BATTLE:044【迷宮の罠・トリックトライブ】
今回からいよいよ全国大会本選です。
カードバトル描写はそこまでありませんが、文量は結構あります。
あと、新しいバトルデバイスが登場します。
全国大会本選当日・吹雪学園専用送迎バス車内
「なんでいつもいつもいつも……アイツばっか…!!」
「おかしい、ぜってーおかしい……なぜ神は平等に与えてくれねーんだよ!!」
そうブツブツぼやいているのは、イクサと度々顔を合わせたことがあるナンパ2人組み。
「まさかまたお兄さん達に会えるなんて思わなかったなー。ねえライジ?」
「でもこれでこの前のお返しができるね。ねえフウキ?」
「「うんうん!」」
そう互いに笑顔で頷き合っているのは、イクサとカイトが敗者復活戦で戦った双子の神薙兄弟である。
イクサにとっても予想外な面子に、イクサはただ乾いた笑い声をあげて溜め息をこぼす。
「は、ははは………はぁ」
なぜこんな状態になっているのか、それは約1時間ほど前に遡る。
冒頭から1時間前の朝、イクサ達はユキユメ旅館から出てフブキに連れられて吹雪学園に向かっていた。
イクサはユキヒコに話しかける。
「でも良かったですね、東條部長」
「うん。一時はどうなることかと思ったけどね。本選当日に遅刻なんて洒落にならないからね」
なぜイクサ達が吹雪学園へ向かっているかと言うと、
――「すいません、皆さん! 至急、店に戻らないといけなくなったので皆さんを全国大会にお送りできなくなりました! 本当に申し訳ありません!!」――
とカズノリに言われ、一同がユキユメ旅館の正面ロビーで動揺していたところに
――「だったら、吹雪学園の専用送迎バスがあるが? まだ席にも余裕はあると思うぞ」――
たまたま通りかかったフブキの提案があったためである。
こうして一同は九死に一生を得た。
「ここが吹雪学園だ」
ユキユメ旅館から出発してから30分後。巨大な校門のある学園に到着した。
フブキはそのまま専用送迎バスが駐停車している場所へと案内する。
ナミは小声でイクサとカイトに話しかける。
「なんかすっごい学校だね。うちの学校よりかなり大きいよ」
ナミの言葉にイクサとカイトは頷く。
「まさにマンモス校、って感じだよね」
「そういえば、以前カイリが持ってた進学先雑誌に、関東で一番大きい学校ってことで紹介されてたな。偏差値も70だっけ?」
カイトは呟いた一言にナミは「うぇ~」とげんなりする。
「偏差値70とか、私じゃ無理だー」
「ナミの場合、東栄に入れたのも奇跡的だし」
「あれはイクサと一緒の高校に通いたかったから頑張ったのー」
ナミの何気ない一言に、イクサは少し顔が赤くなる。
「い、一緒に通いたかったからって……」
「イクサだったら気兼ね無く宿題写すの頼めるし」
「……あっそ」
赤らめた表情から一転、イクサはジト目でナミを睨む。
カイトは「くくく」と笑いを堪えながらイクサの肩に手を置く。
「残念だったな、イクサ」
「別に」
つーんとそっぽを向くイクサ。ナミは首を傾げつつもフブキにまっすぐ挙手しながら話しかける。
「フブキの姉御!」
「あ、姉御?」
フブキは戸惑いながらナミから一歩退く。
「はい、姉御! トイレどこか教えて下さいな!!」
「だ、だから姉御はやめろ! トイレなら、あそこにある!!」
そう言って、フブキは専用送迎バスが駐車している場所から少し離れた位置に設置してある【吹雪学園事務所】と書かれた施設を指差す。
「あそこの受付の人に言って、貸してもらえ」
「アイアイマム!」
ピシッと敬礼をしてナミは事務所に駆けて行った。
それを見送ると、フブキはユキヒコに言う。
「い、一体何なんだ、彼女は……」
「うーん……でも早乙女さんはいつもあんな感じだよ」
ユキヒコはイクサに振り返って「ね?」と相槌を打つが、イクサは首を横に振って「ノーコメントで」と返す。
その様子に一同が苦笑していると、鞄を背負ったサクヤがやってきた。
「ありゃ? なんでイクサお兄ちゃん達がいるの?」
「あ、サクヤちゃん……」
サクヤが元気よく「こんちはー!」と挨拶すると、その後ろからヒョウザンもやってきた。
東栄学園の面々に、ヒョウザンはフブキとユキヒコに話しかける。
「これは一体どういうことだ? 偵察にしては、遅すぎる気がするが」
「ユキ達をうちの専用バスに乗せようと思ってね」
「なに……?」
フブキはヒョウザンにイクサ達の事情を簡単に説明する。
「……そういうことなら歓迎しよう。我々としても、東栄学園を倒さなければ全国最強を名乗れないからな」
「ヒョウザンさん、感謝します」
ユキヒコはヒョウザンに頭を下げる。
ヒョウザンは手を横に振る。
「気にするな。さて……」
ヒョウザンはイクサ達4人を見渡し、首を傾げる。
「メンバーが1人足りない気がするが……」
「ナミなら事務所でトイレを借りに行きましたけど……確かに遅いですね」
イクサは腕時計を確認し、ナミの帰りが少し遅いことに顔をしかめる。
「俺、ちょっと行ってきます」
そのままナミを連れ戻すためにイクサは事務所へ向かった。
