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TCG バトル・ガーディアンズ  作者: あんころもちDX
第2章・全国大会編
34/66

BATTLE:021【終わらぬ憎しみ 東條ユキヒコVS鹿羽フジミ 後編】

 児童虐待の描写があります。

 ご注意下さい。


 今回も回想シーンがメインなので、バトル描写は少なめです。

「見るがいい。貴様への復讐心を体現するこの力を! 次元の裂け目を割って出現せよ。次元召喚(エクストラサモン)!!」


〈グオォォォ!!〉


「【次元龍ドラゴニック・ディメンション アンデッド・ドラゴン・EXTRA】!!」



次元龍ドラゴニック・ディメンション アンデッド・ドラゴン・EXTRA】

SF【8】

GT【エクストラ/アタック】

Tr【アンデッド】

DG【-1300】

LP【9500→10800】

【サモンコンディション】

 ┗このカードは、エクストラフェイズでのみ手札から召喚できる。

【ポテンシャルアビリティ】

【永】

 ┗あなたのジャンクゾーンにカードが40枚以上置かれているなら、このカードの召喚にフォースを消費しなくてよい。



「このカードは……」


「そうさ、俺も手に入れたんだよ! この力こそ、俺の復讐の象徴!!」


「これが、お前の象徴か……」




◇◇◇◇◇◇




「なあ、イクサ。さすがに長くないか?」


「だけど、東條部長は戦ってるんだ。きっと、直に戻ってくるよ」


「……そう、だな」


 カイトの言う通り、確かに長い。

 イクサも本当は内心焦っている。

 だが、ユキヒコはフジミと古くからの付き合いがある。それも、リンナの双子の姉であるカンナが生きてた頃から。

 そう思ったからこそ、イクサは2人の戦いに手を出すつもりはないのだ。


「東條部長を、信じよう」


「ああ……」


 カイトは、イクサの言葉に頷いた。



◇◇◇◇◇◇



「エクストラフェイズ。それは、バトルフェイズ終了後に存在するフェイズであり、メインデッキまたはサイドデッキからエクストラドローをすることで開始されるエクストラガーディアンのためのフェイズだ。アンデッド・ドラゴン・EXTRAのエクストラアビリティ発動!!」


次元龍ドラゴニック・ディメンション アンデッド・ドラゴン・EXTRA】

【エクストラアビリティ】

【起】(COST:手札からカードを3枚選んでジャンクゾーンに送る)

 ┗あなたのターン、コストを支払うことで発動できる。そうしたらこのターン、あなたはダイスステップに移行し、もう一度だけバトルフェイズを行う。ただし、発生するダメージ量は半分となる。そのバトルフェイズ終了時に、あなたは自分のジャンクゾーンに存在するSF【5】以上のガーディアンカードを1枚選んでフォースを消費せずにアタックゾーンに召喚する。



「なっ?! バトルフェイズをもう一度!?」


「クックックッ……」


 フジミは笑う。ただただ笑う。


「やっとだ…やっと……この復讐は終わりを告げる」


「復讐…だと?」


「そうさ……たとえカードゲームであろうと、負けは負け……勝利しか許されない鹿羽にとって、それがどんな大罪か……お前に分かるか?」


―◇―◇―◇―◇―◇―



 鹿羽フジミは、鹿羽一族の長男。

 だが所詮、妾の子だった。

 義理の母は子供ができにくい体質だったためか、子供に恵まれず、代わりにフジミの母親が身籠った。

 フジミの母親はフジミを金で売って、さっさと男と共に蒸発。

 残されたフジミは、父からの拷問染みた英才教育と義理の母からもたらされる体罰にひたすら耐えてきた。

 鹿羽に“敗北”の二文字は無い。いや、決して許されない。

 有るのは、決定的な“勝利”のみ。


――貴様に敗北した俺が、どれだけ苦しんだことか。


 フジミはそう思い、自らの過去に意識を沈める。

 まず最初に響いてくるのは、義理の母のヒステリックな怒声。 頭を鋭く刺す、痛みを孕んだ声。


「この役立たず! やはり妾の子だわ! あんたは、あんたはとんだ疫病神よ!!」


「………すみません」


 次の瞬間、頭に過るのは、頬を叩かれる熱い痛み。

 そして脳内に流れるのは、


「どうやら、お前の教育はまだ甘かったらしいな、フジミ」


「はい……」


 父から告げられる死刑宣告。


 苦しい…苦しい……。

 そう思いながら、過去にさらに足を踏み入れていく。

 熱した鉄を背中に押し付けられる肉体的苦痛、脳の許容範囲を超える情報を詰め込まれる精神的苦痛……。


――なぜ、俺ばかりが苦しまなければならない?

