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落ち着かない日々



 ジェラルドを見送った私は自室へと戻ると、ぼふりとベッドに倒れ込んだ。


 どうやら彼は我が家の近くで用事を済ませた後、通りがかったついでに、土産にもらった高級なお酒をお父様に渡して帰ろうとしたところ、捕まってしまったらしい。


 私が元の身体に戻った際、フォローしてくれていた彼をお父様は気に入っているようだった。

 

 だからこそ、私が彼に婚約を申し込まれたと知り、お父様はとても喜んでいるようだった。私と彼と仲が良いということも知っているから、断るとは思っていないようで。


 ルーファス達を見送った後、しばらく三人で話をしていたけれど。お父様は婚約を受ける前提で話をするものだから、とても気まずい思いをした。


「どうしたら良いのかな……」


 先程も、二人になった時に断ろうとしたのだ。やはり、彼と結婚というのは考えられなくて。そんな私の様子に気づいたジェラルドは「急がなくていいから、まだ考えて欲しい」と言い、聞き入れてはくれなかった。


「……はあ」


 溜め息を吐き、枕元にあるウサギのぬいぐるみを抱き寄せる。先日、ルーファスがくれたお詫びの品のひとつだった。


 きっと、私くらいの年齢の女性に送るようなものではないだろう。それでも彼が一生懸命選んでくれたことが簡単に想像できて、胸の中が温かくなる。


 ぬいぐるみをそっと抱きしめると、私は目を閉じた。




◇◇◇




「あったよ。丁度いい薬」


 それから二週間後、再び我が家で5人で集まったところ、テーブルを囲むなりジェラルドはそう言ってのけた。


 どうやら先日の話に出てきた『死には至らないけど、ひたすら苦しみ続ける薬』を入手したらしい。


「よく、そんなもの見つけてきたね」

「見つけたというか、他に同じものがあっては困るから一から作らせたんだけどね。かなりいい値段がしたよ」


 特殊な調合をしているため、簡単には解毒剤を作ることは出来ないのだという。メイベルが苦しみ、身体を入れ替えたいと思うくらいの時間は稼げるはずだと彼は言った。


 彼の手の中の小瓶に入った薬は、真っ白な粉薬のようだった。もう一つの小瓶に入っている錠剤が、解毒薬らしい。


「けど、あの女が簡単にそれを飲むかな?」

「そこが問題よね」


 この二週間、他の方法がないか私なりに良い方法を探し調べ続け考えたけれど、やはり思いつかなかった。


「全く同じ物を目の前で一緒に飲むのはどう? それならメイベルも油断して、飲む可能性があるかもしれないし」

「確かにそうかもしれないけど、誰がやるの?」

「私がやる」


 そう言うとすぐに、隣に座っていたジェラルドが焦ったように、私の肩を強く掴んだ。


「絶対にだめだ」

「どうして? 安全なんでしょう?」

「それでも、セイディはだめだよ」

「私が一番適任だもの」


 絶対に私がやると言って聞かなかった結果、やはり一番適任だと思われたのか、みんな納得してくれたようだった。ジェラルドだけは、未だに反対していたけれど。


「……あとは、会う場を設けないと」


 私達があの場所に行って二人を救い出したことも、タバサを連れ出して話を聞いたことも、勿論あの女は知っているはずだ。いきなり私がお茶に誘ったところで、間違いなく怪しまれるだろう。


 何かいいきっかけがないだろうかと考えていると、ふと丁度いい機会があることに気が付いた。


「来月、私の誕生日なの。そこに招くのはどうかな」

「確かに一番、自然かもしれないね」


 貴族として大勢を招く場であれば、彼女も貴族令嬢という立場上、参加をする可能性がある。


 そうして、来月我が家で開催されるであろう誕生日パーティーにて、作戦を決行することになった。パーティーの最中に主役が倒れるのだ、滅茶苦茶になってしまうに違いない。


 とはいえ、相手は簡単な相手ではないのだ。それくらいする必要がある気がした。それまでに細かい作戦を練り、両親を驚かせないよう、うまく伝えておく必要がある。


「……他の方法がないか、考えておくよ」

 

 ちなみに帰り際、薬を入手してきた本人であるジェラルドがそんなことを言い出して、ニールに怒られていた。





「お嬢様、少しは息抜きをされたらどうですか?」

「息抜き?」

「はい。パーっと楽しいことをするとか」


 数日後、ティムと庭を散歩していたところ、ずっと自宅に籠っていた私を心配してか、彼はそう言ってくれた。


 ずっとあんな生活をしていたせいで、未だにその感覚がよく分からないのだ。こうして過ごしているだけで、私にとってはこれ以上ないくらいの贅沢に思えてしまう。


「例えば、何をしたらいいの?」

「酒でも飲むとか。付き合いますよ」

「お酒は怖いもの」

「飲み過ぎなければ、酒なんて怖くありませんよ」


 他の方法がいいと言えば、ティムはしばらく何かを考え込むような様子を見せた後、「そうだ」と口を開いた。


「ルーファス様と出かけてみてはいかがですか?」

「えっ?」

「ルーファス様ほどの方が傍にいれば、安心して出掛けられるじゃないですか。もちろん俺も護衛しますし」

「でも……」


 ティムは簡単にそう言ったけれど、彼は忙しいのだ。周りの目だってあるし、ただの遊びに付き合わせるのは迷惑だろうと言ったのだけれど。


「とりあえず、誘ってみればいいじゃないですか。忙しければ断られて終わりでしょうし」

「……そうかな」


 自分でも不思議なくらい、断られてしまうのが怖かった。けれど結局、2週間以上ルーファスと連絡も取っていなかった私は、手紙を書いてみることにした。


 近況報告をメインにして、一番最後にさりげなく、来週時間があれば一緒にどこかへ行かないかという誘いを書き綴った。ついそこだけ文字が小さくなってしまって、逆に目立ってしまったような気がする。


 お気に入りの封筒に手紙を入れると、騎士団へと届けるよう使用人に頼んだ。やはり迷惑だったり負担に思われたりしてはどうしようと、不安な気持ちになってしまう。


「送っちゃった……」


 ソワソワしながら、ぎゅうっと彼にもらったウサギのぬいぐるみを抱きしめる。これから数日、返事が来るまで落ち着かない日々を過ごすのかと思っていたけれど。


 それからたった数時間で、ルーファスからは「いつでもどこにでも付き合う」という返事が届いたのだった。



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