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第一話 はじまりはじまり

と、いうわけで季節を無視した新連載ですよ、奥様。ちょいと長くなるかもですがお付き合いいただけると嬉しいです。

元は短編なのでそちらを先にお読み頂けると話の把握は楽かもです。ちなみに短編同様文章ルールがちょっと特殊なのでお気をつけください(主人公は基本的に「」を使わない、など)。


前回、入れられなかった設定を入れていくのでちょくちょくシリアスが入るかもですが、まぁ気にせずに。


あ、あとちょくちょく小ネタを突っ込んでいきますので評価欄などでツッコミを入れてくれると作者が喜びますです、はい。

 さぁ、始めようか。

 彼と彼女の面白おかしくて幸せなお話を。


 例え結末が面白おかしくて幸せでなくとも。




※――――※――――※




 ―――突然なのですが現在、僕は少しだけ焦りながら自転車のペダルをこいで、朝の住宅街を疾走しています。定員は僕を含めて二名です。


「あらあら! 朝から大変ね」

…おはようございます。矢作さん。

「あんまり急ぐと危ないわよ」

…気を付けます。篠原さん。


 朝独特の冷えた空気を切りさきながら、すれ違ったご近所さんたちと挨拶を交わします。

 やっぱりご近所付き合いは大切だと思います。お醤油とか切れたら貸してくれますしね。

 ちなみに後ろの荷台に乗っている人は器用に眠りについています。危ないったらありません。


…落ちちゃいますよ、義姉(ねえ)さん。

「……んんん、落ちないよう」


 僕の言葉に反応したのか、はたまた自転車の揺れに反応したのか、自転車の後ろに乗っていた僕よりも一つ年上で、高校二年生の義理の姉が目を覚ましました。


「…まったく誰のせいで遅刻しそうなのよー」


 義姉さんは後ろから僕の頭を叩きながらブチブチと文句を言っています。

 そうです。僕たちは今、遅刻しそうになっているのです。理由はベタに寝坊です。

 ちなみに今日は九月のはじめ。つまりは新学期なのです。


「ほらー、誰のせいか答えてみなさい!」


 未だにべしべしと僕の頭を叩いている義姉さんが僕に詰問します。


…痛いです。痛いですよ義姉さん。それとお願いですから暴れないでください。危ないです。


 叩かれるたびにぶれる視界に若干の危機感を覚えてなんとかやめてもらいます。


 あと一応訂正しておきますが、義姉さんは僕に非があるように言っていますが原因は間違いなく義姉さんです。

 寝たまま家中の時計の電池を抜き取って自分の枕もとに集めるという奇行のせいで、今こうしていつも乗らない自転車をこいでいる訳です。



 僕たちは大きくはなく、かといって小さくもない一戸建ての家に二人きりで住んでいます。

 僕たちはもともと孤児で、義理の両親に養子として迎え入れられるまで同じ孤児院で生活をしていました。

 両親は二人ともとんでもない変わり者で尚且つとんでもない金持ちでした。

 そんな二人がある日、ふらりと出かけた先で事故に遭い、あっけなくこの世から去ってしまいました。


 そこから、改めて話す必要もないくらいドロドロでデロデロな展開が僕たちを待っていたわけですが、今ここでそれを思い出してしまうと朝から泥沼のようなテンションで一日を過ごさなければいけなくなるので、またの機会にでも。



「あとちょっとだね。ほらハイヨーシルバー!」

…どこのカウボーイですか。それにさっきも言いましたが叩かないでください。結構危ないんですよ。


 駅まで残り数分というところで再び僕の頭をべしべしと叩く義姉さんをなだめてすかして止めると、駅までの道のりの中での最難関、いわゆる心臓破りの坂に向けて勢いをつけます。


…しっかりつかまっててくださいね。一気に上りますよ。

「……ねぇねぇ。ここで一つ、ゲームでもしないかい?」


 僕が腰を浮かす直前、義姉さんがそんなことを口にしました。


…ゲーム、ですか? 一体どんにゃっ!?


 僕が言い終わる前に、義姉さんは手を動かしていました。

 僕のわき腹に。


「ぐっふっふっふっ、相変わらずここは弱いみたいだねぇ」


 義姉さんはまるで悪代官のような笑い声をあげながら、僕の急所であるわき腹に指を這わしてきます。


…い、一体にゃっ!