――なぜ、俺は人形でなければならない?


「あいつのせいだ……東條…ユキヒコ……バトル…ガーディアンズ……」


 過去の自分が、そう呪咀を紡ぐ。


――許さない……。

――絶対に、許さない。

――あいつが好きなものを……全て壊してやる。

――そして…俺と同じ苦しみを与えてやる!!




―◇―◇―◇―◇―◇―




「そう。あの日、俺は誓った。東條、貴様への復讐をな!!」


「……」


「分かるか? あの時、お前が俺を負かさなければ、俺はあの機関の……園生カンナを死なせた研究に投資しなかった……」


「なにが、言いたい?」


 ユキヒコは戦慄する。フジミが次、自分に何を言うのかを。そしてそれは、確実にユキヒコの心をえぐる。

 フジミはユキヒコを指差す。


「園生カンナを殺したのは俺じゃない。東條ユキヒコ……お前だよ!」


「っ?!」


 ユキヒコはたじろぐ。


「う、嘘だ……」


「嘘じゃないさ…。お前は、あの機関に投資をした俺も同罪だと……そう言ったな? 俺からすれば、動機を作ったお前も同罪だ!!」


「そんなの嘘だ!!」


 ユキヒコはフジミを睨み付ける。フジミの言葉を否定するように。

 そしてユキヒコの苦しそうな表情が浮かぶことで、フジミの笑みがより深くなる。


「俺は、俺はカンナを殺していない! 俺は違う!!」


「同じだよ、俺もお前も……。復讐に身を囚われた哀れな人形さ……」


「黙れ!!」


 ユキヒコの否定の言葉が、フジミを高揚させる。

 これだ。この表情だ。これこそが、自分が求めたユキヒコへの苦しみ。

 フジミはサイコロを手に取る。


「ククク……苦しめ、もっと苦しめ。俺が引導を渡してやるからよぉ……ダイスステップ!」


 フジミのサイコロの目は、6。



次元龍ドラゴニック・ディメンション アンデッド・ドラゴン・EXTRA】

【1】【2】【5】【6】……相手のアタックガーディアンにXダメージを与える。(Xは、あなたのジャンクゾーンに存在する【アンデッドトライブ】のカード×500)



「俺のジャンクゾーンには、アンデッドトライブのガーディアンカードが40枚ある! よって20000ダメージ!! だが、エクストラアビリティにより半分の10000となる……まあ、貴様を倒すには十分だがな!!」


「くっ……」


「消え去れ! 今この時、俺の復讐は成就される!!」


 アンデッド・ドラゴン・EXTRAの咆哮が、ブリザード・ジャイアントに迫る。



(俺は、いつもそうだ。いつも誰かの人形だ…)


―◇―◇―◇―◇―



「どうして……ねえ、どうしてなの…。なんであんな女にできて、私に子供ができないのよ!!」


「……次が、あるさ」


「あなた! どうしてなのよ!! 私があの女より劣っているとでも言うの!?」


 鹿羽一族に引き取られた当時、フジミが4歳だった頃だ。

 夜な夜な聞こえてくる義理の母の泣き叫ぶ声。

 義理の母を宥める父。

 フジミは、どうしていいか分からなかった。

 ただ、耳を塞いで聞こえないフリをした。

 目を閉じて、見えないフリをした。

 ただ、耐えることしかしなかった。

 考えることを放棄するしかなかった。


「なんなのよ、このテストの点数は! こんなケアレスミスなんかして!!」


「ごめんなさい……ごめんなさい……」


「やっぱり貴方はあの女の子供ね! 出来損ない! 紛い物!!」


「次は…次は、ちゃんと満点取ります……」


「次なんて……次なんて無いのよ!! この! この!!」


 一度犯したミスは取り戻せない。

 義理の母の琴線に触れたのは、『次』という言葉。

 義理の母の気が済むまで、フジミは頬を叩かせる。その度に、感情が死んでいくのを感じながら。

 自分にはそれしかできないと、なにもかもを諦めて。


(いつだって俺は、俺には……何もない)