「そういえばヒョウザンさん、そっちのメンバーも足りてませんね」
「……どこかで油を売ってるんだろう。まあ、出発時間前には来るはずだ」
吹雪学園の事務所に入り帰りの遅いナミを迎えに来たイクサの目に飛び込んできたのは
「「先輩たち~、もうすぐバス出ちゃうよー」」
「うるさいな、双子。今良いとこなんだから。ねえねえ、キミさ、もしかしなくても他校の生徒だよね?」
「だよなだよな。キミみたいな可愛い子を俺達がチェック漏れするなんて有り得ないし」
「え、私可愛い? いやぁ、それはまあ真実なんですけどもーあははは!」
上から順に、神薙兄弟、ナンパ2人組、ナミである。
まさかの組み合わせにイクサは目を見開く。
神薙兄弟の存在もそうだが、ナンパ2人組がここにいることに対しても驚く。
過去にアカネとアンジェの2人をナンパしたことがあるナンパ2人組みはイクサにとっては顔馴染みになりつつある。
その2人組がナミをナンパしていることにイクサは「またか」という気分になる。その一方でナンパされて満更でも無さそうなナミに「あのバカ」と思いながらナミに近づく。
二度の遭遇の経験から、恐らくあの2人組は物分かりの良い部類だと予想。今回も連れだと言えば大人しく引き下がってくれるだろう。
「あの、すみません。彼女は俺の連れで――」
「「あぁん? ……て、あ」」
「「あ、お兄さん」」
イクサの姿を視認したナンパ2人組と神薙兄弟は固まる。それから数秒後、ナンパ2人組は肩を震わせてイクサに詰め寄る。
「「またてめえか!!」」
「ど、どうも……」
「「どうも、じゃねえんだよ! いつも俺達の邪魔ばっかしやがって、あれか、この世全ての美少女はお前の連れなのか、あぁん?!」」
アカネに関しては美少女ではなく男の娘だったのだが、何とも言えないイクサは冷や汗を流しながら乾いた笑い声を出す。
「と、とにかくここは穏便に」
「「うっせえ! 今日という今日は――」」
「ほう、もうすぐ集合時間だというのにナンパに勤しんでるとは良い度胸だな」
「「あ、フブキお姉ちゃんだー」」
他者から見れば身も凍るような怒気を放って腕を組んでナンパ2人組の背後に立つフブキ。神薙兄弟は直ぐ様フブキの元に駆け寄る。
「「フブキお姉ちゃん。先輩たち、僕たちがいくら言ってもナンパしてて、そしたらお兄さんにも暴力を働こうとしたのー」」
「ほう」
神薙兄弟の報告に、ナンパ2人組は慌ててフブキに弁解する。
「い、いや違うんですよ!」
「そ、そうですよ! こら双子、変なことをフブキさんに言うなよな!」
フブキはゴキゴキと拳を鳴らしてから冷たい笑顔で2人組の頭を力いっぱい掴む。
「「あだだだだだだだだだだ!!!」」
「とりあえず、正座しろお前ら」
「「わ、分かり……痛"だだだだだだだだ!!!」」
自分から正座するために身を屈めているというより、痛みと圧力で強制的に身体が落ちていくというような感じの2人の姿を見て、イクサとナミは顔を青くする。一方で神薙兄弟はイタズラが成功したのを喜ぶかのように「イエーイ」と互いに言ってハイタッチしていた。
そうしている内に送迎バスの発車時刻が近づき、場面は冒頭へと戻る。
「早乙女ナミさん、うちのバカ2人が迷惑をかけた」
ヒョウザンはナミに対して謝罪する。
「い、いえ特に何かされたわけじゃありませんしー」
「今後はこのようなことが無いようにしっかり指導していこうと思う。……分かったか、ツトム、シュウスケ」
ヒョウザンがナミに一礼した後、ナンパ2人組――【新倉 ツトム】と【松本 シュウスケ】は「へーい」と返答する。
因みに、髪を金色に染めて右耳にピアスを着けているのがツトム、髪を茶髪に染めて腕にジャラジャラとアクセサリーを着けているのがシュウスケである。
反省の色が感じられない2人の返答に、ヒョウザンは額に青筋を立てる。
「……お前ら、負けたら俺が直々にその派手な髪をバリカンで剃ってやろう。身体・精神共にすっきりして、その腐った根性も直るだろうからな、あっはっはっは」
「「ちょ、それ勘弁!!」」
ツトムとシュウスケは慌てて頭を両手でガードする。
「だったら負けないようにベストを尽くすんだな」
ヒョウザンは黒い笑みを浮かべながら「フフフ」と不気味に笑う。
ユキヒコは「あはは」と笑いながら、吹雪学園の面々を見渡す。
「そういえば、吹雪学園の試合メンバーは6人なんですね」
ヒョウザンはコーチという立ち位置なのでメンバーにカウントされないが、吹雪学園のメンバーはフブキ、サクヤ、フウキ、ライジ、ツトム、シュウスケの6人である。
「ああ。シュウスケは補欠だ、試合参加メンバーは最低5人、補欠は1人まで認められているからな」
「なるほど。確かに、出場メンバーが多ければ相手としても対策しにくくなりますからね」
「そういうことだ。……まあ、過半数のメンバーが初等部、中高等部としてもなんとか参加メンバーに食らい付いた結果だな」
「……小学生だからと言って、油断はできないということですね」
