BATTLE:022【過去への償い】
現野イビツさんが投稿して下さったキャラとトライブが登場です。
しかしゲスト出演のような感じなので、バトル描写は少なめです。
「………」
大会予選出場の申請をした翌日、ユキヒコは当てもなく歩いていた。
「カンナ……」
ただ、カンナの名前だけを呟いて。
そして、脳内で繰り返し再生されるフジミの声が、ユキヒコを苦しめる。
――園生カンナを殺したのは俺じゃない。東條ユキヒコ……お前だよ!――
「俺は…俺は殺していない……俺のせいじゃない……」
――お前との絆に殺されたわけだ…園生カンナは――
「…違う……違う……っ!!」
〈いやぁ、ついに始まりますね。バトル・ガーディアンズ全国大会予選!〉
「っ!?」
そこへ、ビルに取り付けられた大型スクリーンが視界に映った。
二日後に行われるバトル・ガーディアンズ全国大会予選がニュースで取り上げられていた。
ユキヒコは歩みを止めて、スクリーンに注目する。
〈勝ち上がるのは、どこの学校でしょうか?〉
〈やはり上位校としては、孤高センリ率いる孤高学園、天神セカイ率いる界演学園、諸星シンヤ率いる炉模工業高校など、各地区を代表する強豪校でしょう〉
〈では、去年に引き続き固定化するということですか?〉
〈一概にもそうは言えませんね。バトル・ガーディアンズは年々人気を増しているカードゲーム。新たなルーキー校が出てきてもおかしくないです!〉
〈なるほど。これは今年も見応えのあるバトルが繰り広げられそうですね〉
〈はい。もう二日後が待ちきれませんね!〉
「全国大会予選……」
バトル・ガーディアンズが、カンナを殺した。
フジミの言葉が頭の中で響く。
「俺は、何のために戦えばいい? もう、分からないんだ……」
バトル・ガーディアンズは、ユキヒコとカンナを繋ぐ絆の象徴。
それと同時に、カンナを死に追いやったカードゲーム。
これまで自分がしてきたことは、ただの無意味なことだったのか。
自分がカンナの分までバトル・ガーディアンズを続けることこそが、カンナへの弔いになると信じていたのだ。
ユキヒコは悩んでいた。
「あれ? もしかしてユキヒコ?」
「?!」
聞き覚えのある声。
ユキヒコは声の方に向く。
声の主は、炉模工業高校の副部長・稚推アカネだった。
見た目は、完全に美少女にしか見えない男の娘だ。
服装も相変わらずの女もの。
アカネの隣には、俗に言う癒し系と呼ばれるような美少女がいる。
「アカネ……」
「ユキヒコ、どうしたの? 思い詰めたような顔しちゃって」
「いや……。それより、そっちの“彼”は一体誰だ?」
ユキヒコは、癒し系の少女に向かって言った。
少女は目を見開いて、アカネに言う。
「アカネ、この人すっごいな! ウチを一発で男って当てたよ!!」
なんと、癒し系美少女は……男だった。
それに対して、ユキヒコは淡々と答える。
「アカネで散々鍛えられたからな」
「ユキヒコも成長したね。初めて会った時はボクを女だと信じて疑わなかったのに」
「あの時は……ね」
アカネはクスクス笑うと、癒し系美少年をユキヒコに紹介する。
「彼は界演学園の天神セカイ。実はさっき、うちの学校との練習試合をやってたんだ」
天神セカイ……それは、何度も全国大会本選に出場し、ベスト5入りしている強豪校・界演学園カード部の部長だ。
予想以上の大物の登場に、ユキヒコは目を見開く。
「まさか、こんな所でお目にかかれるとは……」
「そんな大袈裟だって。ウチは楽しんでバトルやってるだけだし」
セカイの屈託のない笑顔と純粋な言葉に、ユキヒコはまるで眩しいものを見るかのように思わず目を細める。
(楽しんで……か)
セカイは頭を撫でながら「なんか照れますなー」と笑っている。
