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奇跡のような

タイトルの通りです……!



「俺は、格好いいんだろうか」

「は?」


 交代を済ませ、勤務を終えて休憩室で紅茶を飲んでいると突然、謎の兜を被った男が中へと入ってきた。


 そして思わず茶を吹き出しそうになった俺に、そいつは開口一番そんなことを尋ねてきたのだ。訳がわからなすぎて、どこから突っ込めばいいかわからない。


「セイディが俺のことを、とても格好いいと言っていた」

「待ってください、また彼女と関わったんですか? そして何故、そんなものを被っているんです?」

「これを被っていたから、俺だと周りにはバレていない」

「…………」


 落ち着いて順を追って話を聞くと、どうやら彼はこの姿でセイディ・アークライトを外まで送り届けてきたらしい。彼女はこの姿のルーファスを、一体どう思ったのだろう。俺ならば一緒に歩くのも絶対に嫌だ。


 とにかく古びた兜を外させると、ルーファスは呆れるくらいに幸せそうな顔をしていた。


 そもそも、美しく着飾った彼女を一目見ただけで「心臓が痛い」「誰にも見せたくない」などと訳の分からないことを言い、壁に頭を打ち付けていたくらいだというのに。


 そんな彼女と会話をしながら歩き、その上「騎士姿が格好良かった」と言われたのだ、ここまで浮かれるのも頷ける。


「好きすぎて死ぬかもしれない」

「そうですか。残念です」

「……彼女の話について、今まで以上に動こうと思う」

「侯爵の件は大丈夫なんですか?」

「裏で上手くやるつもりだ」


 本当に、この調子で大丈夫なのだろうか。そもそも、彼だって暇ではないのだ。心配になり、俺も手を貸すから何かあれば言うよう伝えれば、ルーファスはひどく驚いた表情を浮かべた後、丁寧に礼を言ってくれた。


「あと、盗難騒ぎになっては困りますから、それは後でちゃんと戻してきてくださいよ」

「分かった」

「それにしても戻ってくるのが遅かったですね、彼女を送ってきただけじゃなかったんですか?」

「ああ。彼女に声を掛けた男と話をしてきた」


 どうやら、送り届けようとこの兜を被って戻ったところ、セイディ・アークライトは男に絡まれていたらしい。無理やり彼女の腕を掴んだりしていたようで、果たして本当に話をするだけで済んだのだろうか。


 けれど嬉しそうに兜を見つめるルーファスに、そんなことを尋ねる気にはなれなかった。




◇◇◇




「──はい、全問正解です。貴女は物覚えが早いですね」

「本当ですか? ありがとうございます」


 無事に舞踏会を終え、ニールとも再会できた私は毎日上機嫌だった。ちなみに2日後、いよいよニールとジェラルドと三人で会うことになっている。


 そして今日も家庭教師として来てくださったラモーナ先生に、この国について色々と教えて貰っていた。


「教会の仕組みについては、大分理解しましたか?」

「はい」


 ラモーナ先生は何を知らないのかすら知らない私に、知っておくべきことを一から教えてくれている。


 今の私は常識がないにも程があるというのに、彼女は嫌な顔や不思議な顔ひとつせず、丁寧に教えてくれている。私の家庭教師には勿体なさすぎる、素敵な方だと思う。


「あの、どうして教皇様はこんなにも長生きなんですか?」

「神から産まれたからだと言われていますよ」

「神様から……! どんな方なんですか?」

「男性だとも女性だとも、幼子だとも老人だとも言われています。姿を見れるのは、限られた一部の人間だけですから」


 そんなにもすごい人がいたなんて、知らなかった。


 むしろそんな奇跡みたいな人が存在するのだ、私達の入れ替わりだって信じてくれたっていいのにと思ってしまう。困ったことに、今のところ証拠は何ひとつないけれど。


 この国の貴族が王派閥、教会派閥などに分かれている中、アークライト伯爵家は中立という立ち位置のようだった。


「ラモーナ先生は、どこの派閥なんですか?」

「我が伯爵家は中立です。……いいですかセイディ、私だから良いものの、迂闊に他人にそれを尋ねてはいけません」

「そ、そうなんですね。すみません」

「いえ、これから気を付ければ良い事ですよ。特に今は情勢が不安定なので、外でこの話は絶対にしないように」


 分かりましたと深く頷くと、先生は手帳を取り出した。


「次回は、魔法について学びましょうか。天気が良ければ、屋外で練習してみるのも良いですね」

「はい、よろしくお願いします」

「実は私も水魔法使いなんです。過去の生徒は、風や氷魔法使いが多かったんですけれど」

「そうなんですね……! 精一杯、頑張ります」


 私の言葉に、今度は彼女が頷く。そして「貴女は不思議な子ですね」と言うと、ラモーナ先生は柔らかく微笑んだ。


「きっと、貴女が私の最後の生徒になると思います」

「最後……?」

「ええ。元々はもう、誰かにこうして何かを教えるつもりはなかったんです。けれどどうしても、貴女の家庭教師をして欲しいと言う方がいたものですから」


 けれどこうして貴女と知り合えて良かった、これからも頑張りましょうと言ってくれて、とても嬉しくなった。そんな先生に恥じないような生徒になりたいと思う。


 けれど、誰がラモーナ先生に私の家庭教師をするよう頼んでくれたのかは、教えてもらえないままで。結局、先生を通してお礼を伝えてもらうことしか出来なかった。




 やがてラモーナ先生を見送った私は、糸や本を買いに街中へと行くことにした。ティムの剣帯用の糸が足りなくなったのと、先日図書館にあったような本を買い、自宅でも色々調べようと思ったからだ。


 私が少し出かけるだけで大事になるため、お使いを頼もうかとも思ったけれど。外の空気を吸うのも大切だと皆言ってくれて、結局お言葉に甘えることにした私は、いつものようにハーラとティム、その他に護衛を二人連れて屋敷を出た。


 そして目的の品を買い終え、今日はもう真っ直ぐに帰ろうと思っていた時だった。



「セイディ?」



 不意に名前を呼ばれ、振り返る。するとすぐにティムが、私の名を呼んだ相手と私の間に入ってくれた。私は少しだけ顔を出し、ティムの背中越しに相手の顔を見たけれど。


 かなりの高身長のさわやかなその男性に、もちろん見覚えはない。一体誰だろうと思っていると、ばっちり目が合った彼は何故か、ひどく嬉しそうな表情を浮かべていて。


「君は、雑草抜きのセイディだろう?」

「……えっ?」


 戸惑いを隠せない私に、彼は柔らかく微笑んだ。


「俺だよ、ノーマンだ」



読んでくださり、ありがとうございます。


この度、こちらの作品の書籍化が決定いたしました!

いつも応援してくださる皆様のお蔭です。

本当にありがとうございます。


詳細は今後、活動報告やツイッターにてお知らせします。

お気に入りユーザー登録などもして頂けると嬉しいです。


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