「お前が油断? 笑える冗談だな、お前はどんな相手にだって徹底的に潰す性質だろうが」
「どうでしょうね」
互いに「フフフ」と笑い合うヒョウザンとユキヒコに、フブキとリンナ以外の周りのメンバーは一斉に身を震わす。因みにリンナは絶賛爆睡中であり「むにゃむにゃ、もう食べられないのだー」と呑気に寝言を呟いている。
カイトは話題を変えるように神薙兄弟の方を向く。
「そういえば、なんで神薙兄弟はあの敗者復活戦のショップ大会に参加してたんだ? 吹雪学園は神奈川代表だから必要ないだろ?」
カイトの問いに、フウキとライジはニッコリ笑う。
「それはねー」
「僕たちがコレに選ばれたからでしたー」
2人は鞄から【全国大会審査員】と書かれたワッペンを取り出してカイトに渡した。
カイトは首を傾げてワッペンを見つめる。
「なんだこれ?」
「「全国大会審査員っていうのは、本選に進んだ各代表校から最大2名まで選ばれるんだけど、敗者復活戦の大会に出場してその参加者を倒したり敢えて負けることで敗者復活権を取得する学校を絞るためのシステムなんだよー」」
そう嬉々として語る神薙兄弟に対してサクヤは頬を膨らませて2人をポカポカ叩く。
「フウキとライジばっか狡い! 私だって選ばれたかったのに!!」
「「運が無かったね、サクヤ」」
「うるさいうるさーい!!」
じゃれ合ってる神薙兄弟とサクヤの姿を見て、カイトは少し自嘲気味に笑う。
これが本来の“日常”なんだと、噛み締める。
「……なんか、ちょっと前までカイリとバトルしたのが嘘みたいだな。……でも」
そう呟いて拳を強く握り締め、イクサとナミの方を向く。
「俺達、ついにここまで来たんだ。……目指すは、優勝1つだぜ!」
「うん」
「勿論だよ!」
イクサとナミは大きく頷き、カイトと共に互いに拳をぶつける。
―――全国大会本選会場・幕張
会場に到着すると、送迎バスから降りてイクサ達はフブキ達と別れる。
フブキはユキヒコに話しかける。
「ユキ、ここから先は互いに敵同士だ。優勝は、吹雪学園が頂く」
「それはこっちの台詞だよ、フブキ姉さん。カンナと兄さんのためにも、俺達は絶対に負けないよ」
「……そうか。なら、決勝戦で会おう」
「はい」
互いに背を向け、イクサ達は吹雪学園の面々のもとから去った。
「って、あぁ~!! シュウスケ、早乙女ちゃんのメアド聞くの忘れちまった!」
「俺は園生さんの連絡先を聞き忘れた!!」
東栄学園と別れて数分後にツトムとシュウスケが嘆く声が木霊した。
「ツトム、シュウスケ……」
「お前ら、本当に……いい性格してるな」
フブキとヒョウザンが2人を殴り飛ばしたのは言うまでもない。
◇◇◇◇◇◇◇◇
全国大会会場、全国50校が一同に揃い整列している中、会場は一気に暗くなると1人の男の声が辺りに響き渡る。
〈ついにこの日が、全国大会本選がやってきたぞ皆!! 俺はバトルマスター・レツだ!〉
暗くなった会場の中でスポットライトが当たる男、バトルマスター・レツである。
イクサは小声でカイトに話しかける。
「相変わらず暑苦しいね」
「まあそう言うなよ。あれはあれで仕事なんだから」
〈こらー、そこの2人! お兄さんは一言一句全部聞いているから無駄話しないように!!〉
スポットライトがイクサとカイトに当たり、周りでクスクスと笑い声が漏れる。
やがて、会場からヒソヒソとした声が沸き上がる。
「おい、あれって東栄学園じゃん……」
「また卑怯な手でも使って本選に来たのか? 懲りない奴ら」
「でも、この前のは大会側の点検ミスだったんだろ?」
「どうだか。賄賂でも渡したんじゃね?」
そんな悪意ある言葉が辺りを支配する。
イクサとカイトは眉間に皺を寄せながら見渡す。
「どうやら、あまり歓迎されてないね」
「だな。予想はしてたからあんまショックは無ぇけど」
イクサ達を庇うように、彼らをスポットライトの範囲から押し出して外し、自らスポットライトに当たってユキヒコはバトルマスター・レツに声を張り上げる。
「レツさん。話、続けてくれませんか?」
〈ん、ああそうだな。はいはい、皆! 静粛に!〉
両手を叩く素振りをするレツを尻目に、ユキヒコは声を潜めてイクサ達に言う。
「言いたい奴らには言わせてればいい。キミ達はキミ達のバトルを貫き通すんだ。その行動がきっと、汚名返上に繋がるはずだ」
「「「……はい」」」
「なのだー」
イクサ達4人は神妙に頷く。
〈では、全国大会を見事勝ち抜いた諸君らに、我々大会運営委員会から新たなバトルデバイスを贈りたいと思う! カモン!〉
レツが指を鳴らすと、沢山の箱を乗せたカートを運ぶ運営委員が十数人ほど会場に現れ、選手に箱を1つずつ手渡していく。
全員に箱が行き渡った頃合いを見計らって、レツは話を続ける。
〈さて、今キミ達に渡したのは【マスターズギア】というものだ。口で説明するより見せた方が早いかもな〉
そう言うと、レツはデッキケースのような小箱にデッキを入れた後に左腰にセットし、その後に縦10cm横5cmほどの液晶が着いたブレスレットを左手首に装着する。
