テッテの交渉①
「あー胸が苦しいですわ。この苦しみをどこにぶつければいいのか分かりませんわ」
「テッテお嬢様、恋煩いは病気ではございませんので、安心してお休みください」
「ヨシエは冷たいのですね」
「ならば、お休みになるまでお傍におります」
ケーナと別れたテッテは、母国のバグラに向かう途中の町で宿泊していた。
テッテは持ち帰りの宿題に頭を悩ませている。どうやってケーナを国の者達に認めさせるかだ。
「わたしは知らないのだけど、ケーナ姉様が言っていた浮島についてヨシエは何か知っているかしら?」
「浮島でございますか。たしか物語の中にそのようなお話がありましたね」
「どのようなお話ですの?」
「神々が住む島ロンバルディアで、地上の者達を神々が見守っている話です。悪いことをすると神がそれを見つけ、天罰を下すような話だったと思います」
「まさにおとぎ話ですわね。お父様との交渉材料としては頼りないですわね」
「まだ城までまだ時間がございますので、頑張ってください」
「もう! ヨシエも何が案を考えてくださいまし」
「それはケーナ様とのお約束に反することになりますよ」
「ヒントぐらいはよくてよ」
「承知しました。それでしたら人族という弱い種族でも、良いところがある事をアピールされてはいかがでしょうか」
「“弱い” ですの?」
「はい、ケーナ様は人族ですから魔族とは違い劣る部分が多いかと」
「ヨシエ、あなたケーナお姉様が弱いと思ってらっしゃるの?」
「えっと…… 冒険者ですから普通の人族と比べれば強いと思いますが、魔族と比べると強いとは言えないかと」
「あー、ヨシエはケーナ姉様のこと本当に分かっていませんのね。ケーナ姉様が魔力をお使いになるところ一度も見てませんの?」
「魔人と戦った時の話でしょうか。魔法を使用したところを実際には見ておりませんでした」
「もったいないですわね。あれほど美しい魔力を未だかつて見たことがありませんわ」
「お嬢様がそれほど絶賛されるのでしたらそれを強さの証明にしたらよろしいかと」
「それはできませんわ」
「なぜでしょうか?」
「あの美しさを言葉で完璧に表現するのは不可能ですわ」
「魔力を強さの証明にできないとなりますと、あとは何がありましょうか?」
「スキルになりますわね」
「残念ながらケーナ様のスキルに関してもお嬢様以上に詳しくはございません」
「ヨシエはケーナ姉様の威圧スキルを後ろから見ていただけなのに気を失ってしまいましたからね」
「あの時は申し訳ありませんでした」
「いいわよそれくらい」
「その威圧スキルを強さの証明にしてはどうでしょうか」
「あのスキルも実際に前に立って受けてみないとその強さは分かりませんわ」
「ちなみにお嬢様は受けてみていかがでしたか?」
「ゾクゾクいたしましたわ。体の奥まで突き刺さる殺気なんて初めて受けましたの。ちょっとだけあの女騎士のようになりましたわ」
「どおりで、あの日のお召し替えは少々お汚れになっていたのですね」
「余計なことは言わなくてよくってよ」
「……お嬢様からみたケーナ様の強さは十分わかりました。たぶんですが、上位の魔族にも劣らない強さなのではないでしょうか」
「やっとヨシエも理解できましたわね。まぁヨシエは実際にケーナ姉様を見てますから、納得もしやすいと思いますわ」
「魔人を一瞬で凍らせた痕跡は見ていますからそれなりの強さなのかとは思っていました。ただどれぐらい強いかまでは計りかねていただけですので」
「そうですわね、もう決めましたわ。ケーナ姉様をお呼びして国の者に見てもらうしかありませんわ!!」
「それですとケーナ様はお越しにならないのではないでしょうか?」
「……はぁっ!! 良い事を思いつきましたわ! こちらに来て下さらないのでしたら。ケーナ姉様のもとにお迎えにあがればいいだけのことですわ」
「確かに……“遊びに行く” 条件が “全員を説得する” というだけで迎えに来てはダメとは仰っていませんでしたね」
「そうよ、なんでこんな簡単なことに気づけなかったのかしら。ケーナ姉様は少々恥ずかしがりやなところもありますから、迎えに来てなんてほしいとは言いだせませんわ」
「城にお迎えできれば後はどうにかなりそうですね」
「そうよ! 威圧スキルの1つでも放っていただいて城の者全員黙らせればよろしいのですわ。本気を出していただければばお父様も家臣もひれ伏しますわ」
ケーナの強さを完全には知ることができないが、魔法1つスキル1つとっても力の証明にはなると考えていた。
ただそれ以外に重要な強さがあるのに、自然なことになってしまい見落としていた2人だった。
「あーーー早く帰りたいですわーーー」
翌日の早朝には城にむけ出発し暇な時間を潰しに潰して何とか帰ってきたが、目に見えて城内の様子がおかしい。
全く活気が無かったのだ。
何かあったのかと下働きの者に訊ねても「いえ、何も……」と教えてはくれない。
まどろっこしいので、直接父親に突撃することにしたのだ。




