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グラティア 〜少年は平穏を望む〜  作者: 玄雅 幻
殺意を向けられた少年
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 もの言いたげなガイを尻目に、マーシャルはアレクサンドラに対応策の提案を始める。


「では、一つ目。デイジー嬢が、冒険者ギルドに身分を明かしている場合です。総長にデイジー嬢と面会して頂き、オズワルド公爵領の退去をオズワルド公爵領主代理として、命じて頂く方法です。現状、デイジー嬢は不法滞在者ですから一番簡単な方法ですね。ハバネル伯爵にも、有無を言わせることが出来ません」


「二つ目は、デイジー嬢が冒険者ギルドに身分を偽っていて、尚且つハバネル伯爵がデイジー嬢の存在を否定した場合ですが、騎士に怪我を負わせた罪状で処罰します。オズワルド公爵領追放の処罰ですね。此方は、ノーザイト要塞砦騎士団総長としてデイジー嬢に会って頂きます」


「三つ目ですが、一番厄介ですね。ハバネル伯爵がデイジーの存在を認め、デイジー嬢が冒険者ギルドに身分を偽っていた場合です。不法滞在には違いありませんが、ハバネル伯爵家からオズワルド公爵家に、滞在の申請が可能となってしまうのです。ハバネル伯爵にデイジー嬢がオズワルド公爵領に居ることを知らなかったと言える隙を与えてしまいますからね。その場合、少々強引になってしまいますが、ハバネル伯爵にデイジー嬢を迎えに来て頂きます。ノーザイト要塞砦騎士団でデイジー嬢が騎士に対して傷害事件を起こしたと伝えれば、応じるしかありませんからね」


 長い説明にアレクサンドラは吐息を吐く。


「つまり、対応の仕方が変わるだけで、私にデイジー嬢を追い出せということか」

「そうですね。今の貴方は、それだけの特権を持っているでしょう? 私は、使える者は上司でも領主代理でも使いますよ」

「まあ、それは認めよう」


 認めるのか! と、心の中で叫ぶガイであったが、笑みを更に深め、意味ありげにガイを見るマーシャルに悪寒が走る。


「あと一つ方法が取れる方法があったのですが、私もガイと一緒にデイジー嬢と顔合わせしてしまいましたからね」

「……まさかとは思うが」

「事故に見せかけて、デイジー嬢を暗殺する方法ですよ。流石に個人的な事情で、第三師団の騎士を働かせることは出来ませんから、この場合は、私が動くことが最も妥当な策だったでしょうね」

「マーシャルっ! 貴様、何を考えているっ」


 余りにも危うい発言に、ガイは立ち上って怒声を浴びせる。秩序と法を重んじる騎士が、それを良しとするのか……決してならないだろう。固く握りしめた拳に、自然と力が入る。しかし、マーシャルは、半ば当然のように受け流し、言葉を続けた。


「非道にならなければ、護れない場合もあるのですよ」

「確かにノーザイト要塞砦騎士団を預かる身としては許しがたい発言であるが、オズワルド公爵令嬢として意見するならば、マーシャルの言葉は、至当(しとう)な発言だ」

「総長。貴方まで、何ということを!」

「まあ、落ち着け。座って最後まで話を聞け」


 アレクサンドラにまで肯定されてしまえば、反論することも叶わずガイは項垂れ、言われた通りソファへ腰掛ける。 


「レイゼバルト王国……いや、この場合アルトディニア全土という方が正しいか。今の貴族社会の闇は深いぞ。ガイもいずれ王都の老害共と遣り合うことになるのだ。心しておく必要がある。そういう点では、マーシャルは心強い友となろう。王都の闇を、余すことなく知っているのだからな」


 オズワルド公爵領に住む貴族達は、互いに気持ちが突き抜けている。それは、やはり魔境の影響だ。腹の探り合いをしていられる程、オズワルド公爵領は生温い場所ではない。互いに助け合い共存する方法を魔境によって選ばされた。


 だが魔境から程遠く、貴族が多く住む王都では些細なことで争いが起きる。汚職もあれば、マーシャルが語った暗殺の類もある。

 アレクサンドラは、第三王女付き近衛騎士団団長として、ノーザイト要塞砦騎士団総長として、そしてオズワルド公爵家令嬢として、何度も王宮に参内している。そして、その度に王都の闇に辟易となった。


