BATTLE:036【合宿開幕! 天地創造の邂逅】
今回、カードバトル描写は無いです。
超人カットマンさんが投稿して下さったオリキャラの【獅童サクヤ】と現野イビツさんが投稿して下さったオリキャラの界演学園メンバーが登場します。
【湘南海岸】
「光り輝く太陽! 蒼く波打つ大海! 煌めく白い柔肌! 来たぜ、海ぃぃぃぃぃ!!」
「うっわー、戦宮くん、なんかセリフが変態ちっく」
「無駄にハイテンションなのだー」
「我が兄ながら、お恥ずかしい限りです」
前回の祝賀会から2日後、全国大会本選に向けて合宿のために湘南海岸にやってきたイクサ達。
水着に着替えたカイトは、はしゃぎながら砂浜を駆け抜ける。カイトの言葉にナミ、リンナ、カイリの3人は少し引いている。
「やっほー!」
カイトは3人の言葉をスルーして浮き輪を装備しながら海へと直行した。
イクサは溜め息を漏らす。
「カイトの奴、合宿に来たんだから遊んでる暇なんてないのに……」
「まあまあ、聖野くん。今日ぐらい良いじゃないか。どうせ明日から3日間は嫌と言うほどカードバトルをすることになるんだし。聖野くんも泳いできたらどう?」
ユキヒコの言葉にイクサは首を横に振る。
「いや、東條部長。俺は――」
「あれ、聖野くんは泳がないの? じゃあ俺達は泳いでくるね」
「――え?」
いつの間に着替えたのか、ユキヒコ、ナミ、リンナ、カイリの4人は水着姿で海へと向かった。
1人残されたイクサは唖然とした表情を浮かべ、硬直する。
そんなイクサに、カードタウンの店長であるカズノリが声をかける。
「あはは、皆行っちゃいましたね。イクサくんも楽しんできたらどうです?」
「……はい」
「じゃあ、僕は皆が宿泊する旅館の手続きをしますね」
「あ、はい。そういえば、前田店長」
「なんですか?」
停車していた車に乗り込もうとしていたカズノリに、イクサは声をかける。
「どうして、今回の俺達の合宿の付き添いを買って出てくれたんですか?」
「それは、イクサくんがお嬢様を助けたからですよ」
「え、お嬢様?」
首を傾げるイクサに対し、カズノリは大きく頷く。
「ええ、西園寺アンジェお嬢様です。あの日のお嬢様のエスコート役は、本来は僕だったんですよ。ただ、あの日はどうしても外せない用事がありまして……」
「ええ?! エスコート役って、前田店長だったんですか!?」
「はい。こう見えても僕、カードショップの店長をやる前は西園寺家にお仕えする執事だったんですよ。ですから、これはちょっとしたお礼です」
「……」
イクサは目を見開き、何も言えない表情を浮かべる。
カズノリは苦笑すると、車に乗り込んだ。
「それでは、イクサくん。折角の合宿ですから楽しんで下さいね」
「は、はい…」
車が発進して行くのをただ眺め、再び1人きりになってしまった。
暫くの沈黙の後、イクサはまず海の家に向かう。
「……とりあえず、水着…買おうかな」
◇◇◇◇◇
一方、その頃。
湘南海岸にいたのはイクサ達東栄学園陣営だけではなかった。
「う~ん、東に来るのは久々だねぇ」
「そうね、セカイ。はあ~、それにしても暑いわね……セカイ、ちゃんと日焼け止めクリーム塗った?」
「うん、二時間前にしっかり塗ったよ」
「駄目よ!!!」
「……へ?」
湘南海岸にいたのは天神セカイ率いる界演学園の面々だった。
界演学園のカード部の部長である天神セカイに、副部長でありセカイの恋人でもある銀髪の美少女『天翔ユメル』が凄い勢いで詰め寄る。
「いい、セカイ?! セカイのお肌はとても敏感でデリケートなの! 例えるならそれは吹けば簡単に掻き消えてしまうような儚い泡の如く、甘くて滑らかで」
「あの、ユメル? なんかヨダレ出てるよ?」
