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1.2.学園生活(2)

 教師の寒川大輔は、英語の非常勤講師で、教育に対する熱意は薄い。正規の教員たちも全体としてみるとお世辞には情熱的な教育者とは言いづらいのだが、事務作業と親への対応で疲弊していて何とも気の毒である。

 子どもへの対応の質を上げるために存在するはずの事務作業と親への対応が結果として低劣なサービスにつながっているという事実はウケるとしか言いようがなかった。

 寒川は非常勤講師という職を、正規職員へのステップと考えているわけでも収入源として考えているわけでもやりがいとも考えているわけでもなかった。仕方なくやらざるを得なかった単なる副業である。

 寒川はこうして非常勤で学生と接する前は、自分が潜在的に高校生に性的欲望を持つタイプだったらどうしようかという恐れを抱いていたが、学生と接しても何ら性的な興奮を感じなかったので、非常に助かった。寒川の見立てではこの学校の教員の一部には紛れもない真正がおり、さらにそのうち一部は職場でその欲望を満たしているということを知っている。

 寒川は仕事の場で自分の欲求を満たそうとするタイプの人間がわからない。お金をもらう先と性的欲求を満たす場所と職を失う危険を同じにしてしまうのは、うまく行き続ける限りにおいてはある種の正解なのかもしれないが、うまく行かなくなったときにはすべてを失う危険がある。この仕事は一時的に多額の報酬を得られる仕事ではないのだから、堅実さや安定性を手にするために教師として働いているはずであり、生徒に手を出すのは倫理的問題の前に自分の稼ぎの意図を裏切っている。

「寒川先生、おはよう」

 と声をかけたのは一人の女子生徒だ。名前もわからないが、寒川はとりあえずおはようと返しておいた。寒川は長身で痩せこけていて、切れ長の目が吊り上がっており、怖がっている生徒もいればあこがれを抱く生徒もいる。寒川としてはどうでもいい。どうせ少しの時間しか一緒にいない相手なので、しばらくのあいだ、ここにいられればよいのである。

 そもそも教員免許を取得したの自体が大学の友人に付き合ってのことだった。

実地研修では担当の教師がひどい男で、学生を相手にマウントをかますという非常識な男であり、気持ち悪い豚のような人間だった。豚の言い分を聞いていたら気持ちが悪くなってきて、寒川もぞんざいな応答をしていたら、さらに関係が険悪になり、最終的には寒川の言い分を無視し始めるという暴挙に出た。寒川は豚は不愉快なだけだが、せっかく時間を使ったのに満足な結果が得られないのは気分が悪いと考えて、その夜に豚の帰宅途中、監視カメラの死角になるスポットで豚の耳をアイスピックで一突きした。他人の声を聞こえないふりをする豚なのだから、耳垢でも詰まっていたのだろう。もしかしたら、耳が悪いのではなく、耳がとらえた情報をうまく脳に変換できないのかもしれない。脳ではなく、糞でも詰まっているのかもしれない。

 耳垢だけではなく糞のような脳みそをかきだしてあげよう、とアイスピックで耳から脳までを貫通させて、ぐるっと一回転させた。ちょうどサザエのつぼ焼きから身の部分をくりぬくようなイメージだったろうか。

 豚は寒川の行動をほとんど認識できず、寒川も即座にアイスピックをしまい、立ち去った。豚はほとんど苦しみもせずに逝ったようで、教育実習は別の担当者になり、比較的スムースに完了した。寒川は自分にとって邪魔な人間をストレートに排除することに慣れすぎていて、部屋の汚れを掃除した後のようなすっきりした気分さえなかったのだった。

 この学校では、そうした暴力の必要性はほとんどないようだった。というのも、寒川はそもそも学校教員の中では最底辺であり、そこから上に行こうという気持ちがまるでないため、迫害されることもないのである。

 いやがらせでもされたら暴力で解決しようと考えていたが、その必要がないのは面倒なことをしなくて済むという点で喜ばしい。生徒にしても本当に聞き分けのないどうしようもないのがいたら、殺せばいいと考えていたが、さすがは進学校。そもそも問題児とされている生徒のレベルが大して問題児ではないうえに、寒川に対して反抗する気配が少しもなかった。

 寒川は同僚のことも生徒のことも考えない。

 報酬だけを問題として仕事をこなすのである。


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