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TCG バトル・ガーディアンズ  作者: あんころもちDX
第2章・全国大会編
40/66

BATTLE:027【託されたデッキ】

 皆様、大変お待たせしました。

 お待たせした割りに、バトルは一部カットされてます。

 すみません!!

 じ、次回こそはノーカットで行きたいと思います!!


 では、どうぞ。

「うっしゃー!」


 カイトはガッツポーズを決めながら会場の通路を歩いていた。

 その隣にはイクサの姿も見える。

 カイトはとても嬉しそうにイクサに語りかける。


「やったなぁ、イクサ! 俺達、とうとう決勝戦だぜ?!」


「そうだね……」


 はしゃいでいるカイトとは対照的に、イクサはどこか浮かない表情を浮かべている。

 そんなイクサに、カイトは首を傾げる。


「なんだよ、イクサー。嬉しくないのかよ?」


「いや、そういうわけじゃなくて……。対戦相手のこと、考えていたんだ」


 それを聞いて、カイトもすぐに苦虫を噛み締めた顔になった。


「あー……そういや、あの孤高学園か」


「うん」


 暫しの沈黙が辺りを支配する。

 だが、その沈黙を破ったのはカイトだった。


「まっ、戦う前から考えてたって仕方ないと思うぜ?」


「それは、そうだけど……」


「お前はいつも深く考えすぎだって。そんなに肩に力入れてたら、マトモなバトルはできないぜ」


「……そう、だね」


 イクサは小さく笑う。


「ありがとう、カイト。少しだけ、楽になったよ」


「そりゃあ、何よりだ」


 カイトもまた、ニヒヒと笑みを溢す。


 すると、廊下の向こうから一人の少女がイクサ達に駆け寄ってきた。


「お兄ちゃん!!」


 少女はそのままカイトに抱きついた。


「おお!? カイリ?!」


 カイトは抱きついてきた少女に驚愕する。

 カイリと呼ばれた少女はそのまま笑顔を浮かべて言う。


「うん! 応援に来たよお兄ちゃん!!」


「おいおい、よく父さん達が許したな」


「この前のテストを全部満点取ったら許してもらえたんだよ!!」


「おお、そうかそうか!」


 話に花を咲かせている二人に対し、イクサはその様子を隣で唖然としている。

 イクサの存在を思い出し、カイトはイクサに少女を紹介する。


「ああ、イクサ。こいつ、俺の妹の『戦宮カイリ』」


 少女――カイリは、カイトから離れてイクサに向かってお辞儀をする。


「どうも、お兄ちゃんの妹の戦宮カイリです。お兄ちゃんがいつもお世話になってます!」


「あ、こちらこそどうも」


 思わずイクサもお辞儀し返した。

 カイトはニンマリと笑いながらカイリの頭を撫で回す。


「お兄ちゃんの応援に来てくれるなんて、殊勝な奴だなぁ」


「それは勿論だよ! なんてったってお兄ちゃんと“私達の”ディヴァイントライブが決勝戦まで勝ち進んだんだよ? 応援に行かないわけないじゃん!!」


(私…達……??)