「だからこそ、セカイ! 二時間前に塗ったぐらいじゃ駄目! こうしてる間にもセカイの身体から捻出される甘い汗で日焼け止めクリームが流れちゃってるんだから、一時間に1回……いいえ、30分……いいや、10分に1回は塗らないと駄目よセカイ!!」
「あはは、ユメル。なんか鼻血出てるよ?」
「これは鼻血じゃないわ、情熱よ!」
「ふふふ、心配してくれるのは嬉しいけど、そんなに使ってたらすぐにクリーム無くなっちゃうよ」
「いいえ、無くなったら私が買いに行くわ! 私のお金はセカイのものだもの。そう、だって私達は将来を約束した運命の恋人なのだから! お金が足りなくなったら、最悪、部費にだって手を……」
「ユメル先輩、それは流石に見過ごせませんね」
「ぐっ……その声は」
勢いに乗っていたユメルが恐る恐る後ろを振り向くと、そこには鬼のような形相を浮かべる界演学園カード部会計『魁座マオ』が腕を組んで立っていた。
ユメルは「お、おほほほ!」と笑ってごまかす。
「や、やーねマオ! 冗談に決まってるじゃない!」
「本当ですか?」
マオは胡散臭そうなものを見るような目でユメルを睨む。
ユメルが何度も首を縦に振っていると、セカイがマオを宥める。
「まあまあ、マオ。そんなにユメルを苛めないであげて?」
「お言葉ですが、天神部長がもっとしっかりしてくれれば、私がこんなに目を光らす必要は無いんですよ」
「うぐ…そ、それは」
矛先が今度はセカイに向き、セカイは「あははは」と乾いた笑い声をあげる。
この様子から察するに、実質的にカード部を支えているのはマオのようだ。
「とにかく、今日ここへやってきたのは全国大会本選に向けて――いいえ、打倒孤高学園に向けての特訓に来たことをくれぐれも忘れず、必要以上にはしゃがないで下さいね」
「「は、はい…」」
ひととおり二人に苦言を言うと、マオは周りを見回す。
「そういえば、天神部長、ユメル副部長。ヒデオとコノハがどこに行ったか知ってますか?」
「ううん、知らないよ」
「私も知らないわ」
「……コノハは単純に迷子になったとして、ヒデオは一体どこに…」
「ど、どうもッス! 俺、輝島ヒデオって言うッス! よ、よろしければ、名前を教えていただけないでしょうか!!」
勢いよく聞こえてきた元気な声にマオは眉間に皺を寄せ、声のした方向を見ると、界演学園カード部の庶務である『輝島ヒデオ』がフリルの付いたビキニを着たナミに勢いよく頭を下げていた。
声を掛けられたナミは「え? え?」と困惑しながらヒデオを見ている。
その様子にマオは溜め息を漏らし、ヒデオの回収に向かう。
「えっと……名前は早乙女ナミって言うんだけど、あの、私に一体何の用が――」
「早乙女ナミさんというのですか! 可憐な相貌の貴女にびったりの素敵な名前です!!」
「あ、ありがとう……?」
「そしてナミさん、一目惚れしました! 俺と付き合ってほしいっす!!」
「え、ええ?! なにこの急展開、もしかして、私のモテ期到来!?」
「絶対に幸せにするっす!」
いきなりのプロポーズの言葉にナミが混乱していると、ヒデオはナミの手を両手で掴みさらに迫ろうとする。
「おい」
「ちょっと」
すると、カイトがヒデオとナミの間に入り、カイリがナミを庇うようにヒデオの前に出る。
突然のカイトとカイリの乱入に、ヒデオは眉をひそめる。
「何すか、いきなり」
「ナンパなら他所でやれよ、早乙女さんだって困ってるじゃないか」
「な、ナンパって何すか?! 俺の純情はそんな邪なものじゃないっす!!」
「あんたがそう思ってても、周りから見たらナンパなんだよ」
カイトとカイリは横目でナミに言う。
「ほら、早乙女さんも言ってやれよ、こういう奴はちゃんと言わなきゃ理解しないぜ」
「お兄ちゃんの言うとおりだよナミさん、バッサリ言ってやって」
「えっと、その……色々ごめんなさい。ちょっと、迷惑かな」
ガーンΣ( ̄□ ̄;)
ヒデオはその場に手を着く。
