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011


 ウィルはアレクサンドラ達に案内され、屋内訓練場へ移動した。広々とした屋内訓練場には、訓練を行っている騎士が沢山いる。マーシャルが一人の騎士に声を掛けると、場所を空けるように大勢の騎士は移動した。


「ここに、売りたいと思う物を並べてもらえますか?」

「はい、分かりました」


 マーシャルの言葉に収納しておいた素材を、ウィルが屋内訓練場に並べていく。ウィルとしては、ここで買ってもらえるならば、依頼が見つからなかった時の食事代や宿代を作ることが出来る。勿論、取り調べは嫌だったが、冒険者になれば騎士団との関わりはなくなると安易に考えていた。


「これで、全部です」

「はい、ありがとうございます。しかし、自分で欲しい素材はないのですか? 全てを売らなくてもいいのですよ?」

「そう言われても……。たぶん、ないです」


 並べ終わってみると、かなりの量になった。訓練を行っていた騎士も、ウィルが並べた素材を珍しそうに見ている。マーシャルの問い掛けに、ウィルは逆に困っていた。正直、鑑定スキルを覚えていないウィルに、素材の良し悪しは分からない。


「わかりました。ならば、もう少し待っていただけますか。鑑定士が到着するまで時間が掛かりそうなのですよ。そして、調べた結果で残したい素材があった場合は教えてください」

「はい。ありがとうございます」

「それまで、ゆっくりと過ごしていてくださいね」


 マーシャルの話では、ノーザイト要塞砦騎士団に所属する鑑定士が留守のため、急遽ギルドから鑑定士を呼ぶことになったという。

 ウィルは、その時間で屋内訓練場の片隅を借りて、食事をすることにした。昨日の昼にサンドイッチを食べてから、食事を取っていないことを思い出したからだ。食事をする間も、アレクサンドラや他の面々から質問をされたが、当たり障りのない返事をして、ウィルは鑑定士が早く来ることを祈っていた。





「冒険者ギルドの方で買い取りたいのですが、如何でしょう? 譲ってもらえませんか?」

「鑑定料は、きちんと支払いますよ」

「いえいえ。譲っていただけるなら、鑑定料は要りません。冒険者ギルドに譲っていただけませんか?」

「総長が買い取ると言っておられるので、無駄でしょうね」

「そうですか。……残念です」

「全て合わせて、幾らになりましたか?」

「全部で、白金硬貨二枚、金硬貨二十五枚、銀硬貨八十三枚、銅硬貨六十五枚ですね」

「妥当な金額です。此方が鑑定料になります」


 鑑定が終わり、入口でマーシャルと鑑定士が話し込んでいるのを聞き、ウィルは憂鬱になった。鑑定中、冒険者ギルドの鑑定士が怨めしそうにウィルを見ていた。

 ウィル本人は知らぬことだが、魔境内部の魔物は外の魔物と比べるとランクが高い。素材も、それに合わせて良い素材が手に入る。


「(僕だって、そんな価値のある物が混ざってるなんて知らなかったんだってば! 文句があるならアレクさんに言ってよ!)」


 ちなみに、屋内訓練場で話している最中、ガイから敬称を付けて呼ぶことを禁じられた。呼び捨てにしろと言われ、ウィルと呼ばせろと言われた。流石にアレクサンドラの名を敬称なしで呼ぶことは拒否したが、他の面々にも押し切られ、最終的にウィルが負けてしまった。


「(はぁ……。なんで、こうなったの?)」


 ウィルの隣では、アレクサンドラが優雅に紅茶を飲んでいる。その手には、リッチの魔石。否、デモンズリッチというリッチの希少種で魔境特有のリッチだったのだが、その魔石が握られている。


「デモンズリッチの魔石は、数年に一度、見れば良い方だからな。その分、価値も高い。ウィルよ、良い買い物をさせて貰った。それにしても、スケルトンナイトとスケルトンソーサラーを知らぬとは、な」

「魔物の種類は、あまり知りません。今から勉強します」


 ウィルがスケルトンとスケルトンメイジと思っていた魔物は、それらの上位種だったらしい。


「冒険者ギルドにも専門書があるのだろうが、街にもそういう書本を扱う店がある。行ってみるがいい。手に入った金額で充分に足りるだろう」

「はい。そうします」


 魔石を見詰め、恍惚とした表情を浮かべるアレクサンドラに、ウィルは小さく吐息を吐く。


「(アレクさんにとって、宝飾品より魔石の方が価値のある物なのかもしれない。戦闘狂ってわけじゃないんだろうけど、根っからの軍人さんって感じなのかな?)」


 オークの肉は、ウィルの食事後にコックたちの手によって手早く処理され、騎士たちの手で食料庫へと運ばれていった。空いている時間で食事をしたいと言ったウィルに、マーシャルが配慮をした結果である。

 鑑定が終わった素材などは騎士が招集され、アレクサンドラと話している間に次々と運び出されていった。


 アレクサンドラの話では、魔物が持っていた武器や防具も使い道があるらしい。騎士の武器、防具の補修に使える物がある。素材に関しても、同じ理由で買い取られた。そういった類の物は、騎士団内の鍛冶場へ届ける必要があるため、騎士の手で木箱へと詰められていく。


