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012


障壁(シールド)!』

「穿て!」


 ガイがハロルドを止めるより、ウィルの魔力が膨れ上がる方が、一瞬早く――。


「口は災いの元……って言うんだよ、ハロルド。僕を貶める発言なら、どれだけ言われても気にしないし、許すけど。……だけど、僕に武器を与え、戦い方を教えてくれた御師様たちを貶める発言は許さない」


 ハロルドの前に飛び出し、展開されたガイの魔法は、龍刃連接剣の剣刃先が当たった瞬間、粉砕された。しかし、ウィル自身が軌道を変えたのか、龍刃連接剣がガイを傷付けることはない。


「ひっ! な、何だよ、それ! ば、化け――――」

「黙れ、ハロルド!」

「グッ!」


 余りの出来事に腰を抜かして座り込んで、ウィルのことを()()()と言おうとしたハロルドを、背後に立っていたハワードが脚で蹴り止める。


「これは……魔力の可視化、ですか」


 龍刃連接剣は、ウィルの周りをうねるように取巻き、その刃から溢れ出た魔力がウィルを中心に渦巻いている。ハロルドにも魔力が見えているということは、それだけの魔力をウィルが放出しているということになる。元々、ハロルドには魔力を感知する能力はないのだから。


「ウィル、魔力を抑えろ! 外にいる騎士や住民を巻き込むつもりかっ!」


 対面でロングソードを構えるガイに怒鳴られると、ウィルは龍刃連接剣を消し去り、魔力を制御して自分の中に収めていった。そうして、肩で息をしているアレクサンドラへと振り返り、ウィルは口を開く。


「……アレクさん。周りを巻き込んだことは、謝ります。ごめんなさい。……だけど、ハロルドに攻撃しようとしたことは謝りませんから。僕の御師様たちを侮辱することは、誰であっても許せない。これ以上は、場違いになると思うので失礼します」


 ウィルはアレクサンドラに謝ると、その場から離れていく。その姿をアレクサンドラは悔しげに見送るしかない。追いたくとも、ウィルの魔力に当てられて、立っていることがやっとだ。


「くっ……。マーシャルとガイは、ウィルを追え。ハワードは、周囲に被害がなかったか確認しろ」


 動ける部下達に指示を出し、アレクサンドラは未だ座り込んだままになっているハロルドを見据えた。


「ハロルド。お前は、いい加減、自重することを覚えろっ」

「……あ、お、俺は、あんな……見たことなくて……ア、アイツ、ば、化け物だっ! アガッ!」


 混乱しているハロルドは、自分が何を喚いているのか分からなかったのだろう。その顔を殴られたことで、ようやく言葉を止めた。


「いい加減にせぬかっ。大体、化け物ならばオズワルド公爵領には、山ほど存在する。私もその化け物の一人だ。違うか!」

「そんなつもりはっ。で、でも、あれは子供が持って良い力じゃ――――」

「そんなつもりがないのであれば、何故、お前は少年を貶めるような言葉を口にした? それに、あれはウィルの持っていた武器の力ではない。単に、お前の言葉でウィルの魔力が暴走したのだからな」

「そんな、あれが魔力…………」


 そのまま黙り込むハロルドにアレクサンドラは、大息を吐く。ガイが魔法を展開しなければ、ハロルドは確実に大怪我を負っていただろう。否、ウィルはわざとガイの展開した魔法に当てたようにも見えた。そもそも、ウィルに殺気はなかったのだ。そこにあったのは、純粋な怒り。


「ハロルドは、特務師団執務室で待機しろ」

「お、俺も探します! あんなの子供が持っていい武――――」

「愚か者が。其方は私に、少年から武器を取り上げよと申すか? 誇り高き騎士がすることではないわ。それ以前に、其方は立てるのか?」

「ヒッ……」

「ハロルド。其方は己が腰にある剣を三級品と呼ばれ、其方が召喚する者等を馬鹿にされて許せるか?」

「それは……っ……」

「其方のした行為は、そういうことだ。強さに関わらず、人の誇りを傷付けることは、恥ずべき行為だといい加減に覚えよ」

「総長は、俺が浅はかだと言いたいんですか!」

「……随分と浅慮な行いだと何度も諭した記憶があるが、それすら忘れたか? 少年のことはマーシャルとガイに任せよ。立てるようになったら、自分の執務室へ戻るがいい」

「くっ…………分かりました」


 アレクサンドラがハロルドをおいて屋内訓練場を出ると、雨になっていた。不思議なことに雨が身体に触れても、騎士服が濡れることはない。


「この雨は、なんだ?」

「アレクサンドラ様!」

「ベアトリス嬢、どうしたのだ?」

「ウィル君は、何処にいらっしゃいますの? 早く、早く、ウィル君に魔法を使うことを止めさせてください!」


 ウィルの見舞いにノーザイト要塞砦騎士団を訪れていたベアトリスは、ウィルの魔力を感知して屋内訓練場へ慌てて駆け付けた。その途中で降り出した雨に含まれるウィルの魔力に気付いたのだ。


「止めさせる? どういうことだ?」


 アレクサンドラは、ベアトリス嬢の尋常でない様子に切羽詰った感覚になる。


「この雨は、ウィル君の魔法で降っている癒しの雨なんです! しかも、ノーザイト要塞砦全体に降っているのですわ。幾らウィル君の魔力が強く膨大でも、このまま使い続けるとウィル君の命に係わりますわよ!」

「なん……だと……!」





 一方、ウィルの捜索を任されたマーシャルとガイもベアトリスと同じように、この癒しの雨がウィルの魔法であることに気付き、焦り始めていた。


「……駄目だ。索敵範囲を広げてみたが、ウィルが降らせている癒しの雨が邪魔をして、居場所を特定することが出来ない。ウィルの魔力が、完全に砦を覆ってる」

「私の方も難しいです。おそらく彼は、私やガイのスキルに気付いていたのでしょう。スキル能力で探されることを見抜いて、この癒しの雨を降らせているのかもしれません」

「くそっ。一発ハロルドを殴って来るのだった」

「同感ですが、ウィルを探す方が先決です。ウィルは、この街を知りません。向かうとすれば恐らく……」

「魔境か。厄介だな」

「急ぎましょう」








「ここまで、くれば、もう……いいよね」


 はたして、ウィルはマーシャル達の予想通り、来た道を引き返していた。魔力が枯渇する程ではないものの、制御装置に吸い取られた分で、かなりの魔力を消耗している。収納からテントを取出し、道沿いに設置すると中に入って、そのままベッドへ倒れ込んだ。


「僕にも、ガイの使った魔法……使える、の……か……な。便利……そ……」


 ウィルは、そのまま眠りに就いた。そうして、どれ程の時が経ったのだろうか。ベッド脇に眩しい輝きが迸り、その中から人影が現れる。銀糸の長髪が風もないのに揺れていた。


「目を離すと、すぐに無茶をする。……だからこそ、ウィルなのだろうが。龍王が渡した宝玉に魔力を込めれば、助けてやったというのに……。これは、高くつくぞ」


 その者の指先に光が集まり、その指をウィルの胸へ宛がった。すると光が、ウィルの身体へ吸い込まれていく。


「我の……『創造を司る神』の加護を魂に付与する。それで、己が魔法を創り出せ。我が愛し子よ」


 囁くように呟かれた言葉を残し、人影は消えた。


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