「ガイは、ラクロワ伯爵家の次期当主となるのだ。その程度の暗部で根を上げるようでは、当然当主としてやっていけるものではない。とは言え、心が清く、私欲がなく、後ろ暗いことに無縁であるガイの生き様は、見ていて気持ちが良い。変わって欲しくない程には、な。だからこそラクロワ伯爵は、ガイに生涯の友を求めたのだろう」

「そういう点では、私はラクロワ伯爵に合格点を頂けそうですね。ガイ、先程の案ですが、今回は使えない方法です。そんなに思い詰める必要はありませんよ」


 そう言って表情を緩めるマーシャルに、ガイは後ろめたい気持ちになる。そして安堵する自分がいることにも気付いていた。


「まあ、後はギルドマスターが来られるまで待ちましょう。お茶を淹れてきましょうか?」

「そうだな。流石に喉が渇いた」


 マーシャルが席を外し、ガイとアレクサンドラの二人きりになると、ガイは徐に口を開いた。


「俺に、後ろ暗いことが全くないということはありません。特にマーシャルの件に関しては、後ろめたい気持ちで一杯なのです」

「ガイよ。人には、向き不向きというものがある。マーシャルは、ノーザイト要塞砦騎士団の司令塔であり、参謀役を担っている。そのマーシャルが、ガイの生涯の友となるのだ。誇りに思えばいい」

「それでも、俺はマーシャルを人族ではない亜人にしてしまったのです」

「なるほど。覚悟より先に生涯の友を得たか」

「そう……なのかもしれません」


 オズワルド公爵家に生まれたアレクサンドラは、ラクロワ家の秘密を知っている。否、他の貴族たちの秘密も聞かされている。それは、この地を護る者としての義務であり、覚悟でもあった。人族、他種族、亜人り全てを護る責務は、決して軽いものではない。人族の一生は、他種族に比べ余りにも短い。それでも護らねばならぬと思わせる何かが、オズワルド公爵領にはあった。


 ラクロワ伯爵家の、生涯の友と呼ばれる者。現当主にも存在するソレは、長い一生を共にする相手だ。勿論、伴侶も同じように長い時間を生きるが、決して同等ではない。比重としては、伴侶より重いものだろう。己が死ねば、友の命も無い。亡くなるではない。無くなる、文字通り消滅してしまうのだ。


「マーシャルには、その覚悟があるように見えたが?」


 先程の会話とマーシャルの表情を思い出し、アレクサンドラは首を傾げる。


「俺にとってマーシャルは、他に代わる者のない友です。だからこそ、そういうつもりはなかった」

「……清廉なのも行き過ぎると、毒となるか。だからこそ、マーシャルは自ら願ったのかもしれぬぞ。ガイは、見ていて危うく感じることもある」

「…………」

「まあ、よい。二人には長い時間があるのだ。そう急いで考える必要はない」


 無言になったガイを見て、アレクサンドラは小さく息を吐く。どうしたものかと頭を悩ませていると、タイミングよくマーシャルがお茶の準備を済ませて戻ってきた。


「おや。総長、ガイと何を話していたのです?」

「亜人となったお前のことだ」

「なるほど、その件もオズワルド公爵家はご存じなのですか。まだ亜人となったばかりですから、何が変わったのか分かりませんよ? 私はガイと共に生きられれば、それで構いませんから生涯の友に関する約束事など些細なことです。少なくとも、私にとって王都で飼い殺しも同然の扱いを受けて暮らす一生より、大変有意義のある生き方に思えますよ」


 その言葉にアレクサンドラは大きく頷き、ガイは驚いたように顔を上げて、マーシャルを凝視する。マーシャルはクスリと小さく笑い、二人の前にティーカップを置いた。


「ガイは、難しく考えすぎです。総長が言われた通り、時間があるのですから、ゆっくり考えましょう」


 マーシャルは、自分のティーカップを手にして、ソファへ座ると紅茶を口にする。アレクサンドラも紅茶を飲み始めたため、これ以上ガイは何も言えなかった。誰も言葉を発しない微妙な雰囲気を壊したのは、ノッカーの音だった。


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