ただ純粋にバトル・ガーディアンズを楽しんでいるセカイに、ユキヒコは少し憧れにも似たような感情を抱いた。
「……俺の名前は東條ユキヒコ。東栄学園高等部のカードバトル部の部長をしてるよ」
「うん。よろしくねユキヒコ!」
ユキヒコの自己紹介に、セカイは笑顔で応じた。
すると、アカネは上目遣いでユキヒコを見上げる。
「で、どうしたの? 全国大会予選出場できなかったの?」
「いや…それは、大丈夫。申請はちゃんと通ったよ」
「だったら益々分からないなー。なんでそんな浮かない顔してるのか」
「……。なあ、アカネ」
「ん?」
「お前は、バトル・ガーディアンズをやめたいと思ったことはある?」
「無いね」
アカネはユキヒコの問いに即答する。
「引きこもりだったボクが、こうして白昼堂々と外に出られるようになったのは、紛れもないこのカードゲームのおかげ。だから、ボクは決してバトル・ガーディアンズをやめない」
「そうか……。そう、だったね」
「ユキヒコは、やめたいの?」
「………」
「カンナとの、絆なはずだよね?」
「……分からなくなったんだ」
「え……?」
「このカードゲームが、俺にとって何なのか……分からなくなってしまったんだ」
苦しそうな表情のユキヒコに、アカネは尋ねる。
「なにがあったか……聞いてもいいかな?」
ユキヒコは、全てをアカネに話した。
フジミが言った言葉。
カンナを死なせた機関が孤高グループであったこと、ユキヒコ自身がフジミに動機を作らせてしまったこと、バトル・ガーディアンズが……カンナを殺したこと。
自分がバトル・ガーディアンズを続けることがカンナへの弔いになると信じていた心が砕けてしまったこと。
ひと通りの話を聞いたアカネの表情も曇る。
「そう、だったんだ」
「バトル・ガーディアンズがカンナを殺したのなら……俺はもう、できない…」
すると、
「ねえ、さっきから聞いてて思ったんだけど、ユキヒコ自身はどうなのさ」
セカイが話に割り込んできた。
「……どういうこと?」
ユキヒコは怪訝そうな表情を浮かべる。
「だってさ、バトル・ガーディアンズはあくまで自分がやるもんだよ? 誰かのためにやるものじゃない。あんたはバトル・ガーディアンズが好き? それとも嫌い?」
「……俺は…、バトル・ガーディアンズが、好きだよ」
「だったら続ければいいじゃん。好きなのにわざわざやめる必要ないじゃん」
「でも…俺は……」
「はあ、全く。これじゃあ東栄学園は予選敗退決定かなぁ。それも1回戦で」
セカイの言葉に、ユキヒコは眉間に皺を寄せる。
「……俺の仲間は、予選敗退するような子達じゃない。彼らは強いよ」
「どうだかねー。だって部長がこんなにうじうじしてるんだったら、部員だって分かったもんじゃないよ」
「そんなことはない!」
ユキヒコはセカイの言葉を薙ぎ払うかのように大声をあげる。
「彼らの努力を、乏さないでくれ……」
「なんか勘違いしてるようだけどウチは別に乏したくて乏してるんじゃない」
セカイはユキヒコを睨みながら、背伸びしながらユキヒコの胸ぐらを掴む。
「同じ部長なら分かるでしょ? 部長の態度1つで、部員の全ての質が見通せるって。部員の質を落としてるのは、乏してるのは、他でもないあんた自身だ」
「……っ」
思わず、ユキヒコの息が詰まる。
自分よりも小柄で背が低いセカイが、今のユキヒコにはとても大きな存在のように感じられた。それこそ名の如く、『世界』のように。
セカイは懐からデッキを取り出す。
「ねえ。だったらさ、ウチが教えてやる。バトル・ガーディアンズが、どんなカードゲームだったかを!!」
「いや、だけど……」
ユキヒコはアカネの方をチラッと見る。
それに気づいたアカネは、ニッコリ微笑む。
「やったらいいんじゃないかな? 彼とのバトルは面白いよ」
「………」
やがて、ユキヒコは溜め息を吐き、
