運命は勇者に従う⑤
子供とはいえ勇者を甘く見過ぎていたのか、まさかの事態に焦る。
スキルの中でもカテゴリー6に属するアブソーブをレジストするとなると同等の特別な強さを持つスキルの発動になるからだ。
身の危険を感じたので、DEBUG MASTERを発動し“ヒットボックス変更”を使用。これで私の当たり判定を0にしてマイナス効果もダメージも0になるお手軽な無敵化だ。
この無敵化は便利に見えて弱点もあり、ヒットボックスを0にした状態中は私の攻撃も一切当たらなくなるので戦闘で使うとなるといちいち切り替えが面倒になる。
ちなみに体がキラキラ光ったり特殊なBGMがついたりしない。
「おかあさん。お願い、目を開けて!!!」
直ぐには何もおこらなかった。
諦めたのか、失敗してしまったのかまた泣き始めてしまうノルク。
ただ私への警告は消えていないのでスキルの発動には成功していたようだ。
急にノルクの泣き叫ぶ声が止まり、空気の流れすら止まった。タイムも動いていない。
となると私とタイム以外の誰かが時を止めている。
「はぁーまったくまったく。こーゆーことは通る運命なんだから我慢してくれよー」
現れたのはこの異世界に来るときにお世話になった死神のレトによく似た感じの子だ。淡い黄色のパーカーを着ている。
死神と見て間違いないだろう。
私の収納空間という特殊な場所なのにも関わらず、次元を超越し死神を引きずり出す力。
発動に成功した勇者の固有スキル起死回生。
運命操作系統の特殊スキルで使用する場面といえば専ら戦闘で窮地に立たされたとき、そこから大逆転をするためのスキルなのだけど。
死神の手のひらにはふわふわと光り輝く魂。
それをそっと母親の体に戻していく。
「ねぇ、きみ。ぼくのこと見えてるよね? 声もきこえてるよね?」
その死神の言葉は勇者にではなくこちらに向けての言葉だった。
「はい。見えてますし、聞こえてます」
「あのさー。このちびっこに言っておいてくれない? 次同じことやったら君の魂持ってくよって。死人を生き返らすために使わないでねって」
「で、でも、どうやって?」
「脅しでも、洗脳でもこの際なんでもいいよ」
「え?」
「今、こうやってキミとボクが話できるのって異常なことなんだよ。時が止まってるのに普通に動いてるしさ。それができるのに、この子の躾けができないとか、ボクのことおちょくってるの?」
なんかスミマセン。
ナナスキルのおかげと言えばいいのか。元々神から貰ったスキルだから神の影響も受けないと言うことなのか。
「なんとかします」
「よろしくね。ほんと頼むよ。こっちだって暇だけど暇を邪魔されたくないいんだからさ」
(……サボりなのでは?)
「聞えてるからね。あ、あと、キミの事は見なかったことにするから。これ以上事態をややこしくしたくないからさ」
「……わかりました」
「じゃあっねぇーー」
すぅっと消えて時間の流れが戻る。
母親の状態が死から正常に変化している。これぞ奇跡というものなのか。
死という運命さえも捻じ曲げ望み通りに事を進める。
(勇者が特別強いわけだわ)
ゆっくり目を開けた母親は泣き続ける勇者の頭をそっと撫でる。
母親の胸に顔をうずめて泣いていた勇者もその優しい手に気づいた。
「ふぁ、お母……さん」
「ノルク……良かった……無事、だったのね」
「お母さん! 生きてる! お母さん!」
「ノルク!」
母親がギュッと子供を抱きしめ、共に生きている喜びを分ちあう。
もうこっちまで嬉しくなって泣きそうになっていた。
奇跡の再会。幸せな時間。
ホント、これで、めでたしめでたしにしたい。
だが、そうも言ってられないので、まず死神との約束から進めていく。
とりあえず2人を再び時間停止。
ノルクのステータスを鑑定眼で確認しつつナナスキルを発動さえマインドプロンプトを使用。
スキル起死回生のクールタイムを1年から10年に変更した。
これで次発動するのは早くても10年後だ。
完全に封印したり、削除したりしては勇者として本領を発揮できないかもしれないのでまた使える方向で考えた結果だ。
停止を解除してまずは自己紹介。その後、母親とノルクにどうして倒れていたのかを聞いてみた。
経緯としては生き残りの親子とほとんど一緒だった。
だがノルクの母親は魔人の姿を見ていた。全身が黒い魔人が3体もいたそうだ。
それに恐怖し、森へ逃げる途中で攻撃を受けてしまい気絶してしまったとのこと。
(絶命してそのまま死神にエスコートされてたんだけどね)
気がついた時はここにいたということだ。
「ケーナさんには助けていただきありがとうございます」
「いえいえいホント気にしないで。ただ問題が……村がめちゃくちゃになって、お二人を暫くここで匿えないかと思ってるんですけど」
空間収納内であることは伏せ。転移魔法で私の住処に移動してきたと誤魔化してある。
「それはこちらとしては願ってもない事ですが、お邪魔でなければよろしくお願いします」
「ここにいる間は、あの家自由に使ってもらって。元々宿屋なので部屋はいくつかあるのでご心配なく。分からないことがあればタイムって子か、私のそっくりさんに聞けば教えてくれるので大丈夫なはずです」
ノルクの取り扱いは事が終わった後にハイドを王に任せようと思う。
勇者を私が面倒見つづけるのはちょっと荷が重い。
ただ、今回の魔人の襲撃が勇者を狙ったものだとしたら、勇者が生き残ったのがバレた場合また襲い掛かってくるかもしれない。
(預け先が惨劇なことにならなきゃいいけど、考え過ぎかな……)
それでも念のため勇者であることは伝えようと思う。
空間収納から戻りふかふかのソファに座ると、さすがに疲れていたのかもしれないストンと深い眠りに落ちてしまった。