 カイリの言葉に、イクサは首を傾げた。

 しかし、戦宮兄妹は変わらず笑顔で話に花を咲かせている。

 やがて、話が一段落着いたのか、カイリはカイトとイクサに手を振る。


「じゃあ、頑張ってね! 観客席で応援してるよ、お兄ちゃん! イクサさん!」


「おう、任せとけ!」


 走り去っていくカイリの後ろ姿が見えなくなるまで、カイトは手を振り続けていた。

 やがて機会を伺い、イクサはカイトに尋ねた。


「なあ、カイト」


「ん?」


「カイリちゃんの言っていた“私達のディヴァイントライブ”って……どういう意味?」


「え、ああ……」


 カイトは何とも複雑そうな表情を浮かべる。

 少し口を開いては、閉じたりしている。

 やがて少し思案した後、カイトは意を決したかのように話し始めた。


「まあ、そんな大した話じゃないんだけどさ……ディヴァイントライブについてはそのままの意味だ。このデッキは、元々カイリのだったんだよ」


「妹さんの?」


「おう。カイリがバトル・ガーディアンズにハマった時に構築したのがこのディヴァインデッキ。だけどまあ、色々と事情があってな、カイリから譲り受けて今は俺が使ってる」


「事情って?」


「なんてことない、家庭の事情だよ」


「あ……ごめん。出過ぎた真似だったね」


「いいっていいって。本当に大した話じゃないんだから」


 カイトは、話を続ける。


「カイリはさ、すっげえ頭が良いんだよ。ホント、俺の妹とは思えないくらいに。だから、勉強面では、うちの両親もカイリには厳しくてさ。カードゲームだけじゃなく、同年代の子ともろくに遊んだことが無いんだよ。遊ぶ暇があるなら勉強しろってな」


「……」


 イクサは黙ってカイトの話に耳を傾ける。


「まあ、俺は出来が良くなかったから、カイリには期待しちまうんだろうな。そういう意味じゃ、俺のせいでもあるのかな。でも、アイツはなんやかんやで親の目を逃れて、塾帰りにカードショップに立ち寄ったりして、バトル・ガーディアンズにハマってたんだよ。まあ、それも長くは続かなかったが」


「一体、どうして……」


「隠し事はずっと隠し通せるものじゃないってことだよ。いつか絶対ボロが出る。母さんがカイリの塾鞄の中身を整理してた時に、デッキケースが見つかったんだ。もちろん両親は凄い怒ったし、カイリは言葉に詰まって黙っちゃって……埒が明かないから俺は言ったんだ。そのデッキは俺のだ、カイリの塾鞄に間違えて入れてしまった、ってな。それでその場を丸く収まったんだが……」


 カイトは一旦、そこで切る。


「親の監視体制が強化されてな。携帯にGPSが導入されたりして、カイリはもう二度とカードゲームが出来なくなったんだ」


「……」


「そういう経緯だから、俺がデッキを預かることになったんだけど、まあ当時はカードゲームには興味なんてなかったから、文字通り預かってるだけだったんだ」


 カイトはそう言うと、デッキケースからデッキを取り出し、懐かしむように笑う。


「でもさ、あのカイリがリスクを負ってまでハマってたカードゲームってことで次第に興味が出ちまってな。両親の目を掻い潜って、密かにカイリにルールを教えてもらってたんだ」


 デッキのカードを1枚ずるめくり、その度にカイトの中で懐かしい記憶が駆け巡る。


「そしたら面白いの何のって。俺もすぐハマっちまってさ、特に初めてバトルに勝てた時はすごく楽しくて、なんかこれなら俺でも一番になれるんじゃないか、って。勉強もスポーツもいまいちな俺でも……これならって、そう思ったんだ」


「……っ」


 その言葉を聞いて、イクサはカイトのとある言葉を思い出した。


――勉強もスポーツも駄目だけど、これなら……俺でもそこそこ強いんだぜ


 それは、イクサがカイトに初めてバトル・ガーディアンズを教えてもらった日に、カイトが言った言葉だ。

 あの言葉には、そういう意味も含まれていたのか……イクサはそう思った。


「だから」


 カイトはイクサに笑顔で言った。


「俺は、カードバトルができないアイツの分まで戦って、そして勝つって決めたんだ。カイリと一緒に組んだこのデッキで、絶対に優勝するんだ。まあ優勝すれば、少しは両親の俺への認識が変わるかもしれないしな」


