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バークレーは、会話の内容に驚愕していた。貴重なマジックアイテムを三つも使用して抑えなければならない魔力をウィルが持っていることも。大精霊のことを語りだしたことも。ふつうの冒険者が語る内容ではなかった。
「……ちょっと待ってくれ。サラマンダーが喜ぶって、ウィリアムは高位精霊召喚士なのか?」
「サラマンダーやウンディーネは、友達だから普段は召喚では呼ばないよ。それに召喚術は、未熟と言われてたから、失敗しそうで怖いんだけどね。大体、友達を意のままに操るやり方も嫌いだから」
「ウ、ウンディーネ? 精霊を二体。それで未熟…………」
精霊を友達と呼ぶウィルに、疲れ切ったようにバークレーは肩を落とした。同じような体験をしたマーシャルはバークレーの姿を見て苦笑する。
「バークレー、これでも彼は最低ランクですか?」
「は? バカなこと言うな。高位精霊召喚士の巫女は王国に二人しか居ないんだぞ! しかもウィリアムに従っている精霊は二体だ!」
「従っているんじゃないよ、友達だから。それに、オズワルド公爵領には、僕より強い化け物級の人が沢山いるしね」
「俺が悪かったから、もう、いじめんでくれ」
「いじめるとかそんなんじゃないよ。本当のことだよ」
「そういう問題じゃないと思うんだが……」
街に住んでいるエルフ族は少数で、大抵のエルフ族は、森の人で滅多に街へ降りて来ない。ハイエルフは伝説の中にいる人物と呼ばれ、竜人族に至っては、最早絶滅種だと巷では言われている。伝説も絶滅種も、身近に存在するというのに。
「マーシャル、頼む。どうにかしてくれ」
困ったようにマーシャルへ視線を向けたバークレーに、ようやく普段の様子に戻ったとマーシャルは安堵の表情を浮かべた。
「彼の中では、そういう問題なのですよ。諦めてください。それでランクを上げることは出来るのですか?」
「そんな急にランクを上げられる訳がないだろう。それこそ、気付かれれば神殿に連れて行かれる。冒険者ギルドにも手順があるんだ。ただ、そうだな。……騎士団の依頼を受ける方法ならある」
「あるのですか?」
「確か……そう。特別依頼と呼ばれていたはずだ。指名依頼に似たようなものだが、その方法ならランクは関係なくなる」
十年も冒険者ギルドに居るが、そんな依頼が出されたことがない。バークレーでさえ忘れていた。調べてみないことには、特別依頼の条件内容も覚えていない。ただ、ランクが関係なくなることだけは、覚えていた。話を聞いたマーシャルは暫く考えている様子だったが顔を上げると頷いて見せた。
「なるほど。総長と話してみましょう。そういう方法があるということを知らなかったので」
知るも何もサットドールが前例のない能力なのだから、対処法もあるはずがない。ウィルだから対処できるといっても過言ではないだろう。
「まあ、普通にないなあ」
「ないですねえ」
「……ないって何が?」
マーシャルとバークレーの会話に、ウィルは訳が分からず首を傾げた。バークレーは、ウィルを見ると口を開く。
「Eランク、だな。今はEランクだ。その後で、Dランクで試験を受けてもらう。Dランク試験は魔物の討伐依頼だから楽勝だろう。その次がCランク試験だが、ウィリアムは人との戦闘は出来るか?」
「あ、うん。たぶん、平気」
「そうか。Cランクになる頃には、ギルドにも知り合いが出来るだろうからな」
いきなりランクの話になり、その上、試験の内容まで明かされウィルは目を白黒させた。そして気になったのはバークレーの最後の台詞だ。
「知り合いを作らなきゃいけないの?」
「ああ、Cランクの試験は護衛依頼でなねパーティを組む必要がある。それ以前に普通はパーティを組んで依頼を受ける者が多いし、ギルドに通う間に自然と話をする者が現れる」