―◇―◇―◇―◇―◇―




「行け、アンデッド・ドラゴン・EXTRA!!」


「俺は……」


 ユキヒコは、フジミの言葉を引きずりながらも、自分の手札に手を伸ばす。

 自分がなぜここにいるのか、どうしてカードバトルをしているのか。


――一緒に全国大会に行こうな! 約束だぞ!――


 ユキヒコの中で、いつかだったか約束を交わしたカンナの姿と言葉が浮かび上がる。


――互いに足りない部分を補い合う……それがきっと、強くなるための一番の近道なんですよ――


 続いて浮かび上がるのは、イクサの姿と言葉。

 カンナが亡くなってから、結果ばかりを追いかけるあまり、いつの間にか無くしてしまった大切なモノを持っていた後輩。大切なことを、思い出させてくれた仲間。


「俺はまだ、倒れるわけには!! 手札から、カウンターカード【ハーフダメージ】発動!!」


【ハーフダメージ】

FORCE【1】

【カウンター】

【自】(カウンターステップ時)

 ┗あなたは自分のガーディアンを1体まで選び、そのカードが受けるダメージ効果1つの数値を半分にする。



「さらに、プリベントアビリティ発動!!」



【ブリザード・レイン】

【プリベントアビリティ】

【自】(ダメージ効果が発動された時)

 ┗手札のこのカードをジャンクゾーンに送り、あなたのガーディアンをこのカードのLPの値だけリペアする。


 ハーフダメージによって10000ダメージは5000となり、プリベントアビリティによって、ブリザード・ジャイアントのLPが上昇する。



【ブリザード・ジャイアント】

DG【2500→-500】

LP【3000→6000】


 5000のダメージが、ブリザード・ジャイアントに命中する。


【ブリザード・ジャイアント】

DG【-500→4500】

LP【6000→1000】


 バトルフェイズ終了時、アンデッド・ドラゴンEXTRAの効果により、ジャンクゾーンから不死の災狂騎士アンデッド・ジョーカーがノーコストで召喚される。


不死の災狂騎士アンデッド・ジョーカー

SF【6】

GT【ノーマル/アタック】

Tr【アンデッド】

DG【-1300】

LP【5800→7100】



「……なんでだ?」


 フジミはユキヒコの顔を見る。

 苦しい表情の中に見える、僅かな輝き。フジミには理解できない、温かな感情。


「絶望しただろ? 苦しいだろ? もうバトルなんてしたくないだろ? なのに……なんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんで――なんで、お前は倒れないんだ!!」


「俺には、約束があるから」


「……やく…そく……だと?」


「ああ。俺がここにいるのは、俺に思いを託してくれた仲間がいるからだ。今も、皆は扉の向こうで俺を待っていてくれてる。だから!!」


 フジミの言葉によって心をえぐられたユキヒコは、フッと笑う。


「どんなに心が折れそうでも、戦えるんだ」


「ふ、ふざけるな……ふざけるなよお前! そんなつまらないもので、俺の言葉に耐えたって言うのか! そんなつまらないもので――!!」


「そのつまらないものに、お前は二度負けたじゃないか」


「っ!?」


「一度目は俺とのバトル、二度目は……聖野くんとのバトルだ」


「がっ……あああぁぁぁ……」


 フジミは頭を両手で抑える。手札のカードが床に散らばる。

 認めない、認めたくない。フジミは呻く。

 そんなフジミに対して、ユキヒコは哀れに思う。

 フジミの中に『他者を信じる』感情がないことに。


 フジミは、かすれた声で言う。


「………ターン、エンドだ」


「俺のターン……」


 ユキヒコは自分の手札を見る。手札には生憎、起死回生のカードは無い。

 サイドデッキをチラッと見て、ユキヒコは決意する。


――これは、賭けだ



「俺のターン……。サイドデッキからドロー! フォースチャージし、追加ドロー!!」


 追加ドローによって手元に来たカードを見る。

 それを見たユキヒコは、小さく笑う。


「……俺の相棒であるブリザード・ジャイアント。カンナが俺に与えてくれたお前が、俺たちを導く!! フォースを1枚消費してアームドガーディアン【ブリザード・アイシクル・アーマー】を召喚(サモン)!!」


【ブリザード・アイシクル・アーマー】

SF【1】

GT【アームド/アシスト】

Tr【ブリザード】

DG【0】

LP【200】



「アームドガーディアン……ということは!!」


「アームドアビリティ発動!!」


【ブリザード・アイシクル・アーマー】

【アームドアビリティ】

【起】(COST:このカードをアンダーカードとしてアタックガーディアンの下に置く。)