 へへっ、と笑い、カイトはデッキをケースに戻して懐にしまった。


「だからよ、この決勝戦、俺は絶対に勝つぜ!」


 カイトの言葉に、イクサも頷く。


「ああ。この決勝戦を勝ち抜いて、全国に行こう!!」


「おう!!」


 イクサとカイトは互いにハイタッチした。





◇◇◇◇◇◇



「………」


 決勝戦の準備中のため、選手並びに観客がいなくなった試合会場。

 そこに佇む一人の青年。

 鹿羽フジミだ。

 フジミは3Dバトルテーブルを見ながら、不敵に笑う。


「こうもうまくいくと、面白くないんだよなぁ」


 懐からUSBメモリのような端末を取り出し、それをテーブルに接続させる。


「最高の舞台で、最高に潰してやるよ」


 フジミの両眼は何かの妄執に囚われているかのように薄暗い。

 口元も薄く笑みを浮かべている。


「だが心配すんな。初出場で予選大会準優勝……しかも相手はあの孤高学園だ。誰もお前らを責めやしねーよ。むしろよくやったと誉めるだろうさ」


 「クククッ」と笑いながら、フジミはメモリのデータをテーブルにインストールしていく。


「決勝戦が楽しみたなぁ、おい。フフフ……フハハハハッ!!」





◇◇◇◇◇◇




〈では、いよいよ始まる予選大会決勝戦!! 激突するのは、まさかまさかのダークホース! 番狂わせのルーキー校『東栄学園』! そして、ルーキーに見せるは王者の威厳『孤高学園』だぁぁぁぁ!!!〉


 まもなくして、夕方。

 決勝戦用に準備が整った試合会場は、大量の観客によって大盛況となっていた。

 バトルマスター・レツの実況で、会場中が沸き上がる。


――わあぁぁぁぁぁ!!!!



「わあ、阿久麻学園の時とは桁違いの歓声ですね」


 カイトの言葉に、ユキヒコは頷く。


「そりゃあ、ね。相手は全国大会の王者だから」


「王者……」


 イクサは思わず手に力が入る。

 そんなイクサに、カイトは軽く笑って肩を叩く。


「まあ、任せてくれよイクサ。また俺が先鋒戦を勝ち取るからさ」


「あ、ああ」


 そう言うと、カイトはそのまま控え室から3Dバトルテーブルの前に出る。

 カイトの対戦相手は、忍者装束に身を包んだ少女だった。


「ふむ。おぬしが拙者の相手でござるか、ニンニン」


「な……」


 その奇抜なファッションに、カイトは完全に度肝を抜かれていた。


「に、忍者?!」


「いかにも。拙者の名は『望月チサメ』、孤高センリ殿のボディーガードでもあるでござる。以後よろしく、ニンニン」


「……」


 カイトはしばらく呆気にとられていると、「ハッ!」と意識を取り戻し、気を取り直すようにデッキを構える。


「と、とにかく! 相手が忍者だろうが、ボディーガードだろうが、こっちは一切手を抜くつもりはないぜ!!」


「それは無論でござる。こちらも全力で行くでござるよ、ニンニン」


「おう!」




〈さあ、両選手が揃い、軽く挨拶も済んだようだ! 早くも待ち遠しい先鋒戦! 準決勝戦でも猛威を奮った東栄学園の戦宮カイト選手、対するは孤高センリのガーディアンである孤高学園の望月チサメ選手だ!! さあ、二人共準備は万端、レッッッツゥゥゥゥ……〉



「「ダイス・セット!!」」


 先攻は、チサメだ。



「拙者のターンでござる。メインデッキからドローし、フォースチャージ!! ニンニン」


 手札にカードを加える。


「フォースを1枚消費、【甲牙忍者 スゴロク】を召喚(サモン)! でござる!!」


【甲牙忍者 スゴロク】

SF【1】

GT【ノーマル/アタック】

Tr【シノビ】

DG【0】

LP【1000】


「スゴロクのトライブアビリティ発動! 【忍法・影の舞いニンジャスキル・シャドーアサルト】、でござる!!」



【甲牙忍者 スゴロク】

【トライブアビリティ】

【起】(COST:手札からカードを1枚選んでジャンクゾーンに送る)

 ┗あなたのターン、コストを支払うことで発動できる。そうしたら、あなたは自分の山札から【スゴロク】と名の付くアシストガーディアンを1枚まで探し、あなたのアシストゾーンにフォースを消費せずにで召喚する。その後、相手は自分の山札の上からカードを2枚ジャンクゾーンに送り、あなたは自分の山札をシャッフルする。



