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誕生日 1



「もうすぐ、セイディの誕生日ね」

「うん。二週間後だけど、なんだか緊張しちゃう」

「セイディがもう18歳になるのか。俺の中ではまだまだ、小さな子供なんだけどな」

「ふふ、ノーマンは本当にお兄ちゃんみたいだね」


 ある日の昼下がり、私は我が家の庭園でエリザとノーマンと共に、のんびりとお茶をしていた。


 二人も大分ここでの暮らしに慣れて来たようで、健康的な体型になってきている。もちろん、ノーマンの身体はジェラルドが健康管理を徹底してくれているらしい。


 一度、ノーマンと共に男に会いに行ったけれど、部屋の隅で怯えてばかりでまともに顔すら見られなくて。以前、私を襲った時とはまるで別人で、不気味なくらいだった。


「本当に誕生日に実行するの? せっかくのお祝いなのに」

「そもそも、私をお祝いに来てくれる人なんて少ないもの。パーティーも小規模だし」


 エリザは私の誕生日パーティーの日に、メイベルを罠に嵌めることを気にしてくれているようだった。


 とは言え、タバサによる悪評のせいで、いくら招待状を送ったところで私の誕生日パーティーに参加してくれる人間など限られている。家族や友人達は別で改めてお祝いしてくれることになっているし、私としてはそれだけで幸せだ。


 ちなみに両親には、薬を飲んで苦しむふりだけすると話してある。かなり迫真の演技になるとは言ってあるけれど、我ながら結構無理がある設定だとは思う。それでも今の所は納得してくれているようだった。


「ルーファス様は招待しないの?」

「うん。そもそも、ルーファスは表向きに私と関わらない方がいいから、何も送らないし言わないでおく」

 

 社交界では未だに私の悪評は広まり続けているのだ。ルーファスを呼んでは、彼や彼の家に迷惑をかけるだけだろう。

それに私が倒れる姿を見れば、ひどく心配するはず。


 ……本当は、ルーファスにもお祝いしてもらえたら嬉しいとは思うけれど。そんな我儘を言ってはいけないことも、今はそんな状況ではないことも、もちろん分かっている。


「ふふ、そのネックレス、本当にお気に入りなのね」


 彼の話をしているといつの間にか、私は無意識に首元のネックレスに触れていたらしい。先日、ルーファスと出かけた時に買ってもらった、赤い石のついたものだ。


 あれからずっと、毎日肌身離さず身につけている。


「ルーファス様とお揃いなんでしょう? 素敵だわ」

「うん。大切なんだ」

「セイディ、可愛い。女の子の顔してる」


 エリザは嬉しそうに微笑むと、私の頭を撫でた。


「早く全てを解決して、セイディとルーファス様が堂々と会えるようになってほしいわ」

「ありがとう、エリザ」

「そうだな。二人はとてもお似合いだと思うぞ」

「お、お似合いだなんて……」


 別に私とルーファスは、そういう関係ではない。けれど、先日も雑貨屋さんでおばあさんにもそう言われたことを思い出し、なんだか落ち着かなくなってしまった。




◇◇◇




「セイディお嬢様、本当に本当にお綺麗です……!」

「みんな、本当にありがとう」


 そしてあっという間に、誕生日当日になった。メイド達は腕によりをかけて私を着飾ってくれたけれど、途中でパーティーは台無しになることを思うと、胸が痛んだ。


 それでも、鏡に映る自分は思わず見惚れてしまうくらい綺麗で、まるで子供の頃に読んだお姫様みたいだと他人事のように思ってしまう。


「このドレスもすっごく素敵ですよね。さすが、」

「ちょっと、ダメよ!」

「あ、やだ! ごめんなさい」

「…………?」


 そんなやりとりをして、メイド達は慌てて部屋を出て行ってしまう。どうしたんだろうと思いつつ、姿見越しに小さな色とりどりの花が散りばめられた美しいドレスを見つめる。


 ドレスの花とお揃いの飾りが髪にも散りばめられていて、本当に可愛らしい。お父様が用意してくれたのかは分からないけれど、まるでお花畑のようなこのドレスは今まで見た中で一番素敵で。一人で思わず、姿見の前でくるくると何度も回ってしまったくらい、私は浮かれてしまっていた。


「セイディ、入っても大丈夫?」

「うん。どうぞ」


 ドア越しにそう返事をすればエリザとノーマンが部屋の中へと入ってきて、お祝いの言葉とともに恥ずかしくなるくらいに褒めちぎってくれた。ちなみに二人は今日、屋敷内で待機してもらうことになっている。


 するとエリザは突然私の手を取ると「ついて来て」と言って歩き出した。


「エリザ、どこへ行くの?」

「……ねえ、セイディ。今の私達にはお金も何もなくて、素敵なプレゼントも用意できなくてごめんなさい」

「いつも良くしてくれているのに、本当にすまない」

「そ、そんなこと気にしないで!」


 手を引かれ廊下を歩きながら、謝らないで欲しいと必死に訴えた。私はこの10年間、二人には数え切れないくらいに助けてもらっているのだから。


「それでも、俺達にもセイディの為に何かできることはないかと色々考えたんだ」


 やがて二人は、応接間の前で足を止めた。一体どうしたのだろうと思いながら、二人を見つめる。


「18歳のお誕生日、おめでとう」

「大好きよ、セイディ」


 そんな言葉と共にノーマンが扉を開け、そっとエリザに背中を押され、部屋の中へと足を踏み入れる。


 背後でドアが閉まる音がする中、一体何だろうと思っていると、すでに部屋の中に先客がいることに気がつく。


 そしてその顔を見た瞬間、私は息を呑んだ。


「……ルーファス?」



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