「そんな……俺がナミさんに迷惑をかけていたなんて! くそ、自分自身が許せないっす!」
「ヒデオ、一体何してるんですか?」
「ん? あ、マオ」
ニッコリ微笑むマオと、反対に青ざめるヒデオ。
「え、いや、これは、違うんすよ。もちろん、今回ここに遊びに来たわけじゃないって、俺だって分かってるっすよ? でも、俺にだって自由に恋愛する自由くらいは」
「前回の予選大会、私達の中で一番勝率が低かったのは、どこのどなたか、忘れてはいないですよね?」
「ぐ、それは……」
後ろめたいのか、ヒデオは言葉に詰まり、視線が右往左往に泳ぐ。
マオはもう一度溜め息を吐くと、カイト達に頭を下げる。
「うちの連れがご迷惑をおかけしました」
「い、いえ、そっちの彼がちゃんと反省したなら、それで……」
「え? 俺は別に反省なんて――もがっ?!」
マオは素早くヒデオの口を押さえる。
(話がややこしくなるので暫く黙ってて下さいね、ヒデオ)
(わ、分かったっす)
「なにかあったのかい、二人とも」
すると、ユキヒコとリンナがナミ達の元にやってきた。
ユキヒコの姿に、マオは目を見開く。そこで、改めてナミ達の姿を確認すると、勢いよく頭を下げた。
「失礼しました! 東栄学園の皆様方、大っ変、ご迷惑をおかけしました!」
マオの言葉にヒデオも目を見開く。
「え、東栄?!」
「キミ達は……」
ユキヒコはマオとヒデオの姿を見て眉を潜める。やがて何かに思い至ったのか口を開いた。
「もしかして――」
「あ、ユキヒコだ」
『え?』
ユキヒコが言葉を発しようとした瞬間、ユキヒコを呼ぶ声が辺りに響いた。
マオとヒデオを除き、全員が声の主に驚く。
「え、もしかして天神セカイ?!」
「か、可愛い…」
「お人形さんみたいで可愛いのだー」
「こ、これ、本当に男の子なの? 信じられない……」
上から順に、カイト、ナミ、リンナ、カイリ。ユキヒコは苦笑しながらセカイに話しかける。
「や、やあ、久しぶりだね」
「うん、ホント! まさかユキヒコ達も湘南海岸にいるとは思わなかったよ! ねえねえ、どこに泊まるの? どうせなら一緒のとこに泊まろうよ!」
ユキヒコの腕に抱きつきながら上目遣いで迫ってくるセカイの頭を押さえて、ユキヒコは乾いた笑い声をあげる。
「あははは……いや、もう泊まる所は決まってるんだよ。……それよりも、お連れさんから射殺されそうなくらい睨まれてるからそろそろ放してくれないか?」
ユキヒコの視線の先には、ユキヒコのことをまるで親の仇のように物凄い眼光で睨み付けてくるユメルの姿があった。
「セカイ……誰よ、その男! まさか、浮気?!」
「ちょーっと、天翔さん? それ、色々と誤解招くから、マジで勘弁して」
ユキヒコはセカイを無理矢理引き剥がし、ユメルに押し付けた。ユメルはユキヒコからセカイを守るようにぎゅっと抱き締める。
ユキヒコは唯一まともに話が通じそうなマオに話しかけた。
「それにしても、どうして界演学園がここに? たしか界演学園には京都に専用の合宿場があったと思うんだけど」
「ええ。確かに例年通りに本来ならそこへ行く予定だったんですが、天神部長が今年は東が良いと急に言い始めまして。……どっかの誰かさんが新幹線から宿泊施設の予約までやったもんですから、仕方なくです」
マオの言葉に、ユメルはセカイを抱き締めながら「うぐっ」という声を漏らす。
その声から、ユキヒコは大まかな経由を理解したらしい。
すると、マオはユキヒコに尋ねる。
「つかぬことをお聞きしますが、そちらで【虚木コノハ】という少女を見かけませんでしたか?」
「虚木コノハさん? 確か、界演学園の――京都予選では中堅を担当した子だよね?」
「はい」
ユキヒコは首を横に振り、他の東栄学園の面々に視線を向ける。全員、ユキヒコと同様に首を横に振った。
そこで、ユキヒコはユメルに提案をする。