 ウィルが食後の紅茶を飲み終わる頃には、運搬要員として借出されていた騎士も素材の片付けを済ませ、各々の持ち場へと帰っていった。

 お金は、マーシャルからウィルに手渡され、すぐに収納した。その時、しっかりとガイから、お金の事を教えられている。


 しかし、ウィルたちの姿は、未だ屋内訓練場にあった。原因は、ハロルドである。


「見せるぐらいは、構わないだろ?」

「嫌です。断固、拒否します」

「エドワード警備隊隊長には、見せたんだろ? 狡いじゃないか」

「狡いって……。そういう問題じゃないと思いますけど」


 ウィルの武器を、ハロルドが見たいと言い出し、ウィルを屋内訓練場から出そうとしない。ウィルは、ハロルドが他人の武器に拘る理由が分からず、困惑していた。


「武器は戦うための道具であって、見せ物じゃないです」

「いや、普通に見せ合うだろ。俺の召喚術も見せてやるから」

「見たくないです。そんなにホイホイ呼び出してどうするんですか!」


 ウィルの考えている召喚術と、ハロルドの見せると言った召喚術には、若干のズレが生じているのだが、それが分かる人物など、ここに居るはずもなく……。


「いや、普通に召喚するだろ」

「能力と魔力の無駄遣いをしないでください」

「何言ってんだ? それより、ウィルの武器だ。頼むから、見せてくれって。そこに何か秘密があるんだろ?」

「秘密って、何の秘密があると言うんですか?」

「ウィルの強さの秘密だよ!」


 確かに、秘密はある。フォスターの自信作なのだから。しかし、それがウィルの強さに繋がるかといえば、そうでもない。


「ハロルド。ウィルの武器が、それほど気になるのですか?」

「マーシャルは、気にならないのか? ウィルは、デモンズリッチを倒せるような強く優れた武器を持ってるんだろ?」


 その言葉で、全員の視線がウィルに集まる。但し、ハロルドを除く人物は、ウィルがデモンズリッチを倒した方法を、なんとなくであったが理解していた。


「そうですねぇ。武器は関係ないと思いますよ? ……ウィル、デモンズリッチを倒した方法を教えてもらえますか?」

「え? ええと、その……笑いませんか?」

「勿論、笑いませんよ? それも一つの戦闘スタイルですからね」

「……デモンズリッチに、気づかれないように近付いて、魔石を抜き取りました。ただ、デモンズリッチが単体で居たから、出来たんですけど」

「矢張り、そうでしたか。ウィルの気配が極端に薄くなることがあったので、もしやと思ったのですよ。なるほど、完全に気配を隠すことが出来るのならば、エドワード警備隊隊長の配下を怖がらない訳ですね」


 あっさりと言い切るウィルに、マーシャルは苦笑する。ハロルドは、その内容に呆然としていたが、我に返ると焦ったように話し始めた。


「だ、だけど、ウィルだって、武器を使わない訳じゃないんだろ? デモンズリッチが、単体で居たから出来たって言ったよな?」

「勿論、使わない戦闘の方が少ないです。ハロルドは、その剣が召喚術の媒体ですよね」

「ああ。それで召喚士だって気づいたのか?」

「……はい。最初は、魔剣士なのかなと思っていたんですけど。召喚士で剣を媒体にするのは、珍しいですよね?」

「おう。誉めろ、誉めろ。俺は、体格にも恵まれてるし、剣術や槍術も得意だからな。だから、わざわざ鍛冶職人に特別に作らせたんだよ」

「そうなんですか」


 胸を張って、己の剣を握るハロルドに、ウィルはそっと安堵の息を吐く。どうにかウィルの武器から、話題を逸らすことが出来たからだ。ただし、他の人物が何とも言いようのない顔でハロルドを見ている事をウィルは気づいていた。


「(ハロルドって、何かコンプレックスでもあるのかな?)」


 周りを探ると、覇気はアレクサンドラが抜きん出て強いことに気づく。全てを率いる指揮官として、打って付けの人物だろう。マーシャルは多彩で、その中でも謀略系スキルが特出している。戦闘系スキル、索敵系スキルはガイ。ハワードは、魔法と隠密系……。ウィルは、其々の特性を当て嵌めていく。しかし、ハロルドの特性を考えてみたが、何も見出すことが出来ない。


「(特性……スキルを持っていないことが、コンプレックスの理由? でも、スキルがなくてもハロルドは充分強いよね? うーん……そういう理由で絡まれているのなら、さっさと騎士団を去る方が無難かも……)」


「素材の買い取り、ありがとうございました。もう、他に用事はないですよね?」

「ああ、また――――」

「ちょっと待てって! 俺の用事が済んでないだろ。武器だよ、武器!」


 ウィルがアレクサンドラに確認を取ろうとすると、ハロルドが間に割り込んでくる。その姿に、ウィルは大息を吐いた。


「武器は、見せません」

「なんだよ。そんなに隠したいってことは、人に見せられないような粗末な武器なのか? ウィルの体格とか考えると剣士じゃないよな。槍は無理だろうし、魔法使いか? 魔法使いは、たかが知れてるよなぁ。大体、一人じゃ戦えないだろ」

「(粗末って、たかが知れてるって)…………外見で判断すると、見誤りますよ?」

「いやいや。それは、ないって。だって、昨日もエドワード警備隊隊長に引き摺られてたんだし、今日だって俺に容易く捕まっただろ? どう考えても弱――――」

「ハロルド、いい加減――――っ!」

障壁(シールド)!』

「穿て!」


 ガイの防御魔法が展開するのと、龍刃連接剣の剣刃先がハロルドへ向けられたのは、ほぼ同時だった。


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