「拙者はメインデッキから【隠密支援騎甲 スゴロク】をノーコストで召喚(サモン)するでござる! 分身の術!! さらに、戦宮殿のデッキを2枚削るでござる!」


「くっ!」


 カイトは自身のデッキからカードを2枚ジャンクゾーンに送った。

 そして、チサメのアシストガーディアンが3Dビジョンによって映し出される。


【隠密支援騎甲 スゴロク】

SF【1】

GT【ノーマル/アシスト】

Tr【シノビ】

DG【0】

LP【300】



「隠密支援騎甲スゴロクのアシストアビリティを発動するでござる!!」


【隠密支援騎甲 スゴロク】

【アシストアビリティ】

【自】(このカードが【スゴロク】と名の付くガーディアンの効果によって召喚された時)

 ┗相手の山札の上から3枚をジャンクゾーンに送る。



「おぬしのデッキ、さらに削らせてもらうでござる!」


 隠密支援騎甲スゴロクの効果により、カイトのデッキが3枚削られた。


「ッ!!」


「拙者のターン、終了でござる」


「俺のターン、メインデッキからドロー! フォースチャージして、さらにドロー!!」


 カイトは手札にカードを加えて戦略を練る。


(シノビトライブか……デッキからアシストガーディアンを召喚するのはアイドルトライブと同じだな。なら、早乙女さんで慣れてる!!)


 カードを選択する。


「俺は手札からアタックガーディアン【ディヴァイン・ストーム】を召喚(サモン)!!」


【ディヴァイン・ストーム】

SF【0】

GT【ノーマル/アタック】

Tr【ディヴァイン】

DG【0】

LP【500】


「ダイスステップ! サイコロを振るぜ!」


 カイトのサイコロの目は、2。


【ディヴァイン・ストーム】

【1】【2】【5】……相手のアタックガーディアンに300ダメージを与える。相手がバトルフェイズ中にカウンター効果を発動しなかったら、あなたは自分の山札からカードを1枚ドローする。

【3】【4】【6】……相手の山札からカードを2枚、ジャンクゾーンに送り、自分はカードを2枚ドローする。



「フォースを1枚消費してバトルフェイズ! ストームのアタックアビリティ発動!! 300のダメージを与えるぜ!」


「うむ」



【甲牙忍者 スゴロク】

DG【0→300】

LP【1000→700】



「攻撃が成功したから、ドローするぜ!」


 カイトは自身のデッキからカードを1枚ドローした。



「これで俺はターンエンドだぜ!」


「……。果たして、おぬしはドローしてよかったのでござろうか?」


 自身のターンに入る直前、チサメは小さく呟いた。


「なに……?」


 カイトはそれを聞き漏らさず、チサメに問う。

 チサメはそれに淡々と言う。


「おぬしは知らぬのでござるか? シノビトライブがどのようなトライブかを」


「どのようなトライブって……」


「山札からガーディアンを召喚する……そのような単純なものではない」


 ターンに入るためのドローフェイズ。

 チサメはドローする。


「忍びとは、心に刃を持って堪え忍び、表舞台には決して出ず、常に影と共に生き、影に潜み、ゆっくりと獲物を追い詰める者のことを言う。拙者のターン、メインデッキからドローするでござる!!」


 ドローしたカードを手札に加える。

 加えた後、手札を選択する。


「フォースチャージ、さらにドローするでござる!」


 ドローしたカードを手札に加えた。


「フォースを2枚消費、手札からアタックガーディアン【影甲忍者 スゴロク】を召喚(サモン)でござる!!」


【影甲忍者 スゴロク】

SF【2】

GT【ノーマル/アタック】

Tr【シノビ】

DG【0】

LP【2000】


「スゴロクのトライブアビリティ発動! 忍法・影の舞いニンジャスキル・シャドーアサルト!!」


【影甲忍者 スゴロク】

【トライブアビリティ】

【自】(サモンフェイズ終了時)

 ┗あなたは自分の山札から【スゴロク】と名の付くガーディアンを1枚まで探し、あなたのアシストゾーンにノーコストで召喚する。その後、相手は自分の山札の上からカードを5枚ジャンクゾーンに送り、あなたは自分の山札をシャッフルする。このターン、あなたはバトルフェイズを行えない。この効果は、1ターンに一度しか発動できない。