 ┗あなたのアタックゾーンに【ブリザードトライブ】のカードが存在する場合に発動できる。そのカードを素体とし、手札から【アイシクル】と名の付くガーディアンをフォースを消費せずに召喚する。



「氷の鎧を身に纏いて……全てを氷結の世界に閉じ込めよ! 装着転成(アームド・クロス)!! 現れろ、【装着氷結アームド・アイスエイジ ブリザード・ジャイアント・アイシクル】!!」



装着氷結アームド・アイスエイジ ブリザード・ジャイアント・アイシクル】

SF【7】

GT【クロス/アタック】

Tr【ブリザード】

DG【4500】

LP【8000→3500】

【サモンコンディション】

 ┗このカードはフォースを消費して手札から召喚できない。【ブリザード・ジャイアント】と名の付くカードを素体とし、【ブリザード・アイシクル・アーマー】のアームドアビリティの効果でのみ、手札からフォースを消費しないで召喚できる。素体となったカードはこのカードのアンダーカードとなる。

【ポテンシャルアビリティ】

【永】

 ┗このカードがあなたのアタックゾーンに存在する限り、あなたは自分のエンドフェイズ時に、あなたのチャージゾーンのカードを全て裏状態にしなければならない。

【永】

 ┗このカードがアタックゾーンに存在しているかぎり、あなたはバトルフェイズ開始時にフォースを消費しなくてよい。



「ジャイアント・アイシクルのトライブアビリティ発動! 絶対零度の凍結ゼロ・アイシクルバインド!!」


装着氷結アームド・アイスエイジ ブリザード・ジャイアント・アイシクル】

【トライブアビリティ】

【起】(COST:手札からカードを3枚選んでジャンクゾーンに送る)

 ┗あなたのターン、コストを支払うことで発動できる。そうしたら、全てのプレイヤーは次の自分のターンのエンドフェイズまで、フォースを消費できない。さらに、相手は自分の手札を1枚選び、自分の山札の一番上に置く。



「コストとして3枚の手札を捨てる」


「なっ……。フォース封じに加えて、ドローロックも兼ねたハンデスだと?!」


「行くぞ、バトルだ!!」


 ユキヒコはサイコロを振った。


 サイコロの目は、5。


装着氷結アームド・アイスエイジ ブリザード・ジャイアント・アイシクル】

【1】【3】【4】【5】……相手のアタックガーディアンにXダメージを与える。(Xはあなたのジャンクゾーンに存在するカウンターカードの枚数×700)



「俺のジャンクゾーンにはカウンターカードが13枚ある。よって、ジョーカーに9100のダメージを与える!!」


「ば、バカな……俺が、俺がこんな…二度も同じ相手に……っ!! 嘘だ…嘘だぁぁぁぁぁ!!!」


 氷の鎧を纏った巨人が携えた大槍。

 それが、狂いし骸の騎士の身体を貫く。


不死の災狂騎士アンデッド・ジョーカー

DG【-1300→7800】

LP【7100→0】



 勝負が着いたことで3Dバトルシステムが停止し、生徒会室全体を覆っていた墓場フィールドが解除された。

 フジミはその場でガクッと項垂れ、ブツブツと呟く。


「俺は……俺の復讐は……」


「鹿羽……」


 ユキヒコは、項垂れているフジミに尋ねる。


「約束通り……機関について教えろ」


「……機関? あ、あはは……機関はな…俺に聞くまでもなく、お前もよく知っているじゃないか……」


 フジミは虚ろな目で答える。

 終始笑いながら。

 そして、一矢報いるかの如く、口を開いた。


「………孤高グループだ…」


 そう言った。


「孤高…グループ……」


 ユキヒコの目が見開く。

 それは、バトル・ガーディアンズを製作・販売している企業の名だ。


「嘘だ…そんなの……」


「本当さ。この3Dバトルシステムだって、孤高グループから譲り受けたものなのだから。お前が大好きだった園生カンナは、お前が大好きなバトル・ガーディアンズに殺されたんだよ!」


