BATTLE:052【ウィザードの流儀】
なんとか2017年内ギリギリに次話投稿できました。
「「ダイス・セット(なのだー)!」」
迷宮戦開始から40分が経過し、迷宮全体の東区域でカイトとエンジのカードバトルが白熱している中、その反対の西区域にてようやくリンナとサラサが遭遇し、カードバトルが始まった。
彼女達の前にはポイントアイテムが台の上に置かれている。
【プラント・シード】
SF【0】
GT【ノーマル/アタック】
Tr【プラント】
DG【0】
LP【500】
園生リンナ:手札【5】
【初期の魔女 レイン】
SF【0】
GT【ノーマル/アタック】
Tr【ウィザード】
DG【0】
LP【500】
朽木サラサ:手札【5】
先攻は互いのマスターズギアによってサラサが先攻となった。
「私の先攻……ドロー」
相変わらず低いテンションで淡々とターンを進めていく。
「フォースチャージ……追加ドロー」
朽木サラサ:手札【6】
:フォース【▽】
「て、手札から……スペルカード【降霊儀式術】発動」
【降霊儀式術】
SP【1】
【ノーマルスペル】
【起】(COST:手札のこのカードをジャンクゾーンに送る)
┗あなたは自分の山札からSF【1】のガーディアンカードを1枚まで選んで自分の手札に加える。その後、その山札をシャッフルする。
「私はデッキから……SF【1】の【ウィザード・ロンド】を手札に加えて、これをそのままフォースを1枚消費して召喚」
【ウィザード・ロンド】
SF【1】
GT【ノーマル/アタック】
Tr【ウィザード】
DG【0】
LP【1000】
朽木サラサ:手札【5】
:フォース【▼】
「ウィザード・ロンドのポテンシャルアビリティ、発動……」
【ウィザード・ロンド】
【ポテンシャルアビリティ】
【自】(このカードのアピアステップ時)
┗あなたは自分の山札の上からカードを5枚、マテリアルカードとしてこのカードの下に置く。
「デッキトップから……カードを5枚マテリアルセット。そして、手札からスペルカード【マジカル・ウィザードロー】を発動」
【マジカル・ウィザードロー】
SP【0】
【ノーマルスペル】
【起】(COST:マテリアルカード2枚をジャンクゾーンに送る、手札のこのカードをジャンクゾーンに送る)
┗この効果はあなたのアタックゾーンに【ウィザードトライブ】のアタックガーディアンが存在する場合のみ発動できる。あなたは自分の山札からカードを2枚ドローする。
「マジカル・ウィザードローの効果により、マテリアルカードを2枚消費して……デッキから2枚ドロー……」
朽木サラサ:手札【6】
「手札から……アシストガーディアン【魔導書の魔女 ライブ】を召喚」
【魔導書の魔女 ライブ】
SF【0】
GT【ノーマル/アシスト】
Tr【ウィザード】
DG【0】
LP【200】
朽木サラサ:手札【5】
「ライブのバーストアビリティを発動」
【魔導書の魔女 ライブ】
【バーストアビリティ】
【起】(COST:マテリアルカード1枚をジャンクゾーンに送る)
┗あなたは自分の山札からSP【0】のノーマルスペルカードを1枚まで選んで自分の手札に加える。その後、その山札をシャッフルする。
「ウィザード・ロンドのマテリアルカードを1枚消費して、デッキから再びマジカル・ウィザードローを手札に加える……。そして、マジカル・ウィザードローを発動して2枚ドロー」
朽木サラサ:手札【6】
「さらに、スペルカード【魔力充填】を発動……」
【魔力充填】
SP【1】
【ノーマルスペル】
【起】(COST:手札のこのカードをジャンクゾーンに送る)
┗あなたは自分の手札の枚数だけ自分の山札の上からカードを公開し、その中に含まれている全てのスペルカードをあなたのアタックガーディアンの下にマテリアルカードとして置く。スペルカード以外のカードはその山札に戻してシャッフルする。
朽木サラサ:手札【5】
「魔力充填の効果……。私の手札は5枚、よってデッキトップからカードを5枚公開して、その中に含まれるスペルカードを全てウィザード・ロンドの下にマテリアルセットする……」
サラサのデッキトップからカードが5枚公開され、互いのマスターズギアの液晶画面に表示される。
【フィールド・クリエイト】〈スペルカード〉
【魔術の供物―サクリファイス―】〈ガーディアンカード〉
【十六夜の魔術工房】〈ドメインカード〉
【降霊儀式術】〈スペルカード〉
【ウィザード・キャプチャー】〈ガーディアンカード〉
「この中に含まれているスペルカードはフィールド・クリエイトと降霊儀式術の2枚。よって、この2枚をウィザード・ロンドの下にマテリアルセットする……」
再度ウィザード・ロンドの下にマテリアルカードが置かれたことで次のサラサのターンにおけるバーストアビリティ発動のための準備は十分に整った。
「私は……これでターンエンド」
「zzz………………あ、寝てたのだー」
リンナは「うーん」と大きく屈伸するとあくびをしながらマスターズギアを操作する。
「やっとリンナのターンなのだー。ドロー」
リンナのターンになり、ドローフェイズからチャージフェイズに移行する。
「フォースチャージして、追加ドローなのだー」
園生リンナ:手札【6】
:フォース【▽】
「まずは手札からスペルカード【ソーイング・チャージ】を発動なのだー」
【ソーイング・チャージ】
SP【2】
【ノーマルスペル】
【起】(COST:手札の【プラントトライブ】のガーディアンカード2枚をジャンクゾーンに送る、手札のこのカードをジャンクゾーンに送る)
┗あなたは自分の山札からカードを3枚ドローする。
園生リンナ:手札【6】
「手札の【フローラス・プラント】と【プラント・スプロート】をコストとしてジャンクゾーンに送って3枚ドローするのだー。そしてセットフェイズを終了して再びサモンフェイズを始めて、ドメインフェイズまでスキップして、セットフェイズを開始するのだー。プラント・シードのトライブアビリティ植物の再生を発動なのだー」
【プラント・シード】
【トライブアビリティ】
【自】(セットフェイズ開始時)
┗あなたは自分のジャンクゾーンに存在する【プラントトライブ】のガーディアンを1枚まで選択し、あなたの山札に戻す。そうしたら、あなたのアタックガーディアンのLPをX00リペアする。(Xはあなたの山札に戻したガーディアンのSF)
「よって、ジャンクゾーンのフローラス・プラントをデッキに戻してプラント・シードのライフを600回復するのだー」
【プラント・シード】
DG【0→-600】
LP【500→1100】
「さらに、手札からスペルカード【萌芽する種子】を発動なのだー」
【萌芽する種子】
SP【1】
【ノーマルスペル】
【起】(COST:手札のこのカードをジャンクゾーンに送る)
┗この効果はあなたのアタックゾーンに【プラントトライブ】のアタックガーディアンが存在する場合にのみ発動できる。相手のアタックガーディアンを1体選び、そのガーディアンよりSFが1つ高い【プラントトライブ】のガーディアンカードを自分のジャンクゾーンから1枚選んでフォースを消費せずに召喚する。
園生リンナ:手札【5】
「この効果でリンナのプラント・シードは土壌の中に眠るプラント・スプロートに成長するのだー」
【プラント・スプロート】
SF【2】
GT【ノーマル/アタック】
Tr【プラント】
DG【-600】
LP【2000→2600】
「続いてスプロートのポテンシャルアビリティを発動するのだー」
【プラント・スプロート】
【ポテンシャルアビリティ】
【起】(COST:手札1枚をジャンクゾーンに送る)
┗あなたのターン、コストを支払うことで発動できる。そうしたら、あなたの山札からカードを1枚、ドローする。
「効果により手札を1枚捨てて、1枚ドローするのだー。さらに植物の再生!」
【プラント・スプロート】
【トライブアビリティ】
【自】(セットフェイズ開始時)
┗あなたは自分のジャンクゾーンに存在する【プラントトライブ】のカードを1枚選び、あなたの山札に戻す。そうしたら、あなたのアタックガーディアンのLPをXの値だけリペアする。(Xはあなたの山札に戻したカードのSF×300)
「山札に戻したカードはスプロートの効果でジャンクゾーンに送ったSF【2】の【グローイング・シード】だから、600リペアなのだー」
【プラント・スプロート】
DG【-600→-1200】
LP【2600→3200】
「サイコロを振るのだー」
マスターズギアが数をランダムに決めるため、実際にサイコロを振るわけではないのだが、液晶に表示されるサイコロの目は【5】。
【プラント・スプロート】
【2】【5】【6】……相手の山札からカードを4枚、ジャンクゾーンに送る。
【1】【3】【4】……相手のアタックガーディアンに、500のダメージを与える。
園生リンナ:フォース【▼】
「フォースを1枚消費してバトルなのだー。サラサちゃんのデッキからカードを4枚ジャンクゾーンに送るのだー」
「……構わない」
サラサのデッキからカードが4枚ジャンクゾーンに送られる。サラサは相変わらずの小声で「儀式の生け贄が増えた……ふふ」と不吉な一言を漏らす。
まだゲームは始まったばかり。互いにまだ様子を伺い合っている。
「ターンエンドなのだー………すぴーzzz」
「……また寝てる」
リンナは自分のターンが終わると早々に夢の世界にへと旅立った。恐らく、先程同様にまた自分のターンになれば目が覚めるだろう。
サラサは一度だけ溜め息を漏らし、迷宮の内部を改めて伺う。
「……」
天井こそ開いているものの、周りは完全に壁で覆われている。壁の上部の複数箇所にて多数のカメラが設けられており、サラサとリンナのカードバトルの様子をしっかりと記録している。
(このカメラの数……まるで監視されてるみたい。去年も迷宮戦はあったけど、ここまでの数は無かった。今年は……去年と何かが違う……?)
