0.2.天災2
遥の伝えたことに従えば、その都市の1中学校を中心とした爆発が起こった。爆風は物理的な物でもあり、また、魔術的なものでもあり、まず中学校全体を包み込んだ。地面はめくれ上がり、建物はバラバラに吹き飛んだ。建物はほとんどがれきになっていたようである。しかし、特徴的なことは多大な衝撃とともに爆風が巻き起こったが、その後はほとんど火事など起こっておらず、警察による救助活動の結果、生存者は1名しか存在しなかったことが確かめられた。生存者は軽傷だったが、ほとんどの死亡者は原形をとどめていなかったという。
中学校の周囲に控えていた最前線の魔術師5人もこの爆風で死亡した。3層の多重障壁は爆風によって貫かれて、魔術師たちは魂を肉体からはがされて死亡した。肉体に対するダメージはほとんどなかったが、魔術的な結界は完膚なきまでに破壊されてたのではないかと推測される。想定される威力は、彼方クラスの魔術師であればとっさにダメージを軽減できたはずだ。準備を怠っていれば死んだかもしれない。多くの場合、戦いは陣地の構築や準備の段階で勝敗を決しているものだが、準備が間に合わなければ達人でも勝ち残ることはない。
北条家のデータベースを調べたところ、この規模の魔術的な災害(人為的なものかどうかも定かではないのだが)は過去にはなかった。近年で最も被害者を出したのは、狂気に駆られた大魔術師が入念な準備を行って自爆したときだが、止めに入った魔術師ひとりが命と引き換えに爆風を防いだおかげで、一般人の死亡者は数十人で抑えることができた。ショッピングセンターという立地でたくさんの人間を巻き込んで、自爆の代わりに邪悪な存在を召喚しようとしたようである。しかし、数十人の命では大規模な召喚魔術は実行できなかったらしい。
しかし、今回の件は中学校の建物の中にいた生命と引き換えに何かを達成しようとした形跡は見られないと遥は言っている。遥は多少そそっかしいところはあるが、北条家の最高位の魔術師であり、大規模な魔術の準備がなされていれば見抜いただろう。数百人がなくなったことは何らかの成果をもたらすものではなく、出来事の結果である。
「しかし……まだ終わっていないんだよなあ」
彼方はこめかみのあたりを抑える。頭痛がひどいとしか言いようがない。桁違いの人が死に、次の攻撃の様子こそないものの魔力の胎動は確認されている。魔力の源は下水に存在することはわかっている。しかし、下手に刺激すれば、何が起こるか予測できない。現場では恐怖感が浸透しており、彼方の慎重論は受け入れられている。彼ら魔術師は、カっとなって行動することはない。仲間が十分な準備を行ったうえで死亡している状態で、調査が不十分なところではさらなる貴県に身をさらすようなことはしない。基本的に彼らは十分に利己的なので、義憤に駆られてリスクをとるようなことはしないのだ。問題は機関を統べる立場の老人たちだが、彼らも十分な調査をするようにという旨を連絡してきている。問題はその調査をだれがやるかということなのだが、実力的に、遥か彼方が慎重に進めていく以外ないだろう。下水道の存在に動きがあれば、調査ではなく、何らかの対処か退去が要求される。
慎重さに加えて柔軟さが求められる。おまけに命を賭けなければいけない状況にあるのは、彼方自身であり実妹の彼方である。