その様子に一同は一斉に首を傾げる。所々から「なんだあれ?」という声が聞こえる。
〈マスターズギア、スイッチオン!〉
側面のスイッチを押すと
【Master's Gear Scanning Start】
という電子音が響き、ウィーンという何かを読み込む音が鳴る。
〈今、マスターズギアがケースに入れたデッキのカード情報を読み込んでいる。少し待っていてほしい〉
数秒の後、
【Standby-Ready】
準備完了を知らせる電子音が鳴ると、巨大スクリーンが会場に出現する。
〈皆、このスクリーンに注目してくれ。今、このスクリーンにはマスターズギアの液晶画面の表示が映されている〉
レツが言ったように、スクリーンにはマスターズギアの液晶画面が映し出されている。
スクリーンに注目すると、5枚のカードが表示されていた。
〈これは、読み込んだカード情報からランダムに選択された初期手札5枚だ。液晶にタッチすることで、カードを選択できる〉
レツは液晶をタッチしてカードを4枚選択する。その後、【OK】の項目をタッチすると、選択した4枚のカードが消え、新たなカード4枚が表示される。
〈これで手札交換は完了だ。ここからが、マスターズギアの本領発揮だ〉
そしてマスターズギアに向かって勢いよく「俺のターン!」と叫ぶ。
【Your Turn】
〈ドローフェイズ、ドロー!〉
マスターズギアの画面にカードが1枚追加される。
〈このように、マスターズギアは使用者の声に反応する。今、追加されたのがドローしたカードだ。次はチャージフェイズ、フォースチャージするカードを選択するぞ〉
レツはカードを選択する。
〈フォースチャージして、追加ドロー!〉
選択したカードが消え、新たなカードが追加される。
選択したカードが消えたのと同時に【▽】というマークが出現した。
〈この逆三角形はフォースの個数を示している。さあ、次はサモンフェイズ、俺はフォースを1枚消費してアタックガーディアン【レジェンド・ブレード】を召喚!!〉
【▽】というマークが【▼】に変化し、レツは表示されている手札からSF【1】のアタックガーディアン【レジェンド・ブレード】を選択した。選択したカードが消えた後、会場中の人々は目を剥いた。
ウィィィィィィンという音と共に辺りが光に包まれ、3Dビジョンによって実体化したレジェンド・ブレードが目の前に出現しまた。
〈おい、レツ。相手がいないぞ、俺はどうすればいい?〉
〈悪いな、ブレード。今日はこのマスターズギアのお披露目なんだ〉
〈……戦わないのなら、極力呼ばないでほしいんだが〉
召喚されたレジェンド・ブレードがレツに話しかけた。
その異様な光景に、イクサは思わず声を漏らす。
「これは、一体……」
そんなイクサの声に答えるように、レツは言う。
〈これこそがマスターズギア! 皆様ご存じの孤高グループが開発したカードマスター専用のバトルデバイスだ! これさえあれば、いつでもどこでも3Dバトルシステムでのカードバトルができるというわけだ! 今回の全国大会本選ではマスターズギアの試験運用も兼ねているため、選手である諸君らにはこれを身に付けた上で大会に参加してもらう!〉
レツがそう言い切ると、イクサ達から少し離れたところで「ちくしょう!!!」という声が聞こえた。
そちらの方に目を向けると、今にも暴れだしそうなシンヤを抑えている炉模工業高校の面々の姿があった。
「ちょ、ちょっと部長! 落ち着いて!」
「そうよ、シンヤ! 恥ずかしいから暴れないでよ!」
必死に抑えているエンジとヨウコの2人がシンヤを宥めるように言うが、シンヤは尚も暴れ続ける。
「放せ、お前ら! これが暴れずにいられるか! マスターズギアだと?! こちとら少ない部費を切り崩して地道に3Dバトルテーブルを作ってたっていうのに、それが全部無駄になったんだぞ!! ……むがっ?!」
エンジとヨウコは強引にシンヤの口を両手で塞いだ。後方でアカネが「ぷくく」と笑いを堪えている。
その炉模工業高校の様子を、ユキヒコは乾いた笑い声で見つめる。
「あははは、相変わらずだねシンヤは」
「「……」」
一方でイクサとカイトはそれぞれ無言でアカネとエンジを見ていた。
そのことに気づいたユキヒコは2人に言う。
「勝ち続ければ、対戦するチャンスだってある。大丈夫、今の2人なら彼らと互角の戦いができるよ」
「「はい……」」
イクサとカイトがそう決意を固めていると、レツは早速第1回戦の説明を始める。
〈では、マスターズギアの説明は終えて、諸君らが気になっている第1回戦の内容を説明する!〉
会場中の面々は「ゴクリ」と息を飲む。
〈第1回戦、それは迷宮戦だ!〉
イクサは首を傾げる。
「め、迷宮戦?」
〈そうだ! 今から諸君らにはチーム関係無しに運営委員によって5つの迷宮の入り口にランダムに案内される。その入り口からスタートして制限時間内にゴールを目指してもらう。チーム全員が制限時間内にゴールできなければ、その時点で失格となる。また、この迷宮戦はただ迷宮を探索するわけじゃない! そこでマスターズギアの出番だ〉