「メインデッキより再び参れ! 【隠密支援騎甲 スゴロク】!!」


【隠密支援騎甲 スゴロク】

SF【1】

GT【ノーマル/アシスト】

Tr【シノビ】

DG【0】

LP【300】


「影甲忍者スゴロクの効果により、おぬしのデッキを5枚削る。さらに【スゴロク】と名の付くガーディアンに召喚されたため、隠密支援騎甲スゴロクのアシストアビリティが発動するでござる! 先程と同様、デッキのカードを3枚ジャンクゾーンに送るでござる」


「また、デッキのカードを……」


 カイトはメインデッキのカードを合計8枚ジャンクゾーンに送った。


「拙者のターン、終了でござる」


「……俺のターン、メインデッキからドローして、フォースチャージ! さらにドロー!!」


 カイトはドローしたカードを確認し、手札に加える。

 そして、選択する。







 ◇◇◇◇◇◇



「状況的には戦宮の方が有利ですかね」


 観客席にて、阿久間学園の面々がカイトとチサメのバトルを観戦していた。

 そんな中、キシンに問われたギンカクは少し眉間に皺を寄せながら言う。


「どうだろうな。確かにライフ差なら戦宮さんが優勢と言えるが……シノビトライブの能力を考えるとそうも言ってられないだろう」


「どういうことですか?」



「まあ、パワー馬鹿のあんたじゃ分からないかもねぇ」


「ああ?!」


 そこへ、二人の会話を聞いていたマヤカが口を挟んできた。

 キシンはその発言に対して怒りを露にする。


「どういう意味だ、マヤカ!」


「マヤカ“先輩”でしょ? 私の方が一個上なんだから」


「俺が先輩って認めてんのは部長だけだ!!」


 そんなキシンの態度にマヤカは溜め息を漏らし、チサメを指差す。


「まあ、別にどうでもいいわね。ほら、見なさい」


「何をだよ?」


「あのチサメって娘、戦宮カイトのガーディアンに攻撃せず、山札を削っているでしょう?」


「ああ〜?」


 キシンはもう一度、チサメとシノビトライブのガーディアンを見つめ、再びマヤカの方を見て首を傾げる。


「それがどうかしたのか?」


「全く、鈍いわねぇ」


「んだと!?」


「この2ターンで、戦宮カイトのデッキが何枚削られたのかを考えれば一目瞭然よ」


「え? え、えと……」


 両手の指を使って数え始めたキシンを、マヤカはクスクス笑った。


「削られた枚数は13枚よ。ついでに、最初の手札の枚数は5枚、ドローフェイズとチャージフェイズでドローしたのは4枚、ディヴァイントライブの効果でドローしたのは1枚……つまり」


「え、ええと……つまり、どういうことだ?」


 ギンカクとマヤカは、肩をガックリと落とす。

 様子を見かねたギンカクがキシンに言う。


「つまり、戦宮くんのデッキはこの2ターンで合計23枚ものカードがデッキから無くなったということだ」


「なっ!」


 ギンカクの言葉を聞いたキシンは目を剥く。


「23枚もですか?!」


「ああ。ディヴァイントライブはドロー能力に長けたトライブ。このまま行けば、あと数ターンでデッキアウトになる」


「デッキアウトになったらその時点で負け……そうよね?」


「その通りだ」


 ギンカクはマヤカの問いに頷いた。

 キシンは舌打ちし、カイトを睨む。


「チッ。そんなつまんねぇ負け方したらブッ殺すからな、戦宮カイト!」





◇◇◇◇◇◇



「忘れてもらっちゃ困るぜ。ディヴァイントライブには、ドローしなくても手札増強できるカードがあるんだ!」


 カイトは、手札のカードを掲げる。


「フォースを1枚消費して召喚(サモン)! アシストガーディアン【閃光騎士 ライジング】!!」



【閃光騎士 ライジング】

SF【1】

GT【ノーマル/アシスト】

Tr【ディヴァイン】

DG【0】

LP【300】


「ライジングのアシストアビリティ発動!」


【閃光騎士 ライジング】

【アシストアビリティ】

【自】(セットフェイズ開始時)