首は動かさず目だけを動かしてカメラの位置を大まかに把握する。
例年と異なる大会の雰囲気にサラサはどこか違和感を感じていた。それに、誰も言及はしなかったが、大会の司会進行役であるバトルマスター・レツもそうだ。
(バトルマスター・レツ……彼もいつもならヤジを飛ばす観客に対して積極的に注意するのに、東栄学園が絡む場合は指摘されるまで一切注意をする気配が無かった……。まるで、意図的に東栄学園を孤立させようとしているみたいに……)
幸い、本選は東栄学園に対して友好的な学校が多く残ってくれたおかげで大きな問題は出ていないが、そうでなければもしかしたら盗難や嫌がらせ等のトラブルも起きていたかもしれない。
まだまだ気になることはある。だが。
「私のターン……ドロー。フォースチャージして、追加ドロー」
朽木サラサ:手札【6】
:フォース【▽▽】
とにかく今は目の前のバトルに集中するのみだ。
何か裏に思惑があろうがなかろうが、サラサにとってはこのバトル、一切の手を抜くわけにはいかないのだから。
カメラで撮されている以上は部長であるシンヤの目にも留まる筈、炉模工業高校の生徒――いやカードマスターとして、恥となるようなプレイングをするつもりはない。
「……」
自身の手札は6枚、表状態のフォースは2枚。相手の場にはSF【2】のプラント・スプロートが存在している。
出来ることならSF【3】のガーディアンを召喚したいところだが、手札にはデッキからガーディアンを呼び出すカードも召喚制限を無視してガーディアンを召喚するカードもない。
プラントトライブは長期戦を得意とするスロースターターなトライブだ。ここはアシストガーディアンを召喚して地盤をしっかりと固め、確実にダメージを通していくしかない。
「ライブのバーストアビリティを発動……ウィザード・ロンドのマテリアルカードを消費してデッキからSP【0】のスペルカード【魔術の秘伝書】を手札に加える」
朽木サラサ:手札【7】
「そしてフォースを1枚消費して……手札からアシストガーディアン【癒しの魔女 ヒーラ】を召喚」
【癒しの魔女 ヒーラ】
SF【1】
GT【ノーマル/アシスト】
Tr【ウィザード】
DG【0】
LP【200】
朽木サラサ:手札【6】
:フォース【▽▼】
「ヒーラのアシストアビリティを発動……」
【癒しの魔女 ヒーラ】
【アシストアビリティ】
【自】(アピアステップ時)
┗あなたは自分の山札の上からカードを3枚、このカードの下にマテリアルカードとして置く。
「デッキトップからカードを3枚ヒーラの下に置く。そしてバーストアビリティも発動……」
【癒しの魔女 ヒーラ】
【バーストアビリティ】
【起】(COST:マテリアルカード1枚をジャンクゾーンに送る)
┗あなたは自分のアタックゾーンに存在するアタックガーディアンを1体まで選び、そのガーディアンのLPを自分のジャンクゾーンに存在するスペルカード1枚につき300リペアする。この効果のコストとしてジャンクゾーンに送ったマテリアルカードがスペルカードならば、あなたは自分の山札からカードを1枚ドローする。その後、この効果は失われる。
「マテリアルカードを1枚消費する。私のジャンクゾーンにはスペルカードが7枚あるからウィザード・ロンドのライフを2100回復。さらにコストになったカードの種類はスペルカードなので……デッキから1枚ドロー……」
【ウィザード・ロンド】
DG【0→-2100】
LP【1000→3100】
朽木サラサ:手札【7】
「……揃った」
マスターズギアに表示されるサラサの残りデッキ枚数はジャスト28枚。ドローとサーチとマテリアルセット、さらにプラント・スプロートのアタックアビリティによってサラサのデッキの半分以上が早くも消費されてしまった。このままではデッキが無くなり兼ねない。
だが、その甲斐もあってか手札にはサラサの必勝コンボのためのパーツカードが揃った。
相手はターンが重なれば重なる程に回復効果によって長期戦を余儀なくされるプラントトライブ。準備が整ったのなら動くまでは待機し、一気に相手のLPを削りきってみせる。
「手札からスペルカード【魔術の秘伝書】を発動……」
【魔術の秘伝書】
SP【0】
【ノーマルスペル】
【起】(COST:手札のこのカードをジャンクゾーンに送る)
┗あなたは自分の山札からカード名の異なるスペルカードを2枚まで選んで自分の手札に加え、自分の手札からスペルカードを1枚選んで自分の場に存在する【ウィザードトライブ】のガーディアンを1体選んでそのガーディアンの下にマテリアルカードとして置く。
「デッキからスペルカードを2枚選んで手札に加える。そして、手札からスペルカードを1枚選んでウィザード・ロンドの下にマテリアルセット……」
手札からスペルカードをウィザード・ロンドの下にマテリアルカードとして置くと、どこか機嫌が良いように口元に笑みを浮かべる。
「ウィザード・ロンドのトライブアビリティを発動……【儀式魔術の奇蹟】」
【ウィザード・ロンド】
【トライブアビリティ】
【起】(COST:手札からスペルカードを1枚選んでジャンクゾーンに送る)
┗この効果は1ターンに一度しか発動できない。あなたはこのカードが持つマテリアルカードの中に含まれているスペルカードを1枚選んでその効果をコストを消費せずに発動する。
「手札からコストとしてスペルカードを1枚ジャンクゾーンに送る。そして、ウィザード・ロンドが持つマテリアルカードの中からスペルカード【フィールド・クリエイト】の効果をノーコストで発動……」
【フィールド・クリエイト】
SP【1】
【ノーマルスペル】
【起】(COST:手札のこのカードをジャンクゾーンに送る)
┗あなたは自分の山札からドメインカードを1枚まで選び、自分の手札に加える。その後、その山札をシャッフルする。
「デッキからドメインカード【十六夜の魔術工房】を手札に加えて、これをそのままドメインゾーンにセット……」
【十六夜の魔術工房】
【ドメイン】
【永】
┗このカードがドメインゾーンに存在する限り、あなたの場に存在する全ての【ウィザードトライブ】のガーディアンが持つマテリアルカードの中に含まれているスペルカードの種類数に応じて以下の効果を適用する。
【0】:各プレイヤーのエンドフェイズ時、あなたはライフカウンターを1つ失い、このカードを自分の山札の一番上に置く。
【1~15】:あなたの場に存在するガーディアンはカード効果では【弱体化】しない。
【8~15】:あなたはバトルフェイズを開始する場合にフォースを消費しなくてよい。
【16】:あなたのターンのバトルフェイズ開始時に相手の場に存在するガーディアンを1体まで選んで【弱体化】させる。この効果で【弱体化】したガーディアンが存在する限り、相手は手札からカード効果を発動できない。
朽木サラサ:手札【6】
「ウィザード・ロンドが持つマテリアルカードの中に含まれるスペルカードは2種類……よって、ウィザード・ロンドは効果では弱体化しない……」
まずは確実な守りを固める。カード効果限定とは言え、弱体化せずに済むのは非常に大きい。
「ダイスステップ……」
サラサのマスターズギアの液晶画面に数字が浮かび上がる。
【2】。
【ウィザード・ロンド】
【1】【5】【6】……相手の山札からカードを3枚、ジャンクゾーンに送る。
【2】【3】【4】……相手のアタックガーディアンに、300のダメージを与える。
「フォースを1枚消費してバトルフェイズ……。プラント・スプロートに300ダメージを与える」