「これも何かの縁だし、良かったら俺達も虚木さんを探しますよ」
「良いんですか?」
「ええ、これも乗り掛かった船です。ね、皆?」
ユキヒコの言葉に、東栄学園全員が頷く。ユメルは頭を下げる。
「ありがとうございます」
「それじゃあ、皆。手分けして探そう」
ユキヒコの言葉に全員がコノハの捜索を開始する。
そんな中、ヒデオはナミに声をかける。
「あの、ナミさん。良かったら俺と一緒に……」
「ヒデオ、貴方は私とです」
「ええっ?! ちょっとマオ! あ、ああナミさぁぁぁぁん……」
マオはナミに駆け寄ろうとしたヒデオの腕を掴んでずるずると引き摺る。
反対にナミは戦宮兄妹の二人と共に行動するようだ。
ナミと行動を共にするカイトを、ヒデオは睨み付けて叫ぶ。
「ちょっとそこの青バンダナ!」
「ん? ……あぁ俺?」
「そうッス! あんた、名前何て言うんすか!!」
「え、戦宮カイトだけど?」
「よっしゃあ戦宮カイト! あんたの顔と名前は覚えたっすからな! 全国大会で戦う時はぜってー俺が勝つッス!」
ヒデオの宣戦布告にカイトは笑顔で応対する。
「おう! お互いに最高のバトルをしようぜ!」
その行動がヒデオの神経を逆撫でる。
「くっ、ナミさんの彼氏だからって余裕振れるのも今の内だけっすからな!!」
「は?」
マオに引き摺られながら捨てセリフを吐くヒデオに対し、カイトは首を傾げた。
そしてナミに問う。
「早乙女さん、彼氏なんていたの?」
「いや、いないけど」
「……あいつ、何か勘違いしてるな」
カイトが思わず溜め息を吐くと、カイリがカイトに辺りを見回しながら話しかける。
「ねえねえ、お兄ちゃん。そういえばイクサさんは?」
「え?」
カイトも辺りを見回す。イクサの姿はどこにも見当たらない。
「……まさか、あいつまで迷子じゃないだろうな」
◇◇◇◇◇
一方その頃、イクサは浜辺を歩いていた。特に理由はない。
たくさんの人で賑わう湘南海岸。中にはシートを広げてカードゲームをしている子供までいる。
余談だが、浜辺でカードゲームをすると潮風に含まれる水分を材質である紙が吸収してしまい、結果、カードが仰け反ってしまうので注意。
「守護龍レオ・ドラゴンの攻撃!」
「うぅ…負けました……」
「え?!」
浜辺を歩いていると、ふと「守護龍」というワードがイクサの耳に届いた。イクサは思わず声のした方へと顔を向ける。
そこには2人の少女がカードゲームをしていた。1人はイクサと同じくらいの年齢だが、もう1人の少女は小学生ぐらいに見える。
守護龍という言葉を発したのは小学生ぐらいの少女のようだ。
イクサは思わず2人に駆け寄る。
「あの……」
「ん? 私達に何か用?」
小学生ぐらいの少女は駆け寄ってきたイクサを訝しげに見つめる。
「いや、その、守護龍って言葉が聞こえてきたから、つい」
「このカードのこと?」
イクサは、小学生ぐらいの少女から見せてもらった守護龍のカードを見る。
【守護龍 レオ・ドラゴン】
カードの名前にはそう書かれていた。
〈貴様、何やらキナ臭い匂いがするな〉
ふと突然、レオ・ドラゴンがイクサに話しかけてきた。
イクサは思わず「うおっ?!」と声をあげる。
〈喧しいぞ、少年。このような体験は初めてなわけではあるまいに〉
「え、なんでレオ・ドラゴンの声が……」
イクサが混乱していると、小学生ぐらいの少女は目を輝かせ、もう1人の少女は首を傾げていた。
小学生ぐらいの少女がイクサに詰め寄る。
「え、もしかしてお兄さんってレオ・ドラゴンの声が聞こえるの?!」
「な、何が何やら」
混乱しているイクサは一度少女達から距離を取り、頭の中で整理する。
そこでカオストライブのデッキを取り出す。するとレオ・ドラゴンから〈やはりカオスの担い手か〉という言葉が聞こえてきた。