 ┗この効果は1ターンに一度しか発動できない。あなたは自分のジャンクゾーンに存在するカードを2枚まで選び、自分の手札に加える。そして、あなたのアタックガーディアンをXリペアする。(Xは、あなたの手札枚数×100)


「俺はジャンクゾーンのカードを2枚選択して手札に加える! そして、ストームのLPを900上げる!!」


【ディヴァイン・ストーム】

DG【0→-900】

LP【500→1400】


 カイトの一手に、控え室の東栄学園の面々はガッツポーズをする。


「よし! 上手いぞ、カイト!」


「これならわざわざデッキからドローしなくても、手札を増やすことが可能だね」


「さすがカイトなのだー!」


 三人の言葉を聞き、カイトは「へへっ」と笑う。


「どれだけデッキが削られようと関係ねえ! 要は、デッキが無くなる前にケリを着ければいいだけの話だ!!」


 カイトは、さらにフォースを消費する。


「さらにフォースを1枚消費して、アタックガーディアン【閃光騎士 ライザー】を召喚(サモン)!!」



【閃光騎士 ライザー】

SF【1】

GT【ノーマル/アタック】

Tr【ディヴァイン】

DG【-900】

LP【1000→1900】


「ライザーのポテンシャルアビリティを発動する!!」


【閃光騎士 ライザー】

【ポテンシャルアビリティ】

【自】(セットフェイズ開始時)

 ┗この効果は1ターンに一度しか発動できない。あなたは自分のジャンクゾーンから【ディヴァイントライブ】のカードを3枚まで選んで、自分の手札に加える。そうしたら、あなたの手札からカードを2枚選んで自分の山札に戻してシャッフルする。


「俺は3枚を選んで、2枚をデッキに戻す!」


 手札のカードを増やしつつ、デッキにカードを戻すことでデッキアウトの可能性も僅かだが下げることに成功した。


「フォースを使い切ったので、俺はこれでターンを終了する」


「では、拙者のターンでござるな。ドローフェイズ、1ドローし、チャージフェイズ、チャージしてドローするでござる!!」




 ガーディアンを展開しつつ相手のデッキを削るシノビトライブ、デッキからジャンクゾーンに送られたカードを手札に回収するディヴァイントライブ。

 2つのトライブの戦いは互いに一進一退の攻防となり、一種の膠着状態を形成していた。

 しかし、互いに5ターンが経過した後、その状態がついに揺れ動く事態となる。



 カイトのフィールド。


【ヴァルキリー・ディヴァイン】

SF【5】

GT【ノーマル/アタック】

Tr【ディヴァイン】

DG【100】

LP【4900】



【閃光騎士 ライジング】

SF【1】

GT【ノーマル/アシスト】

Tr【ディヴァイン】

DG【0】

LP【300】



 因みに、デッキのカードは残り16枚である。


 一方で、チサメのフィールド。



【臥流忍者 シノビ・ブレイク】

SF【6】

GT【ノーマル/アタック】

Tr【シノビ】

DG【1600】

LP【4400】



 カイトのターンである。


「俺のターン、ドロー! フォースチャージして、さらにドロー!!」


 カイトのデッキ、残り14枚。


「俺はフォースを6枚消費する! 現れろ、俺の相棒【ディヴァイン・ナイト】!!」


【ディヴァイン・ナイト】

SF【6】

GT【ノーマル/アタック】

Tr【ディヴァイン】

DG【100】

LP【6000→5900】




「お兄ちゃんっ!!」


 カイリは観客席にて、兄の勝利を願い、両手を強く握り締めて祈る。

 自分と兄で作り上げたデッキ。その勝利を信じて。


 しかし、



「クククッ」


 カイリから遥か遠くの席で、フジミは笑っていた。


「ほら、ご自慢の能力……早く使えよ。使えるもんならなぁ」


 ただただ笑っていた。




「俺の手札は16枚! これで決める! ディヴァイン・ナイトのトライブアビリティ発動! 蓄積と解放チャージング・リリーズ!!」



【ディヴァイン・ナイト】

【トライブアビリティ】

【起】(COST:自分の手札からカードを4枚選んでジャンクゾーンに送る)