「……分かった」
デッキを構えた。
近くの公園に設置されていたテーブルを発見し、そこでバトルをすることにした。
先攻と後攻を決めて、手元にカードを1枚キープ。
互いのデッキをシャッフル。
「へえ、ユキヒコくんはヒンズーシャッフルなのか」
「え……?」
ユキヒコのシャッフルは至って一般的なカードの束をどんどん上に重ねていくタイプのシャッフルだ。
それと違い、セカイのシャッフルは、デッキを2つの束に分けてから1つにまとめるシャッフルだ。
「ヒンズーシャッフルだとあんまりカード混ざらないんだよね。因みにウチのシャッフルは、ファローシャッフルって言うんだよ」
「ファローシャッフルだと、カードを痛めないか?」
「だからこそのスリーブだよ」
「そうか…。でも、俺はこのシャッフルが性に合ってるから」
「なるほどね。良かった、キミはカードを大切にする人だね」
「え……?」
「その人がどんな性格か、カードを大切にしているか……それは、シャッフルの仕方を見れば一目瞭然さ。マシンガンシャッフルやリフルシャッフルとかやる奴は、ウチから言わせればぶっちゃけ最悪」
「………」
ユキヒコはバトルが始まる直前から既に、セカイに試されていた。
不気味なプレッシャーを感じる。
シャッフルとカットを終え、カードを4枚引く。
不要なカードをデッキに戻して、再びシャッフル。
戻した枚数だけ再びドロー。
手元にキープしておいたカードを加え、5枚の手札が揃った。
「「ダイス・セット!!」」
「先攻は俺がもらう。メインデッキからドロー。フォースチャージして、さらにドロー!」
先攻はユキヒコだ。
「フォースを1枚消費して、【アイスエイジ・キッド】を召喚!!」
【アイスエイジ・キッド】
SF【1】
GT【ノーマル/アタック】
Tr【ブリザード】
DG【0】
LP【1000】
「アイスエイジ・キッドのトライブアビリティ発動!」
【アイスエイジ・キッド】
【トライブアビリティ】
【自】(あなたのエンドフェイズ時)
┗あなたは相手の手札をランダムに1枚選び、相手の山札の一番上に置く。
「キミの手札をランダムに1枚選択、デッキトップに置く。絶対零度の凍結!!」
「いきなりトライブアビリティか……容赦ないね」
「これでターンエンドだ」
「ウチのターン、メインデッキからドロー。フォースチャージして、ドロー!」
セカイはユキヒコの場のアイスエイジ・キッドと手札を見て、思案する。
(ブリザードトライブは、ドロー封じやアシスト封じに特化したトライブ……アシストゾーンは、使えないものとして考えるか)
「ウチは手札から、【ワールド・シード】を召喚!」
【ワールド・シード】
SF【0】
GT【ノーマル/アタック】
Tr【ワールド】
DG【0】
LP【500】
「ワールド・シードのポテンシャルアビリティ発動!!」
【ワールド・シード】
【ポテンシャルアビリティ】
【自】(このカードのアピアステップ時)
┗あなたは自分の手札からドメインカードを2枚まで選び、自分の山札に戻してシャッフルする。そうしたら、この効果で山札に戻した枚数分だけ、あなたは自分の山札からカードをドローする。
「ウチは、この2枚のドメインカードをデッキに戻して、2ドローする!」
「ワールドトライブ……ドメインカードを参照するトライブか…」
ユキヒコの言葉に、セカイはフフッと笑う。
「ウチが作り出す世界、たとえブリザードの力でも凍結することはできないよ。ダイスステップ!」
サイコロの目は、2。
【ワールド・シード】
【1】【2】【3】【4】【5】【6】……相手のアタックガーディアンに100のダメージを与える。
「フォースを1枚消費して、バトルフェイズ! アイスエイジ・キッドに100のダメージを与える!」
【アイスエイジ・キッド】