「っ!!」


 ユキヒコはフジミの胸ぐらを掴む。


「デタラメを言うな……嘘を言うな!!」


「事実さ……。お前が憎むべき本当の敵は…バトル・ガーディアンズを生み出した……孤高グループなんだよ」


「黙れ黙れ黙れ黙れぇぇぇぇ!!」


 ユキヒコはフジミを殴る。

 何度も何度も。


「そんなことが、あってたまるか! バトル・ガーディアンズは、俺とカンナを結ぶ絆の象徴なんだ! それが…それが!!」


「……つまり、お前との絆に殺されたわけだ…園生カンナは」


「あ……ああ…ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっっっっ!!!!」


 ユキヒコの心を占める感情……それは、後悔と怒りと悲しみ…あらゆる負の感情だった。

 そして、その感情を全てフジミにぶつける。

 何度も殴る。

 拳で何度も。


 唐突に、生徒会室の扉が開いた。



『東條部長!!』



◇◇◇◇◇◇




「あ…ああ……ああああああああああああああああああああああああああああああああっっっっ!!」


『っ?!』


 生徒会室からユキヒコの断末魔が聞こえたイクサ達は、互いの顔を見合わせた。


「な、なんなの今の声?!」


「ゆ、ユキヒコの悲鳴だったのだー!!」


「イクサ、さすがにヤバくないか?!」


「う、うん。ナミとリンナ副部長は下がってて。ここは俺達が行く!」


 イクサとカイトは扉を開けて、勢いよく生徒会室に飛び込んだ。



『東條部長!!』


 中に入ると、ユキヒコが涙を流しながら、フジミを一方的に殴っていた。

 イクサ達はそれを両サイドから羽交い締めにして止めようとする。


「と、東條部長やめて下さい!」


「それ以上やったら、鹿羽会長が死んでしまいます!」


「うるさい! うるさい!! 放せ、放せぇぇぇ!! 嘘だ…嘘だと言え鹿羽ぇぇぇぇ!!」


 腕を押さえることに成功したが、ユキヒコは尚も暴れ続ける。


「こんなことがあってたまるか!! カンナを返せ、返せよ鹿羽ぇぇぇ!!」


「……」


 フジミは既に気絶しており、なにも喋らなかった。

 だが、口元だけは愉快そうに弧を描いている。まるでユキヒコを嘲笑うかのように。

 ユキヒコは嘆きの絶叫を発する。


「うあぁぁぁぁ!!」



 涙を流し続けるユキヒコ。


 ユキヒコのカンナとの思い出に、小さくしかし確実にひびが入っていく……。




◇◇◇◇◇◇


 孤高グループ・本社



「センリ様。デッキの最終調整は済んだでしょうか?」


「ああ…」


 孤高センリは、テーブルの上に置かれているデッキを手に取った。


「では、各ブロックの全国大会出場校の上位ランカーとのデータ上での疑似バトルを始めようと思うのですが……」


「相手は?」


「はい。阿久麻学園の鬼塚キシン、界演学園の天神セカイ、吹雪学園の湖織ヒョウザン、炉模工業高校の稚推アカネ、八聖高校の王ミツエです」


「……。一人、付け加えろ」


「誰でしょうか?」


「東栄学園の、聖野イクサだ」


「え……し、しかし…彼は上位ランカーではないですし。なにより東栄学園は全国大会未出場です」


「いいから、付け加えろ」


「わ、分かりました……」


 研究員が去るのを見て、センリは溜め息を吐いた。



「早く、貴様と戦いたい。そして……僕のアクセルトライブで叩き潰してやる……」




◇◇◇◇◇



――東栄学園・高等部受け付け


「では、ここに記されている東栄学園カードバトル部5名で、全国大会予選出場の申請をします。よろしいですね?」


「はい」


 イクサの返答に、事務員は頷いた。

 そのまま用紙に了承の判子を押していく。


「では、これで申請します。大会予選は三日後なので、皆さん精一杯頑張って下さいね」


「はい!」


 申請を終え、イクサ達は順々に高等部事務室を去る。

 ただ一人、ユキヒコだけは呆然と立ち尽くしていた。


「部長……」


「カイト、今はそっとしておこう」


 暴れるのをやめたユキヒコは、まるで脱け殻のように生気を失っていた。

 カンナの死を、まだユキヒコは抜け出せていなかったのだ。

 小さく、微かに、ポツリと呟く。




「カンナ……」



 再び、涙が頬を伝っていた。

【次回予告】


 鹿羽会長とのバトルを終えた東條部長は、戦う理由を見失いそうになっていた。

 そんな東條部長の前に、界演学園の天神セカイというカードマスターが現れた。

 果たして東條部長は、カードバトルへの闘志を取り戻せるのか!?


 次回、【過去への償い】

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