木村くんは
「・・ああ。途中で転校していった栄子さんだろ?覚えてるけど・・・」と答えました。すると藤村くんが、
「・・そうか・・おぼえてるか・・・」とつぶやくと、意を決した顔をして、
「じゃあ・・・なんで転校していったかは・・・覚えてるか?」っと聞いてきました。
「そりゃー・・・確か・・急に転校していったとしか・・・」と答えると藤村くんは「そうか・・」っとしばらく黙ってしまいました。
そんな様子に木村くんは当時を思い出そうとし、しばらく考えると「あ・・・そーいえば・・・確か、呪いの怪談を話した後おかしくなったとか・・だったよ・・なあ?」と思い出して藤村くんに聞きました。
すると藤村くんは答えるでもなく黙って考え込むと、「実はさ・・・」と悲痛な面持ちで話しだしました。それは・・
「実は・・・ずっと黙っていたんだけどさ・・あの怪談・・・全部、作り話なんだよ・・・」
そう言った藤村くんに木村くんは、「え?!じゃあ、あの呪いはいったい何だったん?」と聞き返すと藤村くんはこう答えました。
「それが、あの時栄子さんが「何か怪談ない?」って聞いてきただろ?それであの時・・・即興でその場で作った話なんだよ・・・あの怪談・・・」
そう、藤村くんは自分が勝手に作った怪談で栄子さんがおかしくなったのでは?とずっと悩んでいて、その後も一人歩きしてしまった作り話の怪談をどうすることもできず、今日までずっと悩んでいたと語ったそうです。
じゃあ、あの怪談に元ネタはあるのか?と聞くと、どうもどっかで聞いたような怪談に適当にアレンジを加えその場で作ったから元ネタも何も無いとの事でした。
そして藤村くんはもう一つ今まで黙っていた事があると語ってくれました。それは、
「実は俺・・・あの夏休みに一度、栄子さんの家に行って、栄子さんに会ってるんだよ・・」
あまりの告白に一瞬え?っと止まってしまった木村くん。そんな木村くんを見ながらも藤村くんは、
「あの日、栄子さんがクラスの女子と言い争いをした後、すぐに様子がおかしくなったろ?・・だから俺きっと栄子さんがあの怪談を本気で信じてて怖がってるんだと思ってさ・・夏休みに入ってすぐに自宅に伺ったんだよ。」
そこまで聞いて思考が再開した木村くんは、「え?!じゃあ転校前の栄子さんにお前会ったの?」っと聞くと、藤村くんは無言で頷き、会って話もしたと答え、こう続けました。
「夏休みに家行ったら栄子さんだけが居てさ、上げてくれたんだよ。でも、明らかに様子が変でさ・・なんかすげー憔悴しきってて・・・栄子さんの部屋に入ってすぐに謝ったんだよ。ごめん!あの怪談全部作り話なんだ!って」
そこまで語ると手に持っていたビールを一口飲んだ藤村くん、そんな藤村くんに木村くんは「・・で、会って謝って・・・その後栄子さんはなんて言ったんだよ?」っと聞くと藤村くんは残ったビールを一気に飲み干すと、あの時栄子さんに微笑まれてこう言われたそうです。
「もう、手遅れだよ」
って。
その時の栄子さんの顔は一生忘れられないとの事でした。
ちなみに、その呪いの怪談。今も学校で語り継がれているそうです。