運命は勇者に従う③
村が近づいていることが臭いで分かった。物が燃えた臭いが竜車に乗っていても分かったからだ。
小窓から前を見るとやはり黒煙が見える。
「なんだ。おかしいぞ村が燃えてるんじゃねーか!?」
御者の慌てる様子からもいつも通りではないということが分かった。
千里眼でも確認すると、やはり民家がほとんど燃やされていたり、倒壊していたりする。
住民の姿は倒れこむ人ばかりだ。
出血してる体には勇者の母親と同じようにえぐられた跡もある。魔人の襲撃の可能性が十分考えられる。
村の入口についたところで探索スキルを使う。まだ息のある人がいれば表示されるからだ。
外れの方の一軒の民家に4人の反応。皆で駆けつけると床下の小さな倉庫のようなところに子供3人と傷ついた母親が1人倒れていた。
母親は息を殺して痛みに耐えていた。腕には少しえぐられた跡がある。
音を立てないように子供達も泣くことを必死で耐えていたようだ。
「もう大丈夫だよ」
その声に反応した子が
「お願い、お母さんを助けて!!」
まだ息がある。魂がここにまだあるなら、なんとかなる。
ゼンちゃんの分を使ってしまうことになるが完全回復薬を使うことにした。
「君たちもこれ飲んで。これは……ただのポーションだよ」
母親のHPは元に戻った。
えぐられた傷もみるみる治り。顔色もよくなる。そのうち目覚めるだろう。
それを見ていたマトンもテッテもヨシエもこれがただのポーションではないことにすぐ気づいたみたいだった。
「お母さん、大丈夫かな」
「安心して、今はちょっと疲れて寝てるだけだから。すぐ起きると思うよ。だから傍にいてあげて」
「うん」
母親が目覚めるの待つ。テッテとヨシエは付近を見てくるとのこと。
その間、御者と今後の予定方針を練ることにした。
「これから向かうならどちらになりますか?」
「先に進んだ方がええ、ここにとどまる方があぶねぇな。それにこの村はルクセンブルクの管轄になるからな」
「ではそのように」
「夜に出発すれば明日の朝には着くかもしんねぇけどよ。昼間みてぇにモンスターが出なければいいんだが、夜だと狙われたら終りだ。こっちからじゃ何も見えん」
「冒険者の意地にかけてボア一匹近づけないよ」
「んー。分かった夜出発だ」
丁度母親が意識を取り戻したようで、起き上がる。
三人の息子達をみて安心したのか。
「お母さん、このお姉ちゃんが傷治してくれてんだよ」
「あ、あああ。ありがとうございます。本当にありがとうございます。ただお返しできるものが何もございません」
「お返しはいいよ。それより話を聞きたいのだけど」
「ありがとうございます。わたくしが分かることはそんなにありませんがお話させていただきます」
「どんなことでもいいよ。私たちさっき着いたばかりで何も知らなんだ」
恐怖を押し殺すようにして少しずつ話してくれた。
「昨日の夜の事です、最初に村を襲ったのは20人程度の山賊らしき者達です」
「ここらへんに山賊は元からいたの?」
「いいえ、山賊なんてわたくしは初めて見ます。その山賊達は村の子供を人質に取り、食料や金の要求をしてきました。最終的には『女を出せ』と言い始め、村の男達が抵抗をしていました。でも火矢を放たれてしまい家がどんどん燃え女と子供たちは逃げ惑っていたと思います」
「怪我したのも山賊のせいなの?」
「怪我は違います。男達がなんとか抵抗している時、空から大量の黒い玉のようなものが降ってきたのです」
「村を見たけどそんな玉のような物なんて無かったけど」
「わたくしも良くは分かりません。ただ腕に少しかすっただけなのに、焼けるような熱さを感じ、見た時には削れたようにえぐれていました。それでも何とか痛みに耐え子供達と床下に逃げたのです」
「その黒い玉が村の人達の命を奪ったのかもしれないね」
「あの、私たち以外で生き残ってる方は……」
「ごめんなさい。まだ見つけられてないの」
「あと、何を言っているのか分からない言葉も聞こえました。人族とは違う言葉で」
「もしかして、rg.db4tchftul^@yl みたいな感じ?」
「そう、それです。とても詰まるような音で聞き取りづらかったです。一体何の言葉なのでしょうか」
「これは魔人の中でもかなり古くからいる者たちが使う言葉みたい、私も今日知しったの。ここに来る前に1体の魔人と戦ったときにね」
「ではあの黒い玉の正体は魔人の仕業なのでしょうか?」
「可能性は十分あると思う」
「なんで魔族がこんな村に……」
「ありがとう、つらいこと思い出して話してくれて」
母親からの聞き取りはこれくらいにして、村の中を見回ったが生き残りの気配はもうなかった。
ほとんどの亡骸にはえぐられた跡や体を貫通して大きく孔があいていた。
村人たちが何でここまでされる必要があったのか。
山賊と思われる死体も13人分見つけた。村人の反撃で死んだ者もいたが、えぐられて出血死したような死体も多くあった。
賊と魔人が組んでいた可能性は低いと見る。もし組んでいても見捨てる前提だったかもしれない。
「夜にここを出発するけど、私達と一緒にいきます?」
「よろしいのでしょうか?」
「私今は冒険者のなりをしてますが、一応これでもハイド・ルクセンブルク様の婚約者なの。だから助けるのは当然ですよ」
「はぁ! 誠に感謝申し上げます。ほらぁ、お前たちも頭も下げて」
ハイドの名に驚き、慌てて息子達の頭に手を添えて無理やりお辞儀をさせる。
逆に萎縮させてしまったかもしれないが、遠慮されて残るといわれるよりはいいかもしれない。