レツはマスターズギアを操作する。
【Survival-Mode】
〈マスターズギアにはサバイバルモードというスタイルがある。このモードではドローやフォースチャージ、ガーディアンの召喚やバトルといったカードバトルの操作はできないが自身のアタックガーディアンとの行動が可能である。だが、マスターズギアを持つ他のカードマスターとの距離がある程度近くなった場合、バトルモードに移行して相手とのカードバトルとなりカードバトルの操作が可能となる。先攻後攻はカードバトル開始時のSFの低いアタックガーディアンを持つカードマスターとなり、同じ場合は互いのマスターズギアがランダムに決める。このサバイバルモードではたとえカードバトルが終わったとしても手札・フィールドの情報はリセットされない。つまり、カードバトルを積極的に行えば次にカードバトルをする際はSFの高いガーディアンや多くのフォースでスタートできるというわけだが、ガーディアンの情報がリセットされないということは当然、ガーディアンが負ったダメージも継続されるということだ。カードバトルで負けた場合も、当然失格となるぞ〉
そこまで説明して、レツは一旦言葉を切る。
〈だが、悠長にカードバトルばかりしていてはあっという間に制限時間が来てしまう。その場合は自身のエンドフェイズ時にカードバトルの離脱が可能だ。一度離脱すればそれから数分間は他のカードマスターと遭遇してもバトルモードに移行することは無い。長引きそうだと感じたのなら離脱してみるのも1つの手だ。気をつけて欲しいのは、離脱できるのは3回までなのでよく考えて離脱するように、あと離脱するとバトルモードからサバイバルモードに移行するので再びカードバトルの操作はできなくなるぞ〉
そこまで言うと、運営委員の面々が各チームメンバーを迷宮の入り口に案内するために動き出した。
〈では、これより諸君らはチームバラバラで迷宮の入り口に案内される。全員でゴールできるように、各々の健闘を祈っているぞ!〉
レツはそう言うと、颯爽と会場から立ち去って行った。
イクサ達は迷宮の入り口に案内される直前に互いの顔を見る。
全員、「ゴールでまた会おう」という強い思いで満ちている。
それから互いの手を叩き、5人はバラバラの入り口にへと案内された。
〈それでは、各カードマスターはマスターズギアを直ちに起動し、手札交換と各々のアタックガーディアンを召喚して下さい〉
そのアナウンスが流れ、全てのカードマスターがマスターズギアを起動して準備を整える。
ドローとフォースチャージを行い、アタックガーディアンを召喚する。
自分のガーディアンが3Dビジョンによって実体化し、自分に語りかけてくることにカードマスター達は一喜一憂な反応を見せる。
〈ではこれより、全国大会本選第1回戦・迷宮戦を開始します。制限時間は3時間、開始後5分間はバトルモードへは移行しません〉
そのアナウンスが流れると、迷宮の入り口であるゲートが開き、全てのカードマスターが一斉に迷宮にへと突入した。
◇◇◇◇◇◇◇
迷宮戦開始・1時間後。
「チッ、ターンエンド!」
「なら、俺のターンに入っても構わないかい?」
迷宮内、ユキヒコは早くも相手を追い詰めていた。
ユキヒコの傍らにはSF【3】の【ブリザード・ガンナー】がいる。
ユキヒコの対戦相手は「待った!」と言って手を突き出す。
「アシスト封じなんてやってられるか! ここは離脱させてもらうぜ!」
マスターズギアを操作し、離脱したことでバトルモードからサバイバルモードに移行し、そのまま迷宮のゴールを目指して自身のアタックガーディアンと共に駆け出して行った。
「離脱した、か」
ユキヒコは対戦相手の背中を見送り、マスターズギアの画面を見つめる。画面には自分の手札であるカードが表示されている。
「こっちとしても、一気に決めきるカードは無かったから、ちょうど良かった」
〈……マスター〉
すると、ブリザード・ガンナーが辺りを見渡しながらユキヒコに駆け寄ってきた。
〈注意して下さい、マスターに対して殺気を向ける何者かがいます。移動はお早めに〉
「っ! 分かった。数分間はバトルモードにならないからね、少しでもゴールを目指そう」
〈はい!〉
ユキヒコとブリザード・ガンナーはゴールを目指して駆け出した。
そして3分が経とうとした時、それは突然ユキヒコの前に現れた。
「この時を、待っていたぞ!」
鳥型のガーディアンに乗り軍服を身に纏った青年が舞い降りた。
「東栄学園、東條ユキヒコ! 貴様の相手は私だ!」
「……キミは」
突如現れた青年にユキヒコは怪訝そうな表情を浮かべる。
青年はユキヒコに自身の名を告げる。
「私の名は【久遠 サイカ】。八聖高校の所属だ」
「八聖高校……」
「そうだ。カードバトルの申し込み、受けてくれるか?」
「勿論だよ。カードマスターなら、挑まれたバトルから逃げるわけにはいかないからね!」
「なら決まりだ」
【Battle Mode】
マスターズギアの電子音が辺りに響き、サバイバルモードからバトルモードに移行する。