 ┗あなたのターン、コストを支払うことで発動できる。そうしたら、あなたはこのターンはフォースを消費せずにダイスステップをステップしてバトルフェイズに移行する。相手のアタックガーディアンにX000ダメージを与える。(Xの値はバトルフェイズ開始時の自分の手札の枚数)



「よって、シノビ・ブレイクに12000のダメージを与えるぜ!!」



 そう高らかに宣言し、ディヴァイン・ナイトの剣が光り輝く……が、それはすぐに消えてしまった。



「「っ?!」」


 カイトとディヴァイン・ナイトは互いに顔を見合わせる。

 おかしい。ちゃんと能力宣言したのに能力が発動しないのだ。


「あ、あれ……どうしたんだ? なんで、トライブアビリティが発動しないんだ!?」


 カイトは困惑し、もう一度宣言する。


「も、もう一度だ! トライブアビリティ発動! 蓄積と解放チャージング・リリーズ!!」


 しかし、発動しない。


「なんで……なんでなんだよ!? 俺はカイリと約束してるんだ、なのに……なんで発動しないんだよ!!」


 カイトの激昂に、ディヴァイン・ナイトも苦虫を噛み締めた表情を浮かべる。

 この事態には、バトルマスター・レツも困惑した声を出す。



〈お、おおと……一体これはどうしたことだろうか……こ、故障か? いや、しかし……望月選手の方は正常に機能しているし、3Dシステム自体にも何の影響もない……う〜む〉


 一方で、カイトは何度もトライブアビリティを宣言する。

 半分、自棄になっているようにも見える。


「くそっ! 手札を4枚捨てて発動! 発動!」


 それでも、発動しない。


 やがて、観客席から非難の声があがる。


――なあ、もしかしてあのディヴァイン・ナイトのカード、エラーカードなんじゃないか?――


――えぇ? でも、準決勝の時は機能してたぜ?――


――どうせ細工でもしてたんだろ? そもそも、無名校の奴があんなレアカードを持ってるわけないじゃん――


 その声を聞いたカイトは周りの観客を見る。


「違う! 俺はエラーカードなんて使ってない!!」


 だが、誰もその声に耳を貸さない。

 カイトは呻く。


「これは妹との絆のデッキなんだ! 俺は、不正なんてしていない!!」


 もう一度、ディヴァイン・ナイトの効果発動を宣言する。


「発動しろ! 発動してくれええええええ!!!」



◇◇◇◇◇



 観客席、生徒会陣営。


「ボス、一体何をしたんですか?」


 ゴウキの問いに、フジミは高揚した声音で答える。


「なーに、ただ……トライブアビリティが発動できないようにシステムを書き変えただけさ、クククッ」


「どうして、そんなことを……」


「そんなの決まってるだろ。ムカつくからだよ……努力すれば報われるとか、友情さえあれば何だってできるとか……そういう寒いノリはこの上なくムカつく。だから、現実を突きつけてやるのさ」