〈カオストライブはあらゆるトライブの力を己の内に取り込む異質な存在。そのトライブの担い手として選ばれた貴様は、当然、カオストライブだけでなく他のトライブのカードとも意思疎通が可能だ。まあ、自ら人間と会話したい物好きなガーディアンは少ないがな、ククク〉
「ねえねえ、お兄さん! 私のレオ・ドラゴン何て言ってるの?!」
同時に話しかけてくるレオ・ドラゴンと小学生ぐらいの少女に、イクサは「あはは」と苦笑いを漏らし、少女にレオ・ドラゴンのカードを返す。
「その、キミはレオ・ドラゴンの声は聞こえないの?」
「うん、全く!」
ニッコリと笑う小学生ぐらいの少女。レオ・ドラゴンの笑い声がイクサの耳に届く。
〈我々の声が聞こえるのは異質の証。純粋な心根のサクヤには元より不要なものだ〉
「そういえば、お兄さんって何て言うの? あたし、獅童サクヤって言うの!」
「名前は聖野イクサだよ」
イクサの名前を聞いた小学生ぐらいの少女――『獅童サクヤ』は、そのままレオ・ドラゴンをデッキケースの中にへと閉まうと、「おー」と声をあげる。
「もしかして、あの聖野イクサ?」
「え?」
イクサが首を傾げると、今度はイクサと同い年くらいの少女がイクサに話しかけてきた。
「あ、あの……もしかして、東栄学園の聖野イクサさん、でしょうか?」
「は、はいそうですけど」
「や、やっぱり!!」
すると、イクサと同い年くらいの少女は「あわわわ」と慌て出した。
その様子にイクサはますます首を傾げる。
「あの、俺に何か?」
「わ、わわ私! 虚木コノハって言います!」
「あ、どうも。聖野イクサです」
「ほ、本物だー!」
「え、本物って……?」
「そこのお前ぇぇぇぇ!!」
「……え?」
すると、何やら野太い叫び声がイクサ達に向かって迫ってきた。
イクサが声の方を向くと、ヒデオがまるで鬼のような形相を浮かべながら走っている。
「ひ、ヒデちゃん?!」
イクサと同い年くらいの少女――『虚木コノハ』はヒデオの姿を見て驚く。
「コノハから離れやがれぇぇぇぇ!!」
「え、ええ?! ちょ、ちょっと!」
危うく正面からぶつかりそうになり、イクサは反射的に避ける。
「ぎゃふん!」
避けられたヒデオは勢い余ってそのままスライディングするかのように砂浜に顔からぶつかった。
コノハはヒデオに駆け寄る。
「ひ、ヒデちゃん大丈夫?!」
「ぐおぉ……目に砂が入って…目が…目が…」
「ど、どうしよう! ひ、ヒデちゃんが死んじゃう?!」
目元を押さえてのたうち回るヒデオと右往左往するコノハ。その光景を、少し遅れてやってきたマオが溜め息を吐きながらやってきた。
「何やってるんですか、二人とも」
「く、コノハ! 待ってろ、今助けてやるからなぁ!」
「まず、自分自身をどうにかしなさい」
まだ砂が入っていて目が痛いのか、目を閉じながら探るように四つん這いになって移動するヒデオ。そんなヒデオの目に、マオは買ったばかりのペットボトルを開けて水をヒデオの目に流し込む。
「ぎゃあああああ!!」
ヒデオが断末魔をあげる中、マオはイクサに対してペコリと頭を下げる。
「連れが騒がしくてすみません」
「いや、その、彼…大丈夫なんですか?」
「ええ、いつものことですので」
そうやってマオが流そうとすると、復活したのかヒデオは勢いよく立ち上がった。
「よっしゃ、ふっかーつ!」
そしてイクサへと詰め寄る。
「あんた、一体コノハに何しようとしたんすか! 気弱なコノハに付け込みやがって!」
「ええ?! いや、俺は何も」
「しらばっくれても無駄っすよ! 俺は確かにこの目で見たんすから!」
ヒデオの言い分を確かめるように、マオはコノハに問う。
「コノハ、何かされたんですか?」
「え、ううん、何もされてないよ」
「何もされてないらしいですよ、ヒデオ」
マオの言葉にヒデオは目を見開く。恐る恐るコノハの方に視線を向ける。
