運命は勇者に従う②
「何かありましたかい?」
悲鳴を心配したのか、御者が小窓から声をかけてきてくれる。
「いえ、大丈夫です。気のせいでした……」
「ははは、それでしたらいいのですが。今日は珍しく平和でして、ボアっこ1匹見てんないんです。この調子なら村までもう少しですな」
「そうですか。ありがとうございます」
ペコペコとお礼をしているとグッと腕を引っ張られる。
「もう、ケーナ姉様は何て声をだしているのですか?」
「えーーっと、何かいた気がしたのだけど、見間違いだったかなぁ」
「いきなり大きな声をださないでくださいまし」
一番大きく叫んだのはテッテだし。
そんなことよりも、まさか勇者を見つけるとは思っていなかった。
しかもまだ年齢は6歳の男の子。
本物の勇者を拾ったのは初めて。
勇者といえばガイドブックで最強の勇者トラーゼン・アルバトロスの紹介を読んだぐらいだ。
子どもでも「幸運の」と付くぐらいなのでステータスのLUK値が
異常ともいえるぐらい高い。
私のLUKは1056。勇者のステータス補正を加味すると私より上になる。運だけとはいえこんなに高いLUK数値を見るのも初めてだった。
(さすが勇者)
厄介と言えば厄介だが、拾ってしまった以上無視するわけにもいかない。
もう一人の方は母親で間違いないだろう。
子を守ったのか。腕や足などにえぐられたような跡がある。そこからの出血が酷い。勇者の母の方は凄いステータスというわけではなかったようだ。
状態は死。
完全蘇生薬を使用すれば肉体の復元から魂の再構成までできるので母親復活となるが、魂状態を体験した身としては元の魂が既に死神に連れていかれた場合、仮の魂となってしまうのではないかと思った。そうなると本当の母親なのか分からない。
それでも賭けではあるがゼンちゃんにも使っている完全回復薬で蘇生を後で試みようと思った。
こちらであれば魂が肉体の中に残っていれば元の状態に戻すことができるからだ。
(でもとりあず保留だ保留!後でゆっくり考えよう。今勇者と顔を合わせさせる必要はない)
勇者も母親も停止した空間収納内でそっとしておくことにした。
「ケーナ姉様どうなさいました? 難しい顔をしていますわよ」
「あ、いえ何でもないよ」
「何か隠しごとですわね!?先ほども様子が変でしたし言ってごらんなさい!」
「だから何も無いって」
「嘘つくの下手ですわね。姉妹になったのですから隠し事は無しですわよ」
「夫婦になったみたいな感じでいわないでよもー」
「まったく、わたしの魅了と色欲が効かないケーナはこうゆうとき面倒ですわね」
「そんなこと言ってたら理想の旦那なんて一生現れないよ」
「何て酷いことを……冗談でも言わないでくださいまし」
怒った顔も可愛かったが、そんなことは絶対に言わない。
勇者をここで勇者の話をするわけにいかないので後回し、もうすぐ村につくとの事だし、村で美味しものでも探してみるのもいいかも知れない。
その後じっくり考えよう。
【魔人を補足しました】
【どうしますか?】
(おっと、魔人はモンスターにならないのか。そのままにしておいて)
千里眼スキルで確かめると、猛スピードにこちらに飛んで近づいてくるのが分かった。そのまま飛び去ってくれればと思ったので念のため御者に声をかける。
「竜車を一度止めてください。何かがこちらに向かってきます」
「とても嫌な気配ですわ」
やっぱりというか、魔物の狙いはこの竜車だったようで道の先で立って待っている。
話をして立ち去ってくれれば追いかけはしない。これ以上の面倒ごとはごめんなさいだ。
御者とヨシエを残し、三人で近づく。
真っ黒な羽、真っ黒な角、そして真っ黒な目。
亜人族とも一線を画すような見た目は恐怖をかきたてる。
「6j5o q@;q@ ]ok iy:@yt?」
急に話かけられたが言葉が私にはわからない。
テッテは理解できたようで私の前に出る。
「そんな古い言葉使わないでくださいまし、こいつ古の魔人ですわよ」
「gxj j64k]r/t up@bbie. hiit5Zw iy:@ys@ms 3cyw@e;f@ee>90ejd@y vz94ue iy:@yskf|2 at@:t@;qjd@y>6;qaf tuor@ slms@r 6;qak 2[oes@ cdw qjde」
「あなたにそんな事を言われる筋合いはございません!!」
テッテは怒っているので悪口でも言われたのだろうか。
やっぱり私は全く聞き取れなかった。人族でも亜人族でも無い言葉は異世界言語Aをもってしても聞き取れないということなのか。
話を理解できるようにナナスキルでこっそり異世界言語のスキルレベルをSまで上げる。
「ホカノ ヤツラ ムラノ ニンゲンカ? キイテイル コタエナイ アヤシイ コロス」
片言ではあるが意味は分かる。
「私達はオオイマキニドの方から来ました。この先の村に行く予定です」
「コノサキノ ムラニ イクノカ?」
「村に行きます」
「メンドウ ヤッパリ コロス」
そんな、直ぐにコロス、コロスで済ませないでほしい。もっと情報を引き出したかったが鋭い爪を伸ばし飛び掛かってきてしまった。
「シネ! コロス!!」
パリーーーーーン! バララバラバラ……
魔人がどの程度の強さなのか先に調べておけばよかった。
と、粉々になった魔人を見て後悔していた。
あの鋭い爪の攻撃を受けたなら、勇者の母親のような傷ができていたかもしれない。
とりあえず動きを封じるために私が氷結魔法で全身を凍らせ動きを止めておくつもりだったが、その直後にマトンが蹴りを入れてしまい粉砕してしまったのだ。
「テッテに任せて懐柔して色々聞きだせばよかったね」
「嫌ですわ、あんな身分も力量の差も分からない古の魔人に魅了を使いたくないですわ」
「申し訳ありません。あの魔人の顔が受け付けなかったので、思わず蹴りを入れてしまいました。しかしケーナ様の魔法、初めて拝見いたしましたが、あんなに綺麗な魔力を見るのは初めてです」
「そうですわ! 魔力はとても澄んでいて綺麗でしたわ。まるで聖水の様にキラキラと。こんなのを見せられたら、ますます魔力を合わせてみたくなりましたわ」
(隙あれば子供の話か?)
「これからはなるべくダガーしか使わないようにするよ」
「そんなぁ。いくらなんでもあんまりですわ。これは、人族の男どもが胸や尻の大きな女体を見た時の感想みたいな物ですわ。いちいち気にしていたら魔族の中で生きていけません事よ」
「そんないつでも発情してますみたいな台詞ますます聞きたくないよ」
魔力を合わせる
なんか想像と全然違う意味にもなりえることがわかったのでこの言葉は使わない様にしようと決めた。
竜車に戻るとヨシエも御者も魔人が粉砕されたことにとても驚いていた。
御者にいたっては自らの死を覚悟していたそうだ。
「でも不思議ですよね。こんな場所に魔人がいるなんて」
とヨシエの疑問は私も思っていたこと。
先ほどの勇者とその母親。もしかしたら村から逃げてきたのだろうか?
「村に急ごう、何かわかるかもしれない」
竜車を走らせ先を急いでもらった。




