お忍びの王子様
この異世界広しと言えど、誰にとっても安全な場所は限られている。
その数少ない場所の1つがこのカジノである。
その中でもブルースカイが最高クラスの安全性を誇る理由としては、全てのお客に持ち物検査があり危険物は勿論、アイテム・武具類・魔道具の持ち込みができないこと。
アンチマジックフィールドで一定の魔力量を超えない魔法の発動を制限し、アンチスキルフィールドで特定のスキルレベル以下のスキルの発動を妨害していること。
さらに他のカジノにはないパワートリックフィールドなるものでSTR値とINT値を強制的に入れ替える事で脳筋共や詐欺師も大人しくしていること。
純粋にカジノを楽しみたい人にとってこれ以上の場所はないのだ。
これらの安全性の評価もあって、王族がお忍びで足を運ぶことも珍しいことではない。
そしてここにもその王族でもありルクセンブルク大公の息子、ハイド・ルクセンブルグなる者が来ていた。
「ただいま戻りましたハイド坊ちゃま」
「セバステか。首尾どうだ。目ぼしい奴はいたか?」
6人の可愛く美しいメイドを引き連れふてぶてしくソファーに座っているので、お忍びで来ているわりにはとても目立ってしまっている様子。
しかし、そんなことは全く気にせず執事のセバステからの報告を受ける。
「貴族のご令嬢かと思いますが、1人だけ化け物染みた肝を持つ者がおりました」
「女か。して、その化け物の肝をどの程度と見る」
「ブルースカイの全資金を前にしても眉1つ変えないかと」
「は!は!は!は! セバステが冗談を言っておるぞ。皆も笑え」
御機嫌にハイドが笑ってお付きのメイド達に促すも、誰一人として表情は変わらない。
ハイドも笑うのをやめると真顔になる。
「ここの資金、安く見積もっても小国の10倍は超えると言われているのだぞ」
「存じております」
「冗談ではないと? その小娘に何かを感じたか?」
「その通りでございます。高額当選をした者の鼓動は、差異は有れど無意識に高鳴ってしまいます。それがまるで普段の生活しているかのように落ち着いておりました。年端のいかぬ子供が訓練でできることではございません。某も鼓動のコントロールは未だ完全には……」
「小娘ごときがイキっておるのか。だが大いに結構。セバステにそこまで言わせる者に興が沸いたぞ。己の目で確かめてみるとしよう」
目を見開くハイド。
「その者を何としても連れてまいれ」
「かしこまりました。フィーデリッツたちは共に来なさい」
その言葉に5人のメイドが反応しセバステの傍に歩み寄る。
残されたメイドは1人だけ。
「あなたは引き続きハイド坊ちゃまの護衛をしなさい。この場所は比較的安全ですがいざという時は命を賭してでも守りなさい」
「はい、かしこまりました」
「では、いって参ります」
気配を消して去っていくセバステ。
ハイドは「もう少し遊ぶか」とカジノの人混みの中に入っていった。