【プラント・スプロート】
DG【-1200→-900】
LP【3200→2900】
「……ターンエンド」
本格的に動くのは次のターンだ。今はひとまずここまでの展開に留めておくことにする。
さて、リンナは果たしてどのようなカード運びをするのか。
サラサはリンナのプレイングの一挙一動に注目しながら自身のターンの終了を告げた。
「じゃあ、リンナのターンなのだー。ドロー」
リンナのターンが開始される。
「フォースチャージして、追加ドローなのだー」
園生リンナ:手札【6】
:フォース【▽▽】
「うーん……なのだー」
リンナは悩みながらマスターズギアの液晶画面に映る手札を見る。あまり内容が芳しくないようだ。
(慰薔薇地獄も飢饉からの年末大収穫祭も無いのだー……これじゃ動けないのだー)
リンナはユキヒコから日頃指摘されている言葉を脳内で思い浮かべる。
――いいか、リンナ。お前はのんびりしすぎだ、いくらプラントトライブがスロースタートなデッキタイプだろうとそれに甘んじるな。スロースタートっていう情報は向こうだって知っているんだ、わざわざプラントトライブの土俵に相手が乗ってくれると思うな。だからこそ相手は短期決戦に持ち込もうとする、ならお前のやるべきことはただ1つ。序盤からなるべく動くことだ――
その言葉に対して「う~」という悩ましい声で呻いて頭を抱える。
「そんなこと急に言われたってプレイスタイルはそう簡単に変えられないのだー。カレーライスはハヤシライスにはならないのだー……」
◇◇◇◇◇◇◇◇
「……」
試合会場の廊下、そこの壁に内臓されたモニターからフジミはリンナとサラサのカードバトルの様子を見つめていた。
その表情は些か穏やかじゃない。
(この唐突な迷宮戦に監視カメラの数。なるほど、孤高アイズ……貴様のプランが手に取るように分かるぞ)
思わず手を強く握り締める。
(東栄には孤高アイズが狙う聖野イクサ、早乙女ナミ、園生リンナの3人がいる。1チーム5人の中から試合出場者3人を選べば少なくとも1人はお目当ての奴が試合に出場することになる。そして迷宮という閉鎖空間……拉致するにはこれ程好条件な試合形式は無いだろうよ)
アイズは何か野望を秘めている。そのためのファクターを集めようとバトル・ガーディアンズとその大会を利用している。それは確実だ。
――なんてったってこのゲームは、人の命によって生まれたのだから――
意味ありげに漏らしたアイズの言葉。あれは決して言葉のアヤなとではない。
あの言葉には意味がある。
「人の命によって生まれたカードゲーム、か。園生カンナに東條ユキマル、そして……」
そこで口を閉ざした。2人の後に口に出そうとしたその名前、それは決して言ってはならない。
もし一言言ってしまえば自分は理性を失い怒りに身を燃やすことになるだろう。
「これ以上……お前の好きにさせるものか……!!」
震える声、だがそれは怨嗟とも言うべき静かな業火の声。生易しいものではない。
死んでいった者達への報いは受けてもらう。その覚悟と覇気が身体中から滲み出ていた。
◇◇◇◇◇◇◇◇
「うぅ~、こうなったら無理矢理にでも動いてやるのだー!」
若干自棄になりながらも今ある手札の中からコンボをその場で生み出すことにした。
「手札からスペルカード【メテオ・インパクト】を発動なのだー!」
【メテオ・インパクト】
SP【0】
【ノーマルスペル】
【起】(COST:手札のこのカードをジャンクゾーンに送る)
┗あなたは自分と相手のガーディアンをそれぞれ1体ずつ選び、2000ダメージを与える。
園生リンナ:手札【5】
「メテオ……インパクト……っ!!」
「カウンターステップでスペルカードを捨てるのだー?」
「す、捨てない……」
今、捨てるわけにはいかない。サラサは自分の手札のカードを見て強くそう思う。
このコンボを今崩すわけにはいかず、またウィザード・ロンドのLPは3100、たとえ2000削られようともまだ許容範囲内だ。
「コンボ成立なのだー、フォースを1枚消費して手札からカウンターカード【光合成】を発動なのだー!」
「っ?!」
【光合成】
Force【1】
【カウンター】
【自】(カウンターステップ時)
┗あなたの場に存在する【プラントトライブ】のアタックガーディアンがダメージを受ける場合、一度だけそのダメージをリペア効果扱いにできる。
園生リンナ:手札【4】
:フォース【▽▼】
「この効果でプラント・スプロートは2000ダメージを受けずに2000リペアするのだー!」
【プラント・スプロート】
DG【-900→-2900】
LP【2900→4900】
【ウィザード・ロンド】
DG【-2100→-100】
LP【3100→1100】
「これだけじゃないのだー、手札からスペルカード【ダメージサモン】を発動するのだー」
【ダメージサモン】
SP【1】
【ノーマルスペル】
【起】(COST:自分の場のガーディアン1体を選んで任意のダメージを与える、手札のこのカードをジャンクゾーンに送る)
┗あなたは自分の手札からガーディアンカードを1枚選んでそのSFをXだけ軽減して召喚できる。(Xの値はこの効果のコストとして与えたダメージ量1000につき1)
園生リンナ:手札【3】
「コストとしてプラント・スプロートに3000ダメージを与えて手札からアタックガーディアン【ブロッサム・プラント】を召喚なのだー!」
【プラント・スプロート】
DG【-2900→100】
LP【4900→1900】
【ブロッサム・プラント】
SF【3】
GT【ノーマル/アタック】
Tr【プラント】
DG【100】
LP【3000→2900】
園生リンナ:手札【2】
「どうだ、なのだー!」
「……はぁ」
リンナは「むふー」と誇らしげに胸を張る一方で、サラサは溜め息を漏らす。
ブロッサム・プラントはプラント・スプロートに比べてSFが1つ上がっているもののそのLPは4900から2900まで減少してしまっている。プラントトライブにとってLPの高さによる防御力こそが他のトライブにはない最大限の利点であり、それを失ってまでSF【3】のガーディアンを召喚するメリットは現在のカードプールではプラントトライブには存在しない。
むしろ、相手の行動の範囲を広げてしまうことになりかねない。
サラサは自分のマスターズギアを見つめて冷静に宣言する。
「自分からプラントトライブの特長を捨てるなんて愚か。貴女がSF【3】のブロッサム・プラントを召喚したから……神速召喚」
【神速魔女 マーハ】
SF【3】
GT【スピード/アタック】
Tr【ウィザード】
DG【-100】
LP【3500→3600】
【サモンコンディション】
┗このカードは相手がSF【3】以上のガーディアンを召喚した時、手札またはサイドデッキからフォースを消費せずに召喚できる。
「ポテンシャルアビリティ……発動」
【神速魔女 マーハ】
【ポテンシャルアビリティ】
【自】(アピアステップ時)
┗あなたは自分のジャンクゾーンからカード名の異なるスペルカードを3枚まで選んでこのガーディアンの下にマテリアルカードとして置く。この効果でジャンクゾーンのスペルカードが3枚マテリアルカードとして置かれた場合、相手の場に存在するガーディアンを1体まで選んで以下の能力を与える。
『【永】
┗このカードが自分の場に存在している限り、あなたはバトルフェイズを開始する場合にマテリアルカードを1枚ジャンクゾーンに送らなければならない。』
「ジャンクゾーンからスペルカードを3枚、マーハの下にマテリアルセット……。そしてブロッサム・プラントに能力を与える……」
