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影の者①

 カスケード領への襲撃に失敗した報告を受けた後、ナジョトからオオイマキニドに帰還したノーザンとドラン。


 所属する組織に帰還報告をするために国の中枢都市でもあるイイコタキヤに来ていた。


 イイコタキヤは食の町でもあり、店舗の食事処はもちろんの事、小さなスペースでもあれば屋台が出ている。出店の数もさることながら、この町にはとあらゆる食材が集められ、ありとあらゆる料理が作られている。


 町の中はいつでも食の匂いが充満し、空腹のままで訪れてしまうと食欲を我慢することはできないらしい。


「お腹が……すいた」


「おやドラン、もう少しですよ、こんなところでうずくまらないでください。周りの方の迷惑にもなりますよ」


 人の流れが多い場所で突然うずくまり、食事を所望するドラン。


「お気持ちはお察ししますが、報告が終わるまで我慢してください。終わりましたら美味しい物を食べに行きましょう」


「わかった。頑張る」


「ありがとうございます。それでは行きますよ」


 スッと立ち上がったドランの手を引き、看板も窓もない黒塗りの建物に入って行く2人。


 ゴツイ警備員や何重もあるセキュリティをパスし入った薄暗い部屋には既に数人の人影があった。


「ノーザンです。ただいま戻りました導師様」


「これで全部か?」


「そのようですね」


 ここに集まるはオオイマキニドの精鋭の諜報員。他国の権力者に紛れ監視、観察、時には影響を与え、自国の利益のため動くのである。最終的には国を大きくさせ世界統治を目指しているのである。


 導師様と呼ばれる者がここの親玉であり、オオイマキニドの影の支配者でもある。


「では早速、報告はそうだな。北からお願いするとしよう」


 そう導師が発すると体の大きい男が一歩前に出る。


「おうよ。相変わらず北は何もねぇ。小国とごちゃごちゃやってるけどそれだけだ。以上」


「古の森の調査は進んで無いのか?」


「ああ。ねぇな」


「そうか。あの森の情報は極端に少ない、何かあれば直ぐ報告してくれ。では次は東、何かあるか?」


 すらりと背の高いダークエルフの女が口を開く。


「気になる情報が1つあるねぇ。名のある魔導士のレイン・ロップ、ミスト・キャティの2人が国外に出ている事が確認されているからねぇ。1人で軍団クラスの力を持ってるとされる者がふらふら外に出ていくとは、まったくあぶなっかしいったらありゃしないよ。だからこそ、何もないとは思えないんだけどねぇ」


「六大魔導士が動いているのか……。噂は本当だったのか」


「それについてだが、儂からもええか?」


 小柄な老爺が割って入る。


「南のバグラではな、インテルシアがアヤフローラに攻め込んだのではないかと言われておって、その理由が大魔法の発動をアヤフローラ国方面から観測されたそうじゃ」


「六大魔導士が攻め込んだと?」


「いやいや導師様、まだどこの国も宣戦布告をしておらんのじゃ。それでもバグラはアヤフローラとインテルシア両面に戦備体制がしかれておる。何がきっかけで事が始まるかわからんぞ」


「南に対しては引き続き監視をするしかないか」


「ところでじゃ、そこ我儘姫がこちらの国に遊びに来ているそうじゃないか」


「部下から報告で聞いている。例のカジノにいるそうだ」


「母国が戦争するかもしれないと言うときになんと呑気な姫じゃの。もしくはこちらに避難させたのか?」


「可能性は無くはないが……。一応こちらも監視はさせてある」


「じれってぇーな。ぱーっとおっぱじめればいいのによ」


「そんなに簡単にドンパチされちゃたまらんだろうて」


「あとの残るは中央か。例の作戦はどうだったんだ?」


 ノーザンの出番となり前に出る。


「はい、まず例作戦ですが失敗に終わりました。詳細は調査中でございます。ただ気になる事がございますのでお耳に入れていただければと」


「そこの連れて来た龍人族の娘が関係しているのか?」


「お察しの通りでございます、導師様。この娘ドランと申しまして、戦闘力の高さを買い普段は私の護衛をさせております。種族柄とても目がいいので諜報活動も時折させておりまして。奇襲の裏側でカスケードの観測をさせておりました。そこで作戦失敗となった原因のと思われる人物を目撃しております。しかしながら、その者との戦力差を目の当たりにし逃げ帰った次第でございます」