「貴様の【ブリザード・ガンナー】はSF【3】、私の【トリック・バード】はSF【2】。よって先攻はこちらが頂く!」
「いつでもいいよ」
「ならば、ドローフェイズ。ドロー! フォースチャージして追加ドロー!」
久遠サイカ:手札【4】
:フォース【▽▽▽▽】
「私は手札からスペルカード【充填開始】発動!」
【充填開始】
SP【0】
【ノーマルスペル】
【起】(COST:手札のこのカードをジャンクゾーンに送る)
┗あなたは自分の山札からカードを1枚選び、チャージゾーンに表状態で置く。その後、その山札をシャッフルする。
「効果を無効にするか?」
「いいや、無効にはしないよ」
「ならば、デッキからカードを1枚、チャージゾーンに置かせてもらう」
久遠サイカ:手札【3】
:フォース【▽▽▽▽▽】
「そして手札から【トリック・ジャグラーマン】をフォースを4枚消費して召喚!!」
【トリック・ジャグラーマン】
SF【4】
GT【ノーマル/アタック】
Tr【トリック】
DG【600】
LP【4000→3400】
久遠サイカ:手札【2】
:フォース【▽▼▼▼▼】
〈イーヒヒヒヒ。マスター、お呼びかい?〉
「ああ。今回も派手なのを頼むぞ、ジャグラーマン」
〈任せろってのイヒヒヒヒヒ〉
軽快な笑い声をあげる仮面を着けた道化師が現れた。
「トリックトライブ……ということは、カウンター戦術か」
「ご名答。ダイスステップ!」
マスターズギアが1から6までの数字をランダムに決める。
【4】
【トリック・ジャグラーマン】
【アタックアビリティ】
【1】【3】【5】……相手のアタックガーディアンに800ダメージを与える。このバトルフェイズ中、相手がカウンター効果を発動しなかった場合、あなたは自分の裏状態のフォースを1枚選んで表状態にする。
〈アーヒャヒャヒャヒャ!! 攻撃ミスっちゃったよマスター! アーハハハハハハ!! おかしいねぇおかしいねぇ!〉
「トリック・ジャグラーマンに【4】の項目の攻撃能力は無い。よって、トリック・ジャグラーマンは弱体化する」
【トリック・ジャグラーマン】
【弱体化】
〈弱体化とか笑うしかないじゃん、アーハハハハハハ!!!〉
トリック・ジャグラーマンは腹を抱えて地面を転げ回っている。
反対にサイカは無表情なまま、その異様な光景にユキヒコは思わず表情を堅くする。
「自分のアタックガーディアンが弱体化した割には、冷静だね」
「この程度のことでわざわざ慌てる私ではない。ターンエンド」
「なら、俺のターン。ドロー!」
ユキヒコはマスターズギアの画面に表示されたカードを確認し、フォースチャージするカードを選択する。
「フォースチャージして、追加ドロー!」
東條ユキヒコ:手札【5】
:フォース【▽▽▽▽▽】
「フォースを4枚消費して、手札からアタックガーディアン【ブリザード・ワーウルフ】を召喚!」
【ブリザード・ワーウルフ】
SF【4】
GT【ノーマル/アタック】
Tr【ブリザード】
DG【800】
LP【4000→3200】
東條ユキヒコ:手札【4】
:フォース【▽▼▼▼▼】
召喚された狼男の姿をした氷の戦士は空中で1回転し、ユキヒコの前に降り立って頭を垂れる。
〈ブリザード・ワーウルフ。只今推参しました、マスター〉
「よろしく頼むよ」
〈御意!〉
ユキヒコはマスターズギアの液晶にタッチしてダイスステップに移行する。
【3】
【ブリザード・ワーウルフ】
【アタックアビリティ】
【1】【2】【3】……相手のアタックガーディアンに1000ダメージを与える。このバトルフェイズ中、相手がカウンター効果を発動しなかった場合、あなたは自分の山札からカウンターカードを1枚まで選んで手札に加えて、その山札をシャッフルする。
【4】【5】【6】……あなたは自分の山札からカードを1枚ドローする。
「フォースを消費してバトルフェイズ! トリック・ジャグラーマンは弱体化しているので、2倍の2000ダメージを与える!」
東條ユキヒコ:フォース【▼▼▼▼▼】
ブリザード・ワーウルフはトリック・ジャグラーマンに踵落としを決めようとする。
一方のトリック・ジャグラーマンは慌てふためく。
〈はぁぁぁぁぁ!!〉
〈うわぁぁ! マスター、痛いのヤダァ~~!!〉
トリック・ジャグラーマンの助けを求める声に、サイカは「少しぐらい我慢しろ」と言って、マスターズギアを操作する。
「トリック・ジャグラーマンのカウンターアビリティ発動!」
〈待ってましたぁ!!〉
【トリック・ジャグラーマン】
【カウンターアビリティ】
【自】(カウンターステップ時)
┗あなたは自分の裏状態のフォースを1枚選んで表状態にする。この効果は1ターンに一度しか発動できない。
「このカウンター効果により、私は裏状態のフォースを1枚選んで表状態に変更する!」
久遠サイカ:フォース【▽▽▼▼▼】
「そして、トリックトライブのカウンター効果で裏状態から表状態となったこの瞬間、トライブアビリティが発動する! 【炸裂する奇術師の罠】!!」
