0.4.天災4
「で、俺を呼んだわけか」
テーブルには少ししょんぼりして見える妹とその横で悪びれるところなくカップラーメンをすすっている少女がいる。
遥は兄にうなずいて返答した。
少女によると、今回の事件に関する情報提供をしてやる代わりに、宿と食べ物の提供をしろとのことらしかった。力は抑え込んでいるらしかったが、妹によれば、少なく見積もって、彼方と遥のふたりと同格とのことだった。彼方の自覚の枠内でいえば、少なくともわが組織における最高位の魔術師二人に並ぶ程度の基本能力を持っているということになる。
しかし、それだけの達人がここまで力を抑え込むことができるだろうか。どんな技術なのか想像がつかない。
少女は彼方が部屋に入ると、おかまいなく、とだけ言っていた。ここは彼方や遥の所属する組織のものであり、彼女がもしふたりと敵対する立場なのだとしたら、敵の包囲網に飛び込むようなものなのだが、少女にはそういう緊張は見られない。
もしかすると、ふたりを相手にしても優位と自分自身を見積もっているくらいには自信過剰なのかもしれなかったし、あるいは、本当にそうなのかもしれない。危険性などというものは相対的な物であり主観的な物だ。向こう見ずな人が感じる危険性は慎重な人間が感じるものよりも小さいだろうし、ネズミにとっての猫と人間にとっての猫の脅威性は天と地ほど違う。
少女——オンミドウハナという名前らしい——は、ばかばかしい話を二回するのも面倒だから、と言い、遥に責任者を呼ぶように告げた。ある意味馬鹿正直な彼方の妹は、勝手に判断をあれこれする前に兄に連絡をし、彼方がここに来たということになる。
「詳しい話は、遥お姉さんのお兄さんが来てからのほうがいいかなと思って、先に食事をいただいたり、昼寝をさせてもらった次第っす」
かわいい妹分ができたものだな、と言いたげな表情で彼方が遥の方に目をやると、遥は目を反らした。
「そんな粗末なインスタントフードなんて食べずに、ちゃんとした料理を作ればよかったんじゃないか」
「私もそう言ったんだけど」
「おかまいなくっす。予約しているわけでもないのに、食事とか風呂とか寝床にありつけるのに、これ以上の贅沢は言うもんじゃないと思うっす。歓迎される立場ではないのは十分理解しているつもりっす」
「その割にはずいぶんくつろいでいらっしゃるご様子で」
「警戒する必要がどこにあるっすか? ぼくはここで昼寝もさせてもらってるっす」
「俺たちに悪意があるかもしれない」
「こんないいとこのお嬢さんみたいな人に悪さはできないと僕は高をくくってるっす」
「その兄はとんでもない悪党かもしれないだろう?」
「いいところのお嬢さんの肉親ならたいていは育ちのいいひとではないかなあと。違うっすか?」
遥はなぜかにこにこしているが、あの事態の中心地にいて、なおかつ、自分たちと同程度の実力を持っている人間を前にして気を抜くなどということは到底あり得ないのであり、このハナという少女を侮ったり、それを前にしてくつろぐなどということがあってはならないのだ、本来は。しかし、彼方は何となくふたりがかりで彼女を攻撃したとしても、まともな争いになる気がしなかった。
まずですね、とハナは人差し指を立てる。
「おふたりがぼくの力を測りかねているとしても、それは未熟さではないっす」
なぜなら、とハナは続ける。
「ぼくはこの世界とは違う世界からやってきました。異世界の勇者ってやつっすね」
ハナは平然と異世界の勇者を名乗りだしたが、ふたりをからかう様子でも冗談を話している様子でもなかった。
「おふたりとは異なるシステムで魔術を覚え、異なるシステムで鍛えてきたので、ぼくの力を正確に測ることが難しいんだと思うっす」
「にわかには信じられないんですけど、ハナさん……はもちろんまじめに言ってるんですよね」
「明確にまじめに話をしてるっす。だいたい、こんな話がまじめじゃなかったら、ぼくは危ない人か、おふたりのことを心の底から馬鹿にしていることになると思うっす。ぼくはそんな人間ではないっす」
彼方は真剣な面持ちで、君の身分と今回の事件は、と切り出す。
「異世界の勇者と今回のこの事態は関係あるのか?」
「あるっす。大あり。このあたりで今は動きを止めているけれども決して死んでいるわけでも、弱っているわけでもなく、落ち着いているだけの厄介な奴はうちの世界から転生した存在っす。ぼくはこの存在を消し去るために、うちの世界から派遣された勇者っす」