「おいおい、全然ダメじゃねーか、ぶっ潰しておかねーと」


 大柄な男の拳と拳をぶつけ合う音が鈍く響く。


「そうですね、それができたら一番良かったのかもしれませんが、あくまで観測が目的です命を捨ててまで行わなければならないものではありません」


「その者が龍人より強いと申すのか」


「その通りでございます。ドランが言うにはアヤフローラの勇者以上だと。敵対を避けることを前提とした行動が必要だといっております」


 今までは勇者にさえ気を付ければ大丈夫とされてきたので、未確認な戦力が勇者以上ともなればアヤフローラ教国の戦力を見直さなければならない。


「であれば無視することはできぬな。ノーザンにはその者の調査を始めて欲しい。けして気取られぬようにするのだぞ」


「……導師様。もう1つご報告しなければならないことがございます」


「なんだ」


「ドランとその者が既に接触済みでございます。オオイマキニドのとある町にて突然目の前に現れたと」


「あとをつけられていたのではないか?」


「ドランとは途中まで一緒でした。それはないかと」


「……おぬしらは既に顔が割れているのかもしれぬな。わかった調査には他の者をまわそう」


「申し訳ございません」


「謝罪はいらぬ、それだけ重要な情報であるからな」


「痛みいります」


「他の者も良く聞け。もしその者と出会うことがあれば可能な限り敵対は避けよ。勇者以上の者と戦闘となれば否が応でも、切り札を切るしかなくなってしまうのでな」


 導師の口から切り札の言葉が出た瞬間、皆の視線が集まった。

 それだけ気になっていた事なのだろう。


「ついでだ、最後に切り札について話しておこうか。完成した1つをもう持っている」


 胸元から取り出した淡く光る小石程度の魔石のようなもの。


「かなり古い魔導書の召喚魔法結晶生成技術をもとに独自に生成した召喚魔法結晶になる」


「一体何を召喚できるのでしょうか?」


「英雄アリスル様だ」

 

 一同の顔が疑念、驚き、困惑に染まる。

 切り札というのであれば相当な強者でなければならいのだから当然の話ではあるが


「本当に可能なのでしょうか? 英雄アリスル様は過去の大戦で既にお亡くなりになっているかと……」


 と、疑問の声がでてしまうのは当然の反応かもしれない。


「顕現時間や意思疎通などにまだまだ問題はあるが取りあえず完成という域まではきた。召喚魔法結晶が生成でき次第お主たちにも持たせる予定になっている」


「かしこまりました」

 

 アリスルは戦乙女というの二つ名を持つ英雄で、エンドスキル神速剣を所持し魔剣リーンフォースを携え1人で魔族軍10万と戦い勝ち抜いた記録がある。

 勇者より強いと噂され、いるだけでその国に魔族が攻め込めなかったとされる英雄の中の英雄だ。


「話しでしか知らねーが相当つえーんだろ?1回戦わせてくれや導師様」


「残念だがそれはできない。この召喚魔石結晶1つ作るまでに100億メルクは投資している。気軽には使えんのだよ」


「そりぁ失礼しましたっ」


「2つ目以降は順調にできるであろう。仮にこの情報が外に流れても問題ない所まで来たと言うことだ」


 導師の口調からするに、自信があるよう見て取れる。

 

「他に話し足りてない者はおるか?」


 その後は雑談を交え、残りの報告を終えるとこの場は解散となった。


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