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ひとびと。 14:空は語る愛を語る

『その気持ち』を何というのか、最初からわかっていたように思う。

 美しく広い、自分たちを抱く天空。雲の流れゆく様。風の音。少しずつ少しずつ姿を変える草花たち。移り変わる世界の色を、ひどく懐かしく感じ、遠くにあるように思えて寂しさを覚えるのは何故なのか。時々見る夢も、そう。遙かな地上を見下ろし、大地を抱くように翼を広げて羽ばたく夢だ。どこからか遠い場所からやってきて、たどり着いたこの地を慈しみ、守りたいと思っている。

 それは『その気持ち』のせいなのだ。

「あっ、あんなところに……!」

『その気持ち』そのものの声が響いて、軽やかにやってきた人影が、自分を抱き上げる。

「もう、目を離すとすぐにいなくなっちゃうんだから……」

 満面の笑み。喜び。幸せ。光のようにきらめく感情を受け止めるも、それを表す言葉を知らない自分は、ただただ空を指差した。あそこにあるんだ。あの青を見上げたときの感情が、あなたに伝えたいもの。

 ふふっとその人は笑う。

「どうしたの、コウセツ? お空? うん、青くて綺麗ねえ」

 そこへ低い呼び声がして、その人に抱かれたまま一緒に振り返る。

 ゆったりとした足取りでやってくるその人を目にした途端、再び『その気持ち』が溢れて、空を指して声を上げた。そこに自分の伝えたい思いがあるから、見てほしいと精一杯腕を伸ばして、声を上げて、二人を呼ぶ。

「……どうした、コウセツ」

「ああぁう、あうぁうばー!」

 空は、私の、あなたの、あなたたちの心を映す。

 大勢の人々の思いを託され、抱いて、輝き、移り変わり、陰って、また輝く。

 このときの出来事は、遠からず忘れ去られるけれど、『その気持ち』は欠片になって残り、育まれていく。小さな種が芽吹くように。弱り萎れるときもあれば、硬い蕾のようなときもある。けれどいつしか、空を指し示した純粋な気持ちそのものの、大きな花を咲かせるだろう。そしてきっと『その気持ち』を歌い語るのだ。

 あなたを想っている。あなたを誰よりも、愛していると。

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