「そ、そんな……なのだー」
リンナは先程までの様子はどこへやら、肩を落として「マテリアルカードなんて持ってないのだー」と泣きべそを漏らす。
リンナのデッキにマテリアルカードを利用したカードは皆無だ。つまりブロッサム・プラント以外のアタックガーディアンを召喚しない限り、リンナはバトルを行うことができない。
「た、ターンエンド……なのだー……」
最早このターンに行えることは何もない。大人しくターンエンドを宣言するしかないのだ。
「私のターン……ドロー」
サラサはドローしたカードを見て、リンナの様子を伺う。
(このターンで動いてみせる……。たとえ決めきれなくても、園生リンナさんはバトルできない……大丈夫)
どうやら、このターンで勝負に出るようだ。
「フォースチャージして、追加ドロー……」
朽木サラサ:手札【7】
:フォース【▽▽▽】
「手札から……スペルカード【ダブルフォース】を発動」
【ダブルフォース】
SP【0】
【ノーマルスペル】
【起】(手札のこのカードをジャンクゾーンに送る)
┗この効果は1ターンに一度しか発動できない。あなたは自分のフォースゾーンに存在するカード枚数だけ自分のジャンクゾーンからスペルカードを選んでフォースゾーンに表状態で置く。この効果を発動したターンのエンドフェイズ時にこの効果でフォースゾーンに置かれたカードをジャンクゾーンに送る。
「よって、ジャンクゾーンからスペルカードを3枚選んでフォースゾーンに表状態で置く」
朽木サラサ:手札【6】
:フォース【▽▽▽▽▽▽】
「フォースを4枚消費して、手札から切り札【憑依の魔女 ドミネ】を召喚」
【憑依の魔女 ドミネ】
SF【4】
GT【ノーマル/アタック】
Tr【ウィザード】
DG【-100】
LP【4000→4100】
朽木サラサ:手札【5】
:フォース【▽▽▼▼▼▼】
「ドミネのエクシードアビリティを発動……」
【憑依の魔女 ドミネ】
【エクシードアビリティ】
【起】(COST:フォースを1枚消費する、マテリアルカードを1枚消費する)
┗あなたは自分の山札とサイドデッキからそれぞれアームドガーディアンとクロスガーディアンのガーディアンカードを1枚ずつ選んで自分の手札に加え、その山札とサイドデッキをシャッフルする。
「ドミネの効果で……アームドガーディアンとクロスガーディアンを手札に加える」
朽木サラサ:手札【7】
:フォース【▽▼▼▼▼▼】
「そして、アームドガーディアン【魔術礼装 フレア】を召喚」
【魔術礼装 フレア】
SF【0】
GT【アームド/アシスト】
Tr【ヴォルケーノ】
DG【0】
LP【100】
朽木サラサ:手札【6】
「そして、フレアのアームドアビリティを発動……」
【魔術礼装 フレア】
【アームドアビリティ】
【起】(COST:このカードをアンダーカードとしてアタックガーディアンの下に置く)
┗あなたのアタックゾーンに【ウィザードトライブ】のカードが存在する場合に発動できる。そのカードを素体とし、手札から【フレア】と名の付くクロスガーディアンをフォースを消費せずに召喚する。
「ドミネの下にフレアをアンダーカードとして置いて、装着転成」
紫を基調としたドミネの全身に赤く燃え盛るフレアの装甲が覆う。
【炎装魔女 ドミネ・フレア】
SF【5】
GT【クロス/アタック】
Tr【ウィザード】
DG【-100】
LP【5500→5600】
【サモンコンディション】
┗このカードはフォースを消費して手札から召喚できない。【ドミネ】と名の付くカードを素体とし、【魔術礼装 フレア】のアームドアビリティの効果でのみ、手札からフォースを消費せずに召喚できる。素体となったカードはこのカードのアンダーカードとなる。
【ポテンシャルアビリティ】
【永】
┗このカードがあなたのアタックゾーンに存在する限り、あなたは自分のターンのエンドフェイズ時に、あなたのフォースを全て裏状態にしなければならない。
朽木サラサ:手札【5】
紫色の髪の毛先が炎のように赤く揺らめき、炎の鎧を身に纏ったドミネがリンナのブロッサム・プラントを見下すように見つめていた。
「ドミネ・フレアのトライブアビリティを発動……儀式魔術の奇蹟」
【炎装魔女 ドミネ・フレア】
【トライブアビリティ】
【起】(COST:手札からスペルカードを2枚選んでジャンクゾーンに送る)
┗この効果は1ターンに一度しか発動できない。相手の場に存在するアタックガーディアンを1体まで選んで以下の能力を与える。この効果で与えた能力は重複せず、このガーディアンが場を離れると失われる。
『【自】(互いのバトルフェイズ開始時)
┗あなたはこのカードを【弱体化】し、相手は自分のジャンクゾーンからスペルカードを2枚まで選んで自分の場に存在するアタックガーディアンの下にマテリアルカードとして置く。』
朽木サラサ:手札【3】
「コストを支払い、ブロッサム・プラントに効果を与える……。そしてダイスステップ」
マスターズギアに数字が表示される。【4】
【炎装魔女 ドミネ・フレア】
【1】【3】……あなたは相手の手札からカードをランダムに2枚まで選んで相手のジャンクゾーンに送る。
【4】【6】……相手のアタックガーディアンにXダメージを与える。(Xの値はこのガーディアンの下に置かれたマテリアルカードの枚数×500)
朽木サラサ:フォース【▼▼▼▼▼▼】
「フォースを消費してバトルフェイズ……ドミネ・フレアの効果によって貴女はブロッサム・プラントを弱体化させて私のジャンクゾーンからスペルカードを2枚選んでドミネ・フレアにマテリアルセットする」
「うぅ……仕方ないのだー」
【ブロッサム・プラント】
【弱体化】
ドミネ・フレアの下にスペルカードがマテリアルカードとして置かれ、これでドミネ・フレアが持つマテリアルカードに含まれるスペルカードの種類は6種類となった。
「弱体化したブロッサム・プラントが受けるダメージは3000の2倍……6000ダメージ」
「あわわわ……て、手札からプリベントアビリティを発動なのだー!!」
リンナは慌ててマスターズギアの画面をタッチした。
【ハード・プラント】
【プリベントアビリティ】
【自】(ダメージ効果が発動された時)
┗手札のこのカードをジャンクゾーンに送り、あなたのガーディアンをこのカードのLPの値だけリペアする。
園生リンナ:手札【1】
【ブロッサム・プラント】
DG【100→-2900】
LP【2900→5900】
「そんなライフじゃ、6000ダメージには耐えられない……」
「ま、まだまだなのだー! リンナの最後の手札はカウンターカードなのだー!」
残り1枚のカードも使用してドミネ・フレアの攻撃を耐えようと実行に移す。
【ハーフダメージ】
FORCE【1】
【カウンター】
【自】(カウンターステップ時)
┗あなたは自分のガーディアンを1体まで選び、そのカードが受けるダメージ効果1つの数値を半分にする。
園生リンナ:手札【0】
:フォース【▼▼】
【ブロッサム・プラント】
DG【-2900→100】
LP【5900→2900】
プリベントアビリティによってブロッサム・プラントのLPを底上げし、ハーフダメージでダメージ量を減少させることでなんとかドミネ・フレアからの攻撃を実質無効にすることができた。
「エンドフェイズ、フォース2枚をジャンクゾーンに送ってターン……エンド」
朽木サラサ:フォース【▼▼▼▼】
「リンナのターンなのだー、ドローなのだー!」
園生リンナ:手札【1】