「トリックトライブのトライブアビリティ…っ!!」
【妖艶なる奇術師 クレオ・パトラン】
【トライブアビリティ】
【自】(チャージゾーンに存在するこのカードがカード効果によって裏状態から表状態になった時)
┗自分と相手のアタックガーディアンをそれぞれ1枚ずつ選び、選んだガーディアンのDGが共に1000以下だった場合、以下の永続効果を相手のアタックガーディアン1枚を選んで与える。
【永】:相手のドローフェイズ時、このガーディアンは相手のアタックガーディアンのDGの数値の2倍のダメージを受ける。
「まだダメージ計算前のバトルフェイズ時、トリック・ジャグラーマンとブリザード・ワーウルフのDGは共に1000以下、よってブリザード・ワーウルフに永続効果を与える!」
「っ?!」
ブリザード・ワーウルフがトリック・ジャグラーマンに攻撃する直前に、ブリザード・ワーウルフの前にクレオ・パトランが出現し、フゥーと甘い吐息をブリザード・ワーウルフにかける。
〈狂いなさい、ブリザード・ワーウルフ〉
〈ぐっ?!〉
ブリザード・ワーウルフは鼻を抑えつつ、トリック・ジャグラーマンを蹴り飛ばす。
〈なんでこう~なるの!〉
蹴り飛ばされたトリック・ジャグラーマンは頭から地面に埋まった。
足をバタバタさせている。
【トリック・ジャグラーマン】
DG【600→2600】
LP【3400→1400】
「これで貴様のブリザード・ワーウルフは、次の私のドローフェイズ時に5200ダメージを受ける」
「くっ……」
ユキヒコは苦虫を噛み締めた表情を浮かべる。ブリザード・ワーウルフはユキヒコに謝罪する。
〈申し訳ありません、マスター。自分が、軽率でした〉
「いや、攻撃を命じたのは俺だ。弱体化していながら全く動じない彼の様子に危機感を持たなかった俺の責任だ」
ユキヒコはマスターズギアを確認する。
バトルフェイズが終了してエクストラフェイズをスキップ、エンドフェイズになる。
このままターンがサイカに回れば、そのドローフェイズ時にブリザード・ワーウルフのライフは0になり、ユキヒコの敗北となる。
そうなれば、その時点で東栄学園の第1回戦敗退が決定する。
(今この瞬間にも、皆は頑張ってる。だったら、諦めるわけにはいかない!)
ユキヒコは意を決してマスターズギアの液晶パネルを操作する。
やがて、ユキヒコとサイカのマスターズギアから共通の電子音が響く。
【Survival-Mode】
「なっ?!」
サイカは自分のマスターズギアを見て目を見開く。
バトルモードが終了し、サバイバルモードに移行したのだ。
サイカが油断した隙を見て、ユキヒコはブリザード・ワーウルフに声をかける。
「一旦離脱しよう、ワーウルフ!」
〈名案です、マスター!〉
そしてユキヒコ達は迷宮を進むために走りだした。
サイカはユキヒコに言う。
「逃げるつもりか、東條ユキヒコ!」
「挑まれたバトルから逃げるわけにはいかないとは言ったけど、途中で離脱しないとは言ってないよ」
「な、屁理屈を…っ!!」
そのままユキヒコ達の後ろ姿を呆然と見ていたサイカは、慌ててユキヒコ達の後を追う。
しかし
〈マスタ~! 地面に埋まって出られな~いよ!! たーすーけーてー! アヒャヒャヒャヒャヒャ!!!〉
「っ…手間のかかる!!」
サイカはトリック・ジャグラーマンの足を掴んで地面から出そうと躍起になる。
「一度離脱した場合、次のバトルモードに移行するのに数分間のタイムラグがある。久遠さんに追いつかれるのも時間の問題だし、今のうちに対抗策を考えないと」
ユキヒコは走りながら思案する。
トリックトライブはアタックガーディアンのカウンターアビリティによってチャージゾーンのフォースの状態を裏状態から表状態に変更し、変更したカードがトライブアビリティを発動するという極めてトリッキーなトライブ。
その性質上、同じくカウンター戦術を得意とするユキヒコには中々相手取るのは難しい。
まず、カウンターアビリティによってフォースの状態変更が行われてしまうため、カウンターステップ中は1つのカウンター効果しか発動できない都合上、状態変更をこちらのカウンター効果で妨害することは不可能。つまり、トライブアビリティは確実に発動する。
さらにフォースの状態を裏状態から表状態にするというのは、単純に考えてもフォース回復という極めて強力な効果。たとえこちらがカウンター効果で追撃しようとも、その回復したフォースを用いて防御を固めることができる。
こちらのカウンター効果を発動できるタイミングがかなり限られてしまう。
「一体、どうすれば……」
〈あの、マスター〉
すると、ブリザード・ワーウルフがユキヒコに話しかける。
「どうした、ブリザード・ワーウルフ?」
〈いえ、自分はマスター達の行う戦場の決まりは存じません。ですが、これだけは言えます。どんなに作戦を練ろうとも、我々には我々なりの戦い方しかできない、と〉
「自分にしか、できない戦い方……」
