ケンカ友達
「ねえ、猪上さん。」
「なあに?」
「猪上さんて、好きな人とかいるの?」
「え、多分いないと思うよ。」
「へえ。」
あたしの好きな人…は、多分いないと思う。
だって、自分でも、…宏樹のことが好きなのか、
わからないもん。
友達としてなら…。ね。
「でもね、あたしは聡美が好き!」
「なに、突然。」
あたしは、こうやって自分に嘘をついていた。
でも、聡美のことも好きだもん。
嘘まではいかないかな。
「じゃあね。聡美。」
「うん。また明日ね。」
聡美と別れてから、家までの道のりは遠い。
ながいながい坂を自転車でのぼる。
息切れもする。
そのとき、後ろから、同級生の渡部十八が、通りかかった。
「お、猪上今帰りか。おせえな。」
「あんたこそ、人のこと言えないよ。」
近所の十八は、あたしの男友達だ。
ケンカ友達でもいいかもしれない。
「俺はいいの。お前はドジだから心配していってやってんだ。感謝した方がいいんじゃね?」
「余計な心配はいいよ。それとドジじゃないもん。」
「心配するな。わかってるって。嘘つかなくても良いんだぜ。」
「もう!」
とまあ、やはりケンカ友達だろう。
しかし、不思議と嫌な感じはしない。
「十八のばーーーか!」
「猪上のドーーージ!」
いちいちむかつくヤツだけど、
あたしから見れば、良き友達である。
家に帰り着いて、冷蔵庫から麦茶を出してコップに注ぎ、飲む。
いつものことだが、今日は何となくもやもやしていた。
あたしの、好きな人は誰なのだろう。
まず、好きな人は見つかるのだろうか。