「ほれほれ~、ボディーがお留守だぜぇ」

…自転車をこいでるんですから当たり前でぇっ!

「では、ルール説明! この坂を私の妨害に屈することなくテッペンまで上りきれたら君の勝ち! 今日のごはん当番を私が代わろうじゃないか!」


 拳をグッと握って、フフンと義姉さんは勇ましく鼻を鳴らしています。

 その自信満々な様子に僕は一抹の不安を抱きます。

 そしてあまり聞きたくはないのですが、聞かなくてはならない重要なことを聞きます。


…じゃあ、僕が敗けた場合はどうなるんでしょうか?

「う~ん、そーだなぁ。……じゃあ『一日私に逆らえない券』を発行ってことで」

…なんだかとてつもなくリスキーな博打を強制させられている気がするのですが。

「男の子が細かいことを気にしな~い! 残すところあと少し、頑張れ!」


 義姉さんは『頑張れ』という言葉とは裏腹に、両手を再びわき腹に戻してピアニストよろしく、指を動かしてきます。

 体をよじってその魔手から逃れようとしますが、当然、自転車をこいでいるわけですからうまくいきません。

 すっと前を見ると義姉さんの言うとおり、頂上(ゴール)はもうすぐです。避けることを諦め、覚悟を決めて一気に頂上を目指します。


「うわっ! 急にからだが固くなった!」

…ふふふ、そう長くは保ちませんが身体全体の筋肉を張らせてますからね。半端な妨害(こうげき)は効きませんよ!

「なんですって!?」


 僕が得意げに鼻をならす様子を見て、義姉さんはぐうっと唸りながら黙りこみます。なにがしかの対策を練ろうとしてるのでしょう。

 しかしながらそれは遅いのです。戦場(いくさば)ではその一瞬の躊躇いが(はいぼく)を招くのですよ!


「……くっふっふ」


 何でしょうか……? 若干の余裕すら見せている僕の姿を見て義姉さんがニヤリと笑った気がします。しかしながらそれと反するようにその手は止まっています。

 ものすごくイヤな予感がしますが何にせよ今がチャンスです。最後の力を振り絞り身体を硬直させたままペダルをこぎます。


…この勝負! 僕がもらいまし

「……ふっふっふ、だから君は若いというのだよ義弟(おとうと)君」


 僕の勝ち名乗りをさえぎって義姉さんが眼鏡を直す仕草をします。ちなみに義姉さんは眼鏡などかけていません。


「剛を制するのはいつも柔なのだよ」


 そう言うと義姉さんは立ちこぎをしている僕にくっつくようにして半立ちの状態になります。坂を上っている状態で全体的に斜めになっているなか、難なく立つバランス感覚はすさまじいものがあります。

 端から見れば何がしたいのかわからない意味不明な格好ですが、やられている方からすればちょっとマズイ格好です。特に背中が……。

 しかしながら頂上まではあと少しです。このまま……!


「ふっふっふ、喰らいなさい! 我が必殺技、『ごっどぶれーす』!!」


 義姉さんは高々と必殺技の名前を叫びながら―――僕の耳に息を吹きかけました。


…い、い、いやあああぁぁぁぁぁぁッ!!



 当然、腹筋と背筋に力を入れていた僕はなす術なく脱力してしまいました。

 そしてこれも当然ながら自転車は上ってきた坂道をすさまじいスピード逆走を始めました。


…結局、学校は遅刻になりそうですね。

「アハハハハ、はやーい!」


 逆走する自転車の上で僕はため息をついて現実逃避気味なつぶやきを洩らしてしまいます。



…それにしても、これどうやって止めましょうかね。

「ジェットコースターだぁぁぁぁぁ!!」


 誰にともなくつぶやいた僕の疑問に答えてくれる人はいませんでした。

結局、新学期早々遅刻をしてしまったわけですがとりあえず急げば始業式に間に合うかもです……。

…とにもかくにも、相変わらずやたら滅多に僕の心配をする義姉さんを電車に詰めて、僕も急がなくちゃいけませんね。


次回『愉快な仲間と義弟君』


お楽しみに!

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