「気が重いなあ……。出来れば一人がいい。パーティ組むと、色々問題が起こりそう。僕、話すことが苦手で下手だし、武器も特殊だから」
意外な発言に、バークレーはウィルを見詰める。マーシャルはウィルの言いたいことが分かったのか何かを考え始めた。
「そうは言っても、護衛依頼も討伐依頼もパーティというより、ひとつの分隊程の規模になったりする。小さなパーティが難しいとなると後々大変だぞ」
「そうですね。確かに、バークレーの言うことにも一理あります。ですが、彼の戦闘スタイルだとパーティを組むのは、本当に難しいかもしれません。それに持ち物を狙う者も現れるかもしれません」
「まさか、さっきのがウィリアムの武器なのか?」
「うん。これだよ」
ウィルの返事と共に、龍刃連接剣がウィルの手に具現した。
「このままだと杖なんだけど、僕の意思で普通の剣にも連接剣や鞭にもなる。杖や剣なら周りに人がいても平気だろうけど、連接剣や鞭にした時が、ちょっと怖いかもしれない」
「私が見たのは、鞭でしたね。普通の剣にもなるのですか?」
「うん。……見せたいけど、ここでこれ以上解放することは出来ないよ」
困った顔をしながら、ウィルは収納へ龍刃連接剣を戻した。
「……魔剣、なのか? いや、それより何故消えた?」
「確かに魔剣だけど、僕専用だから他の人には使えない。消えた理由は、僕がマジックアイテムの収納を持ってるから」
「ウィリアム専用? マジックアイテム?」
「うん。武器も収納も僕専用」
ウィルは未だ目を丸くするバークレーを見て、溜め息を吐く。
「サラマンダーやウンディーネがいるから、パーティ組まなくても平気なんだけど」
「そりゃ、知り合い程度の冒険者より、ずっと信頼できるんだろうが……」
「先の話でしょうし、今日は帰りましょう。その間に信頼できる冒険者も見つかるかもしれません」
「そ、そうだな。そうしよう。ギルドカードの件は職員へ伝えておくから。それがいい」
マーシャルの提案に頷いて、バークレーは話を締めくくる。余りの情報量に、バークレーの思考回路は焼き切れそうだ。誓約のことも、ウィリアムのことも、今は何も考えたくない。ただ、精神的に何かが、ガリガリと削られたような気がした。
マーシャルとウィルが、バークレーに挨拶を済ませてギルドマスターの部屋を出ると、廊下に一人の騎士が立っている。
「どうやら、長居し過ぎたようですね」
マーシャルを迎えに来た第一師団の騎士のようだ。冒険者ギルドの裏口から外に出ると、箱馬車が停まっており、ウィルも乗るよう促される。嫌がるウィルを騎士とマーシャルで無理やり押し込み、箱馬車は動き出す。
家までの道程は、箱馬車だと然程掛からない。あっという間に家へと続く小道の前に辿り着き、箱馬車は大通り沿いに停まった。
「それでは、私も帰りますね」
「……もう、乗せないでね? 置いて行っていいんだからね?」
「そんな可哀想なことは、出来ませんよ。それに楽しかったです」
「僕は楽しくないからね? 早く帰れて嬉しいし、有難いけど、それに乗るのは本当に嫌なんだからね!」
「ああ、そういえば言い忘れていました。後から、オーウェンが来るそうです」
ウィルの苦情はさらりと流し、マーシャルは思い出したことを伝えた。その言葉にウィルは身体を揺らす。事件後、会うことが叶わなかった相手である。
「……オーウェン?」
「ええ。ウィルに謝りたいと」
「……そんな。僕の方が謝らないといけないのに」
「まあ、そういう事なので、ちゃんと家に居てくださいね」
クラーク・トマの件は、ウィルにもオーウェンにも大きな衝撃を与えていた。特に、ウィルにとって負い目を抱える出来事だっただろう。しかし、マーシャルはオーウェンのウィルに対する想いを知っている。だからこそ、オーウェンにウィルの居場所を教えたのだ。マーシャルは、伝えることを語り終えると、御者に出発の指示を出した。