DG【0→100】
LP【1000→900】
「……」
ユキヒコは、自分と相手のカードを見る。
(俺は一体、何をしている? 俺はこのバトルを通じて、何がしたい? 俺は…俺は……)
「ウチはこれでターンエンド。そっちのターンだよ」
「……。俺のターン、メインデッキからドロー! フォースチャージ、追加ドロー!」
カンナからもらったブリザードトライブのデッキ。
今、ユキヒコが使ってるカードは、まさにカンナの形見同然。
カンナから託されたデッキと全国大会出場の悲願。
ユキヒコの中で迷いが生まれる。
「フォースを1枚消費して……アシストガーディアン【アイスエイジ・アーチャー】を召喚!」
【アイスエイジ・アーチャー】
SF【1】
GT【ノーマル/アシスト】
Tr【ブリザード】
DG【0】
LP【500】
「アーチャーのアシストアビリティ発動!」
【アイスエイジ・アーチャー】
【アシストアビリティ】
【起】(COST:自分の手札を1枚ジャンクゾーンに送る)
┗あなたのターン、コストを支払うことで発動できる。そうしたら、あなたは相手の手札をランダムに1枚まで選び、相手の山札の一番上に置く。
「手札のカードを、デッキトップに置かせてもらう」
「なるほど、相手の動きを徹底的に妨害する戦い方……それが、キミのプレイスタイルか」
「うん。ダイスステップに移行する」
ユキヒコのサイコロは、5。
【アイスエイジ・キッド】
【1】【2】【3】【4】……相手のアタックガーディアンに200のダメージを与える。
【5】【6】……相手の山札からカードを2枚、ジャンクゾーンに送る。
セカイのデッキからカードが2枚削られた。
「ターンエンド」
「ウチのターン、メインデッキからドロー。フォースチャージして、ドロー!」
セカイはドローしたカードを手札に加え、ユキヒコに言う。
「あらかじめ言っておくよ。そんな半端な覚悟……ましてや迷いのあるようなプレイじゃ、ウチが創造する“世界”には、決して遠く及ばない」
そして、カードを掲げる。
「世界を創りし希望の種が芽吹く時、今ここに神話が始まる! フォースを1枚消費し、アタックガーディアン【音界の剣士 クロー】を召喚!!」
【音界の剣士 クロー】
SF【1】
GT【アタック/ノーマル】
Tr【ワールド】
DG【0】
LP【1000】
「新たなアタックガーディアンが召喚されたことで、ワールド・シードはジャンクゾーンに送られる。そして、ワールド・シードのトライブアビリティ発動!」
【ワールド・シード】
【トライブアビリティ】
【自】(アタックガーディアンのシフトステップ時にこのカードがジャンクゾーンに送られた時)
┗このカードをマテリアルカードとしてあなたのアタックガーディアンの下に置く。そうしたら、あなたのは自分の山札から【誕生】と名の付くドメインカードを1枚まで選び、手札に加える。その後、その山札をシャッフルする。
「世界を創造する力! 神界創造!!」
セカイは、自分のデッキからドメインカードを手札に加える。
「ウチが手札に加えるのは、ドメインカード【誕生音界 ドットサウンド】。さらに、今度はクローのポテンシャルアビリティ発動!」
【音界の剣士 クロー】
【ポテンシャルアビリティ】
【自】(このカードのシフトステップ時)
┗あなたは自分の山札の一番上のカードを1枚、マテリアルカードとしてこのカードの下に置く。
「デッキのカードをマテリアルセット。そしてドメインフェイズにて、このカードをドメインゾーンにセットする!」
【誕生音界 ドットサウンド】
【永】
┗このカードがドメインゾーンに存在する限り、あなたの手札・フィールドの【ワールドトライブ】のガーディアンカードのSFが1つ下がる。
【起】(COST:自分のマテリアルカードを1枚ジャンクゾーンに送る)
