*侵食される体*
時間が経つのはどうしてこんなにも速いのだろうか。奈緒に避けられる様になってから半年が経った…。
この頃体調がすぐれない。特にタバコを吸ってる訳でもないのに少しの運動で息があがる。
体力には自信があったのにすぐバテてしまう…。
加えて吐き気。
舌に白い斑点の様なものも出てきた……。
風邪だと思い市販の風邪薬を服用するが効果はない。『今度病院行ってみるかぁ』
と思っていた矢先の事だった。
体育でバスケの試合をしていた時。
それは突然やってきた。
体が動かなくなりその場にグッタリと倒れこんでしまったのだ。
だんだんと意識が朦朧とし、途絶えた……。
「………。」
白い天井、白い壁。
目が覚めた時には病院だった。
体育の川島先生が救急車を呼んだらしい。
意識がまだはっきりとしない……。
視界がぼやける。
「……光輝?」
意識がはっきりしてきた。視界もだんだんとピントがあってきた。
母さんが心配した顔で俺を呼ぶ。
「母さん……心配かけてワリィ。」
母さんの様子がなんだかいつもと違った。
母さんのこんな顔を見たのは初めてだった。
怒ると恐いけどいつも笑っている母さんが今日は悲しそうな今にも涙が零れだしてきそうな切ない顔をしていた………。
「どうしたんだよ!?」
母さんは顔をうつむかせてしまった。
肩が微妙に震えていた。
「母さん?」
母さんは顔をうつむけたまま何も言わない。
父さんが母さんの肩に手をかける……。
「………お前は…エイズだ…。」
父さんは真剣な顔で静かににそう言った…。
誰も何も喋らない。
『俺がエイズ?』
『誰か何か言ってくれよ!!』
『なんで皆黙ってんだよ!!』
俺は心の中で問い続けた。
『エイズ』
きっかけはあの日…。
最愛の妹を犯したあの時…。
妹はHIV感染者だった。
昨日肺炎を起こして入院したらしい。
「奈緒は?………死ぬの?」
俺の命なんかいい。
でも奈緒は違う。
神様…奈緒を妹を愛したのは俺です。
過ちを犯したのは俺です。罰を受けるのは俺だけでいい……。
奈緒も罪人というなら俺が奈緒の分まで受けるから…お願いです。
神様……奈緒を助けてください。
「………。」
何も言わずにうつむく両親。
涙は枯れることを知らず流れ落ちる………。
体が言うことを聞かない。吐き気は増し。
咳は止まらず声が枯れてきた…。
奈緒。
苦しいよな。
ごめんな。
俺が奈緒を愛したから神様が怒ったんだ…。
奈緒。
ごめんな。
奈緒…。
好きでごめん…。
「奈緒に……会い…たい。」
車椅子に乗せられ俺は奈緒の元へと向かう。
途中鏡に映った俺を見た。あんなにがっしりしていた体は痩せ細り骨ばっていた……。
『情けねぇ…。』
俺は心の中で呟いた。
奈緒のいる病室に着く。
手袋をはめウイルスが病室に入らない様身なりを徹底する。
病室に入る。
ベッドの周りに機械が沢山。
奈緒の腕からは点滴の管が何本も見えた…。
奈緒は注射が嫌いだ。
予防接種をする時も怖いって泣きながら俺の腕にしがみついていた。
……痛かったよな。
奈緒の手を取る……。
痩せ細り骨の感触が直に伝わる…。
「ごめんな…。」
目からは涙が流れ落ちる。
「ぉ…兄ち…ゃん?」
奈緒の手。
握り締めていた手。
弱々しくだがちゃんと握り返してくれた。
そして…半年ぶりに俺の目を見つめてくれた。
「ぉ…兄…ちゃん…ごめ…」
えっ!?
「ごめ…ん…ね……。」
奈緒が謝っている。
奈緒は何も悪くない。
奈緒は何もしてない。
過ちを犯したのは俺なんだよ!?
なのに奈緒が泣きながら謝っている…。
奈緒は悪くない。
咎められるの俺だ。
だから謝るなよ。
神様…奈緒は何をしたんですか?
奈緒は何もしてない。
奈緒は咎められる何かも後ろめたくなる何かも持っていない。
神様…奈緒を解放して下さい。