律-1-
もったいない。
スマホからその言葉が聞こえた途端、「またか」と律はうんざりした。
会う人話す人、みんなにそう言われるのだ。好物のチョコレートの包み紙も、ちゃんと紙とアルミに分別している。そんな自分のどこに、もったいない要素があるのだろう。
『だって、せっかく元は格好良いのに。そんな変な格好して、もったいねぇよ』
とは、通話相手―律の雇い主の言葉だ。
「変な格好って、酷いな。コレはボクの個性だよ」
『…個性、ねぇ…』
普段から飄々としている雇い主でさえ、気まずそうな声で濁す。それほど、律の格好は奇抜だった。
まず、強烈な違和感を放つ髪。向かって右が短い黒髪、左が長めの銀髪。人混みの中にいても、その頭は恐ろしく目立つ。
次に、その髪の下には大きな大きな青い色眼鏡がかけられている。それは律の目を優に覆い、顔の半分くらいを青く染めている。
さらに言うなら、その体型はいたって普通で、どちらかと言えば長身痩躯の部類に入る。まとっている衣服も、年相応―十代後半から二十代前半―の普通の服で、要するに、アンバランスなのだ。
『…そんな個性で目立つぐらいなら、俺は大勢に埋もれる方を選ぶよ』
「ダメだなぁ、兄ちゃん。そんなんだから、日本って国は我が弱いんだよ」
跨ったバイクのバランスを取りながら、片手で器用に包装紙をめくり、律はパキリと板チョコをかじった。
「で?ボクの個性を否定するために電話してきたわけじゃないでしょ?もしそうなら、これから着拒するから」
『んなわけねぇだろが。お前の個性には常々疑問を抱いてるが、それでわざわざ連絡するほど、俺も暇じゃない。』
驚くべきスピードでチョコレートを食べ終えた律は、アルミをグシャリと丸め、バイクを止めているコンビニのゴミ箱に、ひょいと投げ入れる。包み紙の方は、持ち帰ってミックスペーパーの日に捨てる。
「前置きが長いのは、兄ちゃんの悪い癖だよね。早くしてよ、もうチョコ一枚食べ終わっちゃった」
『…チョコ中毒もいい加減にしとけよ。体を壊されたら困るから』
雇い主の声が、真剣みを帯びる。
『仕事だ。今回の依頼は、白百合組の一人娘の殺害。詳しい資料はメールで送る。以上』
「了解」
律が答えると同時に、プツリと通話は切れた。
律は、殺し屋である。
仲介業者である雇い主が受けた依頼を、律を始め雇われている殺し屋たちが受注し、成功すれば報酬が手に入る。もちろん報酬の額は、その殺し屋の腕と、依頼の難易度次第だ。
それだけの、単純な世界。
と、メールが届いた。数枚の資料が貼られているだけの、簡易的なものだ。
サッと目を通し、スマホをしまう。ヘルメットを被り、バイクのエンジンをふかした。