 フジミは暗い瞳で言う。


「己の無力さを。この俺をコケにした、その罪を」


「しかし、戦宮はボスに何もしてないじゃないですか」


「東條と聖野イクサの仲間……それだけで十分だ。あとは、廊下で偶々聞いちまってね」


「何を……ですか?」


「妹との約束事。それを聞いちまったら、意地でも邪魔したくなるっつーの。ほら、見てみろよ」


 フジミは、カイトが慌てふためく姿を見て笑う。


「情けねえ姿だろ? こりゃあ、アイツの妹も幻滅したんじゃねえか?」


「……っ」


 ゴウキは何か言いかけるが、すぐに口をつぐんでカイトに視線を映す。

 タッグバトルであったが、ゴウキはカイトと正面からぶつかり合った。それ故に、一方的ではあるが、ゴウキはカイトに戦友のような感情を抱いていた。

 その戦友が苦しんでいる時に助けに行けない自分に、歯痒い思いが募る。


「すまない……」


 今はただ、カイトに謝罪の言葉しか紡げない。





◇◇◇◇◇



「なんで……だよ」


 何度もトライブアビリティを発動させ、その度に手札を4枚捨てたために、カイトの手元にあった16枚の手札は、あっという間に0枚となってしまった。


「くっ……ふざけんな…なんで、どうして……っ!!」



 誰かに言っているわけではないが、言わずにはいれない。

 この行き場の無い怒りは、決して消えない。

 手札も無くなり、最早何もできなくなった。

 そんなカイトに唯一できることと言えば、



「ターン……エンド」


 自身のターンを終了することだけ。


「……拙者のターンでござる」


 チサメは手札のカードをチャージゾーンに置く。


「フォースチャージして、さらにドローするでござる」


 そして、フォースを消費する。


「フォースを7枚消費し、手札から【守護龍 シノビ・ドラゴン】を召喚(サモン)!!」


【守護龍 シノビ・ドラゴン】

SF【7】

GT【ノーマル/アタック】

Tr【シノビ】

DG【1600】

LP【7000→5400】



「守護龍の……カード」


「お主には何の恨みもござらんが……許せ。トライブアビリティ発動! 忍法・影の舞いニンジャスキル・シャドーアサルト!!」


【守護龍 シノビ・ドラゴン】

【トライブアビリティ】

【起】(COST:自分の手札を任意の枚数選んでジャンクゾーンに送る)

 ┗あなたのターン、コストを支払うことで発動できる。そうしたら、あなたは相手の山札からカードをX枚ジャンクゾーンに送る。(Xは、この効果のコストでジャンクゾーンに送ったガーディアンカードのSFの合計値)


「拙者は、全ての手札をジャンクゾーンに送るでござる」


SF【5】

SF【3】

SF【4】

SF【1】

SF【1】


 合計値は、14。

 そしてカイトのデッキ枚数も、14枚。


 カイトのデッキが全てジャンクゾーンに送られた。


 デッキ枚数が0枚になったため、カイトの敗北が決定する。



〈……先鋒戦、勝者は……孤高学園の望月選手です〉


 バトルマスター・レツは、少し戸惑い気味に勝者を告げる。

 それを聞いた時、カイトはその場に崩れ、嗚咽を漏らす。


「うっ……ぐっ…こんなの……こんなの…あんまりだ!! うっ…うぅ……」


 大会のタイムスケジュールが厳格に決められている。

 この試合は、誰の目から見ても明らかにやり直しをすべきだ。しかし、それは許されない。

 予定通りに始め、予定通りに速やかに終わらす。大会運営委員の決まり事だ。

 無慈悲に、大会は中堅戦にへと流れる。



「戦宮くん」


 泣き崩れているカイトに、声をかける者がいた。


「うっ……早乙女…さん?」


「うん」


 声をかけたのは、ナミだった。


「私……今度こそ勝つから、戦宮くんの分まで。だから、しっかり見届けてほしいの」


「………」


 ナミの瞳に宿る強い意思。カイトはそれを暫く見つめると、涙を拭って立ち上がる。


「……頼んだよ、早乙女さん」


「任せて!」


 ナミとカイトは、ハイタッチをする。

 阿久麻学園の時に果たせなかった誓い。

 カイトから託された思いを胸に、ナミは戦場に立つ。




「皆、今度こそ勝つよ」


 託された思いが詰まったデッキが、一瞬輝いた。

 フジミ、この野郎!

 と、叫びたいですね。

 まあ、あの鹿羽フジミが素直に観戦してるわけがありませんよね〜。


 では、しんみりした空気をぶち壊す次回予告をどうぞ。


【次回予告】


 鹿羽フジミの策略によってトライブアビリティの発動を封じられた東栄学園。

 ナミが対する敵は、孤高学園の中堅! 【西園寺 アンジェ】!!

 彼女のロイヤルトライブがナミのアイドルトライブに襲いかかる!!


「庶民に格の違いを教えてあげますわ!」

「庶民庶民うっさい! このスーパーウルトラグレートアルティメット美少女のナミちゃんが華麗に優雅に――」


 以下略


「ちょーっと! 最後まで言わせてよ!!」


次回、【アイドルVSロイヤル】


「おーい! 無視かー!!」


 何気に、読者様から投稿してもらったトライブ同士の戦いです。胸熱ですな!!

 次回もお楽しみに〜!

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