「マジ?」
「う、うん」
頷くコノハに、ヒデオは無言になる。
「……すんませんでした、早とちりだったっす」
「いえ、誤解が解けたならそれで」
「ねえねえ、イクサ」
ヒデオとイクサが互いに頭を下げていると、サクヤがイクサの腕を掴んで自分に意識を向けさせようとした。
「どうしたの、獅童ちゃん?」
「サクヤでいいよ。それよりイクサ、あたしとカードバトルやろうよ!」
「カードバトル? うん、いいよ」
「えへへー、やったー!」
サクヤが嬉しそうに微笑んでいると、ヒデオが声を荒げた。
「イクサ? ……イクサって、まさか聖野イクサ?! ワールド・バトル・ボードで孤高センリに勝ったっていう……あの聖野イクサ?!」
「……え?」
ヒデオの言葉にイクサは固まる。
ヒデオの言うとおり、確かにイクサはセンリに勝った。だが、それはあくまでデータ上での話だ。
イクサが遅延行為をし、失望したセンリがオンライン上から退室した後、CPUとの対戦に勝ったという、ただそれだけの話だ。
イクサからすれば、そんなのは彼が求める勝利から程遠い。
「いや、俺は――」
「イ・ク・サ! 早くやろうよぉ!」
「さ、サクヤちゃん……」
イクサの腕を揺らして催促するサクヤに、イクサは曖昧な笑みを溢す。
ふとイクサは疑問に思う。
(俺がネット上で孤高と対戦した話、そんなに有名になってるのかな?)
◇◇◇◇
「それにしても凄いよねぇ」
コノハを捜索しているユキヒコ達。そんな中、セカイが突然口を開いた。
近くにいたカイトは首を傾げる。
「何がですか?」
「キミ達の所の聖野イクサくんだよ」
「え、イクサがどうかしたんですか?」
「キミは知らないの? 彼、ワールド・バトル・ボードで孤高センリと対戦して、孤高センリに初黒星をつけたそうじゃん。ウチも戦ってみたいなぁ」
「……は? イクサが、孤高センリに…勝った?」
カイトの瞳が揺れる。
自分よりも1年後にバトル・ガーディアンズを始めたイクサが、史上最強と謳われたセンリに勝ったとセカイは言ったのだ。
カイトの中で、複雑な感情が生まれる。
「どうしたの?」
「いえ……その話って有名なんですか?」
「うん、西の方じゃかなり話題になってたよ。ワールド・バトル・ボード異例の、1ヶ月でAランク入りした新人ルーキーとも言われてるし、イクサくん」
「え、Aランク?! あいつ、Aランク入りしたんですか?!」
「うん、孤高センリとのバトルで勝利したポイントで、まさかの三階級特進だよ」
ワールド・バトル・ボードは、カードバトルに勝利した時に得られるポイントに応じてランク付けされる。
カイトはBランク、たった1つしか違うが、その差はかなり大きい。
「あ、ヒデオ達だ。……お、コノハもいる、おーい!」
ヒデオ達の姿を発見したセカイは彼らの方へと走り出した。
カイトもその方向へと視線を向ける。
視線の先にいるイクサに対し、カイトは手を強く握った。
――俺の方が、先にバトル・ガーディアンズを始めたのに
――俺の方が、絶対的に経験値は稼いでるはずなのに
――俺の方が、このゲームに情熱を持ってるのに
――どうして、俺より先に守護龍の持ち主に選ばれて
――どうして、俺が勝てなかった諸星シンヤにもあっさり勝って
――どうして、孤高センリに…勝って
「どうして……」
カイトは俯き、言葉を溢す。
「お前はそんなに、すぐに、強くなれるんだよ……」
【次回予告】
湘南海岸へとやってきたイクサ達。1日の疲れを癒すために宿へと戻った彼らの前に、新たな障害が立ちふさがる。
「イクサー! カードバトルやろう!!」
獅童サクヤが所属する学校と鉢合わせした時、新たな運命が動き出す。
「イクサは、どんどん強くなってる。なのに俺は……」
イクサ達の合宿は、一体どうなるのだろうか
次回、【それぞれの葛藤】




