0.1.天災
現在、稼働できるすべての魔術者たちを集め、寄せ集めとはいえ一応の協力体制を構築し、向かったはずだった。危険性は極めて少ないと判断されていたとはいえ、この3日の間に要注意対象にまで成り上がった対象だった。そして、3日目にして、危険性は切羽詰まるものとして認識されるようになっていた。北条彼方は術師たちのリーダーとして、また、頭の固い老人たちと現場の若い魔術師をつなぐ中間管理職としてこれまでやってきたが、ここまで急転する事態に出くわしたことは初めてだった。
まあ、北条家の当主とはいえ、30前の若造である。周囲から天才と持ち上げられ、いい気になっていたことは否定しないが、天才という自分を守り通そうとして10代から突出した実績を上げるために頑張ってきた。それこそ20代になりたての頃は、複雑な人間関係や利害関係とプライドと自分の可能性のかみ合わなさに十円禿を作ったことだってある。
端正な顔立ちはその頃から苦い表情をすることが多い。しかし、気苦労はすべてはねのけてこそ、自分の非凡さを世界に訴求することができる、という信念——功名心に基づいて行動してきた。これまではなかなかの実績を上げてきたように思う。
しかし、今度ばかりは違っていた。
最前線に配置した魔術師たちは爆風に飲まれて殉死した。異なる3つの障壁を3重に張った状態で見張っていたにもかかわらずである。優秀な魔術師たちを偵察要員にもできずに失ってしまった。命が失われるのはやるせないし、貴重な人材を潰してしまったことも悲惨なことだし、何よりも事態が完全にこちらの読みを上回っていたことは深刻だ。この策を話した時には、当の現場の魔術師たちにはこう言われたものである。
「彼方さんはリスクを過大評価しすぎなんですよ。この前、首都圏一帯に生じた魔障の対処でさえ、こんな防御策を講じる必要はなかった。まあ、用心するには越したことはないから採用しますが」
現場の人間が誤ったのは仕方がないとして、北条彼方自身が完全に見誤っていたのは、自分が考えた最良の予防策が何の役にも立たなかったということである。最善の選択肢がいとも簡単に破られてしまったということが意味するのは、最悪の事態が生じているということだ。
スマートフォンが鳴る。
「お、通じた通じた。彼方兄さん、現場なんですが」
妹の北条遥が落ち着いた声で電話越しに話しかけてくる。彼方は司令室として使用している北条家の別邸で構えている。
北条遥は最前線ではなかったが、一歩間違えば塵と化していた。他のメンバーに比べて、妹の命が重要だと表立って言うことはできないが、彼女が無事だったことは彼方にまともな判断能力を保つくさびくらいにはなってくれている。
「現地の様子をお伝えします」