あなたのターン、コストを支払うことで発動できる。あなたのアタックゾーンに【音界の剣士 クロー】があるなら、あなたは自分の山札から【律界の王子 クロー】を1枚まで選び、手札に加える。その後、自分の山札をシャッフルする。
「ウチはマテリアルカードを消費し、デッキから【律界の王子 クロー】を手札に加える」
セカイは、サイコロを手に取る。
「ダイスステップに移行するよ」
サイコロの目は、3。
【音界の剣士 クロー】
【1】【2】【3】……相手のアタックガーディアンに200のダメージを与える。
【4】【5】【6】……あなたのドメインゾーンに【誕生音界 ドットサウンド】があるなら、相手のアタックガーディアンに400のダメージを与える。
「よって、200のダメージを受けてもらうよ」
【アイスエイジ・キッド】
DG【100→300】
LP【900→700】
「ウチは、これでターンエンドだよ」
「俺のターン、メインデッキからドロー!」
ドメインカードとガーディアンカードのサーチによる安定した立ち回り。
動きを妨害しても尚、止まることなく動き続ける種族。
伊達に、“世界”の名を冠してるわけではないということか。
「フォースチャージ、追加ドロー!」
――俺にとって、バトル・ガーディアンズはカンナとの思い出に過ぎない。
今の俺が、俺であるために必要なモノ。俺という存在を造り上げたモノ。
……なら、もしバトル・ガーディアンズをやめてしまったら…俺は一体どうなる?
止まることなく進んでいく毎日を、再び怠惰に過ごすのか?
「……」
「ユキヒコくん」
セカイが、ユキヒコに声をかける。
「複雑に考えなくていいんだよ。いや、考える必要なんてない」
「え……?」
「カードバトルは、複雑に考えるモノじゃない。己の戦略を深く考え、相手と自分の心を感じる……それこそが、ウチが思う最高のバトルなんだよ」
「最高の……バトル」
「アンタ。複雑に考えすぎて、一番忘れちゃいけないモノを見失ってるよ」
「一番…忘れちゃいけないモノ……」
ユキヒコは自身のカードを見つめる。
カンナから託されたカードとデッキ。
これらを通して、自分は何を感じていたか。何を思っていたか。
あの時の自分の胸に沸き上がった感情……それは…
「なるほど……そういうことか…」
ユキヒコは小さく笑う。
「フフッ…なるほど……なるほどね。確かに、いたって簡単な答えだ。ダイスステップ!」
サイコロの目は、2。
【アイスエイジ・キッド】
【1】【2】【3】【4】……相手のアタックガーディアンに200のダメージを与える。
【5】【6】……相手の山札からカードを2枚、ジャンクゾーンに送る。
「クローに200のダメージを与える!」
【音界の剣士 クロー】
DG【0→200】
LP【1000→800】
「さらに!!」
ユキヒコはフォースを1枚消費する。
「フォースを1枚消費して、手札からカウンターカード【氷結の魔法陣】発動!!」
「なるほど、カウンターカードをそういう風に使うのか…」
カウンターカードとは、カウンターステップにて発動するカード。効果が発動された時に使えるカードなのだ。
そう、たとえ自分が効果を発動した時に発生したカウンターステップ時であっても。
【氷結の魔法陣】
FORCE【1】
【カウンター】
【自】(カウンターステップ時)
┗全てのプレイヤーは互いのドメインゾーンに置かれているカードをジャンクゾーンに送る。
「よって、ドットサウンドをジャンクゾーンに送る!」
「げっ!!」
ドットサウンドがジャンクゾーンに送られた。
「ターンエンド」
「ウチのターン、メインデッキからドロー!」
セカイは苦虫を噛み締めた表情を浮かべ、苦笑する。
「ウチ、余計なこと言っちゃったかな?」