リンナはドローしたカードを見る。この状況を覆すためには意地でも飢饉からの年末大収穫祭を引くしかない。
(ドローしたのはドメインカードの尉薔薇地獄なのだー。でも、今更回復したところで焼石に水なのだー)
尉薔薇地獄はリペア効果と併用することによって真価を発揮するカードであり、それ単体では決して機能しない。
よって、フォースチャージを破棄してまで手札に握っておく旨味は皆無である。
「フォースチャージして、追加ドローなのだー!」
園生リンナ:手札【1】
:フォース【▽▽▽】
「……これでもないのだー」
追加ドローで引いたのはスペルカードであるが、ドメインカードをデッキからサーチする【フィールド・クリエイト】。デッキに残っている尉薔薇地獄をサーチする意味が現状無いのは先程説明した通り。ならば、最後の手段に出るしかない。
「ライフカウンターを2つ消費して、2枚ドローするだー!」
園生リンナ:手札【3】
:ライフカウンター【2】
ライフカウンターが0になると敗北になる以上、もうライフカウンターを消費してドローすることはできないし、ダメージ無効効果の範囲も限定される。
それだけのリスクを負ってでも、この2ドローはリンナにとって大きいものだった。
「……」
ドローしたカードを呆然と見つめ、小さく呟く。
「……引けたのだー」
「っ!?」
リンナの言葉にサラサは警戒の色を顔に出す。リンナの言葉から、逆転のカードが引かれたことが分かる。
「まずは手札からスペルカード【フィールド・クリエイト】を発動なのだー。この効果でデッキからドメインカード【尉薔薇地獄】を手札に加えてそのままセットなのだー!」
【慰薔薇地獄】
【永】
┗このカードがあなたのドメインゾーンに存在する限り、自分フィールド上のガーディアンのLPがリペアした場合、その数値の半分だけ相手のガーディアン1体を選んでダメージを与える。
園生リンナ:手札【2】
「さらに、手札からスペルカード【飢饉からの年末大収穫祭】を発動なのだー!」
【飢饉からの年末大収穫祭】
SP【3】
【ノーマルスペル】
【起】(COST:手札のこのカードをジャンクゾーンに送る)
┗この効果は、このカードの効果発動時にあなたの手札が1枚のみの場合に発動できる。あなたは自分の山札からカードを5枚まで閲覧して好きな順番に並び替えて山札の上に戻す。この効果を発動したターンのエンドフェイズ時に、あなたは自分の山札の上からカードを3枚ドローし、さらに2枚を表状態でチャージゾーンに置く。
園生リンナ:手札【1】
「デッキトップからカードを5枚見て、好きな順番に混ぜ混ぜするのだー」
デッキトップのカードを閲覧し、己にとって都合の良いように並び換えた後に再びデッキトップに戻された。
そして、これによりリンナの逆転のためのコンボは完成した。
「リンナのフォースを2枚消費して、アシストガーディアン【グローイング・シード】を召喚するのだー!」
【グローイング・シード】
SF【2】
GT【ノーマル/アシスト】
Tr【プラント】
DG【0】
LP【1400】
園生リンナ:手札【0】
:フォース【▽▼▼】
「そしてグローイング・シードのアシストアビリティを発動するのだー」
【グローイング・シード】
【アシストアビリティ】
【起】(COST:アシストゾーンに存在するこのカードをジャンクゾーンに送る)
┗あなたは自分の山札の一番上のカードをめくって公開する。そのカードが【プラントトライブ】のガーディアンカードである場合、そのカードをフォースを消費せずに召喚できる。
「グローイング・シードをコストとしてジャンクゾーンに送って、デッキトップを公開するのだー」
リンナのデッキトップのカードの画像がお互いのマスターズギアの画面に表示される。
【フローラス・プラント】
Tr【プラント】
プラントトライブのガーディアンカードであり、リンナにとっての切り札にしてデッキの象徴であり、サラサとの差を埋める唯一無二のカードだ。
「グローイング・シードの効果でフローラス・プラントをノーコストで召喚するのだー」
【フローラス・プラント】
SF【6】
GT【ノーマル/アタック】
Tr【プラント】
DG【100】
LP【6400→6300】
リンナのフローラス・プラントとサラサのドミネ・フレアのDGの差は200であるため、フローラス・プラントのポテンシャルアビリティ発動のための条件を満たしていないので効果発動はされない。
また、手札がもう枯渇してしまっているので、フローラス・プラントのトライブアビリティを発動することも叶わない。
ならば、リンナが出来ることはただ1つのみだ。
「サイコロを振るのだー!」
マスターズギアの画面に【3】と映し出される。
【フローラス・プラント】
【1】【3】……このカードのライフを2000リペアする。
【2】【4】……あなたは自分の手札のカードとフォースを任意の枚数を選んでジャンクゾーンに送る。相手のガーディアンを1体まで選んでXダメージを与える。(Xの値は、この効果でジャンクゾーンに送ったカード枚数×700)
園生リンナ:フォース【▼▼▼】
「フォースを消費してバトルなのだー! フローラス・プラントのライフを2000リペアするのだー!!」
【フローラス・プラント】
DG【100→-1900】
LP【6300→8300】
そしてリペアしたことで、ドメインゾーンのカードの発動条件が満たされた。
「ドミネ・フレアにリペアした数値の半分――1000ダメージを与えるのだー!」
「……っ」
【炎装魔女 ドミネ・フレア】
DG【-100→900】
LP【5600→4600】
「ターンエンド! なのだー」
さらにエンドフェイズ時、飢饉からの年末大収穫祭の効果で3枚ドローし、2枚チャージされる。
園生リンナ:手札【3】
:フォース【▽▽▼▼▼】
「私のターン……ドロー。フォースチャージして……追加ドロー」
朽木サラサ:手札【4】
:フォース【▽▽▽▽▽】
「手札から……スペルカード【転成解除】を発動……」
【転成解除】
SP【1】
【ノーマルスペル】
【起】(COST:フォースを2つ消費する、手札のこのカードをジャンクゾーンに送る)
┗あなたは自分のアタックゾーンに存在するクロスガーディアンを1体まで選んでそのアンダーカードとなった素体ガーディアンとアームドガーディアンをフォースを消費せずに召喚する。
朽木サラサ:手札【3】
:フォース【▽▽▽▼▼】
「この効果により……ドミネ・フレアの装着転成を解除……」
【憑依の魔女 ドミネ】
SF【4】
GT【ノーマル/アタック】
Tr【ウィザード】
DG【900】
LP【4000→3100】
【魔術礼装 フレア】
SF【0】
GT【アームド/アシスト】
Tr【ヴォルケーノ】
DG【0】
LP【100】
「そして……ドミネのエクシードアビリティを発動……」
【憑依の魔女 ドミネ】
【エクシードアビリティ】
【起】(COST:フォースを1枚消費する、マテリアルカードを1枚消費する)
┗あなたは自分の山札とサイドデッキからそれぞれアームドガーディアンとクロスガーディアンのガーディアンカードを1枚ずつ選んで自分の手札に加え、その山札とサイドデッキをシャッフルする。
「サイドデッキとメインデッキから、それぞれクロスガーディアンとアームドガーディアンを手札に加える……」
朽木サラサ:手札【5】
:フォース【▽▽▼▼▼】
「手札から……アームドガーディアン【魔術礼装 アイス】を召喚……」
【魔術礼装 アイス】
SF【0】