〈はい。我々はブリザードトライブ、好戦的な種族ではありません。しかし相手がこちらに殺意を向けるのならば、その分だけ我々は戦うまでです〉
「相手が、こちらに殺意を向けるのならば……」
〈そしてそれはトリックトライブも同じ。ただ…トリックトライブにとってこちらの殺意は彼らの殺意を呼び起こすためのスイッチに過ぎません〉
「スイッチに、過ぎない……」
ブリザード・ワーウルフの言葉に耳を傾け、ユキヒコの中で徐々にピースが当てはまっていく。
ユキヒコはブリザード・ワーウルフに問う。
「ブリザード・ワーウルフ。キミから見て、ブリザードトライブとトリックトライブの違いって何だい?」
〈違い…ですか〉
ブリザード・ワーウルフは腕を組んで「うーむ」と唸って考え、やがてユキヒコの問いに答える。
〈行動目的の違い……でしょうか。我々の行動は、相手からもたらされた原因によって【安息】という結果を得ているだけです。一方でトリックトライブの行動は、定められた結果を得るためだけに、原因を【渇望】しているのです。それが、我々と彼らの違いです〉
「行動の、違い……そうか!!」
ユキヒコは何かを閃いたのか、ブリザード・ワーウルフに感謝する。
「トリックトライブの攻略法、なんとか掴めたかもしれない」
〈本当ですか、マスター!〉
「ああ」
そこまで言うと、背後から「東條ユキヒコ!」というユキヒコを呼ぶサイカの声が聞こえてきた。
「さて、じゃあ反撃を始めるとしようか」
〈ええ。やられた分は、やり返します〉
ユキヒコとブリザード・ワーウルフはサイカとトリック・ジャグラーマンと向き直る。
数分経ったため、互いのマスターズギアが再度バトルモードに移行する。
「もう逃げなくていいのか、東條ユキヒコ?」
「うん、トリックトライブとの戦い方が決まったからね」
「そうか。だが残念だな、サバイバルモードに移行しようとも、フィールドの情報はリセットされない。つまり、ブリザード・ワーウルフに与えた永続効果も継続されているというわけだ」
「それは百も承知だよ。でも、キミのトリック・ジャグラーマンと俺のブリザード・ワーウルフのSFは互いに4」
「貴様、まさか…」
ユキヒコは笑う。
「これは賭けさ。互いのアタックガーディアンのSFが同じ場合は、先攻後攻はランダムに決められる。俺の先攻になれば、このバトルにもまだ勝算がある」
「貴様……己の運に委ねるというのか、チーム全体の命運を!!」
「運も実力の内、この程度のピンチすら跳ね返せないのなら、全国大会優勝なんて成就できやしない。それが、東栄学園カードバトル部部長……東條ユキヒコという人間さ!」
ユキヒコは自分のマスターズギアを構える。
【Your Turn】
そう映し出された自身のマスターズギアの画面を横目で見て「フッ」と小さく微笑む。
ユキヒコの先攻が決定した。
「さあ、第2ラウンドと行こうか」
「くくく……面白い、面白いぞ東條ユキヒコ!!」
ユキヒコとサイカは一斉に叫ぶ。
「「ダイス・セット!!」」
◇◇◇◇◇◇◇
早乙女神社。
カズノリはカードショップには戻らず、早乙女神社に来ていた。
カズノリの来訪を待っていたかのように、ナミの祖父であるタカミネが社の前に佇んでいた。
「来たか、カズノリくん」
「ええ。ところで、話とは何ですか?」
「ああ……ついにバトル・ガーディアンズの全国大会本選当日じゃからな。孤高アイズが本格的に動き出す前に、キミにこれを渡したかった」
そう言って、タカミネはカズノリに鎖で封じられたデッキとカードが1枚収納できるペンダントを投げ渡した。
それらをキャッチしたカズノリは「これは?」とタカミネに尋ねる。
「デッキの方は、いずれ必要になるものだ。特別なカードマスターにしか使用できず、孤高アイズの野望を妨害するのに役立つじゃろう。ペンダントの方は、ただの預り物じゃ」
「預り…物?」
カズノリはペンダントを開く。中には写真とバトル・ガーディアンズのカードがそれぞれ1枚ずつ収納されていた。
「この写真は……」
写真には、メイド服を身に纏った妙齢の女性が赤子を抱いている姿だった。
その光景に、カズノリはイクサの母であるサオリとイクサを重ねるが、首を横に振る。
妙齢の女性はサオリではない。しかし、メイド服の胸元に羽の生えた鹿のマークがある。
「この侍女服、鹿羽一族のものですね。タカミネさん、これは一体……」
「2年ほど前じゃったか」
タカミネは眉間に皺を寄せながら言う。
「カオストライブのデッキを孤高グループから持ち出し、その封印をワシに頼んだ者達が居った。その名は……」
一拍置いて、タカミネにとって忘れ難い2人の名前を呟く。
「園生カンナという少女と園生フジコという女性じゃった……」
今回のラストに名前だけ登場した【園生フジコ】、名字が一緒なのでカンナとリンナと関連がありますが、それ以外では一体どんなキャラクターと関係があるのか。勘の良い人なら分かると思います。
【次回予告】
トリックトライブの攻略法を見つけたユキヒコ、果たして久遠サイカに勝って迷宮を突破することはできるのか!!
次回、【王の企み】