「いや、感謝するよ。忘れかけてたこと……バトル・ガーディアンズは、楽しいカードゲームなんだってこと。そこに、負の感情を持ち込んではいけない。その行為こそが、俺とカンナの思い出を汚すことを、キミは思い出せてくれたんだから」
「あはは。そう言ってくれると、嬉しいね」
セカイとユキヒコは互いに笑い、バトルを続行する。
ユキヒコの表情に、迷いはもう無い。
◇◇◇◇◇
「ブリザード・ジャイアントの攻撃!!」
「ふぅ……参りました」
あれから十数ターンが経ち、決着が着いた。
勝負の結果はユキヒコの勝利だった。
「ん〜、やっぱりドメインカードを破壊されると中々厳しいね。今度はそこを補充するようなデッキ構築にしようかな」
「なあ、セカイ……。キミ、本当はまだ隠し種があるんじゃないか?」
ユキヒコの言葉に、セカイは目を見開く。
「え、どうして?」
「なんというか、キミにはまだ余裕があったような気がするんだ。さっきの状況も、やろうと思えば巻き返せたはずだ」
「ん〜、どうだろうね」
セカイはフフンと笑う。
「ウチは手を抜いたつもりは無いよ。でも、そんなに気になるなら……全国大会本選で、また会おうよ」
「……そうだね」
ユキヒコは、自身のデッキを握り締める。
東栄学園と界演学園は予選ブロックが異なる以上、戦うには本選出場しかない。
「必ず、本選に行ってみせるよ」
「そう。じゃあ楽しみにしてるね」
そう言うと、セカイは手を振りながらそのまま去った。
とても、不思議な雰囲気を持ったカードマスターだと、この時ユキヒコは思っていた。
「ユキヒコー!」
すると、アカネがユキヒコに声をかけてきた。
「なんだ、アカネ?」
「やっといつものユキヒコに戻ったね。どう? セカイとのバトルは面白かったでしょ?」
「うん……そうだね。面白いというより、不思議なバトルだったよ」
「……昔を思い出すよね」
「……うん」
アカネは懐から1枚の写真を取り出した。
その写真に、ユキヒコは首を傾げる。
「なに、その写真?」
「んー?」
アカネは、はにかんだ表情を浮かべる。
「ボクの大事なお守りだよ」
写真に写る五人の少年少女の姿。
リンナ、カンナ、ユキヒコ、アカネ、シンヤの姿だ。
「アカネ……」
その写真を見て、ユキヒコは決意を籠めた表情でアカネに言う。
「……俺、自分のためにバトルをするよ。カンナのためでもなく、皆のためでもなく。俺のためだけのバトルを」
「当たり前だよ、そんなこと。ユキヒコは、なんでもかんでも一人で背負いすぎなんだよ」
「部長だからね」
ユキヒコはアカネの頭に手を置く。
「さて、もう遅いし。家まで送るよ。お前、極度の方向音痴だから」
「ブゥ、家まで一人で帰れるもん……」
「はいはい」
友人との他愛もない掛け合いに、ユキヒコは久しぶりの満足感を得ていた。
◇◇◇◇◇◇
イクサの部屋。
夕食を食べに行ったのか、イクサの姿は無い。
机の上に置かれたデッキホルダー。
巫女ナイトのカードが光り輝いていた。
――もうすぐ会うかもしれない。力に溺れたあの人に。私達が奪ってしまった多くの命、真実が暴かれた時、きっとマスターは傷つく――
そこから響いて聞こえるのは、悲しい声。
――私達は呪われたトライブ。全ての始原であり、あらゆる因果の接点……そしてその矛先は、きっとマスターを苦しめる――
巫女の懺悔が、薄暗い部屋の中で木霊する。
しかしその声に、誰も応えない。
セカイ率いる界演学園は、もう少し話が進行した時に再登場します。ノーカットのバトルは、その時に描かれる予定です。
【次回予告】
ついに始まった全国大会予選。
着実と勝ち進んでいく俺達だが、とある強敵とぶつかる!
一撃玉砕、戦慄の破壊力を秘めたトライブが猛威を振るう!!
次回、【予選開幕・鬼神降臨!】