GT【アームド/アシスト】
Tr【ブリザード】
DG【0】
LP【100】
朽木サラサ:手札【4】
「アームドアビリティ……発動……」
【魔術礼装 アイス】
【アームドアビリティ】
【起】(COST:このカードをアンダーカードとしてアタックガーディアンの下に置く)
┗あなたのアタックゾーンに【ウィザードトライブ】のカードが存在する場合に発動できる。そのカードを素体とし、手札から【アイス】と名の付くクロスガーディアンをフォースを消費せずに召喚する。
「ドミネの下にアイスをアンダーカードとして置いて、装着転成」
紫を基調としたドミネの全身が今度は氷の結晶体であるアイスの装甲に覆われ、辺りの領域が少しずつ凍結していく。
【氷装魔女 ドミネ・アイス】
SF【5】
GT【クロス/アタック】
Tr【ウィザード】
DG【900】
LP【5500→4600】
【サモンコンディション】
┗このカードはフォースを消費して手札から召喚できない。【ドミネ】と名の付くカードを素体とし、【魔術礼装 アイス】のアームドアビリティの効果でのみ、手札からフォースを消費せずに召喚できる。素体となったカードはこのカードのアンダーカードとなる。
【ポテンシャルアビリティ】
【永】
┗このカードがあなたのアタックゾーンに存在する限り、あなたは自分のターンのエンドフェイズ時に、あなたのフォースを全て裏状態にしなければならない。
「ドミネ・アイスのトライブアビリティを発動……儀式魔術の奇蹟!!」
【氷装魔女 ドミネ・アイス】
【トライブアビリティ】
【起】(COST:手札からスペルカードを2枚選んでジャンクゾーンに送る)
┗この効果は1ターンに一度しか発動できない。相手の場に存在するアタックガーディアンを1体まで選んで以下の能力を与える。この効果で与えた能力は重複せず、このガーディアンが場を離れると失われる。
『【自】(互いのバトルフェイズ開始時)
┗あなたは自分の手札からスペルカードを2枚選んでジャンクゾーンに送る。送らなかった場合、このターンの間、あなたはバトルフェイズ中にカード効果を発動できず、相手は自分のジャンクゾーンからスペルカードを2枚選んで自分の場に存在するアタックガーディアンの下にマテリアルカードとして置く。』
朽木サラサ:手札【2】
「手札からスペルカードを2枚選んでジャンクゾーンに送ってフローラス・プラントに効果を与えてダイスステップ……」
マスターズギアに数字が表示される。【1】
【氷装魔女 ドミネ・アイス】
【1】【3】……あなたは相手の手札からカードを2枚までランダムに選んで相手のカードが存在しないアシストゾーンとドメインゾーンにそのカードを裏状態で置く。次のターンのエンドフェイズ時に相手はそのカードを自分の手札に加える。(この効果で裏状態で置かれたカードが存在する限り、相手はそのゾーンを使用できない)
【4】【6】……相手のアタックガーディアンにXダメージを与える。(Xの値はこのガーディアンの下に置かれたマテリアルカードの枚数×500)
朽木サラサ:フォース【▽▼▼▼▼】
「フォースを消費してバトルフェイズ。フローラス・プラントに付与された効果が発動……」
「うーん……リンナは手札を捨てないのだー」
「なら、ジャンクゾーンからスペルカードを2枚……ドミネ・アイスにマテリアルセット。そしてドミネ・アイスのアタックアビリティにより、リンナさんは手札を1枚、アシストゾーンに裏状態で置く……」
「仕方ないのだー」
園生リンナ:手札【2】
リンナのアシストゾーンに裏状態でカードが置かれ、次のターンのエンドフェイズまでアシストゾーンが使用不可になってしまった。
アシストガーディアンによる補助が得られなくなり、さらに手札にはアタックガーディアンの火力を底上げするスペルカードもカウンターカードも無い。
より確実なダメージリソースは現状ではドメインゾーンに配置された尉薔薇地獄しかない。
「私は……これでターンエンド」
「リンナのターンなのだー、ドローなのだー。フォースチャージして、さらにドローなのだー」
園生リンナ:手札【3】
:フォース【▽▽▽▽▽▽】
「フローラス・プラントのトライブアビリティを発動なのだー! 植物の再生!!」
【フローラス・プラント】
【トライブアビリティ】
【起】(COST:手札1枚をジャンクゾーンに送る)
┗山札の上からカードを3枚めくってジャンクに送り、その中に含まれているガーディアンカードの枚数1枚につき、このカードを1000リペアする。
園生リンナ:手札【2】
「手札を1枚捨てて効果発動なのだー。どーん!」
リンナのデッキトップからジャンクゾーンに送られるカードが互いのマスターズギアに表示される。
【ヴェノム・プラント】〈ガーディアンカード〉
【魔装植物 スナップ】〈ガーディアンカード〉
【ローズ・プラント】〈ガーディアンカード〉
「ジャンクゾーンに送られたのは全てプラントトライブのガーディアンカードなのだー。よって、フローラス・プラントのライフが3000回復するのだー」
「そして、ドメインゾーンのカードの効果でドミネ・アイスは……1500のダメージを受ける」
【フローラス・プラント】
DG【-1900→-4900】
LP【8300→11300】
【氷装魔女 ドミネ・アイス】
DG【900→2400】
LP【4600→3100】
ドミネ・アイスの残りライフは3100、このまま行けば勝利は目前だ。
フローラス・プラントのライフは10000を越え、たとえアタックアビリティが不発になり弱体化しようとも、ちょっとのダメージでは削られることはないだろう。
ここは一気に畳み掛けるに限る。
「サイコロを振るのだー!」
サイコロの目は、【2】。
【フローラス・プラント】
【1】【3】……このカードのライフを2000リペアする。
【2】【4】……あなたは自分の手札のカードとフォースを任意の枚数を選んでジャンクゾーンに送る。相手のガーディアンを1体まで選んでXダメージを与える。(Xの値は、この効果でジャンクゾーンに送ったカード枚数×700)
園生リンナ:フォース【▼】
「フォース5枚をジャンクゾーンに送って3500ダメージを与えるのだー!」
「……」
サラサは無言でマスターズギアを見つめる。脳内に思い浮かぶのは、炉模工業高校で行われた練習試合の中堅戦。
――無様なゲームをするな!!――
シンヤの言葉は正しい。カードマスターならば、無様なゲームを行うものじゃない。どのような状況であれ、自分の出せる全力を発揮する。たとえそれが万全のものでなかったとしても。
シンヤに叱責されたあの日、すっとこの日を待っていた。無様なゲームをするつもりはない。
ようやく、本当の意味で己の全力を存分に発揮できるのだから。
己の持つウィザードトライブの流儀を見せつけてやるのだ。
「ライフカウンターを3つ使って、3500ダメージを無効にする……」
「あ、しまったのだー!!」
相手のライフカウンターの存在を失念していた。これは完全にリンナのプレイングミスである。
朽木サラサ:ライフカウンター【1】
【氷装魔女 ドミネ・アイス】
DG【2400→2400】
LP【3100→3100】
3500ダメージが無効化され、ドミネ・アイスは当然無傷である。
「ターンエンドなのだー……うぅ」
「私のターン、ドロー……っ!?」
サラサはドローカードを見た瞬間に目を見開く。
(――――そっか、あなたも……戦いたいんだね。あの時、戦えなかったから……)
ならば、と、サラサの選択はただ1つだ。
