産み落とされた最強少女
ある異世界の、ある誰も寄り付かない森の中の、あるボロ屋の中で一人の少女が産み落とされた。
「ふわぁ~、よく寝た。」
まだ眠そうな声でそうつぶやいているのは、まだ七歳ほどの小さな少女だった。
当然、そのボロ屋の中にはその少女しかいなかった。
「あれ?ここはどこかしら。それに私は誰なのかしら。」
私はそう思いながらよっこらせと腰をあげようとしたとき、手元に何かが当たるのに気が付いた。
「これは何かしら。本と杖だけが置いてあるなんて、まるでハ〇ー・ポ〇ターのようだわね。
それにしてもなんでこんなに汚いのかしら。杖はともかくとしてこの本なんてほこりがかぶりすぎて表紙の文字が見えなくなってしまってるじゃない。どれどれ、なんて書いてあるのかしら」
私はその本を手に取り、ほこりを払うと、少しずつその文字があらわになってきた。
「えーっと、グリ、グリモワール。そう書いてあるのね。それにしても何の本かしら、こんな文字初めて見るけどなぜ読めるのかしらね。 まぁそんなことどうでもいいわ、そんなことよりまず自分が誰なのかを思い出さなくては」
しかし、私はその意思に反して本のことの方が気がかりになってしまいつい本の表紙をめくってしまった。そしてその瞬間自分の中にとてつもない量の情報が流れ込んでいた。頭の中に入ってきた情報は、おそらくこの世界についてと思われる地形や王国名。しかしそれだけでなく消滅魔法、蘇生魔法、薬学、剣術などの物騒な情報までもが流れ込んできた。
「何なのこれは。しょ、消滅魔法って、これじゃあ私魔法使いみたいじゃない。
うん?でも待てよ、こんなことができるはずがないじゃない。神様でもあるまいし。」
私はハハハと笑いながら、手元にある杖をもって目も前にあるグリモワールと名乗る本に消滅魔法をかけることにした。
「目の前にものが消える想像をすればいいのよね。まぁそんなことできっこないわよ。」
『消えろ』
そう念じると、目の前にあった本はまるで何かに吸い込まれていくかのように、渦を巻いて消えていった。嘘! そう思いながら先ほどまで本のあった場所に手をかざしてみても空を切るだけだった。
「これまずいんじゃない。これじゃあ私完全に魔法使いじゃない。ってそんなことはどうでもいいのよ
もしこれからもついうっかりこんなことを考えてしまったら、こういうことをしてしまうってことなのよね」
それを想像してみると、がたがたと体が震えてきた。
「忘れましょ、そうよ忘れるのが一番いいわ。寝よう、そうしよう」
そうして私は眠りについた。
「ふわぁ~よく寝たわ」
私は起き上がり、まず外の様子を見に行った。
外はもう暗くなっており、木々たちがざわめいていた。
カサカサ、グルルルル・・・・・
気のせいかしら?今何か声のようなものが聞こえたような...
怖くなり、戸を閉めようとした瞬間、林の中からこちらを見つめている赤い瞳と目が合ったような気がした。
「あれ絶対私の方を見ていたわ。しかも一匹だけじゃないはずよこの家の周りから同じような気配がするもの。囲まれちゃったわね、私ここで死んでしまうのかしら。まだこんなにも若いのに。若いってまだ子供だけど。まだ自分が誰なのかも、かなうことならこの世界も見て回りたいと思っているのに。」
気が付けば、苛立ちだけがだんだんたまってきて、私は勢いよくその扉を開けた。
そして私の予想どうり、目の前には角の生えた狼?イノシシ?のような生き物が計20体ほど散らばっていた。体長は1メートルほどの見るからに凶暴そうな生き物だった。
「あっ、お引き取りください。 じゃなくて、あんたたち死にたくなかったら即刻私の前から立ち去りなさい。あんたたちのせいで今いらだっているのよ。」
私がそう言っても、目の前の奴らは微動だにせず、むしろ涎をたらして私のことを見つめていた。
「わ、分かったわ。そっちがその気ならこっちにもそれなりの考えがあるわ、10だけ数えるわその間にあんたたちが手を引かないって言いうなら、全力で相手をさせてもらうから。10、」
そう数えた直後、目の前の奴らがとびかかってきた。
何とかしなくちゃ、そう思っている私の脳裏によぎったものはずっと忘れようとしていた消滅魔法。
この方法しか思いつかない私に嫌気がついた。
私ったら何を考えているの、あの魔法の恐ろしさは私が一番知っているじゃない。きっとこいつたちも生きるために必死なのよ。殺すなんてダメ、そうなるといい方法は...よしやってみよう。
私は既に手元にある杖を掲げて念じてみた
『お願い、少しだけ眠っていいて頂戴』
すると目の前の生き物たちはバタバタと倒れていき、近付いてみるとぐっすりと眠っていた。
「ごめんなさいね、私はまだあなたたちの餌にはなりたくないの。その代りにこの森から出ていくから許して頂戴ね」
そうして見た目弱冠7歳である私は魔物の住む森を後にしたのであった。