「フォースチャージして、追加チャージ」
「え……」
追加ドローではなく、追加チャージを選択したのだ。
朽木サラサ:手札【1】
:フォース【▽▽▽▽▽▽▽】
「フォースを7枚消費して、手札から……【守護龍 ウィザード・ドラゴン】を召喚!!」
【守護龍 ウィザード・ドラゴン】
SF【7】
GT【ノーマル/アタック】
Tr【ウィザード】
DG【2400】
LP【7000→4600】
朽木サラサ:手札【0】
:フォース【▼▼▼▼▼▼▼】
「ウィザード・ドラゴンのトライブアビリティを発動……儀式魔術の奇蹟」
【守護龍 ウィザード・ドラゴン】
【トライブアビリティ】
【自】(このカードのアピアステップ時)
┗あなたは自分の山札の一番上からカードを1枚、このガーディアンの下にマテリアルカードとして置く。この効果でマテリアルカードとなったカードがスペルカードである場合、このガーディアンはアタックゾーンに存在する限り以下の効果を得る。
『【永】
┗あなたのターンのバトルフェイズ開始時に、あなたは自分のジャンクゾーンからこのガーディアンが持つマテリアルカードの枚数だけスペルカードを選んでこのガーディアンの下に置く。』
「ウィザード・ドラゴンのトライブアビリティにより、デッキトップのカードを……マテリアルセット」
サラサはマテリアルセットされたカードをリンナに公開する。
【転成解除】〈スペルカード〉
「マテリアルセットされたカードは……スペルカード。よって、ウィザード・ドラゴンは永続効果を獲得……」
「うぅ……で、でもフォースは全て使ったからバトルフェイズは行えないのだー」
「ウィザード・ドラゴンが持つマテリアルカード……その中に含まれるスペルカードの種類は8種類……」
【十六夜の魔術工房】
【ドメイン】
【永】
┗このカードがドメインゾーンに存在する限り、あなたの場に存在する全ての【ウィザードトライブ】のガーディアンが持つマテリアルカードの中に含まれているスペルカードの種類数に応じて以下の効果を適用する。
【0】:各プレイヤーのエンドフェイズ時、あなたはライフカウンターを1つ失い、このカードを自分の山札の一番上に置く。
【1~15】:あなたの場に存在するガーディアンはカード効果では【弱体化】しない。
【8~15】:あなたはバトルフェイズを開始する場合にフォースを消費しなくてよい。
【16】:あなたのターンのバトルフェイズ開始時に相手の場に存在するガーディアンを1体まで選んで【弱体化】させる。この効果で【弱体化】したガーディアンが存在する限り、相手は手札からカード効果を発動できない。
「十六夜の魔術工房の永続効果により、フォースを消費せずにバトルフェイズが行える……ダイスステップ」
サラサのマスターズギアに数字が表示された。【6】
【守護龍 ウィザード・ドラゴン】
【1】【3】【5】……このガーディアンが持つマテリアルカードの枚数だけ、相手の山札からカードをジャンクゾーンに送る。このガーディアンが持つマテリアルカードが10枚以上である場合、このターンのエンドフェイズ時にそのマテリアルカードを10枚ジャンクゾーンに送る。
【2】【4】【6】……相手のアタックガーディアンにXダメージを与える。このガーディアンが持つマテリアルカードが10枚以上である場合、このターンのエンドフェイズ時にそのマテリアルカードを10枚ジャンクゾーンに送る。(Xはこのガーディアンが持つマテリアルカードの枚数×500)
「フォースを消費せずにバトルフェイズ。ウィザード・ドラゴンの永続効果により、ジャンクゾーンからスペルカードを8枚選んでウィザード・ドラゴンにマテリアルセット。そしてこの瞬間、ウィザード・ドラゴンのマテリアルカードの中に含まれるスペルカードの種類は16種類……」
ウィザード・ドラゴンが持つマテリアルカードの中に含まれるスペルカードの種類が16種類になったことで、十六夜の魔術工房の永続効果が満たされた。
「フローラス・プラントを弱体化させる。このターン、リンナさんは手札からカード効果を発動できない……」
「え……それじゃあ」
【フローラス・プラント】
【弱体化】
「フローラス・プラントが受けるダメージは、8000の2倍である16000ダメージ……」
「そ、そんなぁ……なのだー」
ウィザード・ドラゴンの咆哮と共に放たれる光線が、フローラス・プラントを呑み込む。
【フローラス・プラント】
DG【-4900→11100】
LP【11300→0】
フローラス・プラントのライフが0になったことで、サラサとリンナの決着が着いた。
「負ーけーたーのーだー……」
「……」
サラサは台の上に置かれたポイントアイテムを手に持つ。
無言のまま力強く頷き、監視カメラに向かってポイントアイテムを掲げて見せる。
このバトルをモニター越しに見ているであろうシンヤに対するサラサなりの勝利報告であり、リベンジを見事果たし尚且つ無様なバトルをしなかったというサラサの強い想いの表れである。
(部長……私、今度はちゃんとやれたよ)
◇◇◇◇◇◇◇◇
〈なんと! ここで朽木サラサ選手と園生リンナ選手のバトルに決着が着いたぞ! 勝者は朽木サラサ選手、まずは炉模工業高校が一歩リードだ!!〉
「サラサ、よくやったわ!」
炉模工業高校の選手控え室。モニターの様子を両手を握りながら固唾を飲んで見守っている。
そんな時だ、控え室の扉が唐突に開けられる。
「え……ちょっと、シンヤにアカネ?!」
控え室に入ってきたのはヨウコが言ったようにシンヤとアカネだった。
特にアカネの方は顔に傷痕があり、軽傷ではあるもののぐったりとした状態である。
その異常とも言える状況にヨウコは慌てふためく。
「え、え? なに、アカネどうしたの?!」
「すまん、ヨウコ。詳しい話は後だ、今はとりあえず稚推を休ませたい。ベンチを2つ程借りるぞ」
控え室に備えられている4つの長い水色のベンチの内2つをくっつけてアカネをその上に横にして寝かす。
ヨウコは不安そうに眠っているアカネの顔を覗く。
「アカネ、大丈夫なの?」
「ああ、傷は見た目ほど酷くはない。少し寝ればある程度は回復できるだろう」
アカネを寝かせた後、シンヤはふとモニターに目が行った。
モニターには、バトルマスター・レツによる解説とサラサが勝利したというテロップが表示されていた。
「……朽木の奴、勝ったのか」
シンヤの言葉にヨウコは頷く。
「ええ、そうよ。アンタ、サラサが戻ったらちゃんと褒めなさいよ。この前の練習試合のこと、まだ気にしてたんだから」
「……そうか」
シンヤにも何か思うことがあるのか、少し気まずい思いを胸に秘めながらヨウコに対して頷いた。
「ああ、分かったさ。朽木に関しては目一杯褒めてやるつもりだ」
シンヤの言葉に満足したのか、ヨウコは「さーて」とモニターに目を向ける。
「あとは阿久津ね。ま、アイツのことだから心配ないでしょうけど」
「阿久津の方は……どうだろうな」
〈おーっと!! ついに阿久津エンジ選手と戦宮カイト選手の決着が着いたみたいだ!!〉
すると、バトルマスター・レツの実況が聞こえてきた。
「やったわね、シンヤ。これで炉模工はストレート勝ちよ」
「……いや、ヨウコ」
シンヤはモニターを見ながら口元をニヤリと歪める。
モニターには申し訳なさそうに笑いながらヘッドホンを右手に持つエンジの姿が映されていた。
「向こうもそう簡単には行かせてはくれないみたいだぞ」
「え……?」
〈よっしゃあああああああ!!! 俺の勝ちだあああ!!!!〉
控え室に響いたのはカイトの叫び声。その声にヨウコは小さく「まさか……」と漏らし、シンヤは愉快そうに「だろうな」と笑う。
続いて控え室に響いたのはバトルマスター・レツの声だった。
〈勝者は戦宮カイト選手! 長いダイスバトル――その回数なんと147回と来たもんだ!! いやぁ、本当に長かった! ……うん、本当に。これで炉模工業高校と東栄学園は1対1の引き分け、勝負の行方は大将戦に持ち越しだぞ!!〉
バトルマスター・レツの言葉にヨウコはギョッとした表情でモニターを見る。
信じられない、という言葉がヨウコの表情から容易く読み取れる。
「だから言っただろ、ヨウコ。アイツらと俺達は同レベルだって」
「……そう、みたいね。ええ、認めたくはないけれど…………東栄学園を下に見てたことは撤回するわ」
忌々しそうな幼馴染の表情を、シンヤは鼻で笑う。
「フッ。さーて、琴原ヨウコの本気、見せてもらおうかね」
ヨウコの方は不機嫌な顔で「フン!」とそっぽを向く。
「見てなさい。大将戦は瞬殺してみせるから」
「へいへい、精々期待してますよ――――おっと」
すると、控え室の扉が開かれ、シンヤの意識がそちらに移った。
入ってきたのはサラサとエンジ。サラサは相変わらずの無表情であるものの、全身から強い自信のようなものが溢れており、一方のエンジはケラケラ笑っている。
「……勝った」
「サーセンッス、見事に運に負けましたー!」
シンヤはとりあえずエンジの頭にチョップをかます。
「痛っ」
「ヘッドホンが取れたってことは全力を尽くしたんだと推測できるが、詰めが甘いぞ阿久津」
「ダイス勝負に持ち込まれたんじゃ、詰めが甘いとかの問題じゃないと思うんスけどー」
エンジが「ブーブー」と口を尖らせて文句を垂れる。
シンヤは次にサラサの方へ目を向ける。
「……っ」
途端にサラサの体が一瞬だけ硬直する。睨まれたカエル……ではないが、やはり緊張する。
シンヤは暫く無表情だったものの、すぐに「ニッ」と笑顔を浮かべてサラサの頭をワシャワシャと撫でる。
「よくやったな、朽木! それでこそ炉模工のチームメンバーだ、偉いぞ!!」
「――――ぁぅ」
サラサはカーッと顔が赤くなり、俯いてしまった。まさか、ここまで褒められるとは予想外である。
ヨウコとエンジは呆れて肩を竦める。
「いや、シンヤ……確かに褒めなさいとは言ったけれど……」
「諸星部長……それセクハラッスよ」
「なぜ?!」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
迷宮内部。
「うぅ、負けたのだー」
リンナはトボトボと落ち込んで迷宮内から控え室に向かおうと歩いていた。
その時である。
「――――っ?!」
突然、背後から何者かがリンナを拘束し、鼻と口をハンカチで覆う。
ハンカチにはクロロホルムが含まれており、リンナの意識が揺らぐ。
(ね、眠いのだー……)
リンナの意識はそこで切れ、何者かは意識の失ったリンナの体を支えて運び出そうとする。
「―――おい、何をやっている」
「っ?!」
完全に油断した。何者かはそう思った。
いきなり後ろから蹴りを入れられ、その場で態勢を崩してしまった。
蹴りを入れた人物――――フジミの姿を見て、何者かは笑う。
「……へぇ、キミが出てくるなんて予想外だったよ。てっきり、東條くんが来るとばかり」
「アイツは肝心な時にやって来ない甘ちゃんだからな。だが、俺は奴ほど甘くはないぞ……王ミツエ」
そう、リンナを拐おうとした何者か――ミツエは額に脂汗を浮かべる。
ユキヒコだけなら上手く丸め込む自信はあったのだが、フジミが相手なら事情が変わってくる。
仮にも鹿羽グループの次期当主、いくつもの修羅場を潜ってきたであろう人物だ。下手なことを言えば、無事では済まないだろう。
「もう一度聞くぞ、何をやっている」
言葉こそ疑問系だが、表情から疑問系ではないことが伺える。きっと、フジミは自分が何をしようとしていたのか、リンナをどこへ連れて行こうとしていたのか、全てを知っている。
全てを知っている上で、敢えて尋ねているのだ。
(あーあ、これは誤魔化すのは無理かなぁ)
内心で笑ってみせるが、後が無い。観念するしかない。
「……園生リンナちゃんを連行するつもりだったよ、勿論」
「やはり、あの計画のためか……リライヴ計画、だったか」
「そこまで知ってるんだったら、尚更隠すのは意味無いね」
全く、言葉には出さないものの呆れて溜め息しか出ない。
「キミに見つかったんじゃ、リンナちゃんの誘拐計画は台無しだねぇ。……はい」
ミツエは大人しくリンナをフジミに渡す。やれやれ、と思いながらアイズの言葉を思い出す。
――フジミくんはね、中々に厄介だよ。もし遭遇することがあったのなら、すぐに逃げた方が身のためだよ。彼は、私と同じ人間だからね――
(アイズさんと同じ人間かぁ……私の天敵だなぁ)
ああ、どうしようもなく面白い。右手で口元を隠し、口が形作る弧を悟られないようにする。
フジミは渡されたリンナを抱き留め、苛々した表情を浮かべてミツエに問う。
「お前達は――いや、孤高アイズは何のために、こんなことをしている」
「なら、キミは何のために私達の邪魔をするのかな? キミが私達の邪魔をしても、何のメリットにもならないと思うけど」
「ああ、そうだな。そのことに関してはお前に同意するぜ。だがな、お前達は俺の怒りに触れた……それだけだ」
「キミの怒りぃ?」
思わず笑ってしまう。
「それはあれかなぁ。園生フジコ……キミのお母さんのことかな。実験に耐えられなくて逃げ出した挙げ句、死んだらしいね」
「――――っ」
フジミの瞳から殺意が沸き上がる。その瞳に睨まれるだけでミツエは堪らなく心の底から込み上げてくる高揚感を抑えられない。
だが、ひとまずは味見だけに留めておこう。楽しみは後に取っておけばおくほど、その味は濃密になっていくものなのだから。
「ああ、怖い怖い。じゃあね、私はこれで退散させてもらうよ」
「……」
そのまま悪びれることなく走り去るミツエの背中を見つめながら、フジミは舌打ちを溢す。
今すぐ追跡したいが、とりあえずリンナをユキヒコ達の元に運ばなくてはならない。
「リンナー!」
すると、ユキヒコの声がフジミの耳に届く。フジミは途端に溜め息を溢す。相変わらず登場がワンテンポ遅い、と。
「――――鹿羽っ」
「随分と遅いご到着だな。重役出勤とは、さすが部長様と言ったところか」
向こうもフジミの存在に気づいて即座に警戒態勢に入ったのがフジミには空気だけで伝わる。
とりあえず、抱き留めていたリンナをユキヒコに押し付ける。
「リンナ?! ……鹿羽、お前リンナに何をした!!」
ぐったりと眠っているリンナの様子に、ユキヒコは怒りの表情をフジミに向ける。
「……大切なら、もっとちゃんと見ておくんだな。そのままじゃ、園生カンナの二の舞になるぞ」
「カンナの二の舞だと……? お前に……お前に何が分かる!? お前にカンナの何が分かるんだ!?」
「何も分からねえよ。それはお前も同じだろうが」
「それは……」
言葉に詰まるユキヒコ。そんな時だ、フジミの脳内に声がふと甦る。
――私が居なくなったらさ、ユキヒコとリンナを頼むぜ……フジミ兄さん――
フジミは無意識に拳を強く握り締めた。
「カンナが死んで一番悲しんでたのはお前だろうが。なら、つべこべ言わずにもっと必死になれっての」
【次回予告】
遂に炉模工業高校と東栄学園の大将戦が開幕する。
そしてキナ臭い様相を呈し始める全国大会。
今、孤高アイズの思惑が少しずつ、イクサ達の周りで見え隠れする。
次回、【鮮血の暗殺者VS奇跡の歌姫達】




